MAIDEN ENGLAND '88 アイアン・メイデンの新譜ライヴ盤 | 自然と音楽の森

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◎MAIDEN ENGLAND '88

▼メイデン・イングランド'88

☆Iron Maiden

★アイアン・メイデン

released in 2013

CD-0382 2013/3/27


 アイアン・メイデンの新譜、本日発売!


 今回は、日本のブロガーでいちばん早いかもしれないメイデンの新譜の記事です!

 英国のメイデンのファンクラブ会員である弟からも特命を受けました(笑)。


 もちろん、実際は昨日店頭に並んでいたわけですが、それにしても早いのは、ライヴ盤で曲は全部知っているからです。

 新曲による新作であれば、なんぼなんでもこんな早くは上げられない。


 今回は、1988年、SEVENTH SON OF A SEVENTH SONを受けた、"Maiden England '88"と名付けられたツアーからのライヴ盤。 

 1988年11月27日と28日、英国バーミンガムの公演にて収録されました。

 

 当時のメンバー

 ブルース・ディッキンソン Bruce Dickinson (Vo)

 スティーヴ・ハリス Steve Harris (Bs)

 デイヴ・マーレイ Dave Murray (Gt)

 エイドリアン・スミス Adrian Smith (Gt)

 ニコ・マクブレイン Nicko McBrain (Ds)


 ただ、新譜といっても実際は、ビデオソフトとして発売されたものにおまけでCDが付いていたもので、数曲を除いては初出音源ではない、と、弟からの入れ込み情報。

 オリジナルのミックスとプロデュースはマーティン・バーチが担当し、今回加わった最後の3曲をケヴィン・シャーリーが手掛けている、と記されています。

 マーティン・バーチは数年前に引退していますからね、最初これを見てあれっと思ったのですが、弟の話で納得しました。



 曲目一覧と今回はひとことコメント。

 なお、曲名の後の()の数字は、そのオリジナルが彼らの何枚目のアルバムに入っているかを示しています。


 Disc1

  1.Moonchild (7) レコードではキーボードによるイントロをエイドリアンがギターで演奏。

  2.The Evil That Men Do (7) 中期の最高傑作をもう2曲目でやるのか! 

  3.The Prisoner (3) エイドリアンの野太いコーラスが妙に印象的、レコードにはないから。 

  4.Still Life (4) 正直言うとこの中ではあまり盛り上がっていない感が。

  5.Die With Your Boots On (4) 「ヒガラちゃん」、コンサートではやっぱりノリがいい曲だな。

  6.Infinite Dreams (7) この曲は初めて聴いた頃は難解でついてゆけなかった思い出が(笑)。

  7.Killers (2) パンクもプログレも感じる凝った曲だなあと再認識。

  8.Can I Play With Madness (7) レコードだと少し冷えた感じの音だけどライヴでは普通に熱い。

  9.Heaven Can Wait (6) ポップで明るいロックンロール系が多いのは時代のせいか。

 10.Wasted Years (5) 歌メロが糸を紡ぐように流れてゆく感覚は既に当時から独特だったんだな。


 Disc2

  1.The Clairvoyant (7) 「僕なの? それとも踊っている影?」という歌詞が当時はミスマッチ感覚があったことを思い出した(笑)。

  2.Seventh Son Of A Seventh Son (7) 演奏に圧倒されるある意味恐い曲。

  3.The Number Of The Beast (3) ああ、やっぱりすごい、どこにこの曲があっても!

  4.Hallowed Be Thy Name (3) 今に慣れているとこれが最後ではないのは違和感が、しかもあと4曲もあるし。

  5.Iron Maiden (1) この曲をやらないことはあり得ない(笑)。

  6.Run To The Hills (3) ここからはアンコールということでしょう。

  7.Running Free (1) 突っ走ってますね、テンポが速い以上のものを感じます。

  8.Sanctuary (1) この曲はやっぱり「間」がいいですね、いつ聴いても。

 

  ところで、最後のSanctuary、3'28"から10秒くらいの部分の演奏が、クイーンのKeep Yourself Aliveによく似ている、そっくりなのは偶然かな・・・

