SOUND THE ALARM ブッカー・T | 自然と音楽の森

自然と音楽の森

洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。


自然と音楽の森-June30BookerTNew


◎SOUND THE ALARM

▼サウンド・ジ・アラーム

☆Booker T.

★ブッカー・T

released in 2013

CD-0429 2013/7/30


 ブッカー・Tの新譜が6月に出ました。

 今回はそれを取り上げます。

 なお、このアルバムではアーティスト名に"Jones"が入っていないため、ここでもそれを踏襲します。


 少し前に上げたビル・ウィザースのアルバムは、ブッカー・Tがプロデュースをしたものであり、曲の中でビル・ウィザースが彼に対する感謝の念を台詞として語っていたと書きました。

 

 それから40年以上が過ぎて出たこの新譜。

 ブッカー・Tの音楽への長い貢献度には、ただひたすら尊敬の念を抱きます。


 しかも、このアルバムは、40年前を思い出したかのように、主に若手のアーティストを曲ごとに招いて一緒に演奏することで、彼らを紹介するというアルバムにもなっています。

 才能ある若手を見るのは、ブッカー・T自身もいくつになっても楽しいことなのでしょうし、そういう人と一緒に演奏して紹介するのは若かった頃から自然と行ってきたことなのでしょう。


 でも、誰もがそれをやれるかというと、そうではない。

 やはり誰もが慕うブッカー・Tならではであり、彼自身も若手を紹介するのは自分の役割と認識しているのでしょう。

 演奏していると自分も若く感じられるでしょうからね(笑)。


 しかも、ブッカー・Tは歌ものもインストゥロメンタルものもあるがゆえに、歌手をゲストとして招くのをやりやすいことが、この企画を進めやすかった要因でもあるでしょう。

 ブッカー・T側からいえば、曲に合った歌手を探せるので、両方にとってうまく話が進む。


 ところが、僕は、今回参加している人はひとりしか知りませんでした。

 名前はどこかで聞いた人もひとり、ふたり、いたけれど、ほとんどは知らない人ばかり。

 ものすごい正直に言うと、最初はだから少々不安がありました。

 

 でも、いざ聴くと、いろいろな歌、いろいろな声をブッカー・Tのサウンドで聴けることが楽しくてしょうがない。

 歌としてもいいものも多いし。


 というわけで、今月いちばん多く聴いたCDはこれ。

 買ってからずっと連装CDプレイヤーに入りっ放し、ほぼ毎日聴いているし、連装だから他のCDが終わってこれが流れてくると止めずにそのまま聴いてもいます。

 ブッカー・Tは前作THE ROAD FROM MEMPHISが、昨年おそらく回数ではいちばん多くかけて聴いていたCDであったと記事(こちら) にしましたが、やっぱり僕にとってブッカー・Tは、安心して楽しく聴ける人なのでしょう。


 そういえば前作も数曲で若手を起用していましたが(一方でルー・リードのような大物もいた)、今作はそれを拡大させたということなのかもしれない。


 今回は、僕も勉強するということで、参加している人を調べて短く紹介しながら聴き進めてゆきます。



 1曲目Sound The Alarm featuring Mayer Hawthorne

 ゲストはメイヤー・ホーソーン

 1979年生まれ、アメリカのソウル系のシンガーソングライターであり、DJであり、多彩な活動を見せる人。

 Wikipediaの写真を見ると、縁の太い眼鏡をかけてまるでエルヴィス・コステロのような顔つきの人。

 曲は、レコードの針が飛ぶような揺ら揺らした音のギターのカッティングで始まり、喋りやスクラッチ音が入った後声にエコーがかけられるという凝ったもので、そうか、DJもやる人だからそうなんだ、今分かった。

