5150 ヴァン・ヘイレン | 自然と音楽の森

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自然と音楽の森-Feb20VanHalen5150


◎5150

▼5150

☆Van Halen

★ヴァン・ヘイレン

released in 1986

CD-0365 2013/2/20


 ヴァン・ヘイレン7枚目のアルバム。

 つい先日8枚目を取り上げたその流れで、サミー・ヘイガーが加入したこのアルバムも聴きました。


 誰かがいちばん好きなアルバムや曲って、気になりませんか?

 僕は、気になります。

 ネットでも実生活でもよく知った人であればもちろん、ネット上でたまたま見たどこの誰かも分からないかたでも、どうしてその人にはそのアルバムがいちばんなんだろうと考えるのは楽しいからです。


 このアルバムは、僕の弟が、すべてのロックアルバムでいちばん好きな作品です。

 本人も断言しています。

 ただし、アイアン・メイデンは弟には別格の存在なので除くようですが(笑)。


 どうしてかというと、弟が自分のお金で買った最初のLPだったから、というのが大きいようです。

 だから、純粋に楽曲の良し悪し以上に、思い入れのほうが強いのでしょう。

 まあ、思い入れが強くなればなるほど、純粋な良し悪しを冷静には判断できなくなるものですが。

 

 1986年だから、僕は浪人生、弟は中学1年。
 弟はそれまでも僕が聴く洋楽を耳にしていて、クイーンは僕が買う横から好きになっていき、洋楽への興味が高まった中でこのアルバムがリリースされました。


 買った日は、秋だったかな、まだ葉っぱがある頃。

 アルバムは3月にリリースされていますが、当時はビデオクリップを録画して観て聴いていたので、買うまでに少し時間がかかりました。

 僕は免許を取っていたので、夜に車で出かけて、札幌の狸小路にあった僕の行きつけのレコード屋「ディスク・アップ」に行き、僕は車の中で待っていて、弟が買ってきました。

 その後弟はメタル道を突き進むことになり(笑)、一方僕は相変わらずポップなアメリカンロック。
 まあ、そのおかげでお互い、聴くものが広がったともいえますが、


 ヴァン・ヘイレンは、かのポップス史上に残る名曲Jumpが収録された前作1984が大ヒット。

 それを受け、エンターテイメント路線の拡充を狙ったVoのデヴィッド・リー・ロスが、ビーチ・ボーイズのCalifornia Girlsなどオールディーズやアメリカン・スタンダードをカバーしたミニアルバムCRAZY FROM THE HEATを大ヒットさせ、それが元でメンバーの間に軋轢が生じ、デイヴはついに脱退。

 その後デイヴは、スティーヴ・ヴァイやビリー・シーンなど、名うてのテクニシャンを集めたスーパーバンドを結成し、アルバムが大ヒット、大好評のうちに迎えられました。
 ただ、失速も意外と早かったですが・・・


 一方「本家」ヴァン・ヘイレンは、デイヴの後釜に、アメリカン・ロックの「永遠のいたずら小僧」と僕が勝手に呼ぶサミー・ヘイガーをヴォーカルとギターに迎えました。


 当時、日本において、サミー・ヘイガーは、典型的な名前だけは有名という人でした。 

 僕も「ベストヒットUSA」で数曲を耳(と目)にしていたくらいで、「サミー・ヘイガーってあの「ふぃふてぃふぁあ~いぶ」の人でしょ・・・」という程度の認識でいました。
 サミーは、この前年かな、来日公演を組んだんだけれどあまりにチケットの売れ行きが芳しくないので中止になった、ということがあった人で、僕はそれを「FMファン」の記事で読んで、名前だけは知っていて大物だと思っていたので、そんな人でもそんなことがあるんだと驚いたものでした。

 もっとも、ごく普通の洋楽聴きの若者が名前だけ知っているくらいだからそうだった、ともいえるかもしれないですが。

 いずれにせよ、同時に、日本ではアメリカンロックは人気がないんだと分かってきたのもこの頃でした。


 だから、日本のヴァン・ヘイレンのファンは当時、サミーの加入に「困った」人も多いのではないか、と・・・
 僕は困りはしなかったけれど(笑)、コンサートが中止になった件を強烈に覚えていたため、そんな人が超ビッグバンドに入るとなると日本ではどう受け入れられるだろう、と。


