M.P.G. マーヴィン・ゲイ | 自然と音楽の森

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自然と音楽の森-Feb23MarvinGayeMPG


◎M.P.G.

▼M.P.G.

☆Marvin Gaye

★マーヴィン・ゲイ

released in 1969

CD-0366 2013/2/23


 マーヴィン・ゲイのスタジオ録音による9枚目のアルバム。

 

 当時のマーヴィン・ゲイはまだモータウンのいち歌手でしたが、このアルバムを聴いてゆくと、後のシンガーソングライター路線への足掛かりというかヒントになったことが感じとれます。


 具体的にいえば、細かなサウンドに凝っているところが、ただいい声の歌手がいい歌を歌う以上の音楽としての聴かせかたを意識して作っていると感じられます。


 このアルバムはまだ自作曲はなく、プロデューサーも当時作曲家としても頭角を現してきたノーマン・ウィットフィールドが務めています、そして演奏はザ・ファンク・ブラザース。


 データを見る限りでは、マーヴィンはほんとに歌っているだけ。

 だからこそ、このアルバムを作って、自分でもこんなサウンドを作りたいという欲求が高まり、会社と衝突したことは想像に難くありません。

 

 それだけ、音楽として、アルバムとして素晴らしいできということ。


 僕は1960年代「歌手時代」のマーヴィンは、3年前に紙ジャケSHM-CDを買い集めて漸く聴くようになったくらいで、代表的な曲はベスト盤で知っていても、どんな作品が出ていたかすら3年前まで知りませんでした。

 

 僕は、集めると決めた以上は集め切りたい性格で、特にオリジナルアルバムであるこれは重要な作品であるらしいから、買わない、という選択肢はそこでなくなります。

 このアルバムは、買った当時は僕が知っていた曲が入っていなかったので、アルバムとしてどうなんだろうと、よくないほうの期待が少し入ってしまいました。


 だから余計に、買って聴いてみて、いいほうに大きく期待が裏切られたのでしょう。


 ちなみにこれはブックオフで1750円で見つけた上にその日は20%OFFセールをしていたので、運がよかったともいえます。

 中古で見つけると、そのCDは自分に聴いてくれと呼びかけているんだな、と思いますよね(笑)。


 今回は、1曲ずつ、この曲のどこが凝っている部分、いい部分、素敵な部分かに特に注目して聴いてゆきます。



 1曲目Too Busy Thinking About My Baby

 堰を切ったようなイントロからすぐにマーヴィンが「あははぁ~あっ」と一声、まずそこで心を捉まれ、マーヴィンはいきなり、少しソフトに、少し力強く歌い始める。

 Bメロに入る前に、それまで単調だった歌メロが"To where the rivers flow"といったところで急に、それこそ川が流れるように展開するのが強く印象に残ります。

 そこを含め、曲の流れがいいですね。

 後半で"Some kind of wonderful"と歌う部分は、グランド・ファンクやヒューイ・ルイス&ザ・ニュースがカヴァーした(バッド・カンパニーのCan't Get Enoughと似ている)ドリフターズの曲のその部分に似せて歌っているのは、偶然とは思えない、ある種のオマージュといえるでしょう。

 この曲はポップチャートで最高4位の大ヒット、ということはということはベスト盤で僕は耳にしていたはずだけど覚えていなかった・・・


 2曲目This Magic Moment

 このアルバムを聴いたのは直接的にはアーロン・ネヴィルが新譜でこの曲を歌っていたこと。

 マーヴィンもドゥワップが大好きだったそうで、この曲はしっかりと自分のものにしていますね。

 アーロンの記事でも書いたけど、この曲は20年くらい前にタバコのCMで使われていたのを覚えていて、3年前にこのCDを聴いて、ああこの曲だったか、とつながりました。

 この曲はギターの音が、なんだろう、ふわっとした音になるエフェクターをかけていて(僕はギターを弾く割りにエフェクターは使わないのでほとんど知らない・・・申し訳ない)、それが"magic"という感覚を表しています。


 3曲目That's The Way Love Is

 この曲はポップチャートで7位の大ヒット、ということはやはりベスト盤で・・・以下略・・・ 

 「ドンドコ」というリズムに乗って強く歌い出す出だしが「悲しいうわさ」に似ている、でもそれは二番煎じとかではなく、イメージがつながっているという肯定的な意味。

 この曲で面白いのは、サビでマーヴィンがタイトルを歌った後、マーヴィンが歌わず女声コーラスが入る部分で、そこに強烈な旋律のベースが入ってくる、そのフレーズとタイミングがいい。

 ポール・マッカートニーが、好きなベーシストはと聞かれて「誰か分からないけどあのモータウンのベーシスト」と答えたという話は有名ですが、それがよく分かります。


 4曲目The End Of Our Road

 これは1拍目を強調した強いビートで押しまくる曲だけど、ギターの音色がシタールを意識したような感じ。

 Wikipediaのこのアルバムのページには"psychedelic soul"と書かれており、ウィットフィールドはテンプテーションズをサイケに変えて大成功した人、ということがよく分かる音づかい。


