THE NEXT DAY デヴィッド・ボウイ | 自然と音楽の森

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◎THE NEXT DAY

▼ザ・ネクスト・デイ

☆David Bowie

★デヴィッド・ボウイ

released in 2013

CD-0378 2013/3/20

 

 デヴィッド・ボウイの新譜を取り上げます。

 少し前に出ていたような気がしていたけれど、もう10年振り、ほんと、早いなあ。


 デヴィッド・ボウイに関する最新のニュース、オリコンのネット記事を引用します。


■「66歳」英デヴィッド・ボウイが歴代最年長Top10入り■

 英ロック歌手、デヴィッド・ボウイ(66)の通算30作目のアルバム『ザ・ネクスト・デイ』(13日発売)が発売初週1.8万枚を売り上げ、3/25付週間ランキングで初登場5位を獲得した。

 ボウイにとってTOP10入りは、1993年4/19付の『ブラック・タイ・ホワイト・ノイズ』が4位となって以来19年11ヶ月ぶりの快挙となった。
 また、66歳3ヶ月でのアルバムTOP10入りは、2010年4/5付に英ギタリスト、ジェフ・ベックが『エモーション・アンド・コモーション』(2010年3月発売)で樹立した邦・洋通じての最年長記録の65歳9ヶ月を6ヶ月更新する新記録となった。

 日本人最年長は小田和正の63歳8ヶ月。


 昨日のスポニチにも載っていましたが、最年長云々はともかく、洋楽聴きとしては、洋楽の話題が一般のニュースとして取り上げられるのはうれしい限りですね。

 そもそも、日本でも売れていることがうれしいじゃないですか。

 ただ、意外だった、そうかボウイが最年長なのか。

 例えば、ポール・マッカートニーが69歳8か月でリリースした昨年のKISSES ON THE BOTTOMはTop10には入らなかったんだなあ、それはちょっと寂しい、とやや話はそれましたが。

 ついでにいえば、2位がジェフ・ベックというのも意外といえば意外な感じがしますね、なぜそれが日本で売れたのか。

 さらに別のソースのニュースでは、新作THE NEXT DAYは英国でもNo.1を獲得、それはやはりBLACK TIE WHITE NOISE以来とのことで、確かに当時はボウイらしさが戻ったと話題になったけど、そんなに売れたんだなあ、意外にというか。

 日本でもそれは売れた、だからブックオフに多いんだな(笑)。


 これに先立ち、新譜が日本でリリースされた先週3月13日の朝日新聞東京版の夕刊で、デヴィッド・ボウイの全面広告が出たという話をFacebookで見ました。

 「出火吐暴威」という漢字の当て字を題材に使い、ジャケットと同じく真ん中を白くくり抜いてThe Next Dayとアルバムタイトルを記したもので、僕は北海道だから当然見ていないけれど、見たかったなあ。

 東京版だから目に留まった人はそれくらいいるのかな、100万人くらいはいるのかな。

 そのうちの0.5%の人がそれを見て買ったとして5,000枚、チャートを押し上げた要因のひとつと考えることはできるのかもしれない。


 もうひとつ、3月末まで、東京銀座のソニービルに「デヴィッド・ボウイ・カフェ」がオープンしている、との情報もありまいsた。

 

 と、枝葉の話から入りましたが、肝心のデヴィッド・ボウイの新譜。

 これがとてもいい!