 ギターの高音の踊るようなリフがずっと続く、音は軽いけれど少しほの暗いイメージで、アンセム風のコーラスが盛り上がる曲。

 祭囃子のような感じがしないでもない。


 2曲目All Over The Place featuring Luke James

 ゲストはルーク・ジェイムス 

 1984年生まれ、ニューオーリンズ出身のR&B系シンガーソングライターそしてダンサー。

 ニューオーリンズというだけで過剰反応してしまう僕ですが(笑)、これはいかにも1980年代男性ソウルシンガーといった艶やかで少し陰がある声であり、ベースの音が強く、サビの繰り返しが印象的な80年代的な曲。

 間奏のブッカー・Tのオルガンがさすがはよく歌っています。


 3曲目Fun

 この曲はゲストがいない、つまりインストゥロメンタル。

 イントロの軽やかなギターが奏でる音がSoul Manを彷彿とさせられ、にやっとする。

 ブラスバンドにはよさそう、マーチングバンド風の明るい曲。

 一応、コーラスは入っていますが、やはりオルガンが言葉を発しそうな勢いで歌います。


 4曲目Broken Heart featuring Jay James

 ゲストはジェイ・ジェイムス。 

 この人は調べがつきませんでした。

 ところが、最初に聴いた時、これはサム&デイヴのサム・ムーアかと思ったくらい、声がよく似ていて驚きました。

 それは本人たちも意識しているのかな、なんだか楽しい。

 サビのところで「優しいねぇ」と空耳で聞こえるのが、空耳だけど曲の雰囲気に合っていていい。

 ちなみにこの曲の作曲者の中にテリー・ルイスの名前がありますが、そう言われてみれば80年代っぽい感じもする。


 5曲目Feel Good

 2曲目のインストゥロメンタル。

 ブッカー・Tのオルガンが低音で波打つように旋律を奏でる。

 これは、料理番組のテーマ曲風かな、食事の時にかけておくと合いそう(笑)。

 

 6曲目Gently featuring Anthony Hamilton

 ゲストはアンソニー・ハミルトン。 

 1971年生まれのR&B系のシンガーソングライターでプロデューサでもありますが、自身の2003年の2ndアルバムがマルティ・プラティナムを記録した人。

 ということは、ある程度知られた人ということですね。

 2003年頃は僕も新しい人はほぼまったく聴いていない時期だった、と一応弁解を。

 オルガンの響きが教会音楽的、落ち着いたバラード風の曲で、心が温まるそれこそ優しい響き。

 どうもこのアルバムは「優しい」がキーワードのようで。

 アンソニー・ハミルトンの声はハイトーンで少し細くて、ソウルというよりはラップ・ヒップホップ以降のR&B歌手といった響き。


 7曲目Austin City Blues featuring Gary Clarke Jr.

 ゲストはゲイリー・クラーク・ジュニア。

 1984年生まれのブルーズ・ギタリストで、この曲はインストゥロメンタル。

 この人は以前もどこかで触れたような・・・申し訳ない、思い出せない。

 しかしブルーズ・ギタリストということでこれから聴いてみたいと、今回(も)思いました。

 曲はおっとりとしたブルーズという響き。


 8曲目Can't Wait featuring Estelle

 ゲストはエステル。

 1980年生まれのR&B系のシンガーソングライターだけど、最初に聴いた時、どこかしらグロリア・エステファンっぽい声の感じだなと思いました。

 曲も80年代によくあったポップでお洒落なブラック系の曲を強くしたような響きで、懐かしさすら感じました。


 9曲目66 Impala featuring Poncho Sanchez and Sheila E.