 デイヴとサミーでは、音楽の方向性がかなり違うことは確かです。



 デイヴ時代のヴァン・ヘイレンの魅力は、楽曲の出来には目をつぶって、「悪ガキ」デイヴとエドワードのトリッキーなギターの絡みを楽しむ、そんなところではなかったかと。

 なおこれ、楽曲が「悪い」という意味ではなく、僕のいつもの言い方をすれば、「鼻歌で口ずさむような歌メロがいい曲が少ない」という意味。

 ノリとテクニックで圧倒し、さらにはステージでこそ魅力が分かる、一方で、レコードを通しては曲として訴えるものが少ない、そんなバンドだったと、僕は思っていました。
 ただし、かつてほど歌メロだけにこだわらなくなった今は、デイヴ時代のアルバムも好んで聴きます。

 

 僕は、ヴァン・ヘイレンはサミー時代のほうが好きだと、OU812の記事でも書きました。

 ライヴはそれはそれとして、僕はやっぱりレコードで聴くことを好むし圧倒的にその回数が多い人間だから、曲が、レコードでじっくりと腰を落ち着けて聴くようなしっかりとしたつくりになり、さらに曲の歌メロがよくなったのがその理由。


 ここでちょっと脱線して説明させていただくと、僕が文中で「レコード」と書いた場合、多くは、それは厳密に塩ビで出来た円盤に針を乗せて音を出して聴くLP、EP、12インチシングルやドーナツ盤のことではなく、「録音されたもの」という意味で使っています、ご了承ください。

 CDだって"recording"しますからね。


 話は戻り、サミーのアメリカンロック王道路線が、トリッキーなヴァン・ヘイレンの音楽と混ざり合い、うまい具合に僕の好みに入った、というのがこのアルバム。

 先ほど、弟はメタル道に走り僕はアメリカンロック路線へ、と書いたけど、考えてみるとサミー・ヘイガーが加わったヴァン・ヘイレンのこのアルバムは、そのどちらでもありますね。

 そのどちらでもあって、最高の出来を示している、そんな奇跡のようなアルバムでしょう。

 多分、アメリカンロックがあまり好きではないハードロック系が好きな人でも、これは抵抗があまりなく、少なく、聴けるのではないかと思います。


 そして僕は、サミー・ヘイガーという人には、聴いていくうちに人間的に引かれるようになった、ということも前回書きましたが、ほんと、ガーデニングの話をしてみたい(笑)。

 ともあれ、そんなわけで僕は、サミーの加入には、大拍手を持って迎えたクチです。

 ヴァン・ヘイレンとして心機一転を図ったこのアルバムは、プロデュースに、フォリナーのミック・ジョーンズを迎えています。
 彼は、ビリー・ジョエルも1枚この後で手がけましたが、フォリナーの音同様、ポップなロックを仕立て上げる名手ですね。

 ハードロックを聴き慣れていない人でも、適度に心地よいサウンドに聴こえる音ではないかな。


 このアルバムでいえば、ヴァン・ヘイレンが元々持っていた、エドワードのギターとアレックスのドラムスが作り出す、粘りがあって耳について離れない音が、さらに粘りが増して響いてくるような音になっています。
 

 ほんとにとってもいいアルバムです。

 というようなことを、弟に書いてもらいたかったのですが(笑)。



 1曲目Good Enough
 "Hello, Baby"というサミーの粘つくようなちょっと危ない声の「あいさつ」でスタート。
 オープニングにふさわしいアップテンポでパワフルな曲。
 喩えていうなら、レースのフォーメーションラップを見ただけで、ポテンシャルのすさまじさ予感させる、そんな感じの曲。
 つまり、始めから100%でやらない、そこがロックの醍醐味(笑)。



 2曲目Why Can't This Be Love
 こんな曲、今まで聴いたことがなかった!! というのが僕の最初の感想。
 ハードで、ブルージーで、ポップで、強くて、優しくて、そしてあくまでも正統的ハードロックを踏襲している。
 そんな曲が、1曲目でもなく3曲目でもなく、ましてやB面でもない、ここにあるのが効果てきめん!
 音源までもがライヴの映像だったプロモーションビデオもまた衝撃的で、彼らのやる気や本気度の高さを感じました。
 ヘッドギアをつけてギターをかき鳴らしながら歌うサミー・ヘイガーの姿に、完全にノックアウト。
 デイヴ時代には出せなかった「凄み」が、そこにはありました。

