SWEET SURRENDER マージー・ジョセフ | 自然と音楽の森

自然と音楽の森

洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。


自然と音楽の森-March12MargieJosephSS


◎SWEET SURRENDER

▼スウィート・サレンダー

☆Margie Joseph

★マージー・ジョセフ

released in 1974

CD-0374 2013/3/12


 マージー・ジョセフは、ワーナーのAtlantic R&B1000円シリーズで知りました。


 最初に買ったのはこのアルバムではなく、これより前のアトランティック移籍第1弾、その名もMARGIE JOSEPHでした。

 本題の前に、そのアルバムについて少し触れると、アレサ・フランクリンに歌い方がよく似ていて、特に高音はそっくりといえるくらい。

 端的に言えば、色っぽくしたアレサ・フランクリン、といった趣きの人。

 でも歌は本格的ソウルからジャズっぽいものまで幅広く柔軟に歌いこなせる人で、曲もよく、アル・グリーンの大ヒット曲Let's Stay Togetherも自分の色に染めていて、聴きごたえがあるCDではありました。


 本家BLOGの記事でそのCDに触れたところ、こんなアルバムがあるよと書き込みで教えていただいたのが今回のこのCD。

 

 決め手は、何といっても、ポール・マッカートニー&ウィングスのMy Loveをカヴァーしていること。


 My Loveはポールのビートルズ解散後2曲目のNo.1ヒットにして、当時の奥さんのリンダ・マッカートニーに捧げた甘いラヴソングの名曲中の名曲。

 ポールは、1回目の1990年ではなく2回目の1993年の来日公演で歌っていました。

 

 この曲、僕は元々ジャズヴォーカルっぽい雰囲気があるなあと思っていました。

 ストリングスに埋もれたオリジナルアルバムRED ROSE SPEEDWAYのヴァージョンもいいけれど、それ以上に、LP3枚組ライヴ盤の大作、WINGS OVER AMERICAのヴァージョンが。

 演奏もいい意味でラフ、テンポも崩し気味、フェイクヴォーカルが冴え、ポールのことだからけだるくはならないけれど(笑)ロック的制約から解放された緩いヴォーカルを披露していて、ポールの音楽的素養の広さ深さ大きさを感じさせます。

 

 そんなMy Loveを、ジャズヴォーカル風に歌っている人がいるなんて!

 僕の頭の中でつながりました。


 マージー・ジョセフのヴァージョンは本当に素晴らしい。

 7曲目に収められていて、アドリブじゃないけれど緩い歌メロを、ポール以上に自由に揺り動かし、気持ちを裏に表にこめて歌う。

 でも甘い一方でもなく、引き締めている部分も感じられる。

 名曲には必ず名カヴァーがある、と誰かが言ったかどうか分からないけれど、そんなことを思いました。

 My Loveもやはり名曲なんだなあ、僕の中で欠けていたピースが見つかった、そんな気持ちになりました。

 僕が今のところ知っているポールのカヴァーソングでは、いちばん素晴らしいかもしれない。


 なんて書くとジャズヴォーカルのアルバムのように感じるかもしれないけれど、あくまでも基本はソウル。
 でも、ソウルという枠にはとらわれない自由な解釈と感覚で歌い通していて、この辺は独特な響きの音楽ではありますね。

 それができる人もそうはいないだろうし。

 曲間がほとんどなく曲がつながっているのが、アルバムに劇的な流れを生み出しています。


 1曲目Come Lay Some Lovin' On Me、2曲目(Strange) I Still Love You、3曲目Come With Meと、出だしはいかにもソウル華やかなりし1970年代といった趣きで聴かせてくれます。

 5曲目To Know You Is To Love Youはスティーヴィー・ワンダーの曲。


 ラルフ・マクドナルドが作曲者に名を連ねている6曲目If I Still Around Tomorrowはまさにクロスオーバーといった曲調だけど、クロスオーバーは今はもう言わないのかな・・・