 ゲストはポンチョ・サンチェスとシーラ・E。

 漸く知っている人が出てきました、シーラ・Eはあのプリンスファミリーだった、The Glamorous Lifeを大ヒットさせた彼女ですね、パーカッション奏者。

 懐かしい、という人も多いでしょうけれど、僕はここ数年で新譜に参加しているのに接したのは何度目かな、というくらい。

 リンゴ・スターのオールスター・バンドにも参加していたことがあります。

 でも、その曲が入ったアルバムはまだ、いまだに、聴いたことがないんだ・・・リアルタイムで買わなかった上にリマスター盤が出ていないので機会を逃し続けている・・・

 もうひとりのポンチョ・サンチェスは1951年生まれ、コンガ奏者、ラテン・ジャズ・バンドのリーダーであり歌手でもあるという人で、決して若手ではないですね。

 この曲はインストゥロメンタルで、どことなく間の抜けた明るい響きで、さてこれから街に繰り出そうといったところかな。

 今回のゲストでは群を抜いて年配の2人だけど、気持ちの若さは逆にいちばんと感じる楽し気な曲。

 "66 Impala"とは車のシボレー・インパラのことで、僕が小学生の頃に車に興味を持った際に父に名前を教えてもらった記憶があります。

 余談ですが、「ウルトラマン」の科学特捜隊の車もシボレーでしたね。


 10曲目Watch Your Sleeping featuring Kori Withers

 ゲストはコリ・ウィザース。

 名前を見てもしや、調べてやっぱりそうだった、ビル・ウィザースの娘さん。

 お父さんのアルバムを取り上げてここにつながったのですが、それがまたお父さんのアルバムに戻ったわけで、音楽はほんとうにいろいろなところでつながっているんだなあ、と、感慨深いものがありますね。

 同時に、僕によくある「音楽のいい偶然」がここでもまたあったのがうれしい。

 この曲、最初に聴いた時、すぐにとっても気に入りました。

 「あなたが寝ているところを見ている」というタイトル、もうどういう状況か分かりますよね。

 見られている方も見ている方も心を許し合う、なんとも温かくて和やかな空気にくるまれた幸せな曲。

 そんな曲を素直に歌える彼女、やはりお父さんの教育がよかったのかな、お父さんの優しさを受け継いでいるのかな。

 終わりのほうに出てくるブッカー・Tのオルガンがいつも以上に優しく語り掛けてきます。

 こういう曲をいいなあと思うあたり、僕もまだ人間として荒んではいないのかな、と、自分に対してもほっとするものがあったり(笑)。

 なんて書いて、冷静に読み返すとちょっとばかり恥ずかしい面もあるんだけど、うん、歌だからいいじゃないか(笑)。

 文句なし、僕が選ぶこのアルバムのベストトラック。


 11曲目Your Love Is No Love featuring Vintage Trouble

 ゲストはヴィンテージ・トラブル。

 2010年に結成されたアメリカのブルーズ・ロック・バンド。

 むむ、その言葉には弱い(笑)。

 曲はいかにもというオーソドックスなリズム&ブルーズで、R&Bと書くよりそのほうが伝わるのではないかという骨太な響き。

 やや、この手の音楽にはやっぱり弱い(笑)。

 曲名を見るとポジティヴではないけれど、その先につながるよう祈っているように感じる曲。

 

 12曲目Father Son Blues featuring Ted Jones

 最後のゲストはテッド・ジョーンズ。

 もう分かりますよね、この曲名、この名字、ブッカー・Tの息子さん、ギタリスト。

 調べると、この親子がこの曲について語った映像がYou-Tubeにあるようです(見ていませんが)。

 曲はインストゥロメンタル、息子を立てているというよりは、親子ともども気ままに演奏している感じで、父親のオルガンがやっぱり目立ちますね。

 こちらも激しくないブルーズで、アルバムの最後としては緩すぎると思うけれど、なんとなく終わるのもまたいい、と今回は思いました。



 今回、もうひとつうれしいのは、ブッカー・Tがスタックスに復帰したこと。

 CDが届くまで知らなかったのですが、手に取って、トレイ裏にあの"Fingertips"マークが入っているのを見た瞬間、うれしくなりました。

 

 聴いているととても心が温まる1枚ですね。

 だからいつかかっても自然と聴いてしまうのでしょう。

 "Alarm"というからには少し警戒したのですが、警鐘というよりはよいお知らせ、そんなCDです。


 ブッカー・Tには、これからもまだまだ素晴らしい音楽を聴かせてもらいたいですね。

 心の底からそう思います。