AROUND THE SUN R.E.M. | 自然と音楽の森

自然と音楽の森

洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。


自然と音楽の森-March10REM13th


◎AROUND THE SUN

▼アラウンド・ザ・サン

☆R.E.M.

★R.E.M.

released in 2004

CD-0373 2013/3/10


 R.E.M.の13枚目、最後の前の前のアルバム。


 僕がこのBLOGを始めたのが2011年3月9日。

 昨日で2年目、今日から3年目に入ります。

 最初の記事はBLOGを始めますという内容、翌3月10日の記事が初めて上げたアルバムでした。

 だから、アルバム記事を上げ始めてから今日が2年目ということになります。


 いつもお読みいただきありがとうございます。

 これからもよろしくお願いします。



 2011年3月10日に上げたのは、当時出たばかりだったR.E.M.の新譜COLLAPSE INTO NOWでした。

 結果としては彼らの最後となってしまったアルバム。

 昨年のこの日は特に何も考えずに他のアーティストの記事を上げましたが、そうだ、今年から、毎年3月10日はR.E.M.の記事を上げてゆこうと思い立ちました。


 最初が最後のアルバムだったから、どうせならきれいにアルバム1枚ずつさかのぼって、とも思いました。

 しかし、14枚目のアルバムの話をするためには、先に13枚目に触れなければ話が続かないので、今年はこのアルバムにしました。

 もう12枚目の記事は上げたので、どのみち3年で破たんしたわけですが。

 


 Warner時代のR.E.M.の例の(チープな)紙ジャケット5枚組が出ました。

 今日の写真で手前(下)に写っているのがそれ。

 最後の5枚のアルバムが収められています。

 作品がつながっているので、これから聴こうという人にはいいかもしれません。

 その前の5枚はブックオフで500円以下で探し切れるし・・・ 


 僕も買いました。

 言うまでもなく僕はR.E.M.のすべてのアルバムを複数枚持っていますが(限定盤、国違い、リイシューなど)、でもやっぱり、コレクションとして買いました。

 R.E.M.の新しい商品を買うことができるのは、ファン以上の存在の者としてはうれしいから。

 と思ってしまうのは悲しい、やっぱり僕はまだ解散が信じられない、信じたくないようで。




 このアルバムは、R.E.M.が解散に向かって進み始めたアルバムといえるでしょう。


 音楽的には、充実しすぎています。

 曲自体ももちろん、アレンジも練られているし、音も作り込まれていてすきがない。

 インディーズから始まり、I.R.S.からWarnerに移籍し大スターとなった彼らが、ついにここまで到達したか、到達できるものなのか、といった出来栄え。

 デビュー当時から見るともっとも音楽性が違う、遠く離れているのがこのアルバムであるのは間違いのないところ。

 いつものようにビートルズを引き合いに出しますが、後期になるほど作り込んだ音楽を作りたくなるし作れるようになるというのは、音楽的な技術のみならず、思考としても自然とそうなるものなのでしょうか。

 

 しかし、ここまで作り込んでいいのか、という思いがバンドにはあった、というか、生まれたのではないかと。

 事実、ヴォーカルのマイケル・スタイプも、このアルバムの後、あれはやりすぎだったという趣旨の発言をしていました。

 反省した彼ら、この次は、初期に戻ったかのような力で押しまくる荒削りなロックンロールのアルバムACCELERATEを作り上げました。

 

 ACCELERATEはおそらく来年の今日に取り上げるので、それ自体には深くは触れないことにして、そこで若いころの力を取り戻した彼らは、その力の上にさらにそれまでの経験から得た音楽の深みを加えることに成功した素晴らしい前作COLLAPSE INTO NOWを作り上げることができたのでしょう。