 5曲目Seek And You Shall Find

 ミドルテンポのマーヴィンにしては少し細いイメージの曲で、シンコペーションから入ってくるピアノの音が曲の間中ずっと鳴り響いているのが耳に残る。

 そのピアノもだんだんと音数が増えて盛り上がり、ベースも小気味よく歌っている曲。


 6曲目Memories

 これは全体的にお洒落な響きですね。 

 と思ったらだんだんと賑やかになってきて、ストリングスとマーヴィンがまるでデュエットのように息ぴったりで進んでいく、とまあ、結局は華やかな気持ちが明るくなる曲。


 7曲目Only A Lonely Man Would Know

 打って変わってマイナー調のちょっとメランコリックな、何かに追われるような切迫感がある曲。

 マーヴィンの歌は切れが尋常ではなく冴え渡り、これはサウンドよりもマーヴィンの力で押し切った感じの曲。

 曲名は"Only The Lonely"が頭にあるのかな、そういう音楽のつながりはうれしいですよね。


 8曲目It's A Better Pill To Swallow 

 似たタイプの曲が続き、マーヴィンの切れ切れヴォーカルがまだ続く、また聴ける。

 この曲だけではないけれど、特にこれはマーヴィンの気持ちの流れを読み切ったかのようにぴったりと声に寄り添う演奏がまさに名人芸。

 本当は逆なのでしょうね、演奏を先に録音して歌を後に入れるのだと。

 でも、そう感じさせないところが、マーヴィン・ゲイという歌手のすごみでもあり、モータウンのサウンドのセンスのよさでしょう。


 9曲目More Than A Heart Can Stand

 これも1拍目で迫ってくるリズムがたまらない、情熱的な曲。

 タイトルの言葉を繰り返すだけ、という印象を受けてしまう(実際には他の歌詞もあるけれど)、それだけその部分が印象的。 

 ところで、このような無生物主語は、日本人である僕にはいまだに微妙に抵抗がありますね・・・


 10曲目Try My True Love

 最初はお洒落な響き、と思ったらいつもの押しのマーヴィン路線。 

 なんとなく、そろそろアルバム終わりますよ、という感じでまとめに入っているけれど、このアルバムは後半にアップテンポで切れがいい曲が並ぶという流れもいいですね。

 しかし、押しは強くてもスウィートなことを歌う、これぞマーヴィン・ゲイ。

 ところがこの曲、作曲者の名前の中にスティーヴィー・ワンダーがありますが、彼もモータウンで「シンガーソングライター革命」を起こしたいわば同志。

 でもそろそろ自分でも作りたくなっていたマーヴィンには、いろんな意味で刺激だったかもしれない、と。


 11曲目I Got To Get To California 

 ほほう、当時のカリフォルニアの夢はモータウンにまで波及していたのか。

 ファンキーなベースを受けてすぐに歌い始めるマーヴィン、これは野趣あふれる響きの曲で、デトロイトからカリフォルニアは荒野を抜けてたどり着く、という感じか。

 カリフォルニアには、夢があるから、というよりは、何かの使命感にとりつかれて行かなければならない、といったある種の悲壮感を感じます。

 しかしそれもサイケデリック・ソウルたる所以。

 マーヴィンはそんな曲でも説得力のある歌を聴かせる。


 12曲目It Don't Take Much To Keep Me

 このアルバムが少し残念なのは、最後のこの曲が最後っぽい感じではなく、なんだか追われるように終わるところかな。

 とはいえ、歌も演奏も総仕上げみたいに張り切っているのが感じられます。

 それに曲はかのホランド=ドジャー=ホランドの手になるものですが。

 でも、突き放されて終わるから、かえって、またすぐに聴きたくなる、というのはマジックかな(笑)。



 タイトルのM.P.G.は、彼の本名であるMarvin Penz Gay Jr.の頭文字をとったもの。

 シェリル・クロウの記事で、アーティスト名をタイトルに冠したアルバムにはいい作品が多いということを書いたけれど、これもそのひとつといえばそうですね。

 


 このアルバムは、全体的に、ブラスがあまり目立たない、少なくともブラスに引っ張られる印象の曲はありません。

 バンドとしての響きが強いというか、だからそもそもロック人間の僕も最初からいいと感じたのかもしれない。

 

 マーヴィンも、そんな音楽を聴いて構想が頭に浮かんできたのかもしれない。

 このアルバムは、そんなマーヴィンの「裏の叫び」が、不思議なことにレコードに音として刻み込まれていると感じられるのは、人間が作る音楽の面白いところでしょうね。

 

 マーヴィン・ゲイはカテゴリ独立していますが、まだこれが2つ目の記事。

 でも、聴く頻度はもっと高くて、特に60年代のを紙ジャケットで買ってからは、時々より多い頻度で聴いています。


 僕の友だちに、マーヴィン命級の人が2人いて、僕はまだまだかなり遅れてきた人間だけど、もしかしてその域に到達するかもしれない、というくらいに最近は思い始めています(笑)。