 最初に聴いて、これはロック以外の何物でもないと感じました。


 何を言うか、身もふたもない、と言われそうですが・・・


 ブルーズロック、ハードロック、ソフトロック、カントリーロック、フォークロック、アメリカンロック、プログレッシヴロック、グラムロック、etc・・・

 何でもいい、ロックのジャンルというかスタイルはいろいろあるけれど、これは「ロック」という言葉でしか表現できない音。

 つまり、ロックという音楽のど真ん中の音であり、しかも最高の音を聴かせている。

 多少の暴威いや暴言だけど、ブルーズの影響がちらちら以上に垣間見えるローリング・ストーンズだってこれほどロックじゃない、と、あくまでも音的に言えば。


 もちろんボウイだって若い頃からさまざまな影響を受けているはずであり、それ以上に、ボウイほどアルバムを出す度に音楽のスタイルを変えてきた人はいない、それくらいいろいろな音楽をやってきている。

 でも、消化吸収がよくて、それに気づかない。

 それこそがロックが向かっていた道なのだと思う。


 それができてしまったのは、自らいろいろやってきたからであり、頭で考えるのではなく、体験として理解した結果を音楽に反映させることができる人なのでしょうね。


 強いていえばこのアルバム、デヴィッド・ボウイに似ているかな(笑)。

 なんて、相変わらず身もふたもないことを。


 でも、アートワークを見る限り、自身の名盤"HEROES"のジャケット写真の顔を隠すように白くくり抜いてThe Next Dayと入れるあたり、これはボウイ以外の何物でもないことを物語っていますね。


 ただ、これは強く言わせてもらいたい。

 このアートワーク、僕は、しゃれがきつすぎ、遊び心が勝ちすぎ、正直少しがっかり。

 まあ、これは人それぞれ感じるところが大きく違うでしょうけど、「美意識」にこだわるボウイらしくない、と、僕は思いました。


 曲も粒揃い。

 いつも言うけれど、作曲家は年を追うごとに、書く曲のインパクトやパッションが薄まってゆくのは、人間である以上どうしようもないことであり、その反面、味わいみたいなものは増してゆく。

 ボウイも例外ではないんだけど、でも、ボウイは曲にカタを持った人だから、ボウイらしい佳曲がずらりと並んでいて、そのうちどれかは名曲と呼ばれるようになる可能性も秘めている、それくらいの充実度です。


 なんといっても、すべて自作で固めて、攻めてきているのがうれしいですね。

 カヴァーアルバムがよくないというつもりはないけれど、でも、ポールもロッドもカヴァーアルバムに走ったことにまるで意義を申し立てているかのようなこの姿勢は頼もしい。


 1曲目The Next Day

 威勢のいい曲、気持ちが煽られ、1曲目としてはとてもいい。


 2曲目Dirty Boys

 サックスとリズム隊が重たくでちょっと古臭いスタイル。

 あ、古臭いといって、今の若い人には80年代だって古臭いでしょうからもっというと、50年代R&Bを引っ張ってきている感じかな。


 3曲目The Stars (Are Out Tonight)

 "Star"という単語を使っているのは、イメージ踏襲でしょうね。

 ほの暗い中で切々と歌ってゆく、独特の美学を感じる曲。


 4曲目Love Is Lost

 スタッカートを効かせた重たいリズムの粘つきが尋常じゃない、もしや、ちょっと怒ってる?


 5曲目Where Are We Now?

 ボウイらしいバラード、Bメロは往年の名曲につながる、美しく流れる旋律が心を捉える。

 これはいいね、昔からボウイが好きな人には、待ってましたの曲でしょう。


 6曲目Valentine's Day

 ボウイ自身というよりは80年代の英国勢を彷彿とさせるミドルテンポのポップソング。

 サビはやはり旋律がきれい、これも印象に残りやすい。


 7曲目If You Can See Me

 リズムが跳ねていて全体的に90年代のイメージ、これはそうですね、先ほどから話題に上げているBLACK TIE...の路線。

 それをリアルタイムで聴いていた人間としては、当時はなんだか落ち着かなかったんだけど、それすら懐かしい、そんな年なんだなあ・・・


 8曲目I'd Rather Be High

 ギターの高音の装飾音が印象的だけど、このアルバムはだいたいギターの音はロバート・フリップ時代を再現したかのような響きです。


 9曲目Boss Of Me

 低音のサックスが厚いサウンドはボウイお得意だけど、そういえば、話が逸れて申し訳ない、ビートルズのSavoy Truffleがそんな感じで、つまりはこういうのをジャジーな響きというのかな・・・ 


