◎SOUL
▼ソウル
☆Seal
★シール
released in 2008
CD-0381 2013/3/26
シールのソウルのカヴァーアルバムです。
ひと月ほど前、車の中でソウルが聴きたくなりました。
よくあることです。
しかし、車に積んであった、僕が編集したソウルの名曲を集めたCD-Rが、何らかの理由で再生できなくなっていました。
でもソウルを聴きたいものは聴きたいんだ、と僕は割と意固地な人間ですが、さてどうしようと思いついたのがこのCDでした。
その時は3回くらい聴き、以降時々かけています。
シールは英国人で、1990年代に出てきた僕の中では新しい人ですが、1994年の映画「バットマン・フォーエヴァー」に提供したKiss From A RoseがNo.1ヒットとなりました。
僕はずっと追っていたわけではなく、いつかさかのぼって聴こうと思っていたのですが、僕がソウルを真面目に聴き始めた2008年にちょうどこのアルバムがリリースされ、まさに飛びつくように買って聴きました。
ソウルのカヴァーアルバムは多いですが、やはりその人の声に合う曲を選ぶこと、かつその人のイメージで作り上げることが重要でしょう。
もちろんその前に、歌唱力は必要ですが。
シールのこのアルバムは、その点では申し分ない仕上がり。
都会的な洗練された雰囲気は、プロデュースのデヴィッド・フォスターによるところが大きいでしょう。
ただ、ソウル=熱い、というイメージがあるかと思いますが、このソウルはさらっとした手触りで、熱唱はするけどどこか冷めた部分を感じる、そこが余計に都会的でシャープな響きと感じさせるところ。
ガラスのような透明感と切れ味がある音になっています。
取り上げている曲は、1960年代前半から70年代までの主にサザンソウル系を主とした曲、一方で北の方、フィリーはあるけれどモータウンはありません。
シールは1963年生まれ、僕と4つ違い、小学校は2年かぶるという世代ですが、サザンソウルへの思いが強いのは、身の周りにソウルがあふれているアメリカというよりは、アメリカのルーツ的な音楽への憧れが強い英国人らしいところかもしれない。
だから、このCDを、サザンソウルの入り口として捉えてもいい。
1曲目A Change Is Gonna Come
おなじみサム・クック1964年の「絶世の曲」、カヴァー多数。
僕は、1曲目がこれと分かり、この曲をアタマに持ってきてどうすんの・・・という固定概念を持って聴き始めたのですが、シールのさらりとした感覚でメッセージの重たさがかなり減じられ、曲の良さが際立ち、そうなるとつかみとしてはいいなあと。
オリジナルにはない部分を最後につけて劇的要素を強めていますが、これがなかなかいいアレンジです。
2曲目I Can't Stand The Rain
アン・ピーブルズ1973年の曲。
この曲はこれを買った時は知らなくて、すぐにオリジナルを買いました。
女性の曲を歌っているわけですが不自然さなどは何もない。
オリジナルに比べると気持ちの入り方がやっぱりさらっとしているかな、雨の割にあまり湿度を感じない音作りになっています。
いずれにせよ、雨の曲は抒情的でいい。
3曲目It's A Man's Man's Man's World
ジェイムス・ブラウン1966年の曲。
「えっ、この曲って、こんなにも透明感がある曲だったか!?」
青空に沁み渡るくらいの透明感がある仕上がりですが、JBの「押しが強すぎる」キャラクターとアクの強い声という先入観があったがために、僕は、この曲の良さに気づいていなかったようです。
大仰ともいえるアレンジがやりすぎとは感じない、ダイナミックな仕上がり。
この曲がこのアルバムでの最大の収穫でした。
4曲目Here I Am (Come And Take Me)
アル・グリーン1973の曲。
アル・グリーンは2008年にソウルを傾聴し始めた直接のきっかけの人であり、最初に買ったベスト盤にも入っている曲をここで取り上げているのはうれしい。
でも、ソウルのカヴァーとなれば選ぶのはよくあることでしょうね。
最初にシールのこれを聴いて、2曲目と似た雰囲気を感じたのですが、それもそのはずというか、2人は同じサザンソウルのHiレコードの歌手だったということ。
しかしここでは都会的な雰囲気に無理なく染めています。
5曲目I've Been Loving You Too Long
オーティス・レディング1965年の曲。
いかにもサザンソウルというスロウテンポのソウルバラード。
オリジナルは大学時代にCDを聴いていたのですが、オーティスってこういうスタイルなんだな、と覚えた曲でした。
シールのこれは、これに限らずですが気持ちの弱さを感じない、しゃきっとしているところがいい。
でも、それは曲によってはソウルらしくない、ともとれるのかもしれない、特にオーティスを歌うとなると。
6曲目It's Alright
インプレッションズ1963年の曲。
作曲はカーティス・メイフィールド、インプレッションズは常々聴いてみたいと思っていたのが、シールのこれを買ったことですぐにベスト盤を買いました。
