PIECES OF YOU ジュエル | 自然と音楽の森

自然と音楽の森

洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。


自然と音楽の森-Feb17Jewel1st

◎PIECES OF YOU

▼心のかけら

☆Jewel

★ジュエル

released in 1995

CD-0364 2013/2/17


 ジュエルのデビューアルバムが今回のお題。


 ジュエルのGREATEST HITSが出ました。

 本来ならそれを取り上げるべきでしょうけど、どうもねえ。


 ベスト盤は、編集や選曲について人それぞれ言いたいことがあるものでしょうけど、ジュエルのベスト盤は、正直、僕が最近聴いた中では群を抜いて言いたいことが多かった。

 基本はシングル曲を並べているものだけど、ジュエルはシングルとして強烈に心をつかむ曲があまりない人だなあ、と再確認できたくらいのもの、もちろんいい曲は多いんだけど。


 ジュエルはやっぱりアルバムで聴く人だ、ということも再確認。

 というわけで、ベストを買って聴いた翌日から、また1枚目を引っ張り出して聴いていて、そのまま記事にたどり着きました。


 ジュエルのこれが出た頃は、UNPLUGGEDの流行がひと段落し、流行から定番になりかけていた、そんな頃。


 僕は、流行は、知らないと気が済まないけれどそれには乗らない、というタイプ、基本は。


 でも、UNPLUGGEDだけはもろ手を挙げて歓迎していました。

 実際、UNPLUGGEDは、アコースティックギターによる音楽のよさが再評価され、その後の音楽に大きな影響を残したことから、流行だけで終わらなかった、それだけ重要な動きでしたから。



 ジュエルは、本名Jewel Kilcher ジュエル・キルヒャー、苗字も顔立ちも、いかにもドイツ系といった趣き、1974年アラスカ生まれ。
 

 アラスカ出身の有名人というのを僕は、彼女と「新スタートレック」のライカー副長くらいしか知りません(笑)。

 

 アラスカ出身ということが、果たしてどれだけ彼女の音楽に反映されているか。

 なんとなくひんやりとした手触りの音楽であるとは感じますが、それはアラスカではなくても、そういう人なのかもしれません。

 都会的な雰囲気の音楽とはいえない、ということも、アラスカだからということはないでしょう。

 彼女の感受性の鋭さは、育った環境からの影響があるのかもしれない。

 と考えて、やっぱり、特にアラスカだからというイメージはないかな、そう思いました。 

 なんだか無駄に話を長引かせてしまたようですいません・・・

 

 彼女の魅力はなといっても、「エンジェル・ヴォイス」、「レインボー・ヴォイス」。
 基本的にはややハスキーな甘い声で聴く者を、特に男性を魅了します。
 はい、僕は魅了されました(笑)。
 いろいろな声を出して表情豊かに聞かせるのも特徴で、時には、もうすっかり死語ですが(笑)「ぶりっ子声」、時には情け容赦ない厳しい声、時には裏返った声、そして時には声楽家のように美しい声。
 それらの声を、曲によって、または同じ曲でも展開によって使い分けているのが、彼女のヴォーカルを聴く楽しさのひとつでもあります。

 上手さというよりも、表現力では、ここ20年で出てきて売れた女性歌手では群を抜いていると思います。


 音楽的にいうと、このデビューアルバムはほぼ完全なフォークです。
 実際にギター1本で弾き語りをしたライヴテイクも収録されていますが、このアルバムでは他の楽器が加わっても基本はフォークであることを強く感じられます。

 そして1970年代前半の「狭義の」シンガーソングライター路線を20年後に焼き直した、といった趣きの音楽でもあります。

 

 ただ、ジュエルは、割と早く、というか2作目でもうフォークを基調としたポップスに路線を変更してしまい、それはそれで僕は好きだけど、詳しくはそのアルバムの話の時に。


 このアルバムは、そうしたスタイルでもあり、デビューアルバムでもあるせいか、かなり自伝的な内容のメッセージ性が強い音楽になっています。

 歌詞を具さに追わなくても、曲名や曲の中で繰り返し出てくる歌詞(リフレイン)を聴けばそれが感じられます。

 まあ、フォークという音楽、そしてシンガーソングライター自体が、大なり小なりそういうものだとは思いますが、このアルバムはそういうフォークの土台の上にしっかりと立っていることは、すぐに感じ取れます。