 10曲目Dancing Out In Space

 ダブルトラックのユニゾンで歌っているけれど、多分意図的に声の感じを少し違えて歌っているのが面白い響き。

 80年代に流行った60年代リヴァイヴァル風の明るい曲。

 つまり2段構えになっているわけだけど、ボウイ自身は直接60年代を経験している第一世代なのにこの感じが出せるのがある意味面白い。

 それにしても今回は、過去の曲にあった単語をよく曲名に使ってくるなあ。


 11曲目How Does The Grass Grow?

 サビのハミング、ちょっとねじが外れたような声で歌うのがとにかく印象的な、「怒れる若者」ボウイ路線。

 しかし気になるのは、ハミングの最後のほうに出てくるベース(シンセベース)の音が、かのBillie Jeanのあの4つの音と同じなのは、何か意図がある? それとも単なる偶然?

 

 12曲目(You Will) Set The World On Fire

 これはちょっとばかり70年代ハードロック風のギター、勢いがある曲。

 ああ、つまりは、ソウルになる前の70年代ボウイ、ということか。


 13曲目You Feel So Lonely You Could Die

 基本はワルツのバラードで、初期の頃はフォークだった人であることがよく分かる。

 音の味付けはもちろん凝っているし、大仰ともいえる歌い方はボウイそのものだけど、ワルツにすることで世界が大きく広がってゆくのを感じます。

 

 14曲目Heat

 映画音楽風のイントロから展開する、劇的な曲。

 映画もボウイの重要な要素だけど、でもこのアルバムはすべてにおいてやりすぎていないのがロックと感じる部分です。

 


 ここからはボーナストラック扱い。

 

 15曲目So She

 アップテンポでさらっと流れて行って終わる、どこか穏やかな曲。


 16曲目Plan

 ギターが唸りを上げるインストゥロメンタルで、イメージ的にはWarsawの世界。


 17曲目I'll Take You There

 15曲目とこれはボーナストラック扱いにしたのがなんとなく分かる。

 いい曲だけど、似たような曲ともいえるし、アルバムの中に入れる場所を見つけるのが難しかったのかもしれない。

 


 という全17曲。


 最後3曲はボーナストラック扱い、最近流行りの曲数が違う2つのヴァージョンがリリースされたものですが、真剣に聴き込もうとすると17曲はちょっと疲れるかな。

 でもそれはあくまでも聴く側の姿勢や心のありようだから、逆に軽く聴きたい、ロックらしい音楽をかけておきたい、という時には長いことはむしろ利点になりますね。


 僕も結局は、ロックらしいロックはやっぱり好きですからね。

 そういう新しい音楽がなかなか見つけられなかったので、これはいわば救世主ともいえる1枚です。


 デヴィッド・ボウイは「ローリングストーン誌の100人の偉大な歌手」で23位と、かなり高いのですが、歌声は無理をしていない分、衰えたと感じる部分はほとんどないですね。

 

 歌手として、作曲家として、演奏家そして表現者として、デヴィッド・ボウイの世界が完成したといえる1枚です。


 ただ、ボウイのことだから、この次はまた、さらに壊して先に進むのでしょうけど(笑)。

 

 デヴィッド・ボウイは、実はというか、ジョージ・ハリスンのカヴァーも素晴らしくかつ曲が粒揃いの前作REALITY、妖艶さが復活したその前のHEATHEN、オルタナの波が落ち着き自らを取り戻したさらにその前の'HOURSと、これでここ4作、聴き応え十分の作品を作っているんですよね。


 今回の新作。実は密かに期待して待っていて、その通りの作品を聴かせてくれて満足です。

 

 だから余計に、ジャケットがなあ・・・でも、もうそれは言わないことにします(笑)。