 ただ、上述のように僕は暫くはビデオクリップを録画して聴いていたので、レコードのヴァージョンは音が微妙にまろやか過ぎたのが最初は不満でした。

 逆にいえば、あのライヴ音源はそれだけ衝撃的だったということ。

 前半は行き詰るような展開が、サビにはいるとふっと気持ちが楽になったかのように流れていく曲の展開が絶妙であり、もちろん歌メロも素晴らしいのひとこと。



 3曲目Get Up

 これははっきりスラッシュ・メタルですね!
 当時はスラッシュ・メタルがそろそろ本筋に合流しつつある、そんな時代でしたが、ベテランの域に入りかけた彼らは、そんなの簡単さ、とでもいわんばかりに、さらりと、しかし他のどんなバンドよりも熱っぽくやってみた。
 そんな彼らは最高にクール! 
 サビのすっとんきょうなヴォーカルラインと、さらにその上から被さるマイケル・アンソニーの超高音コーラス。
 誰か彼らを止めてあげてぇ! という危険すれすれのノリ。
 彼らが紛れもない超一級であることを物語る曲。



 4曲目Dreams

 弟がいちばん好きな彼らの曲がこれ!

 後のライヴ盤でもこの曲のビデオクリップが作られて、それがまた素晴らしかった。
 テンポは速めだけど雰囲気はバラード風の、メロウな、旋律が美しい、しかし力強いポップソング。
 この、メロウだけど力強いというのが、サミー時代の彼らの特徴かもしえません。
 もちろんそれを可能にしているのは、サミーの、温かみがあるハイトーンヴォイス。
 この曲の高揚感はたまらない!
 ロック史に残る名曲といって差し支えないでしょう。



 5曲目Summer Nights

 サミー・ヘイガー色と(それまでの)ヴァン・ヘイレン色がうまい具合に絡み合ったミドルテンポの明るいポップソング。
 どことなく、どことなくウェストコーストサウンド風、1960年代風、もっとさかのぼって「アメリカン・グラフィティ」のサントラ風の曲で、彼らがアメリカンロックの脈略の上にいることが分かる曲。



 6曲目Best Of Both Worlds
 サミー・ヘイガーは、マイケル・アンソニーの声を聞いて、「俺より声が高いやつがいるなんて信じられなかった」という話は前にも紹介しました。

 この曲のサビはまるで、サミーとマイケル、どっちが高い声を出せるか競っているようで、なにをアホなこと競って、血管切れるんじゃないのかな、と心配にもなってしまいます(笑)。
 曲自体は、ギターリフを活かしたオーソドックスなハードロック。
 


 7曲目Love Walks In

 このアルバムでは唯一のバラード。
 といって、中間部は少しテンポが速いけれどDreamsともつながる部分があるこの路線はやはりサミーがもたらしたものか。
 今までハメを外しすぎたのを反省するかのようにしっとりと、落ち着いて聴かせるバラード。
 泣きも入って、これは美しい曲ですね。

 キーボードが主体なのは、まあ時代を感じさせる部分ではありますね、シーン全体としても、彼らとしても。

 彼らはこの後、バラードの名曲も生み出しますが、この時点で、それが予感できた曲でもあります。



 8曲目"5150"
 「5150」とは、ロス市警の隠語で「犯罪予備軍」という意味なのだとか。
 この曲は、当時は時代の趨勢だった「LAメタル」っぽい、からっと爽やかで明るく楽しい曲。
 しかしそこが、彼ら独特のアイロニーなのかもしれません。
 曲としては、いちばん旧来の彼ららしい曲ではあります。

 ちなみにこの記事は、20時51分50秒に上げています(笑)。



 9曲目Inside

 人間の内面的な弱みをえぐるような不気味な曲。
 ・・・なんだけど、特にマイケルの高音コーラスが入ると、不気味というよりは、その世界に楽しく誘っているようにも聴こえる。
 語りも交えて淡々と曲は進み、まるで、「レディオ・ステーション・バッドガイ」のジングルのようでもあります。
 アルバムがそのまま終わるのも余計にジングルのように感じます。



 聴き終ると、ハードでありながらもポップであり、ちょっと毒づいた世界にすっかり魅了されていることでしょう。


 今聴くと、このクオリティでこの曲数、43分という時間、ちょっと少なすぎて、あっさりと終わる感じがして、
もっと聴いていたい、と思わざるを得ません。

 実際、今記事を書くのにCDをかけても、やっぱりあっという間に終わった感がありました。

 まあでも、何事も「腹八分」がいい、もっと聴きたいけど、と思わされるからこそ、このアルバムは余計に素晴らしいのでしょうね。 



 というわけで今日は、どこかの誰かがいちばん好きなアルバムのお話でした。