◎PYROMANIA
▼炎のターゲット
☆Def Leppard
★デフ・レパード
released in 1983
CD-0430 2013/8/3
デフ・レパードの3作目。
このアルバムは、僕が高校1年生の時にリリースされました。
当時は僕が購読していた「FMファン」は、毎号、ジャンルを問わず、話題の新譜のジャケットを表紙にしていましたが、これはその表紙で見ました。
ビルが燃えているジャケットは印象的でしたが、でも、デフ・レパードという人たちは知りませんでした。
その時まで「ベスト・ヒットUSA」で観たという確かな記憶がなかったのですが、実際は流れていたけれど、その時僕がテレビの前で居眠りしていただけかもしれない(笑)。
今でも後悔していることが。
「どうして、デフ・レパードのPYROMANIAを高校時代に買って聴かなかったのか・・・」
FMファンの表紙になるくらいだから気になっていたのと、僕はそもそもハードなロックが大好きなことが分かってきた頃で、「ヘヴィメタルなる音楽」を聴いてみたいと思ったのです。
当時はまだ小さかったタワーレコード札幌店に行き、手に取って見るところまでゆきましたが、でも結局、買わなかった。
音楽は聴くタイミングがあるもので、その後CDの時代になり、買って聴いて愛聴盤になったので、結果としては、早いか遅いかだけの違いかもしれない。
そんなアルバムは他にもたくさんあって、今はもう好きであれば大した問題ではないはずです。
しかし、なぜかこのアルバムだけは、後悔しているのです。
買わなかった理由が、あまりにも他愛なく、そんなことで聴くのが遅れたことが彼らに申し訳ないのが、どうしても「後悔」という言葉を選んでしまうのです。
このアルバムが出た頃は、「ヘヴィメタル」という音楽が確立され、音楽聴きの間にその言葉や概念が行き渡った頃でした。
その後、ヘヴィメタル専門誌「BURRN!」が創刊され、いよいよヘヴィメタルが時代の中心のほうに入ってきました。
僕が「ヘヴィメタル」を意識したのは中3の頃。
中学の友達が2人、ヘヴィメタルを好んで聴くようになっていて、うち1人のTは、うちにもよくカセットテープを持って来ていたので、僕もよく聴かされるようになっていました。
その頃は、「とにかくヘヴィメタルはいい」というのがTの姿勢でしたが、もしTの姿勢がそこで止まっていれば、僕も意固地になってはいなかったかもしれません。
しかし、Tには大きな問題がありました。
「ヘヴィメタルを聴くのは特別なことである」という考えの持ち主で、そのこと自体は別に構わないのですが、ことあるごとに、ヘヴィメタルと「普通のロック」との違いを強調し、「普通のロック」を差別的な目で見ていました。
ましてや僕は、ビルボード中心にいわば「売れ線」ばかりを聴いていたので、そんなTには格好の口撃の標的でした(笑)。
「そんな「普通のロック」なんか聴かないでこっちに来いよ」、と僕はよく言われました。
だから、意固地な僕はいつしか、「ヘヴィメタルなんか聴いてやるもんか」、と思うように。
今思うと悲しいことです。
興味があったのに、たったそれだけの理由で聴かなかったのが・・・
しかし面白いこと、それからすぐに、ヘヴィメタルはビルボードのチャートで次々と上位に入るようになりました。
僕の友達Tは、最初のうちは喜んでいたけれど、でもすぐに、あまり多くの人に聴かれてもなぁ、と言い始めました。
ヘヴィメタルを避けていた僕は、チャートで上位にくるようになって、無視できなくなりました。
というよりむしろ、ヒットチャートを中心に聴いていた人間なので、売れたことにより「聴かざるを得なくなった」、つまり、自分が聴くことを正当化できるようになったのです(笑)。
僕が最初に買ったいわゆるヘヴィメタルのアルバムはホワイトスネイクでしたが、その次に買ったのがデフ・レパードのHYSTERIAでした。
ただ、もちろん僕は最初は、それらを買ったことをTに話すのは、信念を曲げたみたいな恥ずかしさがありました。
