HEAVEN AND HELL ブラック・サバス | 自然と音楽の森

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洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。


自然と音楽の森-March23BlackSabbathHH

◎HEAVEN AND HELL

▼ヘヴン・アンド・ヘル

☆Black Sabbath

★ブラック・サバス

released in 1980

CD-0380 2013/3/23

 ブラック・サバスの9枚目は、ロニー・ジェイムス・ディオを迎えての初めてのアルバム。

 

 少し前、ヴァン・ヘイレンの記事で、ヴォーカルが代わったバンドの例を幾つか上げましたが、その時から近いうちに聴くつもりでいたもの。

 

 ブラック・サバスのヴォーカリストは、初代のオジー・オズボーンから1980年に、レインボーを脱退したディオに変わりました。
 オジー時代は、あのキャラクターを活かした破天荒で無秩序ともいえる音楽を展開していました。

 ディオに代わり、整った音楽を聴かせるようになり、「様式美ヘヴィメタル」を完成させたと言われています。

 僕が聞いた話では、当時は、サバスは元々が様式美っぽい音を出したかったけれど、オジーのヴォーカルがそのスタイルではないので、「権化」であるディオが入り、理想の音楽スタイルを漸く築けた、ということ。

 さる有名なヘヴィメタル専門誌の編集長さんも、サバスにはオジーよりはディオのほうがいいと言っていました。


 「様式美ヘヴィメタル」とは、ほの暗いイメージで、クラシック音楽の要素が反映され、予定調和的な流麗さを感じさせる音であり、聴いているとヨーロッパ的なものを強く感じます。
 実際、様式美のバンドはほとんどがヨーロッパのもので、ディオはアメリカ人だけどイタリア系だし。

 ちなみに、"Dio"とはイタリア語で「神」の意味で、本名ではありません。

 

 サバスは、ヴォーカルがオジーからディオに変わったことで、音楽世界が無秩序から秩序へと大転換したわけですね。
 音としてはきれいになったのですが、しかし一方で、ロック的パワーや面白さが減じたのは仕方のないところでしょう。


 僕は、レインボーやディオは30歳になってから聴いたのですが、僕が初めて、自分の意志とお金で聴いたディオが、ブラック・サバスのこのアルバムでした。


 1995年に、当時は仕事の帰りに日課のように秋葉原に行っていて、いまはもうないヤマギワで輸入盤を買いました。
 その頃は人生の中で最もヘヴィメタルを聴いていた頃で、特にブラック・サバスのオジー時代を好んで聴いていたのですが、弟に、ディオのも良いから聴いてみろとすすめられたのでした。
 

 正直、当時は、ディオを毛嫌いしていた部分がありました。
 ディオは、ヘヴィメタルマニアの悪友のせいで高校生の頃から知っていて、マドンナも歌っていた映画「ビジョン・クエスト」のサントラで歌っていたHungry For Heavenは密かに結構好きでしたが、そんなこと口に出して言えるはずもなく(笑)。


 ディオというか、様式美というものが苦手だった。
 ヘヴィメタルが好きとはいっても、よく聴いていたのは、オジー、メイデンやモトリーなどで、様式美的というのとはまた違う。

 でも僕は、弟に騙されようと思い(笑)、買って聴いてみました。

 聴いてみるとこれが、予想とは違ってものすごく気に入った・・・ということは、なかった。

 良くも悪くも、ラジオや弟のCDなどで耳にしたことはあった様式美メタルのイメージほぼそのままの音でした。

 でもそれは当たり前ですね、このアルバムは「様式美メタル」の完成形とも言われているそうだから。


 ディオのヴォーカルは、上手いと唸らされました。
 声の出し方が普通のロッカーとはまったく違い、腹式呼吸の訓練をしっかりと積んできた人という感じで、特に高音で伸ばす声の出し方には圧倒されました。
 シャウトはするけどメタル系にありがちな金切り声ではなく、音が崩れずにきれいに高くなるのは、声質は違えどポール・ロジャースを最初に聴いた時と同じようなある種の驚嘆を感じました。
 一方で、エモーショナルなものはあまり感じず、熱くもなく、音楽の流れの中で聴かせるという感じにも受け取りました。

 声や表現で感情に訴えて揺さぶって涙を誘う、というよりは、不安や寂しさを感じさせてそこから気持ちを動かしてゆこう、そんな声と歌い方に聞こえました。


 しかし、やはりというか、オジーとは違って予想外の要素がないというか、ロック的スリリングさがあまりないかなあとも感じました。

 なんて書いて、僕はそれを「つまらない音楽」と言いたいのかな、と思われるかもしれません。

 違います、少なくとも今は。
 このアルバムは、一方で音楽的な質が高いことはすぐに感じ、買ってから暫くはなんとなく聴くようになっていました。
 オジー時代のほうが好きは好きだけど、でもこれはこれだし、そうやって比べるものでもないと思えるようにもなったから。  



 1曲目Neon Knights
 「ネオンの騎士」、タイトルからしてそれまでの僕が聴いてきたロックの世界にはないものでした。
 曲はかなりストレイトなロックンロールで、最初に聴いて、僕の固定概念が少しいいほうに崩れました。
 意外といってはなんだけど、爽快感がある曲、クールなグルーヴ感が魅力。

