◎LIVE AT LEGENDS
▼ライヴ・アット・レジェンズ
☆Buddy Guy
★バディ・ガイ
released in 2012
CD-0363 2013/2/15
バディ・ガイの新譜はライヴにスタジオ録音を追加したアルバム。
バディ・ガイね。
なんてとんでもないおっさんなんだろう!
それが最初の感想。
1曲目から8曲目までは、シカゴにあるバディ自身が経営するお店、BUDDY GUY'S LEGENDSにおけるライヴで、2010年1月29日と30日に録音された音源です。
シカゴといえばブルーズの本場であり、バディ・ガイが1950年代から活躍し続けている街でもありますが、このバディ・ガイのお店は今では観光名所のひとつにもなっているようです。
そうであるなら行ってみたいですね、シカゴ。
今から3年前の録音ですが、1936年生まれだからそれでも当時74歳。
ええっ、今年77歳なんだ。
僕がバディ・ガイを初めて聴いてファンになったアルバムが「70歳の若造」だったけれど、こんな70歳が身の回りにいたら、畏敬の念を抱く、もちろん尊敬するけれど、それ以上に恐いですよ、きっと。
バディ・ガイのギターは昔から攻撃的で「ブルーズ界のジミヘン」と呼ばれたそうですが、その攻撃性はまったく失われていない。
その上、ヴォーカルにはますます磨きがかかり、艶やかになり、張りつめている。
僕もバディ・ガイを聴くようになって、ある程度のものは予想していたんだけど、ここまで凄いとは、もうやられました、とひれ伏した上で、「とんでもないおっさん」と言うしかない、そして苦笑いをするだけ、そんな気持ちになりました。
音楽に手を伸ばしたところ、逆に放り出されたような感覚でもありますね。
ちなみに、裏トレイの写真では、ピンクのスーツを着て白いストラトキャスター(メイプルネック)を弾くバディの写真がありますが、もう全身がオーラの塊といった押しの強さを感じます。
1曲目の前にイントロが入っていて、司会者がバディを紹介します。
その中で、バディを"The baddest M.F.in this town"と称していて笑ったのですが、でも、"baddest"って向こうでも俗語では使うんだとそこは妙に感心しました。
2曲目Best Damn Fool、事実上の1曲目から自分を貶めつつ「最悪」であることを高らかと宣言。
ギターが吠える、叫ぶ、荒れ狂う。
後半のマーティ・サモンのピアノもギターに負けじと乱れ咲きといった鳴らしよう。
曲はスタジオアルバムで最新のひとつ前のSKIN DEEPからのものですが、このライヴの当時は最新作からということになります。
そのせいか、モダンブルーズを通り越してブルーズロックの本格派といった響きの曲です。
3曲目Mannish Boy、これはよく知られたマディ・ウォーターズの曲。
いわばシカゴの心のような曲でしょうからね。
客の様子ですが、音で聴く限り、演奏で盛り上がる部分は呼応して湧いていますが、それ以外は割と音楽に集中しているように感じられ、バディ・ガイの引力の強さを感じます。
4曲目I Just Want To Make Love To You、マディー・ウォーターズが続きます。
多分これ、ロックでいえばベタ、というやつなのでしょうけど、純粋にブルーズに、音楽に向き合う人にはそれは関係ない、いい曲はいい、ただそれだけ。
タイトルの言葉を会場の人が歌うのはさすが、僕も歌えるようにしておかないと(笑)。
演奏はリズムがかなり切れ込んでいて新しく、シカゴブルーズからさらに先に進んだバディの姿をよく表しています。
5曲目Skin Deep、前述のように当時の最新作の表題曲。
ソウルという音楽がありますが、魂で歌うことと音楽としてのソウルは違う、でもやはり魂は伝わってくる、そんな味わい深い歌い方で、会場はきっと感動の渦に包まれていたことでしょう。
"Skin deep"とは、"deep"とついていながらも「上っ面だけ」という意味だそうで、「俺は上っ面だけなんだ」と気持ちを込めて歌う。
そうではない、と、本人も自負しているし、周りの人も分かっている、その姿勢はロック的でもあり、英雄的でもありますね。
