◎THAT'S THE WAY OF THE WORLD
▼暗黒への挑戦
☆Earth, Wind & Fire
★アース・ウィンド&ファイア
released in 1975
CD-0395 2013/4/23
アース・ウィンド&ファイアを今日は取り上げます。
今度は70年代の風が吹いている(笑)。
実際、前回のKC&・ザ・サンシャイン・バンドの記事でも言及したように、1970年代を代表するアーティストのひとつであるでしょう。
That's The Wayまで一緒、リリースも同じ年というのは奇妙な偶然の一致か。
しかしアースは現在でも特に日本では(日本だけ?)人気は絶大で、若い世代にも割と知られた名前ではないかと思います。
ただし僕自身は、アースは洋楽を聴くまで名前も知らず、後で音楽を聴いてどこかで耳にしたような覚えがある曲もありませんでした。
今日アースを取り上げたのはもうひとつ。
4月22日は国連が定める「アースデイ」 "Earth Day"。
それを見て、ほとんど反射的にアースのこの表題曲が頭の中に流れてきて止まらなくなり、聴かないと収まらない状態に陥りました。
しかしそれは逆効果、聴くとますます流れて止まらなくなり・・・(笑)・・・
アースデイでアース・ウィンド&ファイアなんて単なる駄洒落じゃないか、と思われるかもしれない。
違います。
That's The Way Of The Worldは、まさに大地を感じさせる音として僕の中に深く刻まれているからです。
僕がアースを初めて聴いたのは、大学時代に買ったベスト盤のCD。
ビートルズのGot To Get You Into My Lifeをカヴァーしていることと、高校時代の友だちで今はさいたまにいるソウルマニアのMがアースが大好きだったことで、いつか聴いたいとずっと思っていたのが、CDの時代になってついに買って聴いたのでした。
当時、富良野・美瑛に写真撮影旅行に行きました。
まだ道の駅なるものもない時代、国道から外れた離農した農家の土地の脇に車を停めて車中泊。
カメラはキヤノンのT-90と旧F-1、FDレンズ、リヴァーサルフィルムで撮影して回りました。
道中、アースのベストを録音したカセットテープを車でかけ、That's The Way Of The Worldが流れてきた時、なんてこの状況にぴったりなんだと感激しました。
ミディアムスロウのゆったりとしたテンポに間の多いサウンド、高音のエレピとたおやかなホーンの響きが、まさに大地といった趣き。
当時は大学生で、夏休みを利用して帰省した際に行ったので、余計に大地との一体感を覚えたものでした。
今でも僕は、自身の体験として、音楽と情景がこの時ほどよく似合っていたことはなかったというくらい。
アースの思想として、アフリカン・アメリカンとしてのルーツを音楽を通してたどってゆこういというものがあると思う。
この曲はその中でもとりわけアフリカ的な響きを強く感じさせるものであり、それをうまくアメリカのポピュラー音楽の中で表現している。
アフリカっぽいのに北海道に似合うというのは、話だけ聞くと信じられないかもしれない。
でも、音楽は作り手の意向を超えて聴き手が解釈するものだから、それはさしたる問題ではない。
この曲からは普遍的な大地の営みを感じます。
もしかして、人類の起源はアフリカにあることと関係があるのかもしれない。
しかし、That's The Way Of The Worldが北海道の大地に似合うと感じたのは、僕だけではなかった。
10年くらい前、もう少しかな、STVラジオで松山千春がパーソナリティを務める番組のテーマ曲として、この曲が使われたのです。
それを聞いた僕は、納得しつつ妙にうれしかった。
ラジオから流れていたのはヴォーカルに入る前の割と長いイントロの部分だけだったと記憶していますが、それは母が聞いていたラジオを耳にしただけなので正確には覚えていません。
松山千春自身がそれを選んだのかどうか分からないけれど、作曲家が自分の曲を使わずにわざわざ他の人の曲を使ったというのは、よほどイメージが合ったのでしょう。
音楽から受けるイメージにはある程度普遍性があるのかな、そうに違いないとも思いました。
爾来、僕の中では大地といえばこの曲がすぐに頭に浮かんできて、時々、「みゃぁ~」とか言いながら口ずさみます。
このアルバムは彼らにとって6作目、初めてアルバムチャートでNo.1に輝きました。
同名映画のサウンドトラックでもあり、本人たちも出ているということだけど、僕はその映画は観たことがないし、映画もヒットしなかったそうです。
アースの快進撃はここから始まったといっていいアルバムですが、音楽的にいえば、まだ商業的な意味で大がかりになる前の素朴さが全編に漂っています。
ディスコでもかかっていたかもしれないけれど、ディスコっぽさはないし。
70年代後半のアースのライヴのすごさはもはや伝説であり、音楽もそれに見合うように発展したわけで、それはそれでいいと思う。
だけどやっぱり、音楽のみに対峙した場合、まだ素朴さはあるけれど楽曲はしっかりしていてかつヒットしたこのアルバムは、アースの中でも一般的な音楽ファンにはいちばん入りやすい1枚だと思います。
1曲目Shining Star
この曲で彼らは初めて、そして唯一のビルボードNo.1に輝きました。
最初に買ったベスト盤にも入っていたのですが、もし僕が何も情報なしにそのベスト盤から唯一のNo.1ヒットを当ててみろと言われると、きっと当たらなかった、多分それはSeptemberじゃないかと思っただろうなあ。
とってもいい曲であるのは間違いないし僕も大好きだけど、この曲が1位になったのは楽曲そのものよりも時代の流れの力が大きいように僕は感じる。
