◎THE WAY LIFE GOES
▼ザ・ウェイ・ライフ・ゴーズ
☆Tom Keifer
★トム・キーファー
released in 2013
CD-0425 2013/7/12
トム・キーファーのソロアルバムは、僕が今いちばんよく聴いているCDです。
トム・キーファーはシンデレラのフロントマン。
デビュー作NIGHT SONGSこそ、ヘヴィメタルブームの流れに乗ったいかにもメタル的なアルバムでした。
「まりもパーマ」のメンバーが写ったジャケットが今見ると恥ずかしいような、懐かしいような、でもやっぱり恥ずかしい、か(笑)。
まあ、後から聴くと、ブルーズロック色は見てとれるのですが。
しかし2作目LONG COLD WINTERでメタルファン非メタルファンどちらをも驚かせました。
僕は当時はまだ「非」メタルファンでしたが、ブルーズを強く感じさせるブルーズロック路線のそのアルバムは、自分でも驚くほど気に入り、今でも大好きなアルバム。
2枚目は「技術的な」理由で、ドラムスにかのコージー・パウエルと当時ハートのデニー・カーマシーを迎えたことでも大きな話題を呼び、コージーを追っかけていたメタル友だちTはそれだけで買ったくらいでした。
そのヒットを受け、シンデレラはチャリティもののコンピレーション・アルバムでジャニス・ジョプリンのMove Overを演奏、これが意外とはまり、ブルーズ・ロック路線の印象を強めた。
そして3作目HEARTBREAK STATIONではメタルファンを「裏切った」。
カントリーブルーズ色が濃い、というかもろそのものという音楽を聴かせ、これが賛否両論。
まだヘヴィメタルが、下り坂ではあったけれどかろうじて時代遅れではなかったころにそれを出したのは、大胆ともいえるけれど、どうやらシンデレラは、トム・キーファーは、ほんとうにブルーズが大好きなことはよく分かりました。
その後はシーンの後退も重なって、4作目STILL CLIMBINGは出来の割には不遇を囲い、シンデレラはうやむやのうちに終わってしまったという印象のまま今に至っています。
そんな中、トム・キーファーがソロアルバムを出したと聞いて飛びつきました。
キャリアとしてはもう四半世紀だけど、実に、初のソロアルバム、ということになります。
聴くと、予想通り、ブルーズロック路線でもあり、スワンプ系の香りもするいわゆる土臭いアルバム。
今の僕がこれを気に入らないわけがない!
ジャケットからしてその匂いがぷんぷん。
シンデレラがブルーズロックに舵を切ってからちょうど25年、四半世紀が経つわけですが、もうそんなになるのかどうりで僕も年を(以下略)、その間に僕はブルーズを普通に聴くようになりました。
25年前のシンデレラを聴いた時の僕は、そういう音楽もあるのか、という感じで興味が先に立っていましたが、今のトム・キーファーを聴いて、これこそ僕が聴くものだ、と、妙に落ち着くものを感じています。
四半世紀も経てばいくらなんでも成長する、なんて大げさか(笑)、とにかく年齢により音楽への感じ方は違うものだとあらためて思い直しました。
このアルバムは、強引にいえば「品をよくしたブラック・クロウズ」といった趣き。
これは音をイメージしていただくためのレトリックですが、僕はそう感じました。
ただ、よくあるその手のスワンプ系ブルーズロック路線ではあるけれど、強烈な個性があるかというと、そこまでには至っていないかな。
シンデレラやトム・キーファー自体が、そこに至る前にシーンの中で霧に迷ってしまった印象があるので、その点では不利ではありますね。
だから、トム・キーファーが元々大好きという人は別として、スワンプ系ブルーズロックが好きな人なら問題なく聴けると思うけれど、そうではない人(おそらく多数と思はれ)にとっては、趣味的にやってみたもの以上には映らないかもしれないと危惧しています。
おまけに、「どうせ元ヘヴィメタの人でしょ」とひとくくりにされそうで、恐いというか、もったいない。
