MAKING MIRRORS ゴティエ | 自然と音楽の森

自然と音楽の森

洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。


自然と音楽の森-March14Gotye

◎MAKING MIRRORS

▼メイキング・ミラーズ

☆Gotye

★ゴティエ

released in 2011

CD-0375 2013/3/14


 先日のファン.に続いて、グラミー賞の話題、ゴティエ。


 グラミー賞2013において、The Record of the Year「年間最優秀レコード賞」を獲得したのが、ゴティエ・フィーチャリング・キンブラのSomebody That I Used To Knowでした。

 授賞式では、なんとあのプリンスがプレゼンターを務め、これはいい曲だとつぶやいたのだとか。

  

 授賞式のプレゼンターは、結果が分かった上で誰かに依頼するのかな、依頼された側は結果を封を切るまで知らないとしても。

 僕は生では見ていなかったけれど、プリンスが出てきた時点できっとこの賞はゴティエに行くだろうと思ったと思う。

 それくらい、プリンスとゴティエの個性と音楽にはイメージが重なる何かがあり、これは単なる偶然とは思えない。

 音に対する繊細さ、ひとりで作り上げてゆく様、音全体の響き、名前が単語ひとつであること、そして人間として、特に男性としてのイメージが。

 いずれにせよ、思わぬ形で動くプリンスの最新の姿を見られたこと、あのプリンスが件の曲をいいと思っているのは、プリンスの隠れファンとしてはうれしかった。


 でも、僕は、グラミーの時はまだゴティエはその曲しか知らず、受賞が決まって漸くCDを買って聴いたので、プリンスとゴティエのイメージが重なると感じたのは、実は後知恵のようなものかもしれない。

 しかし、その曲を聴く限りはそう感じたのは確かなこと。


 Somebody...を「ベストヒットUSA」で知って気に入ったのはまだ昨年の暑い頃でしたが、それから何度もCDを店頭で手に取って、買おうかどうか迷っていました。 

 買わなかったのは、それ以外の曲がチャートに上がっていなくて、「一発屋」かもしれないという不安があったから。

 この場合の「一発屋」は、ヒットしたかどうかという意味もだけど、他にいい曲があるかどうかという部分も。


 結論から言うと、それはばかげた杞憂、曲も粒揃い、アルバムとしても素晴らしい。


 音楽のイメージも、プリンスとの絡みで感じた、ほぼその通りでした。

 ゴティエの音楽をイメージさせたもうひとつの要因は、アルバムタイトルとCDのアートワーク。

 万華鏡のような音楽を作っている人なんだというイメージが僕の中に出来上がりました。

 厳密にいえば「鏡」だから万華鏡とは違うのだろうけど、でも「鏡」が複数であることでイメージが膨らみました。


 とここで、遅くなりました、ゴティエは初めて聴く人だから、さらりと人となりを。


 ゴティエはオーストラリア出身のシンガー・ソングライター。

 レコードつまり表現者としてはゴティエと名乗る一方、制作者としてはウォリー・デ・バッカー Wally De Backerと称しています。

 ということはWikipediaで調べて知ったのですが、CDを買って驚いた、ブックレットがなく、ジャケットの絵を展開したポスターが入っているだけで、CDを入れる紙袋やスリップケースにも必要最低限の情報があるだけ。

 自身のウェブサイトで見てくださいということかな。

 ただ、そこが逆に、音楽のイメージが膨らむ部分で、まさにアーティスト。


 ゴティエは「奇跡の歌声」と呼ばれるハイトーンが魅力。

 でも、ダリル・ホールやスティングのようなきんきんした金属系の響きの「鶏系」の声ではなく、もっとまろやかで鋭利ではない、聴きやすい声です。

 断っておきますが僕はダリルもスティングも大好きですが、でも、大学時代の友だちSがことあるごとにその2人の声がだめだぁと僕に話していたので、いつしかそんなことを思うようになりました。


 グラミーを獲得したSomebody That I Used To Knowは、2012年度のビルボードのシングルチャートにおい年間No.1に輝いています。


 このアルバムは、ゲストと一部の楽器以外はすべてゴティエ=ウォリー・デ・バッカーが演奏しており、サウンドに徹底的にこだわって緻密に作り込んだ観賞用の音楽。

 

 サウンド作りの上手さは舌を巻くほど。

 声にエフェクトをかける、縦横無尽なコーラスワーク、楽器の音にもエフェクト、不思議な効果音、タイミングよくい入ってくる数々の音、などなど。

 しかもごちゃついた感じは皆無で、音が前後左右上下に立体的に広がりつつも整理されたきれいな音として響いてきて、自分の中でもさまざまな方向にイメージが膨らんでゆくのを感じます。