 8曲目Ridin' Highは自らペンをとる曲で(共作)、よく聴くとボサノヴァ、まさに軽やかな雰囲気。


 ロック好きにはうれしいカヴァーがもう1曲。

 9曲目He's Got A Way。

 歌手と歌の内容の性同一の「法則」により"He"になっていますが、ビリー・ジョエルのShe's Got A Wayのこと。

 1974年といえば、ビリーはまだPiano Manで漸く注目されつつも暗中模索の時代。

そんなビリーの売れなかった1枚目の曲を、マージー・ジョセフは気持ちを込めて歌っています。

 ビリーが作曲家として人気者になるのはこの後のことですが、彼女は先見の明があったのか、それともただ単にいい曲はいい曲として歌いたかっただけか。

 いずれにせよ、若かったビリーには自信になったことでしょうね。


 4曲目Baby I'm A Want Youと、最後10曲目の表題曲Sweet Surrenderはブレッドのカヴァー。

 4曲いずれもソフトな曲とはいえ、ロック系にも目配せしている選曲がいいですね。

 後者について、他の人の曲を自分のタイトルにするという例を時折見かけるけれど、すべてがカヴァー曲というのではない場合、よほどその曲への思いが強く、まるで自分が感じたことであるかのように曲に気持ちが入り込んでいるということなのでしょう。

 そのような曲を最後に置き、ジャンルを飛び越えたヴォーカルアルバムが完成。


 1990年代に女性ヴォーカルものが注目され始め、ディーヴァという言葉が一般的に使われるようになり、さらにノラ・ジョーンズの出現とそれ以降の流れで、ジャンルにとらわれない「歌もの」が、逆にひとつのジャンルとなった感があります。

 マージー・ジョセフのこのアルバムは、四半世紀以上前にそれを実現していた。

 今の時代、見直されるべき1枚ではないかな、強くそう思いました。


 さらっと聴くよりは、落ち着いて、コーヒーや紅茶でも淹れて、ちょっとビターなスイーツを食べながら夜にじっくりと味わいたい、そんなアルバムです。

 もちろん人によってはスコッチやバーボンでもいいでしょう!


 最後に2つほど余談を。


 僕が買ったのは、国内盤紙ジャケット盤の中古ですが(帯がなかったけれど安かったので仕方ない)、ライナーノーツには、ことあるごとにアレサ・フランクリンに似ていると書いてあるのが、読んでいて悲しくなってきました。

 悪意はないのかもしれないけれど、それに確かにそう思うんだけど、でも、強調しすぎるのは失礼じゃないかと、音楽が素晴らしいだけに思います。

 似ていると言われて、少なくとも内心はうれしくなかっただろうし。


 もうひとつ、このジャケットのマージー・ジョセフは、五分刈り(?)、ショートヘアを通り越して男性の坊主頭であることが気になります。

 裏ジャケットには、肩にかかるかかからないくらいで女性としてはショートだけど、普通にウェイヴがかかった髪型の写真があるだけ余計に。

 なぜかと考えて、ひとつは、セクシー路線とは離れて歌をじっくりと聴いてもらいたいという思い。

 もうひとつ、ベトナム戦争と関係があるのかな、と、違うかもしれないけれど。

 でも、このアルバムの場合、力強く微笑む彼女の表情ともども、それがとってもイメージが合っていると感じます。


 余談の余談ですが、女性で超短髪、スキンヘッドといえば思い出すことが。

 昨年、NFLインディアナポリス・コルツのパガーノHCが白血病のため休養し治療に入った際に、白血病の治療では頭髪が抜けることを念頭に、チームとしての連帯感を示すために、コルツのチアリーダーがスタジアムで髪をスキンヘッドにしたこと。

 パガーノHCはシーズン後半に復帰して、チームはプレイオフに進出しました。

 負けはしましたが、その話はとっても感動的でNFLにいい印象を残しました。



 ともあれ、隠れた名盤と呼ばせていただきたい、素晴らしいアルバムに出会えました。