シタールのような響きのギターの音が印象的。
6曲目Damn Right I Got The Blues、これは1991年のアルバムの表題曲で、80年代にはブルーズが、バディ・ガイが消えかけていたところ、ロック系のアーティストの助けを借りて大復活を遂げた作品。
これがまた、まるで切れてしまったかのように素っ頓狂な声を出して歌う。
CDで聴いてこれだけ驚くのだから、会場で見て聴くと、立っていられないほどの衝撃を受けるかもしれない。
ギタープレイもここにとどめを刺す。
この曲は会場が盛り上がっていて、会場とのやりとりでひとつの曲が出来上がっていると感じる。
僕はバディ・ガイを聴き始めてまだ3年目くらいだけど、この曲は最近のバディを象徴する曲として認知されているのかな、きっとそうだろうなあ、そして本人もそうだと認識している。
それにしても自嘲的なタイトルの曲が多いこと(笑)。
「んったくもう、俺にはブルーズがありやがる」
7曲目Boom Boom / Strange Brew
前半はジョン・リー・フッカーの曲でヤードバーズも歌っていた。
ただし導入部だけで終わり、なんだか音が小さくゆったりとした演奏に変化し、それがStrange Brew。
こちらはクリームの曲で、ということでエリック・クラプトンつながり。
エリックはやっぱりブルーズメンからみるとかわいいのかな(笑)。
ここでのバディは細く小さい声で、多分マイクから少し離れて歌っているけれど、なぜか弱弱しい感じがしないのがまたいい。
8曲目Voodoo Chile / Sunshine Of Your Love
ライヴの最後、前半はジミ・ヘンドリックス。
バディは「ブルーズのジミヘン」と呼ばれたそうだけど、それは逆じゃないか、と言いたい気持ちはよく分かる。
ワウペダルを使った(多分)ギターソロに続いて、最後にSunshine...の有名なギターリフへと流れて曲は終る。
1960年代後半、英国でブルーズロックが大爆発。
ブルーズはそのあおりを食って傍流になりかけましたが、でも、ここでこうしてクリームを2曲取り上げるというのは、今となっては逆にブルーズが新たな力を得て生きながらえたのはブルーズロックがあったから、という認識に立っているのかもしれない。
演奏がフェイドアウトで終わるのがちょっと残念だけど、ブルーズを越えた音楽の塊、ロックともいえる魂のライヴが終わります。
9曲目Polka Dot Love
バディ・ガイとトム・ハンブリッジによる新曲。
コンサートは結局のところ古い曲もモダンな響きで通していたけれど、スタジオ録音で先ずはオーソドックスなブルーズに戻っています。
でもやっぱり、ギターは唸りを上げ続けていますよ。
10曲目Coming For You
一転してモダンな響き、跳ねるリズム。
サビのタイトルを歌うところが印象的で、バディ・ガイのポップでロックな路線の基本といったところか。
メンフィス・ホーンズが入っているけれど、ギターに押されて控えめな響き、でもそれがかえってセンスがいいと感じられます。
11曲目Country Boy
最後はゆっくりと、ゆったりと、粘るだけ粘ったブルーズの真髄を聴かせてくれます。
ヴォーカルの説得力が、年を追うごとに深みを増しているように感じられます。
歌手として、幾つになっても成長できる、だから「70歳の若造」なのでしょうね。
ジャケットの全体に青いアートワークが新鮮であり、それこそ"blues"を表していています。
誰もが考えそうだけど、今、これをできるのは、バディ・ガイだけ。
バディ・ガイ。
はっきり言って、奇跡のような人です。
若い頃ももちろんその名を轟かせたであろうことは話しとしては聞いているけれど、それがただの伝説では終わらない。
その伝説が生きている。
年を追うごとに力が増している。
僕たちは、バディ・ガイの音楽を聴くことにより、伝説がさらに大きく深くなってゆくことを感じながら生きているのです。
ブルーズに、ギターに、ヴォーカルに、圧倒される、制圧される、そんな凄いCDです。