でも、音楽の話をするのは当たり前だし隠すことでもないし、Tの反応も見たかったので思い切って話したところ、Tは意外にも、そのことを喜ぶだけで、責めたりはしませんでした。
あまりの無反応に逆に僕ががっかりしましたが(笑)、でも、Tも本質は悪い奴じゃないのかもしれない。
なお、Tとは今でも年に1度くらいは会って話をしていますし、ここに書いたようなことは僕たちも昔から面と向かって話してきていることであって、決して一方的に批難しているわけでもないので、その点はどうかご了解、そしてご安心くださればと。
なんて、今回は枝葉の話が長くなりすぎたかな。
「炎のターゲット」を僕が初めて聴いたのは、1988年、大学2年の夏でした。
当時はようやくCDが主流になってきた時代であり、このアルバムとHYSTERIAのピクチャーCDがリリースされ、夏休み前に秋葉原の石丸電気で買って聴きました。
「このアルバム、あまりにも素晴らしい・・・」
後悔の念が始まったのはその時でした。
「失われた日々」を取り戻すかのように、買って暫くは毎日聴き込んでいました。
ヘヴィメタルと書きましたが、でも僕は当時、HYSTERIAを先に聴いていたこともあって、それよりはちょっとハードだけど基本はポップなロックだな、ヘヴィメタルとはちょっと違うんじゃないかな、と感じました。
でも、全体を包む雰囲気はヘヴィメタルのものと同質ですね。
まあ、この辺の細かいこと、自分が聴く際には気にしないのですが、話を進める上ではいつも少しこだわって書いています。
このアルバムはかのロバート・ジョン・マット・ランジがプロデュースし、彼は曲作りにも参加しています。
これは、デフ・レパードとランジの音楽の趣向というか方向性が同じようなものであることから生まれた幸運なアルバム、といえるのではないでしょうか。
ギターの音には重たい響きがあるけrど、基本はロックンロール、曲もポップなものが並んでいるし、独特の厚みのあるコーラスが気持ちよい、そんなデフ・レパードの音が確立されたのが、このアルバム。
そういう意味では歴史的名盤と言えるでしょう。
ロック界広しといえども、「誰誰っぽい音」というのがあるのは大物であるひとつの証しだと僕は考えるのですが、その点、これは、デフ・レパードが大物に進化したアルバム。
ただし、当時は「意外とポップだな」と思いましたが、最近聴き直して、「意外とハードだったんだな」と思い直しました。
これは多分、僕が最近はソウル系を傾聴していて、よりソフトな音に慣れていたからではないかな、と。
でも、元々がハードなロックが好きな人間なので、ソウル系を聴けば聴くほど、時折むしょうにハードロックやヘヴィメタルを聴きたくもなります。
そうやって心のバランスを取っているのかな(笑)。
1曲目Rock Rock (Till You Drop)
ちょっとかげりがあって重たく引きずる感じはあるけれど、1曲目は真っ直ぐなロックンロールでスタート。
タイトルにRockと入った曲には無条件で反応(笑)、つかみは完璧。
2曲目Photograph
デフレパといえばこれ、という彼らの代表曲のひとつ。
軽快なギターによるイントロのシンプルなロックンロールで、僕はこの手の曲は無条件で大好き。
と思って聴いていると実は結構手の込んだ曲で、具体的にいえば曲の構成が「A」「B」「C」3つの部分で成り立っていて、Aは軽快なR&R、Bに入ると重暗くなり、Cは印象的なサビ、だんだんと重たく暗くなってゆきます。
そのサビが彼らでも最も印象的もののひとつでしょう。
マリリン・モンローの映像などが使われたビデオクリップも印象的で、これを買った後でMTV番組などでもよく見るようなりました。
ところで、今回このアルバムを聴いたのは、リンゴ・スターのアルバムを聴いて記事に上げ、リンゴのPhotographを口ずさんでいたところで同名異曲のここに自然と流れ着き、そのまま久しぶりにCDを取り出して聴いた、というわけです。