 或いは、1970年代の狭義のシンガーソングライターらしさが漂っており、20年後にそれを再現してみたといった趣きもあります。


 フォーク弾き語りであるため、アレンジよりも歌詞と曲そのものの比重が高くなるのは当たり前ですが、アコースティックギター弾き語りが好きで、声が好きであれば、きっと満足いくに違いありません。


 あ、顔が好きというのももちろんOKですよ(笑)、ちょっと冷たそうな顔だけど、きれいだし。

 でも、僕は、決して顔から入ったわけではないのですよ・・・


 ただ、歌い方が、このアルバムはまだいいけれど、だんだんと「私は上手いんだ」というように感じさせれるようになってきたきらいがあって、そこが鼻につく人は受け入れられないかな。

 なんでだろう、あまり笑顔が似合わないクールな顔つきだからかもしれない。

 シェリル・クロウみたいに「みんなおいでよ」というのとは正反対の雰囲気を持った人ではあります。


 1曲目Who Will Save Your Soul
 緊迫感溢れるイントロからスタート。

 ひとことでいえば、ファンキーなフォークソング。
 これはソリッドで攻めてくる感じがするかっこいい曲ですね。
 音的に無駄な贅肉はそぎ落とされていることもあって、この鋭さ、強さは特筆もの。
 タイトルのせいか、ソウルっぽい響きも感じますが、歌い方はいわゆるソウルではなく、最初から彼女のレインボーヴォイスが炸裂し、フレーズにより声がこんなにも違うのかと感嘆します。

 まるで平手打ちをするように歌ったかと思えば、ハミングでは無防備に甘える声を出す。
 聴いていても、自分で口ずさんでも、まさに魂に響いてくる、これぞ名曲といっていい曲。

 間奏が終わって歌に戻る前のファンキーな音色のピアノがとても印象的ですが、この曲と10曲目には、"The Stray Gators"こと、スプーナー・オールダム(Key)、ティム・ドラモンド(Bs)、オスカー・バターワース(Ds)、Warner系御用達の腕利きのミュージシャンが参加しています。



 2曲目Pieces Of You
 「彼女は醜い・・・だけどそれもあなたの一部」と、"faggot""jew"など次々と例を挙げて、人間はみなそういうものだと説いてゆく、彼女の人間観察の鋭さを示す曲。
 たおやかなバラード調のソフトな曲なだけに、メッセージの重たさをより強く感じます。

 そういえば、ジャケットにはこんな文句が書かれています。

 "what we call human nature in actually is human habit"

 「わたしたちが「人間性」と呼ぶものも実際のところは(ただの)癖である」

 「心のかけら」という邦題はいいですね、僕がリアルタイムで接したアルバムの邦題ではいちばん合っていていいと思います。

 これはライヴ録音で拍手が最後に入っています。

  


 3曲目Little Sister
 急いて歌うのが印象的なアップテンポの曲。
 "Knock, knock, knocking"と歌うのは、ボブ・ディランのかの名曲を彷彿とさせるもので、彼女がアメリカのフォークの流れの中にいることを、聴き手に強く意識させます。
 同じくライヴ録音。



 4曲目Foolish Games
 10曲目とのカップリングでシングルカットされ、両面とも大ヒット、両方でおよそ1年の長きに渡ってチャートインしていました。
 この曲、シングルではキィも違う、まったくの別バージンに差し替えられていますが、こちらはオリジナルバージョン。
 哀愁漂う、劇的な、透明感ある、神秘的な響きの曲ですが、この手の曲にありがちな「アイリッシュ」「ケルト」香が、あまり感じられず、むしろ北欧的感じがします。

 ビデオクリップの彼女も、まるで妖精のような雰囲気、ある意味恐いけど。

 でも歌詞はむしろ現実的なもので、要はあなたの言葉にわたしは傷つく、というもの。

 "You loved Mozart"というくだりがあり、彼女の音楽的素養がフォークのみならず幅広いことをうかがわせ、それがこの北欧的な響きになっているのかもしれません。 

 北欧とアラスカは、緯度が高いという点では共通したイメージが、ないではないですね。

 これは稀代の名曲。

 なお、この曲のシングルエディットは、ジャケットが上の写真とは違う現行の日本盤とEU盤にボーナストラックで収録されています。



 5曲目Near You Always
 青春ドラマ風の切ない曲を、戸惑った、ためらったように歌う。
 それもそのはず、好きな人に対して強がりをいいつつ、ほんとは好きなのよ・・・と。
 それにしても、ここまで素直じゃないというのはなんだか・・・ま、いっか(笑)。
 そこが逆に人間心理の、そして曲の面白い部分ではあります。