 それともその曲が頭にあり、遊んでいて浮かんできた、とか・・・今回最大の謎です(笑)。



 当時の最新作である7thから演奏されていないのは2曲だけ。

 僕は、ちょうどこの頃、CDの時代になった7thから聴き始めた人間だから、このライヴ盤は僕にとっても原点回帰のような意味があってうれしい。

 当時はレコード(いつも言いますがこの場合「録音されたもの」という意味で実際のメディアとしてはCD)で聴いた限りでは、高度なアレンジをスタジオで施しているように感じたのですが、実際は、あくまでもライヴで演奏できることが大前提であることがよく分かります。


 Aces Highがありませんが、これは彼らも思うところがあって近年もコンサートの定番ではないから、ここでもないのは分かります。

 でも、2 Minutes To Midnightもないですね、つまり5枚目からは1曲も選ばれていないのは、残念と言えば残念。

 でも、当時はまだ今よりはロックは一時の流行りものの要素が強かった、大人のロックなんて概念も言葉もなかったし、これは仕方のないことでしょう。

 

 しかしなんといっても、The Trooperをやっていないのは意外中の大意外。

 コンサートでもいちばん盛り上がる曲のひとつだけど、そうなったのはこの後からなのかな。

 The Trooperがないのは残念きわまりない。

 なぜなら、メイデンのライヴ盤では今まで皆勤賞だったから(THE REAL LIVE ONEとTHE REAL DEAD ONEをひとつとみなした場合)、ほんと残念。

 ちなみにこれで、ライヴ皆勤賞はあと3曲、Iron Maiden、The Number Of The Beast、Hallowed Be Thy Nameとなりました。


 他、Wrathchildもコンサートの定番だけど入っていないのは残念。


 でも、7枚のスタジオアルバムを出して、あの曲がないというのが複数あるのは、メイデンの楽曲の質の良さをあらためて見直したところですね。

 バンドの思想的なものの違いも選曲から垣間見えるのは興味深いところです。


 ブルースの名セリフ"Scream for me Birmingham!"は、Hallowed Be Thy NameとIron Maidenで炸裂しています。

 これはもうこの頃にはあったんだな。

 札幌ではもちろん"Sapporo!"と言ってくれました。

 でも、千葉の幕張では、"Chiba!"とは言わなかったそうで・・・



 さて、今この時期になぜ過去のライヴ音源をリリースするのか、疑問に感じる部分がないわけではない。

 

 直接的には、メイデンは数年前から、自らの歴史の中で期間を区切ってほぼその間の曲だけを演奏するツアーを行っており、今年のツアーがちょうどこの頃を中心としたものであり、いわばその予習としてリリースされたもの、ということ。

 つまりはツアーのプロモーションというわけですが、それ以外の意味もありそう。


 キャリアが長いアーティストは、過去の名声にすがりながら生きながらえてゆく、と揶揄される部分が、アーティストにより大なり小なりあるものでしょう。

 特に、昔から聴いているうるさがたの人には(笑)。

 そんな人には、やっぱりこれは、過去の名声にすがっていると捉えられるかもしれない。


 しかし、メイデンに限っては、決してキャリアが長いだけのバンドではない。

 今でも進化し続けている。

 昔より今の方がすごい。

 昔のこのライヴを聴くと、逆にそれがよく分かる。

 というのが、僕が読み取ったこのライヴの裏の意味。


 分かりやすい例を2つ挙げます。


 このライヴ当時はギターは2人でしたが、2000年からはギター3人態勢となり、より幅広く厚い音で聴かせるようになった。

 その結果、ギターバンドとしては史上最強ともいえるはったりのない音をライヴでも聴かせている。

 また逆に、ライヴで演奏できるからスタジオ録音でもより深くて厚いギターサウンドを追求できる、という好循環が生まれている。

 それくらいすごいのが今のメイデン。

 

 もうひとつ、ブルース・ディッキンソンの声。

 このライヴを聴くと、当時はフェイクヴォーカルが多い。

 Hallowed Be Thy Nameは、喋りに近いヴォーカルがあまり気持ちよく聞こえないし、発声も少しつらそう。

 人によりますが、僕はフェイクヴォーカルはあまり好きではなく、興ざめしてしまう部分がないわけではない。

 今ではフェイクヴォーカルはあまりしない、するのであれば笑い声を入れたり客に呼びかけるのに間をとるため、というくらい。

 ブルースも、一時脱退し復帰して、ライヴでも歌い方を見つめ直したのでしょう。

 また、その間に新たなファンがどんどん増えてきたことも、レコードに忠実に行くことの大切さを感じたのかもしれないし。


 さらにすごいのは、ブルース・ディッキンソン、若い頃より今の方が声がよく出ている!