明るく開放的な、教会のゴスペルで手拍子を打ちながらみんなで盛り上がるような曲ですが、シールのこれは少し深刻な響きがします。
シールは穏やかな人なのかな、それも個性ですが。
7曲目If You Don't Know Me By Now
ハロルド・メルヴィン&ザ・ブルーノーツ1972年の曲。
フィラフェルフィア・ソウルの代表的な1曲ですが、僕の世代では、シンプリー・レッドがカヴァーしてNo..1になったことでよく知られているでしょう。
さすがに10代で聴いたそのバージョンが強烈なだけに、シールの声や歌いに方は、ミック・ハックネルのような艶がなく、この曲はとりわけさらっとした感じに聞こえてきます。
だから聴きやすいのですが。
8曲目Knock On Wood
エディ・フロイド1966年の曲。
オリジナルよりテンポが速く、少し前につんのめりそうな感じで進んでゆく。
ブラスはもちろん本物のブラスでやっていますよ、エリック・クラプトン(フィル・コリンズ)とは違い・・・(笑)・・・
僕はエリックのそれでこの曲を知ったのですけどね。
9曲目I'm Still In Love With You
アル・グリーン1972年の曲。
言われてみれば曲がいかにもアル・グリーンだけど、曲に現れる個性って何なのだろうと思う。
歌の途中ですっと声が高くなるところが特にそう感じます。
それにしてもアル・グリーンは、ミュージシャンに支持されている人なんだなあ、と。
10曲目Free
デニース・ウィリアムス1976年の曲、この中ではいちばん新しいい曲。
デニース・ウィリアムスは、映画「フットルース」のサントラで歌っていたとってもかわいらしい曲、Let's Hear It For The BoyがNo.1になり、僕もそこで知りましたが、その時既に結構なキャリアがある人だという触れ込みで言われていました。
しかしこの曲はこれを買うまで知らなくて、すぐにこのオリジナルが入ったCDを買いましたが、70年代ソウル=ブラコンの手前という雰囲気がひしひしと伝わってくる、かなりいいアルバムでした。
デニースのオリジナルはかなりハイトーンで聴かせていまが、シールは敢えて逆に低音で攻めています。
キィの問題かもしれないけれど、それがカヴァー曲を自分らしく歌うことでもあるのでしょう。
11曲目Stand By Me
おなじみベン・E・キング1961年の曲、逆にこの中ではいちばん古い曲。
シールのこの曲は、いい意味で普通っぽく、有名なこの曲の場合はその「普通っぽさ」ゆえに、誰の心にもまっすぐに入ってくる親しみやすさがあります。
やっぱり、かかっていると自然と口ずさんでしまいますね。
12曲目People Get Ready
インプレッションズ1965年の曲でアルバムは幕を下ろす。
僕は、ジェフ・ベックwithロッド・スチュワートで知り、それは80年代でもTop5というくらいに大好きで、ずっとオリジナルを聴いてみたいと思っていたので、つくづく、シールのこれを聴いて買うきっかけになったのはよかった。
この曲はアメリカの心なのでしょうね(上記2人とシールは英国人ですが)。
昨年のブルース・スプリングスティーンのWRECKING BALLの中の、Land Of Hope And Dreamsでもこの曲の一節がまるまる引用されていて感動的でした。
その曲は亡くなったクラレンス・クレモンズの最後の録音が聴けるだけ余計に。
そんな曲を最後に置き、やはりあっさりと歌うアレンジですが、それでも余韻たっぷり。
聴きやすさも手伝って、またすぐに聴きたくなるアルバムです。
でも、だから、聴く度に、もうあと2、3曲聴きたかったなぁ、といつも思います・・・
「ソウル」「シール」と、韻を踏んだような語呂がいいタイトル。
一昨年、続編が出ていますが、それはまたの機会に。
ところで、"Seal"には「アザラシ」の意味もありますが、彼はアザラシに似ているのでこんな名前になったのかな、と(笑)。
アザラシの割には強面で、そのミスマッチ感覚がまたいいですね。
まったくどうでもいいことですが、このCDのケースには"SEAL""SOUL"と書かれたシールを貼ってあります(笑)。
このCDは車にはとてもいいですよ。
【2013年3月27日 追記】
今読んでいる丸谷才一さんの「人間的なアルファベット」(講談社文庫)に、面白い記述を見つけました。
ハヴロック・エリスの「性の心理」という本によれば、彼が動物園にいる動物に音楽を聞かせて反応を見る実験を行ったところ、「アザラシを除くすべての動物は音楽に対して注意を寄せ、不協和音を不快に感ずる」という結果を得たそうです。
アザラシを除く、ですか・・・
エリスは19世紀後半から20世紀前半に活躍し、宮沢賢治にも影響を与えた英国の人、とこれはWikipediaからですが、シールはもしかしてこのことを知っていて、敢えてこの名前をつけたのかな・・・!?!?・・・
その本が「性の心理」というのが、何やらロック的魂を感じてしまいます。
しかも、その本は当時、英国では発禁になったということで。
ちなみにうちの犬たちは、僕が家にいる時はいつも音楽を聴いているせいか、あまり顕著な反応を示さなくなりました(笑)。