◎ALADDIN SANE
▼アラジン・セイン
☆David Bowie
★デヴィッド・ボウイ
released in 1973
CD-0396 2013/4/25
デヴィッド・ボウイ6枚目のアルバム。
先ごろ、このアルバムの40周年記念盤が出ました。
といって、内容は、ボーナストラックも何もない、ただの最新リマスター盤ではありますが。
1970年代のロックアルバムの中で、ビートルズとそのメンバーはもちろん除くけれど、いちばん好きなアルバムを挙げろといわれれば、僕は、ニール・ヤングのAFTER THE GOLD RUSHか、デヴィッド・ボウイのTHE RISE AND FALL OF ZIGGY STARDUST AND THE SPIDERS FROM MARSを挙げます。
いちばんが1枚ではないのは、気にしないでください(笑)。
今回はボウイの話。
長いので件のアルバムは以降通称として定着しているZIGGY STARDUSTもしくはZSと表記しますが、これはまさにその次のアルバム。
僕がZSを聴いたのはもう大学生になって漸くCDが出てからだけど、それがとてもよかったので、ボウイの70年代のスタジオアルバムはすぐに買い揃えました。
余談、今はボウイの版権はEMIに移っていますが、CDの時代になった当初はアメリカではWarner系列のRykodiscから出ていました。
その"Ryko"とは日本語の「雷光」からとったという話で、ボウイはつくづく日本と関わりがあるんだなと思ったものです。
ALADDIN SANEはZSの次ということで、僕はかなり期待しました。
聴くと、それなりにいいんだけど、でも、比べてしまうと、なんだか拍子抜けしました。
ZSにあった緻密さがなく、流れがなくただ曲が並んでいるだけで、アルバムとしてどう聴いていいやら路頭に迷うというか、そんな印象を受けました。
ところが、このアルバムは、それはそれで評価が高いことを後になって知りました。
当時は分からなかったのですが、このアルバムは、前作ZSであまりにもショービズ的であり、エンタテインメント性を高め過ぎたことの反省点に立ち、もっとロック的な原初のパワーを取り戻したいという意欲を持って作られたのではないか、と今は強く思います。
反省というよりは、ひとつところに留まるのをよしとしないデヴィッド・ボウイにとっては自然の成り行きといえるのでしょう。
確かに、手触りの粗いロックナンバーで押し通しており、もちろんボウイらしく音使いはきめ細やかで美意識にあふれているけれど、ボウイの中では最も硬派な印象を与えるアルバムではないでしょうか。
評価が高いのは、後のパンク・ムーヴメントにつながる何かをこの時点で提示していたこと、というのが今の僕の読みです。
まあ、音楽の良し悪しは必ずしも評価とは結びつかない、それは分かっているつもりだけど、でも僕は、評価が高いと言われているものは、どうしてそう言われるかを探りたいと思う人間。
だからこのアルバムは、折を見て聴いてきていました。
多分、最初に買ってから、EMIのリマスター盤も買い直したりして、最低1年に1回は聴き続けていると思います。
そのおかげで、今回聴いてみて、この曲の覚えが悪い僕が、意外と曲を覚えていることが分かりました。
それだけ感覚的に訴えるものが強い、そこがボウイらしいところなのでしょうね。
1曲目Watch That Man
いきなりギターがざくっと刺さり込んでくる。
ミドルテンポのちょっとホンキートンクが頭をかすめる力強いロックでアルバムは始まる。
2曲目Aladdin Sane (1923-1938-197?)