同名異曲でどっちも名曲という例ですね。
3曲目Stagefright
ひねりはあるけれど基本的には真っ直ぐなロックンロールが続く。
ところで僕は、ヴォーカルのジョー・エリオットの声が、このアルバムを聴いて最初の頃は、何かこうしっくりこなかったのです。
なんというのかな、ずしっと響いてこない声、ギターの音と同化するような薄くて横に広がる感じの声質というか。
よく言う「線が細い」というのともまた違う、上手いか下手がでは下手ではないんだけど、垢抜けないというか。
先に聴いたHYSTERIAではそう感じなかったので、余計に気になりじました。
ジョーも、その4年でヴォーカリストとして成長したのでしょうね。
ところでこれ、ザ・バンドにも同名異曲がありそのタイトルのアルバムもありますが(単語が2つに離れているけれど)、さらにはヒッチコックの映画にも同名のものがあって、邦題は「舞台恐怖症」です。
4曲目Too Late For Love
ここで一度テンポを落としてバラードを。
重たいギターのアルペジオはいかにもメタル風、と僕は最初に思いました。
分厚いコーラスが被さってくるのもデフ・レパらしい音。
展開が凝っているのは相変わらず。
ただ、地というか基がいい曲なので、人によっては凝り過ぎと思うかもしれない。
5曲目Die Hard The Hunter
いきなり余談、僕はこのCDを買った頃は大学生でしたが、羽田空港で整備関係の夜勤のアルバイトをしていました。
毎週土、日、水の夜の勤務でしたが、日曜の朝、夜勤明け帰りの朝9時ごろ、まだ開いている店がほとんどないアメ横に当時はあったロッテリアに寄って朝飯を食べた後、家に帰って寝ていました。
そして夕方にまた起きて夜勤に出てゆくのですが、起きる時にはこのCDをタイマーでかけて目覚まし代わりにしていました。
曲は、ヘリコプターの音がSEに使われた緊迫感があるミドルテンポの重たくて暗い曲。
兵士や戦争に題をとるのはアイアン・メイデンが得意とするところですが、彼らも同じNew Wave Of British Heavy Metalの中から出てきたバンド。
でも、デフレパは後に「健康な」イメージを押し出すようになったので、今となってはこれは少し毛色が違う曲といえるかもしれない。
6曲目Foolin'
このアルバムはほんとにいい曲が多いですね、印象に残りやすい曲が。
プロデューサーのランジがもたらした部分が大きいのでしょう。
ただ、ですね、この話は以前もしたかと思うのですが、僕は大学生の頃まではシンガーソングライター至上主義者で、プロデューサーとはいえバンド以外の人が曲作りに加わっているのを知るとがっかりする部分が大なり小なりあったことは、正直に話しておきます。
エアロスミスがそれでしたね。
今は至上主義というまではいかないし、そもそも外部の作曲者の歌ばかり歌う人が多いソウルを多く聴いているので、音楽さえよければそれでいい、と、基本は思います。
思うけど、でも、とっても気に入った曲がそのアーティスト自身だけで書いたものであると知ると(バンドメンバー複数でもバンドないだけならいい)、やっぱり、うれしくはなりますね。
アコースティック・ギターのアルペジオのイントロから始まり、だんだん盛り上がってサビでハードになるのも、英国ハードロックの伝統にのっとった感じで、この曲の音作りには、彼らが英国人であると強く感じます。
7曲目Rock Of Ages
これも彼らの代表曲のひとつ、ミドルテンポの重たい曲。
最初の変な喋りと最後にジョーが不敵に笑うのが、いかにもメタル風だなと最初に思いましたが、健全化路線ともいえる次々作のヒットの後でこれを聴くと、ああ彼らにもこんなメタルっぽい時期があったんだなって。
曲としてはこの中でいちばんヘヴィメタル然としていますかね。
2ndコーラスのヴァースの部分のヴォーカルとギターがコール&レスポンス風に展開し、サビに入る直前でそれらがユニゾンになるのは、とにかくカッコいい!
