SOME NIGHTS ファン. | 自然と音楽の森

自然と音楽の森

洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。


自然と音楽の森-March08Fun


◎SOME NIGHTS

▼サム・ナイツ~蒼き夜~

☆Fun.

★ファン.

released in 2012

CD-0371 2013/3/8


 ファン.というバンドは、「ベストヒットUSA」を見るようになって知りました。


 グラミー賞が発表されたのはもうかれこれひと月近く前ですね。

 

 第55回グラミー賞2013において、Song Of The Year「年間最優秀楽曲賞」を受賞したのがファン.のWe Are Young (featuring Janelle Monae)でした。

 またバンドは「最優秀新人賞」も受賞。

 つまり、主要4部門と言われるうちの2部門で受賞したわけですが、でも、このアルバムは一応2枚目ということになっていて、その辺の規定はどうなっているのだろう。

 ちなみに今年は、新人賞以外の3部門は、彼ら、「年間最優秀アルバム賞」はマムフォード&サンズ、「年間最優秀レコード賞」はゴティエ(ft.キンブラ)と、みな違うアーティストが受賞しています。


 「年間最優秀楽曲賞」は、歌にこだわる僕としては最も重要視している賞であるから、これは買わないわけにはゆかない、と。

 

 その昔、マイケル・ジャクソンがTHRILLERで主要部門独占かと言われた年、ザ・ポリス(作曲者はスティング)のEvery Breath You Takeが「年間最優秀楽曲賞」を受賞してロックファンは胸をなでおろしたというのは、もはや語り草となっています。


 CDはまだ届いて数日、何度かしか聴いていないので、今回は印象記という感じの文章になると思います。


 3曲目We Are Youngから。

 ファン.のこの曲は、「ベストヒットUSA」で聴いて知っていましたが、僕が番組を見るようになった頃はもうチャートでは下降していたので、いわゆるサビの部分しか聴いたことがありませんでした。

 それでも、これは確かに歌として素晴らしい曲で、旋律が素晴らしい、買って聴いてみてもいいかなと思うほどでした。

 グラミーのノミニーが発表された時にも買おうかと思ったのですが、結局のところ発表後になりました。

 聴いてみて、実は、サビのゆったりとした部分の前に、ちょっと早口で歌うようなアップテンポの部分がついていて、割と急に曲調ががらっと変わる曲であることが分かりました。

 ううん、どうだろう、微妙に驚き、微妙にがっかり。

 ただ、慣れると、がっかりしたことをまったく忘れて、やっぱりいい曲だ、と(笑)。

 逆にいえば、そこが「楽曲」で受賞した部分なのだろうな、と。

 曲調が変わるけれど、無理はないんです。

 僕個人の思いからすれば、これは1980年代の名曲群にも引けを取らない、後に名曲と言われるであろう曲、それくらいのレベルだと思っています。


 順序は逆になりましたが、ここからはアルバムの曲順で。


 1曲目Some Nights Intro

 これはクイーンじゃないか!

 寂しげなピアノに乗って独白調で歌い、「ボヘミアン」風のコーラスが入る。

 ぱくり、とは言わないのか、クイーンの方法論をそのまま援用している。

 驚いた。

 というのも、僕は彼らに対して何のイメージも情報もないままCDを買ったので、まさかクイーンで来るとは。

 しかもうまい。

 そうか、そういうバンドだったんだ。

 遅くなりましたが、ファン.はアメリカの白人3人組のバンド。

 独白調の部分にはまた微妙にピンク・フロイドも入っていますね、具体的にはThe Final Cutかな。

 これを聴いて、反応は人それぞれでしょうね。

 たまたま聴いていた弟は、「クイーンか」と嘲笑交じりに話していました。

 先達へのオマージュ、それを完璧に再現できてしまうのはいい部分でしょう。

 でも、オリジナリティがどうかと言われると。

 ただ、ロックももう自分たちだけでたどり着ける「隙間」はもうほとんどなくて、それは聴き手と演じ手の共通理解として成り立っているのでしょうね。

 僕は、少なくともクイーンが大好きなことは一緒だから、少しの逡巡の後、これはこれでいいと思いました。

 イントロとついている以上2曲目の導入部ともとれるわけですが、でも実際に聴くと独立した曲であると感じます。


 2曲目Some Nights

 イントロを受けてアップテンポできわめてポップな曲が始まる。

 これはシングルカットしてベストヒットでサビだけ聴いて知っていました。

 いきなりコーラスで入るけれど、ここにはクイーンに加えてビー・ジーズも入っていますね。

 彼らの音楽も主に若者に向けて発しているものでしょうけど、1970年代が好きな世代にとっては、それだけでもうれしくなる部分です。 

 まあ、人によっては苦々しいでしょうけど・・・

 彼らはドラムス、というか打楽器が強く入っているのが印象的で、そこに独自性を感じます。

 実際にビデオクリップを見ると、鼓笛隊風の肩にストラップをかけて持ち歩くドラムス(すいません名前を知らないのです)を打っていましたし。

この曲は、もし3曲目がなくてもこれだけできっとこのアルバムはヒットしただろうなと思える一級品のポップソング。

 勇気が湧いていくる曲、僕はそんな曲は大好き。


 3曲目We Are Young (featuring Janelle Monae)