逆に、シンデレラは名前くらいは知っていても、トム・キーファーがその人だったことを知らない人にとっては、このアルバムはスワンプロック系の期待の大型新人登場、となるかもしれない。
ヘヴィメタルとスワンプはロックという音楽の中でも対極と言える部分がありますからね。
勝機があるとすればそこでしょうか。
まあ、シンデレラの最後のアルバムからもう19年が経っていて、忘れ去られるには十分な年月ではありますが。
でも、僕としては、ひとまずどんな音楽というくくりなしに聴いていただければ、と思います。
このアルバム、音は予想通りに良かったけれど、曲がここまでいいのは、はるかに予想をいい方に裏切られました。
僕が好きになるかどうかの観点は突き詰めるとそこしかないのですが、今はこのアルバムの曲をよく口ずさんでいます。
曲はすべて、共作者はいても、トム・キーファー自身が書いている、これが大きい。
1曲目Solid Ground
トム・キーファーは裏トレイの写真でテレキャスターを持って椅子に座っていますが、おそらくそのテレキャスターに奏でられた低音弦によるいかにもブルーズロックといったギターリフで始まる。
適度にハードなドライヴィング・チューンに気持ちはすぐにアルバムに入ってゆける。
ヴォーカルと低音ギターリフが交互に現れる「コール&レスポンス」で歌が進むのは最高に気持ちがいい。
歌詞に"Helter-skelter"と出てくるのはお約束的でうれしい(笑)。
つかみは上々。
ところで、トム・キーファーの声を久しぶりに聴いたけれど、以前よりも素直で聴きやすい声だと感じました。
シンデレラ時代は無理に声を潰していたんだな、きっと。
2曲目A Different Light
人はそれぞれに輝きを持っていると説くバラード。
2曲目から感動に襲われます。
トム・キーファーは人を見る目が優しい人なんだな、と今更ながらに感じました。
まったくの新曲では、エリック・クラプトンのEvery Little Thingと並んで、今年出会った曲では感動する曲で、まだまだ音楽も捨てたもんじゃない、と。
捨てたもんじゃないなんて言い方は不遜ですけどね(笑)。
でも、そういう出会いを求めて音楽を聴き続けるわけですからね、新譜でも旧譜でも。
それにしても、トム・キーファーでこんなに感動するとは思っていなかった!
3曲目It's Not Enough
1970年頃から抜け出してきたような曲、もうそれだけでうれしい。
キレがあって跳ねている。
ギターだけをバックに低音で歌い始め、演奏がフルになったところで1オクターブ上げて歌う、その切り替えがいい。
4曲目Cold Day In Hell
切れ味鋭いテレキャスターの音を受けてハーモニカが引っ張る。
近年のローリング・ストーンズといった趣きの曲。
マイナー調で、これはヘヴィメタルが流行っていた頃によくあったスタイルのポップなロック。
でも、今のトム・キーファーは一級のブルーズロックに仕立てている。
5曲目Thick And Thin
続いての曲は、復活した後のエアロスミスのバラード路線、といえば分かりやすいでしょう。
ピアノ弾き語り風のバラードで、シンデレラ自身にもそのようなヒット曲があった。
Bメロ=サビなるとギターもドラムスも入る、その9小節目で音が急に上がるのが、うん、いい旋律だ、体に電気が走る、そこをよく口ずさむようにもなりました。
おまけにギターソロも、短いけどいい。
歌詞の最後でI'll Stand By Youと歌うんだけど、偶然かな、意識したのかな、まさにプリテンダーズのI'll Stand By Youのような包まれるバラード。
80年代がリアルタイムだった僕にはとってもうれしい曲。
6曲目Ask Me Yesterday
同じ「エアロスミスのバラード路線」を続けてきました。
ただしこちらはアコースティックギターを基調としたバラード。
似たような曲を続けることでアルバムの流れが変わっていい効果を上げています。
7曲目Fools Paradise
これもバラードといえばバラードかな。
当時のアメリカのメタル系バンドが好んだ「メタルバラード」的なポップな曲で、ということは、シンデレラは意向に反してシーンに乗せられただけだったのかな・・・