ただ、とてもカッコいい曲ではあるし、そのカッコよさにはロック的なものを強く感じます。
スピード感があって、ヴォーカルが1節ずつ交代で歌い継ぐのはスリリングでもある。
まあ結局のところは素晴らしい曲には違いないのですが。
2曲目That's The Way Of The World
前の賑やかで煽るような曲が終わって間髪入れず静かなアフリカのイントロが始まる流れがいい。
歌詞は、普遍的な愛を通して心の平和、"peace of mind"を得ようというものだけど、「暗黒への挑戦」という邦題は、心の中の暗い部分、弱い部分にしっかりと向き合おうというメッセージかもしれない。
音にはあまりかげりがなくポジティヴに響いてくるので、僕は最初、この邦題に戸惑いました。
いずれにせよ、大地と人間との関わりの意味というものを歌詞からも読み取ることができ、モーリス・ホワイトが「大地、風(空気)、炎」という名前に込めた思いも伝わってきます。
ポピュラー音楽の中でもとりわけ優れた歌詞として記憶されるに違いない。
それを歌うモーリスのヴォーカルが完璧に素晴らしい。
「ローリングストーン」誌が選ぶ500の偉大な楽曲では329位に選出されており、ロックもソウルもファンクも超えて広く支持されている名曲であることも分かります。
大地に関係なくとも、落ち着きたい時に聴きたい曲ですね。
3曲目Happy Feelin'
この曲には、90年代に流行ったアシッドジャズの雰囲気を強く感じる。
もっとも僕は当時はアシッドジャズがなんたるかが分かっていなくて、MTVでよく流れていた音楽を耳にしていただけで、後からそれらをそう呼ぶことが分かったのですが。
要は軽くて踊りやすくて気持ちがいい音楽。
タイトルそのままのフィリップ・ベイリーのヴォーカルが爽やかでいい。
4曲目All About Love
モーリス・ホワイトといえば僕のリアルタイムではなんといっても♪ あぁ~~~い にぃ~どゆぅ~~、必殺バラードI Need Youですが、この曲のようなしんみりとしたバラードは上手いですね。
歌メロとブラスがうまくつながっていて、フィリップをはじめとしたコーラスが気持ちを盛り上げます。
後半は語りだけど、この語りもま聴き入ってしまう。
5曲目Yearnin' Learnin'
言葉遊びは大好き(笑)。
スープリームスのWhere Did Our Love Go?とケニー・ロギンスのFootlooseに"Yearnin' burnin'"という歌詞があるのを思い出した、アメリカではよく言われるのかな。
前半は何か思わせぶりなインストゥロメンタルで、ジャズだったりホンキートンクだったり、歌が始まると割と真っ直ぐなファンクになり、ブラスがスウィングしています。
6曲目Reasons
ベスト盤に入っていたので最初から知っていたバラード。
フィリップ・ベイリーの独壇場といった趣きで、あのファルセットで歌い倒されるのだからたまらない。
彼のヴォーカルのでもベストパフォーマンスといえるのでは。
エレピの響きが印象的な曲でもあり、エレピだからこそ出せる味わい。
コーラスの部分でシンコペーションが入るのが地味だけど効果的でうまいと思う。
これもしかし、リズム感や音の間(ま)からアフリカ的な香りを強く感じるのが不思議といえば不思議。
余談というか、ピーター・バラカンさんが「デートの時に下心いっぱいにかけた曲」と自著に書いていたけれど、若い頃はみんなそういうもんなんだと思いながらも少々驚いた記憶が(笑)。
※追補、バラカンさんの本を読み返すと、それはこの曲ではなくCan't Hide Loveでした、お詫びして訂正いたします。
7曲目Africano
6曲目まではなんとなく感じていたものが、やはりこの曲があることで頭の中が整理されつながった。
大地に招かれるような笛の音から始まり、パーカッションが入ってから先、これは強烈なフュージョンといった趣きのインストゥロメンタル曲。
フュージョンというと軽いというイメージを持ってしまうけれど、この曲はなんだかハードで重たい。
8曲目See The Light
トリッキーなベースに導かれ、ヴォーカルもトランペットもトリッキーな音で迫ってくる前半。
途中でペースダウンして2曲目のリプライズのような感じの曲になる、けれど歌うのは今度はフィリップのファルセット。
モーリス・ホワイトは元々ジャズをやっていた人だから、音楽の幅が広くて柔軟性がありますね。
いってみれば割と高度なことを、しかしさらりとやっている印象を受け、そこが広く受け入れられた部分のひとつかもしれない。
ちょっと変わった響きの曲でアルバムは終わります。
このアルバムはなんとなく覚えているという程度だったのですが、今回聴いて、透明感があって素朴な響きが、思っていた以上に心の中に浸み込んできました。
今までなんとなく聴いていただけ、そうかもしれない、そうだ、と反省。
ところで、今回思った。
アース・ウィンド&ファイアという名前は、彼らの音楽を表すものではないか。
アース"earth"が打楽器、ウィンド"wind"が管楽器="wind instruments"、そしてファイア"fire"が人間の声。
ギターやベースそれにピアノはありふれたものだけど、それプラス、彼らの音楽は「アース」「ウィンド」「ファイア」に心して聴いてほしい、というもの。
まあ違うでしょうけど(笑)、いろいろと考えさせられる深い音楽であることがよく分かりました。
広々とした風景の土地をドライブする時は、ぜひ、That's The Way Of The Worldをかけてみてください。
音楽の不思議な力を感じるに違いありません。