 具体的にはRun To The Hills、1983年のオリジナル録音の時には出ていたサビの"(Run) for your lives"の部分のいちばん高い声が、5年後のこのライヴでは出ていません。

 しかし、復帰後のライヴを聴くとそれがちゃんと出ています。

 昔はろくにトレーニングもしていなかったけれど、復帰後は体力もつけてトレーニングもすることでまた出るようになったのだとか。

 声の衰え、特に高音ついては昔の見る影もないという人もいる、多いという中で、ブルース・ディッキンソンのこの声は奇跡ともいえます。

 

 もちろんバンドが勢いに乗っている頃だから、このライヴだっていろいろな部分ですごいことはすごいのですが、でも、メイデンに限っては、実際に今のライヴで聴くとこれどころじゃない。 

 そんな自信があるからこそ、過去の音源を堂々と出せるのでしょう。

 特にブルース・ディッキンソンは、ヴォーカリストとしてこれを出すのはある意味勇気が要るよなあ、とも。

 でも、現実は現実として認めるのは前進するために必要なことであるし、何より、今の自分によっぽど自信があるのでしょうね。



 7枚目でまだ若かった当時は、普通なら「全盛期」という言葉を使いそうなものですが、僕はここでは「全盛期」とはいっていません。

 言いたくないのです。

 メイデンはまだまだ先に進んでいるのだから。


 人間、年を取ると枯れると言いますが、こんな年の取り方をしているミュージシャンを僕は他には知りません。

 若さを失わないで年を取ることが可能なんだ、そう思うと既に40代の僕にも勇気が湧いてきます。


 長年のメイデンのファンがお宝として買うことも想定にあるに違いないですが、それと同じくらいに新しいファンに向けてのメッセージも強く感じる、そんなライヴ盤です。


 今世紀に入ってから、スタジオアルバムを出すごとに最新のライヴ盤も出していて、人によってはライヴ出し過ぎと悪口も言いそうですが(笑)、今回は、過去の発掘音源を出すことで変化をつけるという意味もあるのでしょう。

 

 もちろん、メイデンがやることだから僕は何も文句はいいません。

 ただ、正直、これが出ると発表された時、あれっ今回は新しいライヴじゃないんだ、と、多少がっかりしたことは否めなかった。

 僕は、今のメイデンが大好き、今のメイデンのほうがすごい、こんなすごいバンドがまだ現役であり一緒の時代を過ごしていることの幸福感がある、そんな人間ですから。


 もうひとつ、僕はヤニック・ガースが大好き、演奏というよりも(演奏もちろんいいけど)キャラクターとしては最も好きなギタリストのひとりというくらいですが、ヤニックがここにはまだいないのも、ちょっと寂しいですね。

 まあ、タイムマシンでもない限りは仕方のないことだけど(笑)。

 もちろんヤニックだって文句はないでしょう、そんな人じゃない、いい人だから。

 

 繰り返し、これはこれでとっても気に入りました、それは間違いない、誤解なきようお願いします。

 いつも言うように、音楽は人によりそれぞれ感じ方がありますから。



 それにしても"Maiden England"とはうまくつけたもの。

 言うまでもなく、"Made in England"にかけたわけですが、原語の発音は実際同じのはず、自ら英国の誇りであることを謳っています。

 当時は、若干の誇張及び見栄だったかもしれないですが、今では名実ともに英国の誇りとも呼べる存在になっています。


 前回の来日公演は、ちょうど「3.11」、まさにその日にディッキンソン自らが操縦する飛行機が日本に着いたというタイミング、コンサートは残念ながら中止となってしまいました。

 今夏に始まるツアーでは来日してくれるようなので、僕も行きたい。


 彼らのライヴアルバムは、ボックスセットも含めるとなんとこれで9枚目、LIVE ONE DEAD ONEを1枚とみなした場合。

 ロックでそんなにライヴを出しているアーティストもいないのではないか、いないでしょう、いないに違いない。

 彼らのライヴバンドとしての誇りを、何よりもこの数字から感じます。

 

 DVD及びブルーレイの映像版も同時発売で、週末にでもゆっくり観たいですね。


 アイアン・メイデンは現役最強、かつ最高に好きなバンドであることを確認できました!