![自然と音楽の森-March16QueenMagic](https://stat.ameba.jp/user_images/20130316/19/guitarbird9091/d2/e2/j/t02200147_0360024012459927503.jpg?caw=800)
◎A KIND OF MAGIC
▼カインド・オブ・マジック
☆Queen
★クイーン
released in 1986
CD-0376 2013/3/16
クイーン12作目のスタジオアルバム。
昨日の朝いつものA公園を散歩していて、突然この中のOne Years Of Loveが頭に浮かび、口ずさんでいた、その流れで記事にしました。
このアルバムが出る少し前のクイーンは、バンド史上も最低最悪の時期だったのかもしれません。
バンド内でごたごたがあり、ソロ活動が盛んになり、解散も危ぶまれるほどの状況に。
そのうえ、前作WORKSのツアーにおいて彼らは、アパルトヘイト政策をとる南アフリカのリゾート都市「サン・シティ」でコンサートを行ったことにより、「金儲け主義」との批判が高まっていました。
しかし、85年の「ライヴ・エイド」において彼らは、今でも語り草となっている最高のパフォーマンスを見せ、汚名返上、名誉挽回。
その後にリリースされたのがこのアルバム。
この後、彼らは最後のツアーに出ましたが、このアルバムの次にリリースされたLIVE MAGICと、フレディの死後に出たLIVE AT WEMBLEY '86にてその模様を聴くことが出来ます。
特に後者は素晴らしいライヴ盤。
このアルバムは、映画「ハイランダー」のサントラも兼ねている上に、別の映画の挿入歌も収録されているなど、アルバムとしての統一感に欠ける部分があるかもしれない。
しかし、曲のクオリティは、僕が思うに彼らのアルバムでも1、2というくらいに素晴らしい。
それに、サントラの曲は映画のイメージが伝わりやすいので、傍から見る人には散漫な印象を与えてしまうかもしれないけれど、そんなことはない、音楽としてまとまっています。
傍から見ると、というのは、このアルバムはクイーンのファン以外の人にはどうなんだろう、あまり好意的に捉えられていないのかな、という思いが昔からあるからですが。
彼らの1970年代からのキャリアの上に、1980年代の華やかな雰囲気が重なり、綿密に作り込んでいて、豪華できらびやか、派手でしかもずっしりと響く音。
だけどバンドとしてのロックらしさも忘れない。
曲に豊かに表情をつけてゆくブライアン・メイのギターの音色や奏法は、もはや職人芸の域。
フレディ・マーキュリーのヴォーカルはもう孤高の世界だし、ロジャー・テイラーのドラムスとコーラス、そしてジョン・ディーコンの歌うベースには、彼らの演奏者としての自信を強く感じます。
クイーンはまた、MTV時代の流れの中で、ビデオクリップを熱心に作っていきましたが、僕は当時、ビデオに録画して何度も観て聴いていたので、個人的には、彼らが最も身近に感じられた時期でもありました。
テレビ画面を通して接する彼らの姿は、とても人間臭くて、僕は大好きになりました。
このアルバムの曲は、2曲目と9曲目を「ベストヒットUSA」の「スター・オヴ・ザ・ウィーク」で取り上げていて録画して何度も何度も見て聴いていました。
でも実は、当時クイーンはいわゆる「落ち目」で、若い頃は落ち目のベテランアーティストを好きになっていいものやら、なんとなく恥ずかしい、僕にはそんな気持ちがあったのです。
今から思えばバカげたことですね、それは認めます。
でも、僕自身の若さに加え、当時はまだロックは一時の流行りものを脱しておらず、漸く「名盤」として過去の作品もまともに聴こうという流れが出てきた頃で、周りに流されていたことは素直に認めざるを得ません。
だから、曲は気に入っても、LPを買うのはかなり勇気が要ることでした。
しかしやっぱり、単純にテレビで見るクイーンは魅力的で、歌もとってもよく、ついにLPを買うことを決断。
つまりこれは、僕が初めて買ったクイーンのLPです。
その前に、クイーンで初めて買ったレコードは、1曲目の輸入盤ドーナツ盤を買っていましたが、それはシングルで安いから冒険ができたのでしょう。
まあでも、それを買ったことがLPにもつながりやすかったのは確かですが。
このアルバムを聴いて、そんなばかげた見栄を張るのはやめて、クイーンは大好きと人前で言うようになりましたと。
もちろん今でも。
1曲目One Vision
アルバムに先駆けてシングルでリリースされていた映画「アイアン・イーグル」のテーマ曲。
僕が初めて買ったクイーンのレコード。
ただ、ここに収録されたのは、シングルヴァージョンよりも前と後が長いアルバムファージョン。