んだけど、でも、ここのギターの音色やフレーズは微妙にエロっぽい、ともいえる・・・
歌詞の中にPyromaniaと出てくるようにこのアルバムのテーマ曲のような存在。
アルバムタイトル曲はないけれど、収録曲の歌詞の中にアルバムタイトルが出てくる例は、ロックには結構ありますね、ニルヴァーナのNEVERMINDとSmells Like Teen Spiritの歌詞のように。
"Pyromania"とは「放火癖」、恐いですね、しかも時事ネタ的にタイムリー・・・
そしてこのタイトル、ザ・バンドのライヴアルバムにもありますが、彼らはザ・バンドが好きなのかな。
まあ、彼らは広くロックを愛していることは分かりますね。
ところで僕は、アルバムの流れを意識して聴くと、この後に2曲もあるよりは、これが最後か後は1曲だけの方がよかったのでは、と、今回聴いてもやはり思いました。
8曲目Comin' Under Fire
この辺りはミドルテンポのメタル風な曲が続きますが、サビの哀愁を帯びたコーラスがこれは印象的。
彼らの代表曲というわけではないけれど、でも、このアルバムの曲が粒揃いであることを証明する曲ではありますね。
9曲目Action ! Not Words
これはメタルっぽくない、からっと明るい曲。
彼らはスウィートが大好きですが、これは思いっきりその流れを感じるポップなロックですね。
ただ、先ほど書いたように、Rock Of Agesの後にこの曲が出てくる、しかもしれが最後の前というのが、流れとしてどうなんだろうと思わなくもない。
10曲目Billy's Got A Gun
ガン=銃もメタル的イディオム。
エアロスミスもJanie's Got A Gunという曲を出しましたね。
変拍子のギターイントロが、切れというよりは、何かを重たく引きずる、そんな雰囲気を作り出します。
リック・サヴェージのベースが、熱くなりがちな他の4人を尻目に、ちょっと粘ついた音であくまでも涼しげに貫き通す、そこがまさに「クール」。
リックのベースは、ポール・マッカートニーのようにフレーズとして印象に残るタイプではない、あくまでもベースといった音で、次作ではミックスのせいかベースの音がベース好きの僕としては物足りないくらいに静かなのですが、でも、しっかりとバンドを支えているのはよく分かります。
この曲は何かを引きずるタイプで、余韻を残しまくりつつアルバムが終わります。
今回聴いているのは4年前に出たデラックス・エディション2枚組。
Disc2には、未発表音源である1983年のL.A.Forumにおけるライヴが収録されているのはうれしい。
最後の曲がクリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァルのTravelin' Band、それだけでもうれしい、しかも途中にレッド・ツェッペリンのRock And Rollも挟み込んでいる。
さらにはなんとなんと、その曲のゲストがブライアン・メイ!
ジョー・エリオットがブライアン・メイを紹介する言葉も入っているし、そう、つまり、ブライアン・メイがレッド・ツェッペリンの曲を演奏しているのも聴けるという、もう涙もののうれしさ。
ライヴ自体も、彼らの若い頃のライヴが聴けるのは貴重であり、かなりいい内容のものになっています。
ところで、そのデラックス・エディション2枚組、Disc1が青、Disc2が赤いディスクで、当然のごとく本編のDisc1の青いディスクからかけたところ、観客の拍手歓声がフェイドインしてきた。
あれ、最初はそんなSEが入ってたか? と思いつつ聴くと、正真正銘のライヴが始まりました。
もしやと思い、一度止めて赤いDisc2を入れると、昔から聴きなじんだPYROMANIAのアルバムが始まりました。
つまり、Disc1と書かれたほうにDisc2の内容が、Disc2にDisc1の内容が、と、入れ違いになっていたのです。
買った先に問い合わせたところ、「不良品」ということで返品交換に応じるということでしたが、別に入れ違っているだけで聴くことができるのだからと、返品交換には応じずに、そのまま持って聴いています。
だから今この瞬間記事を書きながら聴いているライヴはDisc1に入っています(笑)。
別にプレミア狙いとかそういうのではなく、音飛びとかではなくちゃんと聴けるの以上、返品してもそれはどうせ捨てられてしまうだけで資源がもったいない、という思いからです。
なお、聞くところによると、今流通しているものはちゃんと青いDisc1に本編、赤いDisc2にライヴが入っているとのことで、どうかご安心ください。
とまあ、今回は枝葉の話ばかりになってしまいましたが「聴きやすいヘヴィメタル」のアルバムとして、これは名作名盤傑作であるという思いを新たにしました。
でもやっぱり、正直いえば、今でも、高校時代にLPを買って聴いていればなあ、と、未練がましく思っています(笑)。