◎RINGO
▼リンゴ
☆Ringo Starr
★リンゴ・スター
released in 1973
CD-0427 2013/7/23
リンゴ・スター3枚目のソロアルバムを今日は取り上げます。
ポール・マッカートニー来日決定による思考停止状態から少しずつ回復しております。
その節は、励ましのお言葉をいただきありがとうございます。
しかし、白状すれば、まだ回復し切ったわけではありません。
この記事を上げるのが証拠。
というのも、実はこれ、リンゴ・スターの誕生日の7月7日に上げるつもりで途中まで書いていたものが、時間切れで誕生日当日に上げられず、来年の誕生日まで保留にしていたものでした。
でも、思考停止から回復するつもりで、書き上げることにしました。
まあ、ポールも参加しているので、ちょうどいいともいえますか。
◇
リンゴ・スターの音楽って、おおこれはすごいっ、とうものでもないかなあ。
そういう要素をむしろ意図的に排除しているようにすら感じないでもない。
あのひょうひょうとした人柄がそうさせるのでしょう。
ビートルズにいた時代から、周り3人が神経をすり減らしながらすごいことをしていたのを見てきたわけで、その反動でそうなったのか。
或いは、周りがすごいから自分ひとりくらいは普通にしていたかったのか。
もちろんリンゴだって葛藤はあって、ホワイトアルバムの録音の時に1日だけ脱退したという経験も持っているくらいだから、人柄だけですべてうまくいったわけでもないのは分かります。
でも、リンゴ・スターの場合、持って生まれた人柄としか感じられない。
ジョン・レノンは、リンゴ・スターについて、彼はビートルズに入らなくてもスターになっていたに違いないと語っていましたが、人柄と音楽センスに加え、演奏時の動きが派手で見栄えがする、人を引き付ける天性の魅力が備わっていた、そんな人でしょう。
努力だけではなかなか得られるものではない。
つまり、実は、ビートルズの4人の中で、リンゴ・スターはいちばん才能が勝っている人なのかもしれない。
繰り返し、努力をしなかったとは言いませんよ、アルコール中毒に陥ったこともある人ですし。
ただ、リンゴ・スターの明るさは、そうした苦労を感じさせない。
その上、見ている人を暖かく包み前向きに感じさせる。
音楽では常に周りに恵まれていて、多くの人が一緒に演奏したがる人ですね。
ビートルズ解散後、趣味的なアルバムを2枚出した後、前線への復活を期したこのアルバムでも、信頼できる仲間に囲まれて堂々と、しかしほのぼのと歌っています。
なんといっても、ジョン、ポール、ジョージの3人が参加していることが、リンゴのためならという思いを感じさせますね。
残念ながら4人が一緒に同じ曲に関わってはいないのですが。
リンゴ・スターは1980年代後半「ヒズ・オールスター・バンド」を組み、世界を回ったコンサートツアーが好評を博し、それは今にも続き、今年は来日公演も行いました。
このアルバムのことを考えると、そうなったのは当然の帰結であったことがよく分かるし、実際僕も、オールスターバンドの話を聞いて「あ、やっぱりそうきたか」と思ったものです。
このアルバム、僕はCDになって初めて聴きましたが(最初のCDが出てすぐに買った)、これは「すごい」アルバムなのだと期待しながら聴いたところ、何か拍子抜けというか、肩透かしを食らったように感じました。
ジャケットはSGT. PEPPER'S を模した豪華なイラストだけど、それがこけおどしとしか思えなかった。
それでも好きになりたく、時々聴いて、期待して、ああやっぱりか、と思うの繰り返し。
それが、数年前、何の気なしに聴くと、これがよかった。
好きになりたい、という思いが余計だったのかな。
そうなんです、「すごい」と思おうとしたのが間違いだったのです。
軽い気持ちで、何の気なしに聴けばよかったのです。
ジャケットは、そんな構えて聴くものでもないよというセルフジョーク的なメッセージなのでしょうね。
つまり、白状すれば、このアルバムをほんとうにいいと思ったのは、まだたかだか数年前のことなのです。
もちろんそれでいて、ポップソングとしては超一級品。
リンゴ自身もそのことには自負があるのでしょう。
音楽的には、ジョージ・ハリスンのALL THINGS MUST PASSの英国スワンプ路線に乗っかった、といったところか。
リンゴもアメリカ音楽への憧れが強かったはずだけど、ジョージがうまくそれを自分の音として表したことに敬意を表し、かつ親近感を感じたのではないか。