僕はやっぱり第一印象派なのかな、シングルヴァージョンのほうが締まっていて好きです。
曲は、前半はオーソドックスな3コードのロックンロール風で、ハードロックでもあり、もうそれだけで心が躍り出す。
一方で中間部はフレディが演説帳に語り上げる、曲の展開が単純なロックンロール以上の曲になっています。
後のクイーン+ポール・ロジャースのライヴでこの曲も演奏されていますが、ポール・ロジャースが歌うと、この曲は意外とブルージーだったんだと思いました。
まあそれはヴォーカルの個性かもしれないですが。
作曲はクイーン名義ですが、おそらくブライアン・メイとロジャー・テイラーが中心に作ったものだと思われます。
ただ、この曲、GREATEST HIT IIではいちばん最後に入っていて、メッセージがあまりにも重たいThe Show Must Go Onの後に、まるでそれがジョークであったかのように明るくさらりと出てくる曲の配置が絶妙でいいと僕は思っています。
ロックって、真面目なことを真面目すぎる表情でやりすぎた後の「照れ隠し」が面白い、その典型ですね。
2曲目A Kind Of Magic
ロジャー・テイラー作、アルバムからのシングルカット第一弾。
ロジャーは最初からアルバムの1、2曲を作り続けてきましたが、前作WORKSのRadio Ga-Gaがついに
シングルA面として採用されヒットしたことに自信を得て、ソングライターとして一気に成長した感があります。
ロジャーの曲は、全体的にテンションが高く、だから逆にサビでも大盛り上がりを見せるというわけでもない、いわば「メリハリがない」のが特徴ですが、それが良いほうに出ると、波に乗るように気持ちよく流れてゆく高揚感がある曲になりますね。
まあ、Ga-Gaはキャッチーなサビができたことがヒットした要因ですが、この曲はAメロもBメロもどちらも同じくらいいい歌メロで、流れに乗って行くタイプの曲でしょう。
ジョン・ディーコンベースが軽やかに歌い続けていて、まるでフレディのヴォーカルとハモるような勢い。
Aメロで4ビート、Bメロで8ビートと使い分けているのも表情豊かで、ベース好きにはたまらない。
ブライアン・メイのギターソロも、電気でをまき散らす銃のようで、音色フレーズともども、"magic"という言葉を音で表現すればこれしかない、という極めて印象的なギターを聴かせてくれます。
途中のフィンガーティップスが心地よい。
そして自信たっぷりに歌うフレディ。
3曲目One Year Of Love
ソウルフリークであるジョン・ディーコン作、ワルツのR&B風のバラード、というよりソウルバラード。
これを、フレディが、朗々たるヴォーカルで歌い切る。
これを最初に聴いた時、僕は、誤解を恐れずにいえば、僕は最初にこの歌を聴いて、「フレディってなんてへたっぴなんだろう」と思いました。
フレディの場合、お勉強的な「上手さ」というものではなく、声の出し方、言葉の出し方・切り方など、なまめかしく艶のある声と歌い方で押し切って最後まで聴かせてしまう、そんな感じ。
フレディより「上手い」だけの人なら、その辺にカラオケをする人でいっぱいいるんじゃないかな(笑)。
そのフレディがソウルバラードを歌うものんだから・・・へたっぴ、と。
もちろんこれはソウルバラード「風」にやっているだけであってソウルバラードじゃない、ロックであるのを僕が勝手にソウルバラードの枠にはめてしまったことによる誤解ですが。
でも、この歌の場合、フレディの「へたっぴ」さ、不安定さがあるからこそ、揺らぐ心を歌う曲の魅力が100%以上引き出されいてると感じます。
特に、"Always rainy day without you"という部分は、ソウル歌手がソウルらしく歌うと、こんなにまでも心に引っかからなかったに違いない。
間奏のサックスは70年代後半から80年代の都会風ソウルの雰囲気どっぷりで、いかにも時代を感じますね、クイーンではちょっと珍しいくらいに。
ただ、クイーンはそれらをすべて自らの音楽性で包み込んでロックとして聴かせているので、古臭さを感じないのが不思議と言えば不思議です。
それにしても、「たった1年の恋だって、一生ひとりでいるよりはずっといい」、この切なさといったら・・・
ともあれ、僕はこの曲のフレディのヴォーカルには、ある意味衝撃を受けました。
ヴォーカリストはまずもって声が命、そんなことを学んだ気がします。
4曲目Pain Is So Close To Pleasure
フレディとディーコンの共作。
Tr3の歌詞にこのタイトルの言葉が出てくるのを受けて、ソウル風の曲が続くあたり、うまい流れ。
もこもこと歌うベースにのった、もわっとした曲で、フレディもそれっぽいファルセットで歌い通しています。
そうか、これはスモーキー・ロビンソンなのか!