 ただし、彼らはそこで、やはりもう若い頃とは違う、もうこの先に進むには無理があると判断した、感じたのでしょう。

 前作が結果として最後のアルバムとなりました。

 でも、ある意味、この先の展開を見せて感じさせたところで解散するのも、前向きな彼ららしいともいえます。



 僕はこのアルバムAROUND THE SUN、今では普通に大好きです。


 でも、最初の頃は、重たくて暗くて、冷たい感じ、抑うつ的で、いくら作り込んだ音楽が好きだとはいえこのすきのなさはどうしたものか、と悩みました。

 重たくて暗いのは彼らの個性ですが、ここではさらにペシミスティックな響きも感じられ、少なくとも爽快な気分にはなれないアルバムだな、と。

 大半の曲がとろぉ~としたミドルテンポの曲で、けだるいというか、しゃきっとしない感覚が、聴いた後に残りますし。

 はっきり言って、いくらファン以上の存在の僕でもこれはきついかも、とすら。


 でも、せっかく出た新譜だから、ずっと聴き込みました。
 その間ずっと「好きにならなければいけない」と思いながら・・・
 

 聴き込んでゆくと、しかし、それまで気づいていなかった、冷たいようで実はそこに隠された彼らの温かみもしっかりと感じられるようになりました。


 R.E.M.の優しさは、なんでもかんでも許してしまう温かさではないんです。
 本人がしっかりした気持ちになりさえすれば、僕たちは君を、快く、温かく迎え入れる、というもの。

 つまり、聴く者にもなにがしかの心構えを求めるものであり、何もしない人を助けてはくれません。

 

 でも、それは、広く受け入れられるべきポップスとは相いれない部分かもしれない。

 本人たちも、そこで悩んだのかもしれない。

 もっとシンプルに、もっと気楽に行こうぜ、と。


 ともあれ、音楽の出来として素晴らしいアルバムには違いありません。


 

 1曲目Leaving New York
 冒頭から悲しげな響きのギターのアルペジオ。

 ミドルテンポの落ち着いた曲だけど、これが最初のシングルと聞いて、正直、がっかりはしなかったけど、どうかな、と思いました。

 曲はいいけれど、とにかく寂しい感じの曲で、シングルには向かないのではないかと・・・
 しかも、シングル曲でアルバム冒頭からいきなり去る曲というのも、アルバムの重たさを感じさせます。

 ただ、そういう意味ではアルバムを代表する曲といえるわけで、シングルにはいいのかも。

 サビの部分は確かに耳に残る旋律だし、後追いコーラスも凝っているし。

 でも、暗闇の中に明るさを見出したような最後のコードで、不思議と、アルバムに気持ちがぐっと入ってゆくのを感じます。


 2曲目Electron Blue
 前曲の最後の明るいコードを受けたかたちのきらきらと輝くようなイントロの音にほっとする。
 明るめのポップな曲で、でも明るくはない、マイケルの奔放さもうかがえる、でもやっぱり抑えている。

 彼らの特徴としてうねうねと進む歌メロがあるけれど、ミドルテンポでそれをやると案外旋律がいいんだなと思う。

 ただ、明るいアルバム、いや普通のアルバムでこの曲をやると、もっと普通に明るくできたんじゃないかな。

 その不安定なところが魅力でもある、と僕は思うのですが。

 僕がこの中でいちばん好きなのはこの曲かな、なかなか以上の佳曲。


 3曲目The Outsiders (feat. Q-Tip)
 Qティップをゲストにラップが入る。

 沈み込みそうな気持ちを必死に持ち上げようとしているところに、追い打ちをかけるように言葉の雨を浴びせられます。

 僕はラップは好んでは聴かないけれど、最近は他の、特に僕が大好きなアーティストにゲスト参加したものはむしろいいと思うようになりました。

 R.E.M.の場合はマイケル・スタイプが元々喋りのような歌い方で共通項のようなものもあるし、過去にもラッパーをゲストに迎えたことがあるし、不自然ではないですね。


 4曲目Make It All Okay
 このアルバムの曲は、とにかく寂しく聞こえます。
 内容はそういう曲ばかりでもないはずなのに。

 アコースティックな響きとエレクトリックギターが微妙に絡み合う、一聴すると大人しいけど、よく聴くと結構ダイナミックな展開で、好きな曲ではあります。

 このアルバムは歌が終わったところのちょっとだけ明るく響くコードが印象的な曲が多いですね。

 5曲目Final Straw

 出だしのアコースティックギターが、「ムーミン」のスナフキンが歌う「おさびしやまよ~」という曲に結構、とっても、かなり、似ているんですよ(笑)。
 曲自体もそんなイメージ。
 「最後の藁」というタイトルも、やっぱり寂しい・・・
 この曲の歌詞の、"I can't believe where circumstances has thrown me"というくだりが印象的ですが、このアルバムは、ちょっとしたくだりが印象的なものが多いです。

