GIPSY KINGS ジプシー・キングス | 自然と音楽の森

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自然と音楽の森-June21GipsyKings


◎GIPSY KINGS

▼ジプシー・キングス

☆Gipsy Kings

★ジブシー・キングス

released in 1988

CD-0418 2013/6/21


 ジプシー・キングスの日本でのデビュー盤となったアルバムを取り上げます。

 

 最近よく聴いているアルバムがこれ。

 きっかけは、SONY/BMG系の例の(チープな)紙ジャケ5枚組オリジナルアルバムシリーズの一環としてジプシー・キングスのものを買ったこと。

 この1枚目だけは持っていたのですが、他を聴いてみたかった。

 まあこのシリーズでダブりがなく5枚とも持っていないというのは、まったく聴かないアーティストくらいで起こり得ない、全体では安いので仕方のないことですが。


 音楽の話の前に、僕は今回これを買うまでもう20年以上ずっと、彼らのスペルが"Gipsy Kings"であることを知りませんでした。

 本来は綴りが"Gypsy"ですよね、フリートウッド・マックの歌にもありますが。

 "Beatles"のようにバンド名の綴りを本来の単語と1文字(以上)変える例はよくありますよね、そしてこれは"Byrds"の逆ということになる。

 ところが、辞書を調べると、"Gipsy"の綴りも一般名詞として一応あるんですね、これまた知らなかった。


 さて、本題。

 僕の話を書き進める前に、今回はウィキペディアのジプシー・キングスの記事の一部を引用します。

 カタカナで書いているので日本のウィキですが、文章は引用者が一部手を加え、改行を施しています。


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 フランスの音楽バンド。

 「ワールドミュージック」という音楽ジャンルを確立したグループの一つとされる。

 フラメンコ界の巨匠で、マニの歌手であり、かつメンバーのレイエス兄弟の父であるホセ・レイエスが、息子達とホセ・レイエス & ロス・レイエスというグループを組み、地元フランス南部プロヴァンス地方で活動していたのがはじまり。

 以後、レイエス家と親戚関係にあるチコとバリアルド兄弟が参加し、現在のグループ名となる。

 各地で巡業しているうち、ブリジット・バルドーやチャールズ・チャップリンが、まだデビュー前の無名だった彼らのファンになった。

 特に、スイスのレストランで彼らの演奏を聞いた老人が感極まって涙したが、彼らにはその老人が誰かわからず後になってチャップリンだったことがわかった、という話は有名なエピソードである。

 この時のことをチコは「かつて世界中を泣かせた人物を俺達が泣かせたことが本当に嬉しかった」と語った。

 しかし、この頃までに発売したアルバム「アレグリア」「情熱の月」はさほど売れなかった。

 世界的に有名になったのは、クロード・マルチネスをプロデューサーに迎えてからである。

 彼はジプシー・キングスは素晴らしいが何かが足りないと思い、フラメンコを基調とした音楽に、ポップスやロックなどの現代的な音楽の要素を加えた。

 その結果、1987年に発表した「ジョビ・ジョバ」「バンボレオ」がフランス国内で大ヒットした。

 なお、彼らの音楽はフラメンコそのものというより、南仏のラテンの要素が入ったルンバ・フラメンカというスタイルがベースとなっている。


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 じぇじぇっ、あ、失礼しました(笑)、彼らはフランスのバンドなんだ! 

 この記事を書くまで知らなかった、アメリカのヒスパニックの人なのだとばかり思っていた・・・

 大変失礼いたしました。


 ジプシー・キングスは日本では当時大いに売れ、今でも根強い人気がありますよね。

 最近でも、ビールか発泡酒のCMで、ドメニコ・モドゥーニョのVolareを彼らがカヴァーものが使われていました。

 余談、ドメニコ・モドゥーニョのVolareは、現在のところ、イタリア人の歌手によるイタリア語の曲としてビルボードのシングルチャートでNo.1になった唯一の曲。

 余談ついでに、唯一の曲といえば、坂本九の「上を向いて歩こう」英題Sukiyakiも日本人の歌手による日本語の曲として唯一のビルボードNo.1ヒット曲ですが、だから僕の頭の中ではこの2曲がつながっています。

 そのVolareは残念ながらこの5枚組には入っていません。

 ついでにいえば、彼らは確か、イーグルスの、なんて枕詞も要らないかの名曲Hotel Californiaを歌っていたのを昔ラジオで聴いたことがありますが、それもここには入っていませんでした。


 僕がもう大学生になっていた1987年から88年当時、「バンボレオ」「ジョビ・ジョバ」の2曲は洋楽好きの枠を超えて日本でも広く知られるところとなりました(あくまでも僕の感覚では)。