 音楽は確かにクイーンやその他の影響を濃く受けているけれど、でも、楽曲を書く才能やセンスはバンド独自のものだから、やっぱり、これだけ素晴らしい曲を書けるのはいいバンドだと僕は思います。

 ジャネル・モネイは、後半の子どものコーラス隊が入る部分で囁くように歌う人。

 そうそう、子どものコーラス隊を入れるというのは、昔からロックの「泣き落とし」の定番ですね。

 なお、「泣き落とし」は、それ自体(この場合は子どものコーラス隊)には悪意は一切込めていないですよ、念のため。


 4曲目Carry On

 彼らは基本的に歌メロが素晴らしい。

 サビがしっかりとしていてどれも口ずさめるものである上に、そこへの流れが見事、おまけに「おーおぅ」などの掛け声をうまく使っていますね。

 最初は寂しげなバラードだけど、まるで全市民に応援されるかのような暖かい盛り上がりを見せる曲に発展します。

 "Carry On"とは、クロスビー・スティルス&ナッシュを思い出させる、そのまま60年代70年代につながる曲名ですね。


 5曲目It Gets Better

 これはニューウェイヴの影響が強い、でもぎりぎりロックで留まっているところがいい。

 その辺の音は1980年代、もろに僕の時代ですね、ちょっと笑ってしまうくらいに。


 6曲目Why Am I The One

 エレクトリックギターの弾き語り風に始まるバラード。

 これはクイーンに「戻って」いるかな、Somebody To Loveが右の脳の右上辺りをかすめてゆく。

 特にサビの部分の歌メロと遊び心はフレディ・マーキュリーが好きなことがよく伝わってくる。

 

 7曲目All Alone

 リズムが少し跳ねていて、そこはやっぱり1990年代を経験した人たちだなと分かります。

 でも歌は1970年代。

 それにしても、まだ3曲残しているけれど、これほどまでに歌メロがいい歌を書ける、そのことに驚きました。

 

 8曲目All Alright

 アンセム風に盛り上がる感動的な曲で、7曲目で歌メロがいい曲が多いと書いたことを後悔、いや、後悔する必要はないか(笑)、驚きが尊敬の念に変わりますね。


 9曲目One Foot

 イントロのホーンのような、キーボードかな、その音が進軍ラッパみたいな、鼓笛隊風の曲で、アルバムとしての統一感を意識させられます。

 彼らはサウンドに凝っていますね、コンサートでどうするんだろうと思うけれど、でもそれはそれで別のやり方があるのでしょう。


 10曲目Stars

 9曲目から続けざまに始まるしっとりと落ち着いた、少し感傷的な曲。

 途中からボコーダーもしくはそれに類する電気処理で歌うに及んで、彼らの1970年代80年代音楽を楽しむ気持ちは「本物」だわ。

 少し前なら嘲笑ものだったのでしょうけど、やはり時代は巡るんだなあ。

 センスなのでしょうね、笑いものにならないというのは、まあ、恥ずかしいというかくすぐったい部分はあるにしても。

 

 11曲目Out On The Town

 これはボーナストラックですが、最後まで聴きやすくて口ずさめる歌メロの80年代風音楽で終わります。

 基本的には明るくてサビで盛り上がるというスタイルは共通しているので、次のアルバムもこうであれば一本調子ということになってしまうかもしれないという危うさはあります、正直。

 でも、そんな先のことを考える前に、このアルバムを楽しもうじゃないですか(笑)。



 お読みいただいた方には、焼き直し的なバンドだと思われるかもしれない。

 そうですね、繰り返しになりますが、ロックはもう方法論としてはほとんど余地がないところまできているから、それを認めたうえで個性を楽しむ、ということになるのでしょう。


 このアルバムの、このバンドの積極的にいい部分を挙げると、ポジティヴな姿勢が音楽全体を貫いていて、聴いていて前向きになれる音楽であることです。
 みんな今日も平凡な毎日を少しでも楽しくがんばろう、みたいな。

 そのことが、音楽を聴かされているというのではなく、自分もその音楽に参加しているような連帯感を覚えます。

 

 ただ、このジャケット、夜の部屋に美脚の女性と男性という写真は、実際に聴いてみるとこの音楽とは微妙にイメージが合わない気がしました。

 いかにも70年代80年代風でそこはうれしくなるけれど、REOスピードワゴン風かな(笑)、でも、もっと健康的なイメージが音楽には漂っています。

 性的表現についてはシビアで気にする人が割と多いですが、そういう人に対してこのイメージは損じゃないかなと。
 まあでも、それも遊び心なのでしょうね。


 正直言います。

 予想していたよりずっとよかった。

 期待値が低かった、どうせあの曲だけだろうと思っていたから、なおのこと。

 

 まだ車では聴いていないけれど、車にもよさそうだなあ。


 なにより、素晴らしい音楽、僕が好きになれる音楽がまだまだ新しく作られ続けていることが分かったのは、僕もほっとしました。

 さすがに、僕もまだまだ若い、とまでは思わないけれど・・・(笑)・・・