そう考えると不幸なバンドだったのかもしれない。
まあ、売れたのだから不幸とはいえないかもだけど。
8曲目The Flower Song
もひとつミディアムスロウのバラード風の曲を持ってきましたが、4曲くらいがちょうどいいか。
ちょっとカントリー風の明るく和やかな曲で、シェリル・クロウが歌うとよさそう(笑)。
パット・ブキャナンのスライドギターがとってもいいし、こういう音楽が大好きでよかったと思う。
9曲目Mood Elevator
堰を切ったようにテンポが速くなり、ギターが音圧高く攻めてきて、トムも金切声をあげるメタリックな曲。
そういう曲だからか、シンデレラのギタリストのジェフ・ラバーが参加、だから本格的。
ジェフ、まだ音楽やっていたんだね(笑)。
こういう曲を聴くと、ヘヴィメタルがブルーズロックから実はそれほど遠くない、と思ってしまう。
10曲目Welcome To My Mind
ミドルテンポで全体的に粘つく、マイナー調のちょっと恐い響きの曲。
うん、やっぱり基本はストーンズなんだろうなあ、トム・キーファーは。
そういえばシンデレラではJumping Jack Flashも歌っていたっけ。
11曲目You Showed Me
再びバラードが訪れるんだけど、バラードはやっぱりエアロスミスっぽい。
この曲はBメロに入り2小節ごとに歌メロをつぎはぎしていくように変わっていくのが上手く、特にBメロの6小節目から7小節目にかけてふっと音が上がる旋律が感動的。
5曲目でも音がふっと上がるのがいいと書いたけど、バラードの書き方のツボは心得ている人ですね。
だから余計に今回は好きになりました。
12曲目Ain't That A Bitch
これはトム・ペティっぽい。
そうか、さっきから誰か他にいると思ったら、大事な人を忘れていた(笑)。
ハモンドオルガンも入っていて、この曲だけではないんだけど、なんだかここまで来ると、もし僕がまかり間違ってバンドをやるならこの音が理想、という感じになってきた(笑)。
少し引いた後ろ暗い曲。
13曲目The Way Life Goes
表題曲はハーモニカを前面に出したカントリーブルーズ風の曲だけど、完全にそうなり切っていないのがこの人がそもそも持っているポップな部分なのでしょう。
なんだか達観したかのように妙に明るく前向きな曲で、トムも、いろいろいあった思いを丸く収めて表しているのは、なんだかほっとさせられるものがあります。
14曲目Babylon
本編最後は4曲目を明るくしたような雰囲気、切れ込むギターもストーンズ風だし。
「なーななななー」というかけ声はコンサート受けしそう。
15曲目Get Even
国内盤ボーナストラック。
サウンドプロダクションとしてはもちろんアルバムと同じで、この中のアップテンポの曲をささっとまとめてみたという感じの素軽い曲。
でもボーナスにしてはいい曲で、国内盤を買ってよかった。
やっぱりね、ブルーズロックは最強。
「それが人生」というのは、まさにこのアルバムの音を表した言葉。
シンデレラは、アルバム4枚で終わってしまった上にトム・キーファーもソロ活動が順調だったとは言い難く、漸くこぎつけた理想の音。
それに対して、恨みつらみをおくびにも出さず、ただ好きな音楽をやれてよかったと言ってくれるこのアルバムには、トム・キーファーの人間性を感じずにはいられません。
こうなったら来日公演してくれないかな。
東京であるならぜひ行きたい。
このアルバムやシンデレラの曲はもちろんだけど、きっとストーンズなどの曲も演奏してくれるだろうし、どんな曲を選ぶかという楽しみもあるから。
それにしても、トム・キーファーの新作をここまで気に入るとは、僕自身も驚いています。
今のところボズ・スキャッグスの牙城は崩れそうにないけれど、今年の新譜の2位には躍り出たかな。
ブルーズロックが好きなかたにはおすすめです。
ひとまず、トム・キーファーがヘヴィメタルをやっていたということは頭の外に追い出していただければ(笑)。