どことなくジャズの雰囲気が漂う表題曲。
印象的という言葉では足りないほど強く耳に頭に残るピアノはマイク・ガーソンの仕事。
フリージャズというのかな、コード進行も何も関係なく一見すると適当に弾いているようで、心がかき乱されんばかりの音。
こういうのって、ボウイはどこまで関与しているのか。
こうこうこうしてほしいというよりは、基礎のトラックを作って聴かせながらイメージが浮かんだ通りに弾いてほしい、という感じじゃないかな。
WikipediaのMike Garsonのページでは、彼の最も有名な仕事がこのアルバムとして紹介されているほどのプレイは、まさに唯一無二の響きで、このピアノだけでもこのアルバムの価値や意味は大きい。
ALADDIN SANEとは不思議な語感のタイトルですが、これは、"A lad insane"=「正気ではない奴」の読み替えだという話。
でも、この曲のサビの旋律がどことなく「アラジンと魔法のランプ」風に感じてしまうのが面白い。
曲名のカッコの中の年号は、順に第一次世界大戦、第二次世界大戦が勃発した年を意味しており、最後が「7?」なのは、それがまた近いうちに起こるかもしれないという暗示であり、起こしてはいけないという警告なのでしょう。
3曲目Drive-In Saturday
ボウイ一流のリズム&ブルーズ、ジャジーでブルース的な重たい響き。
4曲目Panic In Detroit
ジャングルビートの強い曲、声がエキセントリックに、というか素っ頓狂に裏返るボウイらしい歌メロ。
これは、Wikipediaによれば友人であるイギー・ポップの話をもとに書いており、1967年の「デトロイト暴動」をテーマにとっているのだとか。
ボウイの裏声の歌メロには、でも、なぜか、どこかしら楽観的なものを感じてしまう。
アルバムの中では印象が強い曲。
5曲目Cracked Actor
このアルバムはやはり基本は重たくて強い響きですね。
ある意味、ボウイ流のブルーズアルバムといえるのかもしれない。
6曲目Time
叫ぶような歌のヘヴィな響きの中に、ボウイらしい美意識が流れる、心をかき乱されるようで、平静が得られるようで、ボウイにしかできない曲。
隠れた名曲、いや、隠れてないのかな、これは素晴らしい。
7曲目The Prettiest Star
タイトルはZSのイメージの続きを想起させ、音楽スタイルは変えてもイメージを否定しているわけではないのは、ZS好きとしてはほっとするところ。
曲は古き良きアメリカのオールディーズといった雰囲気。
映画「アメリカン・グラフィティ」がこの同じ年に出たのは、単なる偶然なのか、そうでしょうけど、でもそれは時代に転がっていた感覚なのかもしれない。
8曲目Let's Spend The Night Together
おなじみローリング・ストーンズの名曲を取り上げているけれど、この次にロックのカヴァー集を出すきっかけにでもなったのかな。
チェーンソーで切るような強烈なギターで始まり、狂い咲きしたかのようなピアノが受けて、オリジナルよりもアップテンポでまっすぐなこの曲が始まる。
ボウイらしく高音で歌い通す中、♪ れっつすぺんどざないととぅげざぁ~、と、"together"を勢いよく縮めて歌うのが面白い。
ところで、デヴィッド・ボウイとミック・ジャガーは「一夜をともにした」という噂がありますが、これはそんな噂話を踏まえた上での選曲かな。
うまいことにまさにストーンズにそのような曲があることだし。
ところがその噂話は本当だった、好奇心で交わった、という話を最近何かで読んだのですが、それ、やっぱり想像すると恐いなあ・・・想像したくないというか。
でも、そういう好奇心もまたロックを発展させたのだと思うと、複雑ですね。
僕はストレイトでいいや。
9曲目The Jean Genie
やっぱりね、ブルーズの影響が色濃く出ていると、ブルーズを聴くようになった今だから感じる。
そこがまた高評価につながっているのかもしれない、とも。
ブルーズハープも入っているし、「でんでんでんででぇ~れ」と強いベースに引っ張られる曲もブルーズっぽいものを感じる。
アルバムに先駆けて前の年にシングルカットされた曲だけど、曲としてはインパクトが大きいストーンズのカヴァーの後にこれを置いたことにより、アルバムがさらに強く響いてきます。
10曲目Lady Grinning Soul
ファルセットで歌う美意識の塊のようなこの曲、直接的にはZSのLady Stardustにつながる世界。
表題曲の裏ヴァージョンというか、やはりここでもマイク・ガーソンのピアノが時には狂おしい音を出しながらも曲に豊かな表情をつけています。
最後はなんとなくフェイドアウトして終わってしまうのが、もったいないというか、もっと聴いていたいと思う。
まあそれも狙いなのでしょうけど。
常に変化し続けるデヴィッド・ボウイ。
この次にカヴァーアルバムを出してから、グラムロックを極め、ソウルに走り、ついには孤高の美意識の世界にたどり着きます。
ボウイにしては硬質なこのアルバムは、ボウイは何をやってもロック魂を忘れないことを予め宣言していた。
今から振り返るとそんなことを強く感じるアルバムです。