 「ニオン」と発音するのがなんだか妙にかっこいい、というのはいかにも日本人的な感想ですが(笑)。

 歌い出しでいきなり♪お~の~と歌うけれど、僕はこれ、ファイターズの大野選手のテーマ曲に使ってほしいなあ、と・・・


 2曲目Children Of The Sea
 ゆったりとしたこの曲は、メタルマニアの弟曰く、「様式美メタルといえばこの曲」。
 波のように寄せては返す曲の中で唸りを上げ時々印象的な旋律を奏でるベースがいい。


 3曲目Lady Evil
 これは正当派ブリティッシュ・ハードロックに様式美の包装紙を被せた感じで、ホワイトスネイクにも通じるものがある。

 というか、Fool For Your Lovingに曲調が似ているなあ、と、曲自体は似ていないけれど。

 なんだ、ホワイトスネイクか、僕が好きな音じゃないか、って。

 ちなみに、調べてみると、こちらがホワイトスネイクよりリリースがひと月早いけれど、ほぼ同じ頃だから単なる偶然でしょう。

 もたった感じがなくむしろキレがいいのも、当時の僕には意外でしたが、音がカッコよくてきれいなのがサバスの特徴ですからね、いかに僕が固定概念に囚われていたか。

 歌詞の"Lady evil, she's a magical mistic woman"というくだりを聞いて、ビートルズバカの僕はすぐにMagical Mystery Tourを思い出し、にやりとしましたね。

 "mystery"と"mistic"は違うけど、音の響きは同じだから、ディオの頭にはそのことがあったのかな、それとも英国では常套句のようなものなのか。

 デフ・レパードのHysteriaのサビでも"She's a magical, mysterious"と歌っていますが、それは間違いなく意識しているでしょう。

 ともあれ、それがなくても、耳にこびりつくようなサビが印象的。


 4曲目Heaven And Hell
 表題曲はスロウな粘つく重たい曲。
 トニー・アイオミはギターリフの天才で、オジー時代から印象的なリフの曲を多産してきたけれど、ディオを迎えたことにより、リフがより引き締まって響いてくるように感じます。

 そして僕がすごいと思ったのは、クールなグルーヴ感を醸し出すギーザー・バトラーのベース。

 一応はベースも弾くギター弾きの端くれの端の人間として言わせていただければ、この曲のベース、ルート音を「タンタタタンタタ」と弾くだけですが、単調に聴こえるようでこれがとっても難しいのですよ。

 ギターリフとのユニゾンも、おかずをつけるのももちろんだけど、こんなにテンポが遅いのに粘ついている、この音、この感覚はなかなか出せない。

 演奏のテクニックは速いだけではないこと、そしてこのバンドの音は実はギーザーのベースが支えていることがよく分かる曲です。

 後半はテンポアップして展開してゆくのもメタルの醍醐味。

 最後はベースの独奏で寂しく終わってゆく。

 これは、口ずさむよりはじっくりと聴きたい曲。


 5曲目Wishing Well
 ちょっとだけはち切れた明るいロックンロール。

 LPでいうA面B面のあたまに勢いがいい曲を置くのはやっぱり基本なんだなあ。
 さすがにこれだけ軽い曲を歌うとディオの声は少し重たすぎるかな、まあそれも個性だからいいんだけど。


 6曲目Die Young
 もっとテンポが速くなって、少しスリリングになってきた。

 ヘヴィメタルにはよくある戦争をモチーフにした内容。

 一直線に攻めてくる中でサビに入ると、それまでの流れからは想像できないくらいに歌メロが大きく変わり、意表を突いた展開。
 語りの後のインストパートの展開もまたいい。


 7曲目Walk Away
 素軽いハードロック的ポップソングで、ヘヴィメタルとはいっても、こういう曲はままあります。
 ベースが縦横無尽に動き回る、なかなかいい曲ですが、このアルバムは、正直、A面4曲が凄いだけに、B面がちょっと弱いかな、とは、昔も今も感じています。
 といって不満というほどではない、あくまでもちょっと弱いくらいだけど。


 8曲目Lonely Is The Word

 最後は様式美を凝縮した曲でしっかりとしめます。
 といって、ディオになってもやっぱり基本の音はあくまでもブリティッシュ・ハードロックであって、それはクリームを経てブルーズにつながる音であるわけで、それに気づいていれば、もっと早くから好きになっていたはず。
 そして後半は様式美にひたるだけひたれるインストゥロメンタルのパートが繰り広げられる。
 トニー・アイオミのギターも泣きも入って聴かせてくれます。
 サバスのインストパートでも屈指の出来でしょうね。



 このジャケットは、天使がタバコを吸っているのが問題になったのだとか。

 ロックにはタバコを吸っているジャケットは結構あるけれど、今はもうだめなのかな。

 欧米ではCMは禁止になっているみたいだから、ジャケットも。

 まあこれは、嫌煙というよりは天使のほうが問題になったのでしょうけど。


 今では時々むしょうに聴きたくなるアルバムとなっていて、最初に買ったテイチクの国内盤を車用CDにして聴いています。

 

 ロニー・ジェイムス・ディオは、昨年、亡くなりました。

 癌であることを公表していたそうですが、僕はそのことは知らなくて、急に亡くなったように感じ、驚き、残念でした。

 このところ、ほんと、10代の頃から知っているアーティストが亡くなりますね。

 やっぱり寂しい、それはそうだけど、自分もそういう年齢になったんだなって思います。

 でも、残された音楽は、これからも聴かれ続けることを願いたい。