 僕も、すぐにはCDを買わなかったけれど、1年くらいして中古で見つけて思わず買いました。

 ただ、当時は何度か聴いただけで終わったらしく、今回この5枚組を買って聴いても、その2曲とさる事情があって有名な2曲の4曲以外はまったく覚えていませんでした。

 やはり、若い頃はロックバカでソウルすら時々CDを買って聴くくらいだったから、このような所謂「ワールドミュージック」には早すぎたのでしょう。


 ジプシー・キングスがなぜ受け入れられたか。

 もちろん上記2曲はそのものが強烈なインパクトを持つ圧倒的に素晴らしい曲であるのは間違いないんだけど、他にも何かありそう。


 そこで着目したのが、1988年という時代。

 

 ともに1986年にリリースされ大ヒットした、ピーター・ガブリエルのSO(記事こちら) とポール・サイモンのGRACELAND(記事こちら) を記事にした際、僕にアフリカの音楽の入り口、さらにはワールドミュージックの流れをロックを通して教えてくれた重要で大切なアルバムだと書きました。

 SOの記事では、ピーター・バラカン氏の著書から引用した「ワールドミュージック」の話を書きましたが、ここに再度掲載します。

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 (レゲエやアフリカ音楽それに世界各地の民謡など)こうした非西欧系の音楽は、いまでは「ワールド・ミュージック」というジャンルに括られるようになっています。
 この「ワールド・ミュージック」という言葉は、1987年にロンドンのパブでの話し合いの結果、英語圏以外のレコードを店頭に並べる時の対策として生まれた(後略)。

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 つまり、ジプシー・キングスも世界的なワールドミュージックの流れにうまく乗ることができたのでしょう。

 世界に向けた最初のアルバムに自らのバンド名を冠するのは、力が入っていた証拠ですし。

 

 このアルバムを聴いて、その視点でちょっと考えたこと。

 ワールドミュージックの流れとは、ロックやソウルなどアメリカ主導の世界的なポップスに対して反旗を翻したものではなかったのか。

 

 反旗というときな臭い、ロックやソウルにいいようにさわりだけ使われて、というのもあまり好意的な書き方じゃないか(笑)、ともかく、ポップソングに断片的に現れていた世界各地の本物の音楽を世界中に知らしめて聴いてもらおうというのが「ワールドミュージック」の流れに結びついたのでしょう。

 20代の頃の僕はまだそれほど反応していなかった、今でも僕の主流ではないけれど、ポップソング側から「ワールドミュージック」を攻めてゆきたいというのは、40代の僕が根底に思っていることです。

 あ、「攻める」なんて、やっぱり穏便じゃないなあ(笑)。

 レゲェのようにそれ自体で世界的に定着した音楽もありますが、この流れは注目してゆきたいですね。

 ただし、ジプシー・キングスの場合はプロデューサーがポップソング的な要素を取り入れたというように、「ワールドミュージック」の中にも、そのままのものもあれば、はじめから世界に向けて発信する意図を持って作られているものがあることも理解はできます。

 いずれにせよ、本物がやっている、ということなのでしょう。

 

 1曲目Bamboleo

 これは有名ですね。

 いや何が有名って、歌い出し、「空耳アワー」の「医者も手がすいちゃたまんねえなあ」でしょうか(笑)。 

 それだってこの曲があまりにも有名でインパクトが大きいからこそでしょうね。

 今回、このCDを聴いてもうひとつ思ったことがあります。

 ヴォーカルの声がすごい。

 ニコラス・レイエス、名前は今回まで知らなかったのですが、迫力があってキレがあってそのくせ哀愁も感じさせるこの声は、ヴォーカリストとしてもただただすごいのひとこと。

 少なくとも僕は、それまでまったく聴いたことがないタイプの声の持ち主で、そこも多くの人が打たれたところでしょう。

 一緒に口ずさむと、なんと自分の声が情けなく聞こえることか・・・(笑)・・・でもやっぱり歌いますよ、大声で、この曲、もちろんタイトルの言葉の部分だけだけど。

 歌が裏の拍から入ってくる、というより曲が裏から始まっているのはロックではよくあることだけど、そういう感覚もロックから取り入れたものなのかな。

 曲としては、途中のサビからヴァースに移る部分は終わらせずに途中のまま移るところが、最後はきちんと終わりをつけているのがしっくりとくる劇的な終わり方でいい。

 タイトルの"bamboleo"とは、家にあるスペイン語の辞書「西和辞典」(白水社)で引いてみると、「動揺、虚勢」という意味でした。

 レオというからには何かのライオンの仲間だと思っていた・・・(笑)・・・

 演奏はもちろん切れ味鋭い極上品。

 今回、あらためて、世界のポピュラーソング史に残る名曲だと確信しました。

 

