SHIP AHOY オージェイズ | 自然と音楽の森

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洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。


自然と音楽の森-April27OjaysSA


◎SHIP AHOY

▼暁光の船出

☆The O'jays

★オージェイズ

released in 1973

CD-0397 2013/4/27


 オージェイズのアルバムを今日は取り上げます。

 

 代表作であるSHIP AHOYの40周年記念盤がこの度リリースされました。

 通常盤は持っているのですが、大好きなアルバムだから買わないわけにはゆかず、先日、家に届きました。

 

 オージェイズはいわゆる「フィリーソウル」の人気グループとして70年代に大活躍しましたが、僕は、数年前にソウルを真剣に聴くまでは名前すら知りませんでした。

 ソウルを聴き始めたところで、高校時代からのソウルマニア友だちMに、ソウルを聴くならオージェイズを聴いてくれと言われてベスト盤を買い、アルバムを数枚買ってすっかり大好きになりました。

 No.1ヒット曲であるLove Trainはロッド・スチュワートがカヴァーしていましたし。


 この頃のオージェイズのメンバーは3人、エディ・レヴァート、ウォルター・ウィリアムズ、ウィリアム・パウエル。


 さて、今回は、40周年記念盤のライナーノーツを基に記事を書いてゆくことにします。

 アメリカの音楽著述者のChristian John Wilkane氏が今年の1月に書いたものがブックレットに載っており、読みました。


 このアルバムは、フィラデルフィア・インターナショナル・レコーズ略称PIRの作曲家チームであるケネス・ギャンブルとレオン・ハフのコンビが、アフリカン・アメリカンの若者が祖国から奴隷として強制的にアメリカに連れてこられた18世紀の物語にヒントを得て曲を書き、ひとつの物語としてアルバムを作り上げたもの。

 「ギャンブル&ハフ」はフィリーソウルを盛り上げた立役者であり、スピナーズなど他も多数のヒット曲を書く優れたチーム。


 当時はまた、日本でも「クンタキンテ」でブームにもなった『ルーツ』がアメリカで出版された後で、その余波の影響もあったとのこと。

 もちろん、公民権運動からの世の中の流れや空気がそれらを生み出したこともあるでしょう。

 

 ジャケットにイラストで描かれた3人も、暗い船底にいる様子をイメージして表されています。


 このアルバムの下地になっているもう一つの流れは、マーヴィン・ゲイやスティーヴィー・ワンダーを代表とする70年代前半のソウル系のアーティストによるコンセプトアルバムの制作。

 ギャンブル&ハフも、それなら俺たちもやってみようと動いた。

 ただし彼らは歌手ではないので、当時流行りのシンガーソングライターによる自作自演ではなく、看板アーティストであるオージェイズの歌とMFSBによる演奏により作り上げたものでした。


 アルバムは、ビルボードのブラック・アルバム・チャート1位、ポップ・アルバム・チャート11位を記録し、ゴールドディスクを獲得するほどに売れた一方で、評論家筋も絶賛、コンセプトアルバムといえばロックのものと決まっていたが、このアルバムは必ずしもそうではないことを証明したとも評されました。


 オージェイズ自身も前作BACK STABBERSとそこからのLove Trainが大ヒットしてスターとなったというタイミングでもありましたが、でも、考えてみれば、それだけ売れたところで新たなことを始めたというギャンブル&ハフの勇気もまた、今となっては讃えられるべきものでしょう。

 さらにいえば、コンセプトアルバムはシンガーソングライターではなくても作れるということも証明した。

 それはしかし、作曲家チームの意図や思いを感じて歌として表現できるオージェイズだったからこそ、という部分はあるでしょう。

 僕は正直、30歳になるくらいまではシンガーソングライター至上主義人間だったので、もっと若い頃にこれを聴いてもあまり響かなかったかもしれない。

 でも、今は、作曲者以外の人が歌うことで、より多面的な解釈を聴くことができるのはプラスの部分でもあると積極的に肯定しています。


 などと書くと、これはなんだかものすごく重たくて、聴いていると緊張してしまう、そうやすやすとは聴けない、正座して聴かなければならないアルバム、というイメージを抱くかもしれません。


 ところが、まったくもって正反対。

 いい意味で普通のソウルであり、肩肘張らずにとにかく楽しく聴き通せるアルバムです。

 おそらく、まったく何も予備知識がない人がこれを聴くと、そんな重たい内容のことを歌っているとは想像できないのではないか、というくらい。


 アメリカにとっては暗黒の歴史でもあり、座視できない人もいるのでしょうけど、そこを人間の物語として表現することにより、多くの人が抵抗なく物語を受け入れることができたのでしょう。

 ミュージカルだといえば、そうかもしれない。

 音楽は商業芸術としてあくまでも多くの人が楽しく聴くものという立場にのっとりつつ、いわば負の部分を無理なく表現し伝えることができたという点でも、このアルバムの意義は大きいと考えます。


 1曲目Put Your Hands Together

 今回もう3回目の登場のLove Trainで「手を取り合おう」と歌っていますが、これはそのメッセージをそのまま受け継いだ曲としてシングルでもTop10ヒットを記録。