 変拍子も入り、フォークらしい曲。


 6曲目I Wanted To Be Wrong
 続いてフォーク系の曲だけど、このアルバムで初めて救われた、落ち着く、バラードともいえるゆったりとした曲。

 後期のお得意の路線ともいえるスタイル、じわっとしみてくる曲。


 7曲目Wanderlust
 イントロと後半部の7拍子が印象的。
 アルバムの中ではいちばん盛り上がる曲で、ブリッジ終わり部分の"Me,me,me,me!"というマイケルの叫びには強い訴求力があります。
 最初は静かに進むこの曲、歌い始めて9小節目の途中でまるで怒ったように突然声が上がり叫びだし、以降は力強く歌うのが、強烈な印象を残します。

 マイケル・スタイプのヴォーカリストとしての凄みを感じる曲ですね。

 盛り上がるとはいってもやはり重たい、でもその中でベストを尽くしていると感じさせる、でもやっぱり"me,me,me"の部分の盛り上げ方は力が入っている。

 最後、ベースの音が上がってゆき弾けるように終わるのも素晴らしい。
 どうでもいい余談で、ポール・マッカートニーに同名異曲があり、それは僕が最も好きなポールの曲だから、これは意味もなくひいきしたくなる曲(笑)。


 8曲目Boy In The Well
 しかし、前前曲の癒し、前曲の盛り上がりはまるで嘘だったというかのように、やっぱり重たい出だしのフォーク系の曲。

 ううん、ここまで気持ちがふさがなくてもいいのでは・・・

 と思っていると、Bメロに来てほのかな明るさが漂い、"Beautiful"と突き放すように言うのが印象的。
 ラストのコードが暗すぎるのが気がかりな点だけど、曲作りのうまさ、年季が入って来たなと感じさせます。


 9曲目Aftermath
 このアルバムでいちばん明るいのはこの曲かな。
 この流れの中で聴くと、とりわけポジティブに響いてくる。
 なんとなく、会ってみたいけれどわざわざ連絡を取るほどでもない昔のクラスメートに偶然会って、楽しい時間を過ごせたという感じがする曲。

 もしくは、Facebookでそんな人を見つけた時の感じかな、僕はまだその経験はないけれど(笑)。
 彼らの優しさがにじみ出た曲で、ヴォーカルをなぞるピアノの響きがそれを効果的に表していますね。
 ところで、サビの部分のworked it outという歌詞が、どう聴いても何百回聴いてもそうは聞えない。

 カタカナで無理矢理表すと「フッツェザウ」と聞こえるんだけど、自分ではどう歌ってみてもそうはならない・・・
 マイケルの発音は、ネイティブでも分かりにくいということだから。

 でも、歌いだしは"radio stardust"と歌っているように聴こえ、やはり彼らは古い音楽をさらりと歌詞に載せるのが好きだなと。

 それにしても、これはほんとに彼らの温かさ、人間味、優しさを感じます。
 ただ、このアルバムのここまでの流れで聴くと浮いていると感じるかもしれない。

 しかし、最後に向けて流れが変わりかけ、気持ちが緩くなり、明かりが見えてきていることを感じさせるという点で、アルバムの中でも重要な曲でしょう。

 僕も結局、このアルバムでは2曲目とこれ、基本は明るい曲がいちばん好きなわけだし。


 10曲目High Speed Train

 でも、明るくなるばかりではないのがやはりこのアルバム、しかもまだかなり重たい。
 この曲のライヴテイクが1曲目のシングルCDに収録されていて、テンポは同じものの、もっとタイトでロックっぽいスリリングな演奏で、僕はこの曲を見直しました(嫌いではなかったですが)。
 それを聴いたのはリリース後1年くらい経った頃でしたが、このアルバムはやりすぎだったという彼らのコメントを後で聞いてそのライヴテイクを思い出し、それは彼らの思いを音として証明してくれたものだと感じました。
 決死の覚悟で列車に飛び乗るかのような、そして飛び乗った列車の速度が落ちてしまうかのような重たく引きずる曲。

 マイケルのヴォーカルも自己憐憫の塊、それはそれで至芸ともいえるのだろうけど。


 11曲目The Worst Joke Ever
 タイトルからして、悲しいなぁ。

 後になって、そうかこのタイトルはそのまんまこのアルバムのことを言いたかったのかな、というのは穿ちすぎでしょうけど。

 サビの部分で鳴り続ける鐘の音には厳かな気持ちにもなるけれど、この鐘の音が、良くも悪くもアレンジに凝って作り込んだ音楽であることを象徴しています。
 ところで僕も、今までの人生でひどいジョークを言ったことがあったんだろうなあ・・・