リンゴのキャラクターとしての緩さとスワンプの緩さが妙に合っているのがまたいいですね。
あらためて、リンゴがスターになったのは天性のものが大きいことも分かりました。
1曲目I'm The Greatest
いきなり1曲目からジョン・レノンが作曲、ピアノでも参加しています。
これについてジョンはインタビューの中で、「僕は偉大だ」なんてリンゴが言うからユーモアとして捉えられるのであって、僕(ジョン)がそんなこと言えば世の中が真に受けてしまう、といったことを話していました。
本人がそれ言うか、と突っ込みたくもなりますが、ジョンだからもちろんいいんです(笑)。
ジョージ・ハリスンがギターで参加していますが、ということはこの曲は3/4ビートルズですね。
他、ハンブルグ時代からの朋友クラウス・ヴーアマンがベース、5人目のビートルズとまで言われたビリー・プレストンがキーボードと、まさにリンゴならではの豪華メンバー。
それはリンゴ自身へのオマージュでもあり、ちょっとした叙事詩でもあります。
ジャケットがSGT. PEPPER'Sのイメージと書きましたが、この曲の中では実際に、「登場人物」である"Billy Shears"の名前が呼ばれ、観客が湧くという部分があります。
ビリー・シアーズさんはWith A Little Help From My Friendsをあまりうまくなく歌う人、つまりはリンゴのことですが、ジョンと組んだこの遊びがうれしいですね。
最後にリンゴが"I'm the greatest!"と叫びますが、やっぱりリンゴじゃなきゃ。
2曲目Have You Seen My Baby
ランディ・ニューマンの曲、だったんだ、実は知らなかったけれど、そうい言われると歌メロの進み方がいかにもランディ・ニューマンっぽい。
ランディ・ニューマンはスワンプじゃないけれど、アメリカ人の生活感をリアルに描く人で、この路線でこの選曲は納得。
ピアノにはマーク・ボランが参加、T.レックスのTHE SLIDERのジャケット写真はリンゴが撮影したことは有名だけど、なんだかちょっと変わった友だちだなあ、と(笑)。
ドラムスにはジム・ケルトナー、ああ、またいた(笑)。
3曲目Photograph
ジョージ・ハリスンとリンゴの共作で、リンゴに初のビルボードシングルチャートNo.1をもたらした曲。
この曲は、写真というものが持っている懐かしさを誘う感情を見事音に表していますね。
思い出がつまったモノクロ写真を見て、頭の中で色をつけて光景を再現している、そんな響き。
僕くらいの世代までは古い家族写真はモノクロだったから、そのことは身をもって分かりますが、今の若い人は最初からカラーだろうから、その辺のニュアンスは伝わるのかなあ。
そのうち、生まれた時からデジカメという世代の若者が音楽を聴くようになるんだろうなあ(笑)。
ともあれ、これほどまでに心象風景を音として見事に表した曲はそうはあるものではない、名曲といっていいでしょう。
しかも最初からオールディーズを思わせる懐かしさが曲に備わっている。
もしかしてジョージ・ハリスン最高の名曲かもしれない、とも。
ピアノにはニッキー・ホプキンス、やはりビートルズ時代からの仲間。
4曲目Sunshine Life For Me (Sail Away Raymond)
ジョージ・ハリスンの曲が続きます、こちらは単独作。
この曲がまた、どこかしら中国風の旋律、これが不思議。
ローリング・ストーンズのFactory Girlやロッド・スチュワートのGasoline Alleyと同じ感じで、要は英国トラッド風ということなんだろうけど、その英国トラッドと中国風がどこでどう結びつくのかはいまだに僕は分かっておらず、研究課題のひとつとなっています。
まあ、中国風というのが思い違いなだけかもしれないけれど(笑)。
曲もだけど、これ、ロビー・ロバートソンがギターとコーラス(一聴して彼の声と分かる)、レヴォン・ヘルムがマンドリン、リック・ダンコがフィドル(音が踊っていて楽しそう)、ガース・ハドソンがアコーディオンと、つまりはザ・バンドがバックを努めている。
すごすぎる、と思うけれど、音楽は反比例するかのごとく緩くて楽しい曲、それもまたザ・バンドの魅力。
バンジョーはデヴィッド・ブルームバーグ。
カントリーとトラッドを結びつけたといった味わい。
5曲目You're Sixteen (You're Beautiful And You're Mine)
1960年から61年にかけて大ヒットしたジョニー・バーネットのカヴァーにして、リンゴに2曲目のNo.1をもたらした曲。