 でも、20代の普通のロック好き人間だった頃の僕であれば、このアルバムは響いてこなかったかもしれない。

 僕は、30歳を過ぎてクラシックを聴くようになってから音の面白さに気づき、それからはポピュラー音楽でも音が面白いと思えるようになりました。


 曲は、いってみれば「ポップソング博覧会」的なもの。


 1曲目Making Mirrors、コラージュ風のインストゥロメンタル。

 続く2曲目Easy Way Outはアップテンポで押してくる。

 

 3曲目がSomebody That I Used To Know

 この曲に関して「ベストヒットUSA」で本人のインタビューを見たのですが、ニュージーランドのキンブラをゲストに招くことでエスニックな響きを加えることができた、というようなことを言っていました。

 ほのかに微妙にアフリカの雰囲気を感じるところが曲に深みを与えている。 

 しかしこの曲については、そういう細かいこと以上に歌として楽曲として素晴らしい。

 「ベストヒットUSA」を見るようになって、この曲とファン.のWe Are Youngを聴いて、いい歌は今でも作られ続けていることを感じてほっとして、うれしくなり、今の音楽ももっと聴いてゆけるかな、と思い始めました。

 その割に、買うまで時間がかかりましたが・・・

 これは10年後には名曲と言われるようになっているのは間違いない、ほんとうに素晴らしい歌。


 4曲目Eyes Wide Open

 軽快なドラムスに乗った疾走系ロックンロール、どことなくジャクソンブラウンを思い出させる。


 5曲目Smoke And Mirrors

 ありていにいえばボブ・ディラン風の、ちょっと寂しげなワルツのフォークソング。

 ゆらゆらとした不思議な響きの音が舞う中、最後にラテン風の太鼓で盛り上がる。


 6曲目I Feel Better

 サウンドはきれいだけど、曲はどう聴いてもモータウン。

 もちろん歌い方はソウルじゃないけれど、モータウン大好き人間の僕は無条件に心と体が反応。

 同時に、モータウンが若い人たちにも聴き継がれてゆくのはうれしいですね。

 やっぱり、ビートルズとモータウンは今のポップスの基本はなんだな、とも。


 7曲目In Your Light

 ロックンロールが大好きなポール・サイモンのアップテンポの曲といった趣きのフォークソング。

 歌が入るところのアコースティックギターのカッティングが地味にすごかったり。


 8曲目State Of The Art

 これはレゲェ、きらびやかな音をまとっていなければ、かなり本格的な。

 声はボコーダーもしくはそれに類する電気処理を施されていて、それは、レゲェ歌手のあの独特の声の代わりということなのだろうか。

 サビはきれいなコーラスだけど。


 9曲目Don't Worry, We'll Be Watching You

 押し殺したような低いヴォーカルが入る、インストゥロメンタル中心の、はるか遠くにブラコンが見える曲。


 10曲目Giving Me A Chance

 80年代の英国勢がこんなサウンドの方向に進んでいたかな。

 でも、80年代的な響きではなく、あくまでも今の音楽。


 11曲目Save Me

 ゴティエの音楽は、どことなく影があるけれど、でも前向きで、ほっとするものを感じます。

 この曲はかけ声が、よしやってやる、というものではないけれど、そうだやればできるんだ、という控えめな元気を与えてくれます。


 12曲目Bronte

 最後はピーター・ガブリエルを親しみやすくしたような響き。

 独白調の寂しげな歌、意外とといってはなんだけど、抒情性もある人であり音楽でもあるんだなあ。



 繰り返し、作り込んでいる音楽であって、バンドサウンドとは違う、コンサートでの再現は難しそうな音楽だから、バンドらしい音が好きな人はあまり好きになれないかもしれない。

 

 歌も、歌手として目立つというよりは、あくまでも自らのイメージするサウンドを表現するための「楽器」の一部という感じ。

 歌が下手、という意味じゃないですよ、下手だとかえって気になるから。 

 無機質というものでもない、気持ちは感じるんだけど、でも、あくまでも歌だけではなく全体のサウンドから何かを伝えたいという姿勢を感じ、それを生かすには最良の声ではないかと。

 

 音がまろやかで、かけておくと気分がよくなる、とってもいいアルバム。

 作り込んではいるけれど、彼はアナログ的な響きが好きなようで、温かみがあるサウンドも特徴。


 ゴティエという人、サウンドクリエイターとしてはかなりの人だと思いました。


 でも、本人は、シンガーソングライターとしてより広く認知されていのかもしれない。

 その辺のことはまだ1枚しか聴いていないので分からないけれど、でも、個性的な音楽には違いありません。


 細かく見るとプリンスには似ていないんだけど、全体のイメージは確かにプリンスにつながるものがある。

 そういえば最近、こういう音楽を僕は聴いていなかった、久しぶりの体験でもありますね。

 このアルバム自体も気に入ったけれど、それ以上に、いろんな音楽を聴いてゆきたい、という思いもまた新たにしました。

 そういう視点が与えられる音楽でもあるのでしょう、きっと。