 6曲目Painters
 延々と語り続けるような、まさに弾き語り。
 といいながら実はストリングスが薄く入っています。
 曲の抑揚があまりなく、気持ちは表れているんだけど、この中ではいちばん印象が薄い曲かなぁ・・・

 ところで、ノラ・ジョーンズもデビュー作でPainter Songを歌っているけれど、絵描きというのはいろいろと刺激されるのでしょうね。



 7曲目Morning Song
 朝のけだるい雰囲気が漂う軽い感じの曲。
 明るいようで切ない歌メロは素晴らしく、かつ展開がうまい曲で。
 だけど、かわいらしい声でずっと歌ってきてから、力強く「ベッドに戻ろうよ!」と歌うのは・・・
 聴いていてちょっと気恥ずかしくなる、かな。
 その部分の旋律は印象には残りやすいことは確かだけど。

 そこに続く部分で旋律も裏に入り込んだ上に裏声で歌う部分が、ちょっと古いフォークソングを彷彿とさせていい。


 

 8曲目Adrian
 ひとつの物語をゆったりと、切々と語りかける、「フォークシンガー」ジュエルの真骨頂。
 閉じこもっているエイドリアンを助けたい、という歌のようで、"Adrian come out and play"という歌詞が胸にぐっと迫ります。
 この曲は旋律もメリハリがあって親しみやすく、かつBメロでやはり旋律が裏に入ったところを裏声で歌うのはもはや彼女の得意技、切なさ満開。

 ところでジュエルは、"h"の音が母音の前によく入る人で、ここでは時々「ヘイドリアン」に聴こえますが、「マイ・フェア・レディ」のレックス・ハリスンの先生には怒られるでしょうね(笑)。

 なお、これと10曲目のみ、ジュエルと他のミュージシャンの共作。



 9曲目I'm Sensitive
 跳ねるような8ビートのギターの演奏が印象的。
 途中、微妙にテンポが上ずってくるのが、揺れる心を表すかのよう。
 ジュエルのギターテクニックはあくまでも伴奏といったものでしょうけど、この辺のギターでの聞かせかたには味わいがあります。
 この中ではいちばんかわいい感じがする曲ですかね。

 


 10曲目You Were Meant For Me

 僕が90年代でも五指に入るくらいに好きな曲。

 先ほど、ジュエルはシングル向きの曲があまりないと書きましたが、この曲は最初にMTVで観て聴いて「えっ、誰々この人、この素晴らしい歌」と思い、すぐにシングルCDを買いました。

 彼女の場合、一発屋とはいわないけれど、最初のヒット曲があまりにも素晴らしすぎるために、だんだんとつまらなくなってきたと感じられたのかもしれない。

 実際、この曲を聴かされるとそうなるのは仕方ないですね。

 僕のようにアーティスト自体を大好きになればそれは乗り越えられるけど、あくまでも、「大量消費材」としてのポップスを聴く人であるなら。

 それにしても、"Dream lasts for so long, even after you're gone"というサビの"gone"の部分の歌い方が、声が、もう最高に好きで、そこだけ繰り返しずっと聴いていたい気分の時があるほどだし、そこは自分で歌っていても感動します。
 

 ですが、実はこれ、シングルとアルバムでヴァージョンが違います。

 アルバムのほうは元々作ったものだけど、彼女の歌い方がこなれていなくて、サビの部分では泣きそうに聞こえたり、声がポップス的というよりは声楽的でしかも未熟だったりと、まあ初々しさを感じるものとなっています。

 一方でシングルヴァージョンは気持ちに余裕が感じられ、普通にポップス歌手っぽく歌い、しかも普通より上手い。

 演奏も、腕達者のスタジオミュージシャンを集めたプロのポップスの演奏で、特にベースが目立つようになっています。

 僕はシングルを先に聴いていたので、MTVも同じですが、後からアルバムを聴いて、この違いに正直、最初はがっかりしました。

 今でもアルバムヴァージョンのほうが好きだけど、それは僕がヒットチャートを聴いて育った人間だからでしょうね。

 なお、これもUS盤はアルバムヴァージョンのままですが、現行の国内盤とEU盤はシングルヴァージョンに差し替えられています。

 しかし、差し替えられたオリジナルヴァージョンはそれらには入っていないので、国内盤とEU盤はオリジナルのアルバムヴァージョンを聴くことができないということになっています。