オリジナルは最高3位だったので、オリジナル以上にヒットした、もはやリンゴの曲と言っていい。
リンゴのNo.1はこの2曲だけ、という点でもこのアルバムの充実が分かり、当時は世の中がリンゴの復活を待っていたことが察せられます。
オールディーズ風のPhotographに続いて本当にオールディーズを持ってきた戦略が当たったのかもしれないですね。
などと書くと大仰に感じる、ホンキートンク調の素軽い曲に仕上がっています。
この曲にはコーラスでポール&リンダ・マッカートニーが参加。
ポールのコーラスはかなり前に出ているのが他の2人とは違うところ。
でも、このコーラスがなければ曲が生きない、さすがはポール。
6曲目Oh My My
このアルバムの制作をジョージとともに支えたヴィニー・ポンシアとリンゴの共作。
軽快なリズムに乗ったこれ、分かりやすいヴァースととても印象に残るサビと、ポップソングのお手本のような曲。
コーラスにはDancing In The Streetで知られたマーサ&ザ・ヴァンデラスのマーサ・リーヴスが参加と、リンゴの人脈の広さはもはや驚くばかり。
彼女の声がますますポップソングらしさを増していて、思わず口ずさむ曲。
7曲目Step Lightly
リンゴ単独作。
マルディ・グラを見に行ったような、参加はしていなくてあくまでも観光客として見ただけ、という感じをこの曲から受けます。
というのも、直接的に、ポール・サイモンのTake Me To The Mardi Grasに雰囲気が似てるな、と思ったから。
特に後半の管楽器の鳴り方がそう感じさせる。
いずれにせよスワンプ風といえるのでしょうけど、リンゴのセンスはいかにも英国人で、そういう音楽にしては妙にしゃきっとした感じ。
ギターにはスティーヴ・クロッパーが、どうりで南部風になるはずだ。
8曲目Six O'Clock
待ってました! ポール・マッカートニーの曲、リンダと共作扱い、2人ともコーラスで参加。
これが、Photographに対抗意識をむき出しにしたかのような、強烈な郷愁に襲われる、ノスタルジックでセンチメンタルなバラード。
これをポールが歌うと、あざといというか、間違いなくやり過ぎと感じられるだろうけど、リンゴが歌うとそれがきわめて自然に感じる。
ビートルズのGood Nightもジョンが作曲したもののジョンが歌うとやり過ぎと感じてリンゴが歌った、ということにもつながってくる。
この曲は、気持ちが弱い時に聴くと倒れてしまいそう。
いろいろな意味でさすがはポール。
9曲目Devil Woman
リンゴとヴィニー・ポンシア共作。
ロックではよくある、前の曲でしんみりとやり過ぎたことの照れ隠し、軽快なホンキートンク。
歌詞の中にSexy Sadieが出てきて、彼女は悪魔の女だと歌いますが、でもSexy Sadieは「彼」じゃなかったか・・・
なんて重箱の隅をつつくようなことは言わない(笑)。
10曲目You And Me (Babe)
アルバム本編最後はジョージ・ハリスンとビートルズのローディを務めていたマル・エヴァンスの共作。
ショーの最後らしく別れを惜しむような曲。
後半で、"Goodbye everybody"と言った後、参加した人を、全員ではないけれど名前を挙げて感謝の念を表しているのがいかにもリンゴらしい。
登場順にジム・ケルトナー、クラウス・ヴォーアマン(と発音しているように聞こえる)、ニッキー・ホプキンス、ジョージ・ハリスン、ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、リチャード・ペリー(プロデュースした人)、ヴィニー・ポンシア(友だちでもある)、と。
この名前を読み上げるところのリンゴの声と発音がとってもよくて、聴いていて気持ちいい。
しかし、名前を挙げていない人について考えてみると、マーク・ボラン、スティーヴ・クロッパー、マーサ・リーヴス、ザ・バンドの面々、みな名の知れた人だから、もしかしてレコード会社の権利関係で明かせないのかな、といつものように邪推してみました(笑)。
11曲目It Don't Come Easy
ここから3曲はボーナストラック。
リンゴ自作で、ソロになって初のTop10ヒットを記録した代名詞的な曲、最高4位。
「明日への誓い」、あの「バングラデシュ・コンサート」でもおなじみ。
ジョージが主に関わっていますが、他にギターにはスティーヴン・スティルスが、またバッドフィンガーのピート・ハムとトム・エヴァンスもコーラスで参加とやはり周りに恵まれていますね。
