◎SUPER COLLIDER
▼スーパー・コライダー
☆Megadeth
★メガデス
released in 2013
CD-0419 2013/6/24
メガデスの新譜、通算では14枚目のアルバム。
これがいいんですよ。
弟が仕入れた情報では、今回のアルバムについてデイヴ・ムスティンは、COUNTDOWN TO EXTINCTIONとCRYPTIC WRITINGSの頃のようなサウンドを目指したとのこと。
まったくもってその通り。
メガデスはその2枚は、間にもう1枚ありますが、MTVを見ていて曲がよくかかっていましたが、商業的に最も売れた頃で、とても聴きやすい。
チャート的に見ても最高6位は、2位だったCOUNTDOWN...以降では2番目にいい成績を残しています(新譜なので再度上がる可能性はまだありますが)。
今回僕が驚いたのは、とにかく歌メロが印象に残ること。
それは元々のメガデスの特徴で僕が気づいていないというか意識していなかっただけでしょうけど、それにしても本作は、ええっ、こんなにサビの歌メロがいい曲を書く人だったんだと。
ギターサウンドも相変わらず鋭角的に重たい。
それがより強化されていて、今回もうひとつ僕が驚いたのは、こんなにも美しいサウンドのバンドだったか、ということ。
この美意識はブラック・サバスのそれの領域に近づきつつありますね。
なお、近づきつつあるというのはあくまでも美意識の面であって、メガデスはメガデスなりの感覚が洗練されてきたと感じられ、だから音的にサバスに似ているというつもりはありません、念のため。
デイヴ・ムスティンはフランス系の人ということで、美意識は高いのかもしれない。
いずれにせよ、刺さってきて広がる毒のような美意識が強く感じられます。
1曲目Kingmaker
曲がいきなり始まらず、宇宙のような効果音的な音でじらされますが、始まるとメガデス一流のスラッシーなサウンドにほっとする、と同時に熱くなる。
"King"という言葉、デイヴのナルシストぶりも相変わらず。
これはもうのっけからメガデスらしいサウンドとしかいいようがない。
2曲目Super Collider
表題曲はミドルテンポのスケール感ある曲。
なんといっても"Super Collider"という語感がいい!!
エクスクラメーション2つもつけてしまいましたが、まずは"super""collider"というあまり結びつきそうにない単語を2つつなげた、言葉としての語感のよさ。
そして、僕が洋楽が好きな理由のひとつは、英語の歌詞・単語と曲の旋律とリズム感の結びつきがはまった時の言いようのない気持ちよさなのですが、この"Super Collider"はここ数年で新たに聴いた新しい曲では特筆ものの素晴らしい語感。
これを作ったデイヴは実はポップソングとしてもセンスがいい人だったんだと見直しました(すいませんそれまで低評価で・・・)
「超衝突者」とは、ジャケット裏にSF風のロボットのヒーローの漫画が描かれており、それをイメージしたものでしょうか。
退廃的な絵、B級ののり、どこかしら後ろめたさを感じながらも聴くのがスリリングでもある、それがメガデスの音楽でしょう。
絞り出すように、苦しそうに歌う、カタルシス感たっぷりの将来のメタル的名曲候補。
3曲目Burn!
なんとあられもないタイトル・・・まあそういうロック的なお遊びもいいですね。
イントロがどすんと始まり、ヘヴィメタルブームの頃を彷彿とさせるギターヒーロー的なバカテク(死語か?)ギターで心を突き刺す、メタル度満点でこちらが唸り声を上げてしまう。
"Burn, baby burn"とサビで歌うのはロックンロールの伝統を重んじているようでうれしいけれど、どうせならそれを曲名にしてほしかった。
でも、それをタイトルにするとメタル的なイメージが薄らぐのかもしれない。
強面のデイヴ・ムスティンは、音楽がポップになることは必ずしも望まないわけではないけれど、自身が軽い男とは思われたくないのかな・・・
4曲目Built For War
いきなりデイヴが歌とギターで吠えまくるこれまたスラッシーな曲。
中間でテンポが落ち、「うぉ~」とかけ声が入ってアンセム的な盛り上がりを見せるダイナミックな展開がいい。
曲名に使われる単語がもう絶対にメタル的イディオムを外さないのは、さすが。
5曲目Off The Edge
メガデスも日本人が共感しやすい哀愁感を持っていますよね。
そこはなんとなく分かっていたんだけど、前回がジプシー・キングスだっただけ余計にそれを意識しました。
曲はまあ普通のメガデスらしいミドルテンポの曲。
6曲目Dance In The Rain
まあ踊れる曲ではないんですが、メガデスなりの抒情性を表したミディアムスロウテンポの曲。