 ただし、シングルヴァージョンは他とはサウンドプロダクションが違い、音がクリアで、差し替えられたCDは全体を通して聴くとこの曲だけ違和感があるかもしれません。

 逆をいえば、特にライヴ録音のものは音がくぐもった感じであまり録音状態がよくない、ともいえるのでしょうね。

 まあしかしそれは仕方のないことだと思います。

 このアルバムについては、音よりも圧倒的に曲の力が勝っているから。

 

 この曲には個人的な思い出もあります。

 30歳を過ぎた頃、中学時代からのビートルズが好きな友だちが結婚式をする際に、式で流す洋楽を幾つか集めてカセットテープに録音して送ってほしいと言われました。

 当時はまだカセットでしたが、90分テープいっぱいに集めてOに送りました。

 その中にあったこの曲をOはとても気に入り、新婦がご両親に手紙を読むところで使うことになりました。

 僕も式に呼ばれて行きましたが、確かにとても合っていて、ご家族も涙を流していました。

 

 ともあれ、この1曲でジュエルはポピュラー音楽史に名を残す、それほどの名曲中の超名曲だと思う、いや、思うではなく、超名曲です。

 

 11曲目Don't
 前の曲で盛り上がった反動の、とても静かな曲。
 静かで特に盛り上がりもないんだけど、決めの歌メロは印象的で、何か心に重たいものが残る曲。


 12:Daddy
 続いて同じような感じの静かな曲。
 なんとなく、「北の国から」の挿入歌のような雰囲気がするのはなぜだろう(笑)。
 こちらもライヴ録音。


 13曲目Angel Standing By
 小さい頃から音楽に囲まれて育った彼女。
 これはまるで賛美歌のような美しさ。
 そしてそれを歌うのは、透明感あふれるまさに「エンジェル・ヴォイス」。
フォークの域を少し脱した、音楽性の広さを感じます。


 14曲目Amen
 最後は、祈りを捧げるような神々しさがある、まさに讃美歌のような曲。
 或いは、世の中を憂うような深刻な響きの曲。
 考えてみれば、「ベッドに戻ろう」という曲があるかと思えば、こんな曲もあるというのが、一貫性がないというよりは、その時の気持ちを素直に歌っている、と、とりたいですね。

 或いは、世の中のこと、人間の行動をよく観察しているというか。

 思いの大きさに耐えられないかのごとく、消え入るように曲が、アルバム本編が終わります。


 なお、国内盤ボーナストラックには15曲目Emily収録。

 映画「クロッシング・ガード」に提供した小品で、さびの部分はいい盛り上がりを見せます。
 その映画は俳優のショーン・ペンが監督で、ペンはYou Were Meant For Meのビデオクリップの監督もしていて、その関係もあるのでしょう。
 というか、当時付き合っていたという噂もあるのですが・・・


 ところで、ジュエルは、"heart"のような「アー」という発音の後にtがつく言葉を歌うと、「ハーィト」と「ィ」が入るのが特徴です、耳につくというか。
 なんでそうなるんだろうと思い自分で試しに歌ってみると、「アー」と発音している時に舌の奥で喉を狭くするとそういう音が出ることが分かり、納得しました。


 このアルバムはうちに5枚あります。

 1枚目は最初に買ったUS盤、You Were...はオリジナルで差し替えられておらず、ボーナストラックもないもの。

 2枚目はYou Were...がシングルヴァージョンに差し替えられた国内盤でジャケットが写真とは違うもの。

 3枚目はブックオフで見つけたカナダ盤で内容はUS盤と同じだけどピクチャーCDになっているもの。

 4枚目はやはりブックオフで見つけた初期の国内盤で、You Were...はオリジナルでジャケットもUS盤と同じもので、今となってはこれは貴重かも(笑)。

 5枚目はネットでたまたまYou Were...が差し替えられていると知った現行EU盤で、ジャケットはこれとは違うもの、新品をつい最近買いました。



 僕が最初にこのアルバムを聴いた時は、それまであまり聴きなじんだスタイルではない音楽だったので、ざらざらした手触りで心の抵抗も大きかった。

 でも、それからいろいろな音楽を聴くようになり、今ではむしろ中心に近いポップなフォーク、ある意味ロック、という1枚ですっかり定番となっています。


 90年代もいいアルバムが多かったんだよなあ、ということをいまさらながら再確認させてくれる、今回聴いてそう感じました。

 このアルバムの曲はかなりの高水準で、いい旋律の曲がずらりと並んでおり、90年代でも屈指の出来と断言していいもの。

 僕は、名盤、と言いたいのだけど、前に僕は「名盤とは誰かが決めるものではない」と自分で書いてしまった手前、それは言わないでおきます(笑)。