この曲は僕がビートルズを聴き始めた中2の時にNHK-FMでエアチェックして聴いて一発でとっても気に入った思い出の曲でもあります。
歌メロが分かりやすくて、曲の覚えが悪い僕でも多分3回くらいで覚えたと思う、今となっては信じられないことだけど(笑)。
でも、It "Don't"じゃないじゃないか、と突っ込みたくもなりましたが(笑)、歌では語呂のために文法を無視することがある、ということもこの曲で学びました。
まあ、そうですよね、♪ いっとだずんとかむい~ずぃ~ じゃ歌いにくいですからね。
ボーナストラックですが、ここにこの曲が入っているのは必然であり、得した気分にもなる、まさにボーナスですね。
もちろん、アルバムとして聴くには前の曲が終わったところで心の中で区切りをつけるのですが、CDとしては入っていて大正解でしょう。
12曲目Early 1970
こちらもリンゴの自作で、「明日への誓い」のシングルB面曲。
ジョージのスライドギターがいい感じで鳴っていてよく聴こえますが、スライドギターはビートルズ時代にはほとんどなかった味わいで、ビートルズの後の成長を感じます。
歌詞はどうやらビートルズ末期のジョンのことを歌っているらしく、「妻が日本人」というくだりがあります。
リンゴは当時は田舎の農園に住んでいたことも歌詞から推察されますが、最後のリフレインでは「今度街に出たら3人みんなと会いたい」と書いています。
それはついにかなわなかったわけですね。
もちろん、リンゴは個別には3人とも会っていましたが、一緒というのは。
曲としてはむしろ軽く、リンゴもいつものように飄々と歌っていますが、歌詞を知ってしまうと、寂しさを感じずにはいられなくなりますね。
13曲目Down And Out
最後もリンゴの曲、こちらはPhotographのシングルB面曲。
曲調はアルバムの流れにのっとったもので、前曲に続いてジョージのスライドギターが印象的で、シングルB面という割と自由にできる場を借りてジョージも意欲的にスライドギターを鳴らしています。
最初に僕は、、リンゴ・スターの音楽はすごいという感じじゃないと書きました。
しかし具さに見ると、参加メンバーがすごいどころかものすごいですよね。
だけど、聴く者を妙に構えさせない、気楽に気軽に聴かせてしまうのはやはりリンゴのマジックでしょう。
でも、だからこそ、この軽い(いい意味で)音楽にこのメンバーはすごすぎる、と、ありがたみが増すような気もします。
ひとつ大事なことを言い忘れていた。
このアルバムのリンゴは、ビートルズであったことにとことんこだわっている。
SGT.を真似たジャケットを見れば一目瞭然だけど、歌詞の中に曲名やLiverpoolなどビートルズにちなんだものが多く出てくる。
他の3人は、ビートルズ解散後、ビートルズであったことに触れられたくないかのように振る舞っていたのとは大違い。
まあ、リンゴも最初のソロ2作はビートルズから離れようとしていたきらいはあるけれど、リンゴの場合は古い曲をやることで趣味と割り切っていたことが感じられたのだと思う。
リンゴのこのアルバムは、リンゴがビートルズであったことにこだわっているところに、元ビートルの3人が協力している、だからいやが上にも注目度が上がる。
ビートルズが否定されてしまったかのように感じていた当時の人々が、これを聴いて、やはりビートルズはビートルズだったことを再認識する。
さらには、否定していたはずのジョン、ポール、ジョージが参加することで、3人もほんとうは心の底からビートルズを愛していたことが伝わってきて聴き手はほっとする。
ビートルズの夢がまだ終わっていないことを、束の間でも思い出させてくれた。
もしかして再結成するのではないか、とすら・・・
そんな夢を抱かせてくれるところにこのアルバムの意味があるのだと、今回聴いて思いました。
僕には当時の経験がない、あくまでも想像で話していますが、でもだからやはり流行りものであるロックは時代とは切り離せないものであるし、時代の空気が刻み込まれているものであると再認識しました。
今回、1年保留をやめて記事を上げたのはもうひとつ、毎年、リンゴの誕生日にリンゴの曲の人気投票を書き込みで教えてくださる西寛一さんへの感謝の念も、個人的には込めたものです。
ありがとうございます!
さて、ひとつ書いて、もう回復した、と感じられました(笑)。
次はビートルズから離れた人の記事を上げるつもりでいます。