これも70年代ソウル風の雰囲気たっぷり。
それにしてもこのタイトル・・・マゾでしょうかね・・・
曲の中で一度しか出てこない部分のフレディのヴォーカルがなんだか魔術師みたい。
魔術師と言っても、イリュージョン的に壮大なマジシャンではなく、マギー司郎のような芸人風の、ですが・・・
5曲目Friends Will Be Friends
こちらもフレディーとディーコンの共作で、ディーコン初期の名曲、「オペラ座の夜」のYou're My Best Friendの続編的内容の曲。
アレンジ的には至ってシンプルなロックバンド形式ですが、それだけに歌メロのよさ、それを引き出すフレディのヴォーカルには、ひたすら胸を打つものがあります。
特に歌が始まって4小節目で歌メロが少し崩れた上に5小節目でちょっと裏に入る歌メロが心の琴線を揺らしまくり。
そのくせ間奏の入り口はいっぱしのハードロック、カッコよさも兼ねている。
後期でも屈指の名曲のひとつと僕は思っているし、フレディとディーコンの良さがうまく両立している曲ですね。
ビデオクリップでは最後、曲が終わってから、メンバーとエキストラが大合唱していて、こちらもまた感動的。
僕もクイーンの中でよく口ずさむ曲のひとつで、こんな素晴らしい歌がこの世に存在していてよかった、と、心の底から思う。
6曲目Who Wants To Live Forever
ブライアン・メイ作、このアルバムのクライマックスともいえるスケールが大きなバラード。
映画「ハイランダー」は、スコットランドを舞台とし、首を切り落とされない限りは死なない種族という設定ですが、そこに織り成す人間模様を、あるいは原作以上に表現した曲。
ケルトの香りもするし、クラシック風でもあるし、歌詞も素晴らしく、もう感動的のひとこと!
フレディの追悼コンサートでは、シールが、思わず涙してしまったと言いながら歌い始めたのが印象的でした。
曲の中で一度しか出てこない部分の最後のほうの歌詞に"fingertips"と出てくるんだけど、それは2曲目からイメージがつながっているのも、イメージが膨らむところ。
なんといってもブライアンの優しさ、人間性がしみ出してきている、名曲中の名曲。
ところで、ケチをつけるわけじゃないんだけど、この曲のビデオクリップは、教会音楽風に荘重な雰囲気の中みんな着飾っているのに、どうしてロジャーだけGパンなんだろうというのが、昔は気になりました。
ロックだからと思う部分もあるのですが、後でDVDのコメンタリーで知ったのは、ロジャーは二日酔いで遅刻してきて、衣装合わせが間に合わなかったらしくて・・・
7曲目Gimme The Prize
この曲ではフレディーのヴォーカルの凄味を堪能できます。
ブライアン作曲の、ヘヴィメタルよりもヘヴィなロックに乗ってヴォーカルを繰り出すわけですが、その声の迫力は恐いほどで、まだ10代の僕にはあまりにも刺激的すぎました。
最後に吐き捨てるようにタイトルを言うのが、しびれてしまう。
フレディのみならず、ロックヴォーカルのひとつの到達点と言っても過言ではない曲。
そして間奏部にスコットランドのバグパイプ風の旋律が入り、英国の香りを強く感じさせ、芸が細かく贅沢の極み。
ブライアンも、激しいギターのイントロにおいて、当時流行っていたテクニック主義のヘヴィメタルのギターをあざ笑うかのような「バカテク」を披露しています。
あ、「バカテク」はもう死語かな(笑)。
8曲目Don't Lose Your Head
ロジャー作の、やっぱりめりはりがない、ドラムスでごりごりと押しまくるハードな曲。