 ということを今回のブックレットで知ったのですが、この曲は最初にベスト盤で聴いた時に、Love Trainの続きなのだろうと感じていました。

 アップテンポで息つく間もなく歌い継ぐスリリングな曲。

 でも、最初はうなり声から始まっており、そこまでの過程が決して平坦ではなかったことも感じ取れます。

 もちろんサビは口ずさむのに最高にいい。

 最初が明るい曲で始まるのはアルバムとして聴きやすい。

 

 2曲目Ship Ahoy

 タイトルは「おーい、そこの船よ」と呼びかける言葉ということ。

 こちらはミディアムスロウテンポで重たくのしかかってくるような曲であり、荘重なストリングスを中心とした長いイントロが聴く者を不安にさせる。

 歌が始まっても、絡みつくようなコーラス、揺れるようなヴォーカル、やはり重たく暗い。

 それは船出の前途が多難であること、それは船自体の航海以上にそこに乗った人々の前途を表すもの、と感じられます。

 ところで、ナビスコに「チップス・アホイ」"Chips Ahoy!というクッキーか何かがあるけれど、それはこの言葉から取ったんだなって、これを聴いて知りました。

 

 3曲目This Air I Breathe

 この曲は当時大気汚染が問題となり、法律ができたものの思うように改善されていない状況を歌ったもので、直接的にはテーマが違うけれど、アメリカの歴史の一部と捉えれば自然のことに思えます。

 しかし曲は、音が踊るピアノで始まり、なんだか楽しげ。

 歌はその分気持ちが入っているんだけど、それは、きれいな空気を吸いたいという願望を明るく捉えたものかもしれない。


 4曲目You Got Your Hooks In Me

 ゴスペルの影響が強く感じられるゆったりと歌い上げて盛り上がる曲。

 基本なのでしょうけど、タイトルを歌うサビの部分の歌メロが耳について離れない。

 

 5曲目For The Love Of Money

 粘つくアンソニー・ジャクソンのベースに導かれるスロウだけどファンキーな曲。

 音楽自体も当時の彼らとしては変わった響きで、それが好印象を与えたとのこと。

 それにしても、お金の問題はいつの世の中にもつきまとう、だからこのメッセージも色あせない。


 6曲目Now That We Found Love

 これはね、もろに昭和40年代の歌謡曲。

 もしかしてほんとにこの曲に日本語の歌詞をつけて歌った歌があったんじゃないかなっていうくらいに。

 哀愁を帯びたマイナー調の歌メロは日本人好みで、この中では曲としてはいちばん印象的ではないかな。

 この歌メロが心にしみるのは、そして無意識に口ずさんでいるのは、僕もやっぱり日本人なんだなあって(笑)。


 7曲目Don't Call Me Brother

 1970年代に流行った黒人の映画、例えば『黒いジャガー』を見ると、"brother"という言葉の意味がなんとなく分かります。

 兄弟のように中がいいコミュニティの仲間で、何かあると助け合う、たとえそれが悪事であっても、ということなのでしょう。

 しかし、ここで「ブラザーと呼ぶな」と歌っているのは、外面だけ「ブラザー」を装っていても心が通っていない人たちに対してのメッセージ、ということのようです。

 曲は4曲目と同様のゆったりとしたゴスペル調の、語りに重きが置かれている曲。

 

 8曲目People Keep Tellin' Me

 最後は愛の力を信じようと訴えるオージェイズらしい前向きな曲であり、これぞフィリーソウルという甘いストリングスに乗ったポップなソウル。

 やはり行き着くところはそこであり、それはいつでも、だれでも、人間である以上は変わらない。

 

 ボーナストラックは以下の3曲

 9曲目Put Your Hands Together (Live in London December 1973)

 10曲目For The Love Of Monei (Single Version)

 11曲目Now That We Found Love(Single Version)


 

 前振りでは大仰に「黒人の歴史」と書きましたが、実際のところ、船出をしてからはむしろ、黒人のアメリカにおける現状を歌っているというべきでしょう。

 

 しかし、繰り返しになりますが、ポピュラー音楽を通して人々の心や目線そして思考をアフリカに向けさせようという試みには大きな意味があるのでしょう。

 アルバムの時代だった70年代に確かな足跡を残した1枚ではないでしょうか。



 今回は最後に、ライナーノーツの最初に紹介されている話を書き出して終わります。

 1793年に出版されたThe Interesting Narrative of the Life of Olaudah Equiano or Gustavus Vassa、という話の一節で、翻訳は引用者が行っています。

 

 オラウダ・イクイアーノは若くして生き延びる術を学んだ。

 エッサカというベニン(現在のナイジェリア)の片田舎で育った彼は、彼の家族の農園にある木に登り、両親が畑仕事をしている間に子供たちを誘拐に来る者が来やしないかと見張っていた。

 誰かが盗みに入ってくると、彼は木のてっぺんから大声で叫んで警告を発した。

 しかし、或る日の午後のこと、彼と妹は、家に侵入してきた者たちから逃れることができなかった。

 6か月後、誘拐され兄妹分かれ分かれになってから長い月日が経ってから、オラウダは、11歳の子どもが考えうるいかなる運命よりもひどい状況に置かれることとなった。