 12曲目The Ascent Of Man

 サビは"Yeah,yeah”を繰り返すだけなんだけど、その声を聴いて、最初の頃、僕はやっぱりマイケル・スタイプの声は好きじゃないかも・・・と思いました。 

 僕の友達Sは、声が好きなのが音楽を聴く絶対の条件であり嫌いなら聴かない、といつも言っていたのですが、でも僕はR.E.M.が大好きで聴いている・・・
 突然始まって突然終わるのが、なんだか気持ちの整理がついていない、という感じ。
 サビの対位法は心にしみてきます。

 それにしてもマイケルの"Yeah yeah"は悲しすぎる。

 Man On The Moonは、ニルヴァーナよりももっとたくさん"Yeah yeah"と言ってやろうという歌であり、亡くなったカート・コベインへのアンサーソングだという話を思い出します。

 この曲は普通の状態であればもう少しユーモアが感じられるのではないかな。

 そう、このアルバムは、ユーモアのセンスまでも切り詰めている感じがします。


 13曲目Around The Sun
 太陽を歌っていながらほの暗い感じがするのが、ザ・ポリスのInvisible Sunと共通するものがあります。
 曲自体も結構似た感じで、然るべき天体望遠鏡で太陽のフレアを見ていると気持ちがぐつぐつ湧いてくるような楽器の低音の音使いもそう。
 ずっと押し殺してきた明るい気持ちを、漸く少しだけ解き放つ時がきた。

 アコースティックギターで入っていきなり歌い始めるのは、そんな気持ちを感じます。

 曲の出来としてはこのアルバム随一でしょうね、つまり、作りとしてはR.E.M.で最高の1曲。
 じわじわっと盛り上がって、一度ブレイクしてから余韻を引きずるように、静かな、厳かな感じで終わるのが、その時の気分によっては、感涙もの。

 最後の最後で暖かく包んでくれる。 

 もうこれからは明るくなるだけ、よくなるだけ、というメッセージを感じることができます。



 さて。

 「好きにならなければいけない」なんて、大衆音楽に対してそこまでする必要はないのでは・・・自分でも、そう思わないこともないですね。

 好きな音楽を、聴きたい音楽を聴いていればいい。

 でも、大好きなバンドに対していち個人である僕が出来ることは、たとえ気に入らなくても聴き続ける、それしかありません。
 自分でも頭が固いと思うけれど。


 ただ、強調したいのは、僕はそれで、今までおそらく8割以上のアルバムを最終的には好きになっている、ということ。

 音楽は聴き込んでゆけばよくなるものだ、という単なる一般論かもしれないけれど、でも、そこに行きつくまで聴き込まずに放り出してしまうと、それすらも分からないですよね。


 このアルバムも聴き込んでゆき、1曲ずつ魅力を発見し、晴れて大好きといえるアルバムにはなりました。


 しかし一般的には、やっぱり重たくてふさいだという印象を受けるでしょうね。

 音楽に楽しさだけを求める人、楽しさが最重要であるという人であれば、これはだめかもしれない。

 重たいものを聴いてそこから這い上がろうという気持ちになれるならいいけれど。

 音楽として音の響きが素晴らしいのは確かですが。


 ただ、最後の曲で書いたように、これはまさに、重たいものを通り抜ければあとはよくなるだけというメッセージを確かに発している、そんなアルバムではあります。


 もうひとつ。

 このアルバム、いかにも冬って感じがしますね。
 それは、秋にリリースされて、冬に向かって聴いていたという当時の事情もあるのですが、それ以上に、音楽的に、冬、ですね。

 しかし、最後の展開は、春を待つ冬、つまりは今。

 聴き進めることでやっとここまで進んだ、長くて雪が多かった冬ももう終わるかな、という今の気持ちにはぴったりですね。

 


 2年前、初めての記事を上げた翌日、あの巨大地震と大津波、そして原発事故が起こりました。


 さすがに、2週間近く記事を上げる気になれなかった。

 しかも、「今に向かって崩壊する」というタイトルのアルバムの記事だっただけに、因果関係も何もないただの偶然だけど、なにがしかの後ろめたさも感じていました。


 普通にしていられることがどれだけありがたいか。

 あの時は多くの人がそう感じたことでしょう。

 僕もそう思えるようになり、BLOGを再開しました。



 今年も3月11日を迎えます。

 もちろん、あの時のことは忘れない、これからもずっと。