途中で曲のテンポが上がり、怒ったような歌、サウンドになるのがまさに雨のように冷たくて恐くもある、そんな展開も飽きさず聴かせてくれます。
7曲目Beginning Of Sorrow
デヴィッド・エルフソンのベースのフレーズで重たく始まるこの曲、タイトルを歌うサビの部分、歌メロがいい上にコーラスが凝っていて歌として訴えるものが大きい。
その歌メロはこれぞメガデス節といったもの。
8曲目The Blackest Crow
意外や意外、ドブロ(風弦楽器)とフィドルが入ったカントリー風のイントロから始まる。
本編が始まると、ミドルテンポの普通のメガデス的な曲に落ち着くけれど、ドブロとフィドルは途中でも織り込まれていて、曲に変化を持たせています。
当たり前のことだけど、デイヴはやっぱりアメリカ人だったんだと思わせる音。
ところで、「最も黒いカラス」とはなんだろう、鳥好きとしてはそこも気になる(笑)。
9曲目Forget To Remember
このギターサウンドがなければ70年代哀愁系ポップソングといった趣きの曲。
特にBメロの波打つ歌メロが印象度高い。
暴論かもしれないけれど、R&B系の歌手がソウル風のアレンジで歌うといいかもしれない、というくらいの曲かな。
まあそう思わせるところに、デイヴの曲作りのセンスの良さがあるのでしょう。
10曲目Don't Turn Your Back
メガデスというバンドはグルーヴ感がいい、と思わされる。
メタリカ、の名前をメガデスの前で出してはいけないのか(笑)、ともかくメタリカはヴォーカルでリズムギターのジェイムス・ヘットフィールドのギターリフを中心に曲を組み立てているそうで。
メガデスも絶対君主デイヴ・ムスティンのギターがそのグルーヴ感の核となり、そこにデヴィッド・エルフソンのベースが絡むことでこのクールなグルーヴ感が達成されるのでしょうね。
歌メロもタイトルを歌う部分は印象に残るんだけど、これは演奏を思いっきり聴かせる曲。
11曲目Cold Sweat
シン・リジィのカヴァーだけど、サウンド的にもイメージとしてもメガデスに染まっている。
タイトルを歌うサビの部分の作り方が、他の曲と共通するものがあって、そこが違和感なくメガデスのものになっていると感じさせるところでしょう。
重たい声のヴォーカルも似ているし、デイヴはフィル・ライノットを尊敬した上で参考にしているのかな。
なんであれ、シン・リジィ好きとしてこのカヴァーはうれしいですね。
ライトハンドを駆使したいかにもメタル的なギターソロもうまくはまっている。
本編はここで終わりですが、正直、これが最後というのは、カヴァーだからという意味ではなく、曲があっさりとしていていなんだか放り出されたような気になります。
12曲目All I Want
ここからは家にある国内盤のボーナストラック。
本編では歌メロが割とまとまっていたのが、ここでは崩れながら進んでいる感が。
まあそれもらしいといえばらしいのですが、壊すの好きそうだし。
パンチ力はある曲ですね。
13曲目A House Divided
最後のこれがですね、夜明けに鳴り響く哀愁のトランペットでおもむろに始まり、なんだか刑事ドラマの挿入歌みたいな雰囲気。
「Gパン、走れ!」とか言いたくなってしまう(笑)。
つくづく、そういうところも日本人に受けるのかなと。
そのトランペットはもうちょっと脇道に逸れるとスタイリスティックスになったりもするし・・・
デイヴ・ムスティンはもっとポップなことをやりたいと言っていた時期があったようだけど、感覚的な面でいえばメタルに縛られない音楽性を持っている人であるのはよく分かりました。
曲自体はスロウテンポのメタル的な曲ではありますが、やはり途中でテンポアップしてスラッシーになる部分もある。
正直、これはCDの最後にふさわしいと感じる曲で、ボーナスがあったほうがいいですね、僕はそう思う。
メガデスは、正直言えば、マーティ・フリードマンが抜けてからは、弟が買うので買った直後に何度か聴くだけで、ああまた出たか、くらいにしか思っていなかった。
だからもちろんこの新作も、弟が買ってかけていて、「ああまたか」と思いながら聴くでもなく聞いていた。
ところが、アルバムが進むにつれ、もしかしてこれはいい、いいかもしれない、いやほんとうにいいぞ、と1回目ですぐに気持ちを掴まれました。
ただ、やはり僕も年を取ったようで、真性ヘヴィメタルといえるメガデスのこれは、続けて何度も聴くほど体力がないし、連装CDプレイヤーで他のを聴いていてこれの番になった時に、前の音楽とのギャップが大きすぎて聴けずに止めることもあります。
年齢の問題だから、受け入れるしかないですね。
そしてだからそれは個人的な問題であり、音楽の本質とは直結しません、そこはどうかご了承ください。
それにしても、メガデスをこれほど気に入るなんて、自分でも不思議、かもしれない(笑)。