ロジャーの曲はあくまでも一途で分かりやすい(嫌味じゃなく)。
アルバムの中でもユーモアは随一で、緊張感を一瞬解きほぐしてくれます。
なんせ、「頭をなくすなよ」なんてことさらりと言った上に、気持ちよさげなヴォーカルとコーラスですからね(笑)。
でも、だから、ある意味恐い曲でもあるかも・・・
そういえばこのアルバム、ロジャーの曲もフレディが歌っている、と思ったら前のアルバムからそうだったか。
9曲目Princes Of The Univers
最後は映画「ハイランダー」のテーマ曲で、ビデオクリップには、主演のクリストファー・ランバート(ランベール)も出演し、途中でフレディと刀剣で一戦交えています。
そのシーンのフレディが笑わないどころが表情がぴくりとも動かないのがまた恐かった、畏敬の念というか。
この曲はフレディ作、このアルバムでフレディひとりが作った曲はこれしかないのは、当時はフレディの心がソロに向いていたのかもしれないですね。
しかしその1曲が、フレディのめくるめく世界を堪能できる、彼にしか作れない曲として仕上がっているのはさすが。
前半はハードロックのバラード、後半は疾走するロック、ずしっと胸に響いてくる曲、音。
ブライアンのギターワークも神がかり的で、間奏ではフレディが掛け声でアジる中で、鬼気迫るソロを聞かせます。
しかし煽るだけ煽って、最後はあっさりと終わる、潔い曲。
冒頭のコーラスが最後で出てくるところで、フレディのヴォーカルがコーラスより一瞬遅く出てくるのは、意図したものなのか、それともミスだけどそのテイクが最高だったのか、昔から気になっていますが、でもそんなのは些細なこと。
クイーンって凄いんだなあ、と思ったアルバムの、最高にすごい曲で最後は閉めてくれます
ちなみに、テレビドラマの「ハイランダー」には、ザ・フーのロジャー・ダルトリーやファイン・ヤング・カバルズのローランド・ギフトなども出演していました。
ほんとにいい曲ばかり入っています。
「円熟」「芳醇」そんな言葉がぴったりで、当たりは強い音でもどっぷりと浸って聴くことができるというのは、ベテランにしか出せない味。
まさにビートルズの後期のテイストを拡大増強したようなダイナミックな音楽の流れを聴くと、彼らが、Parlophoneのレーベルを受け継いだのがよく分かります。
でもやっぱり若い、矛盾するようだけど、ロックとしか言いようがない音楽。
しかし一方、前の記事のゴティエの音へのこだわりとも通じる部分があります、これは意図したのではなくたまたま感じたのですが。
もちろんゴティエが後だから、彼の頭の中にはクイーンもあるのだろう、と。
ただ、僕は、リアルタイムにこれを聴いた思い入れが強いアルバムだから、冷静に見て聴くことができない。
クイーンのファン以外には、落ち目の時代のこのアルバムはどう捉えられているのだろう、と思う部分はまだあります。
まあ、自分が聴くには関係ないのですが、でも、音楽ついて考えるのが好きな僕だから。
しかし、このアルバム自体の評価以上に、このようなアルバムがあることで、クイーンの音楽が全体としては充実しているというバンドへの評価が高いのは間違いないことだと思います。
ともあれ、これだけ素晴らしい音楽、素敵な歌が詰まったアルバムはそうざらにはないので、評価が低いとするなら、もったいない、非常に、そう思うのです。
月並みで言うのも恥ずかしいけれど(笑)、クイーンてやっぱりいいよなあ、心底そう思うアルバムです。
CDを聴いてしまったので、また明日の朝の散歩で、どれかを口ずさむんだろうなあ(笑)。