 2曲目Tu Quieres Volver

 バラードとまで落ち着いてはいないけれど穏やかな曲の中、やはりニコラスさんのヴォーカルは感情が波を打って響いてきます。

 かなり気に入りました。

 3曲目Moorea

 インストゥロメンタル曲で、一般的なイメージとしての、丈の長いスカートをはいた女性が口に薔薇をくわえて手を叩きながら踊るシーンを思い出す曲。

 いやそれにしてもギターの速いこと。

 フラメンコギターは難しいだろうなあ・・・

 4曲目Bem, Bem, Maria

 これまた空耳で有名、歌い出し、「あんたがた、ほれ見や、車ないか~、こりゃまずいよ~」

 空耳って、そう言っていると想像するのがまた面白いですよね。

 そして歌い出しで空耳が入るのはいつも評価が高い。

 それはともかく、「あんたがぁ~たぁ」の部分の声の震え方があまりにも激しく、ナチュラルビブラートなんてもんじゃない、この声はほんとに天賦のものだと思わされます。

 この曲はAメロすなわちヴァースが激しい中、サビのBメロが意外とマイルドになるのが上手いと思う。

 5曲目Un Amor

 このタイトルはきっと英語でいう"A Love"でしょう。

 激白するのではなく、哀愁の中に愛情を少しずつ織り込みながら心情を吐露する歌。

 やはりギターが速い、しかしコードを切るギターも音色のキレがよくリズム感が抜群にいい。

 6曲目Inspiration

 前の曲のイメージを引き継いだインストゥロメンタル曲。

 歌はなくても愛は伝わる、繊細な響き。

 7曲目A Mi Manera (Comme D'Habitude)

 何かと思ったらフランク・シナトラのかの有名なMy Way。

 これも昔ラジオで聴いたことがあるけれど、アルバムに入っているのは覚えていなかった。

 My Wayを英語でカラオケで歌うのはタブー視される向きがあるようですが、でしたらこのスペイン語で歌ってみてはいかがでしょうか(笑)。 

 なんて、でも、英語でなじんだ曲は、違う言語で歌われると、違和感のようなものがあるのは否めないですね。

 ただ、テンポを上げリズムを切り刻んでことにより曲から受けるイメージが少し変わっていて、これはこれでいいですよ。

 曲の後半はいかにもラテン的なかけ声で、これはこれで気持ちが入っている。

 8曲目Djobi, Djoba

 そして有名なこれ。

 強くて激しい音の響き、手拍子も入ってやはりキレがいい、でもどこか包まれるような暖かさ、優しさを感じる。

 喝采、なのかな、そういうパワーのようなものを感じる曲。

 

 9曲目Feana

 打って変わってもの悲しい響き。

 こういう曲を聴くと自戒の念が自然と湧いくる・・・なんて冗談めかして書いたけど、これはしみてくる、いい。

 このアルバムはインストゥロメンタル曲もいい、その上それがある場所、アルバムの曲の配列がいい。

 10曲目Quiero Saber

 哀愁路線が続く、と思ったけれどそれはイントロだけ。

 歌が始まるとどこか穏やかな響きで、Bメロのかけ声のところで、それまで強面だったところが急に表情が崩れ落ちるようにまろやかになるのがいい、ほんとにいい。

 ギターはこの曲にとどめを刺す、速い。

 なんだろう、それまでに体験したことがない響きに魅了されます。

 11曲目Amor, Amor 

 Djobi, Djobaをもっと楽しくしたような曲、似ているという意味ではなくて。

 なんせ愛が2つですからね(笑)。

 コンサートで盛り上がりそうだなあ、これ。

 アルバムが最後に向かっていることも感じさせる大団円的な曲。

 12曲目Duende

 最後はワルツのインストゥロメンタル曲。

 この曲は辞書で引くと「いたずらお化け」と出てきましたが、スペインにはいたずらをするお化けがいるんだ。

 普通はというか、前の曲の盛り上がり方はアルバムの最後にふさわしいんだけど、何か言い足りないことがあったようで、まとめることはできないけれど、ノートに残ったものをひとまず音に表してみたといった響き。

 続きを期待させるというか、最後はあっさりと終わってしまう、そこがまたそう感じさせるところ。

 

 全体を通して、ふと気づいた。

 While My Guitar Gently Weepsの哀愁に通じるものがある。

 その曲がフラメンコだなんて言わないけれど、僕としてはその曲があるから、この哀愁が身近な響きに感じられるんだな。

 アルバムとして聴くと、こんなにいいとは思っていなかった。

 聴きたくなって積極的にかけるのはもちろん、連装CDプレイヤーでその順番が回ってくるとそのまま帰ることが多い、ほとんどです。

 しかし困ったのが、1枚目がこれだけ気に入ってしまったので、2枚目以降に進めないこと(笑)。

 音飛びチェックで一度は聴いたけれど、聴き込むのはまだ少し先かな。

 今年はほんと、いい買い物だったというCDが多く、うれしい悲鳴を上げています。