33 1/3 ジョージ・ハリスン | 自然と音楽の森

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自然と音楽の森-Feb25GeorgeHarrison33


◎THIRTY THREE & 1/3

▼33 1/3

☆George Harrison

★ジョージ・ハリスン

released in 1976

CD-0367 2013/2/25


 2月25日は、ジョージ・ハリスンの誕生日。

 1943年生まれ、今年で70歳、日本風にいえば古希ですね、生きていれば・・・

 ジョージおめでとう!


 というわけで今日はジョージのアルバムを。


 33 1/3、いいタイトルですよね!


 もちろんLPレコードの回転数のことで、「これはアルバム、LPである」という宣言ですが、もうひとつ、これが出た1976年はジョージ・ハリスンの年齢が33歳、という意味も。

 ダブル・ミーニングのいい例で、ジョージらしいユーモアもたっぷり、全ロック界でも屈指のいいアルバムタイトルだと思います。

 ちなみに、これがリリースされたのは11月で、2月生まれのジョージからすると、実年齢は33歳と2/3、惜しかった(笑)。


 ただし、1/3というのは、人生の1/3まで到達したという意味も込められていたかもしれず、でも実際はその倍も生きられなかったのは、今にして思うと悲しいものがありますね。


 ちなみに僕はこのアルバムをいつも、「サンジュウサン ト サンブンノイチ」あるいは単に「サンジュウサン」と日本語で呼んでいます。

 だって、「サーティースリー・アンド・ア・サード」って、言いにくいじゃないですか・・・


 ついでに、今回が僕のBLOGの述べ367枚目のアルバムで、たまたまだけど惜しい、「300と2/3」でした・・・なんてそんなことはどうでもいいか(笑)。


 この33は、ジョージ自らのレーベル「ダーク・ホース」からリリースされた紀念すべき第一弾アルバム。

 ダークホースの配給元はワーナー・ブラザース。

 

 ビートルズ時代に設立したアップル・レコードのごたごたで、音楽業界からの引退も考えるほど疲弊していたジョージが、なんとかそのごたごたを抜け出し、ようやく自分のレーベルをスタートさせた、という心機一転のアルバム。


 でも、だからといって音楽的に大きく変わったかというとそうでもないのがまた、ジョージらしいところかも(笑)。

 いや、人によっては大きく変わったと感じるかもしれない、他のそれまでのアルバムと比べると、明るくてきらびやかな感じはします。


 逆をいえば、そんなごたごたの中でも、少なくとも表面的・音楽的には、「普通の状態」でいられたということが、むしろ驚くべきことかもしれない。
 それができたのは、聞くところによればジョージは業界きっての「普通の人」だったそうで、そんな気持ちの在り方のおかげかもしれない。


 といいつつやっぱり、ここでのサウンドは、ジョージの中では最も時代の波を被っているかな、というところはありますね。

 AORに一歩足を踏み入れた感じもしないでもないけれど、それもそのはず、後にシカゴを復活させたデヴィッド・フォスターが参加しています。


 ジョージらしいようで、そうではないようで、でもやっぱりジョージらしいかな。


 このアルバムは、1990年頃に一度CDが出てから長い間廃盤で、一時はレアアイテムとなっていましたが、ジョージの死を契機に、ビートルズを管理するEMIに権利が移動しました。

 今では、ビートルズと同じPARLOPHONEレーベルからリマスター盤として出ていて、普通に買えます。



 1曲目Woman Don't You Cry For Me
 サウンド的にはフュージョンの影響も感じられる、ファンクのリズム感を持った、いかにも70年代というきらびやかで小気味よい曲でスタート。

 イントロのドラムスはどうしちゃったんだろうというくらいにスパイス効かせている。
 そしてお得意のスライドギターも最初から炸裂!
 タイトルも、そういうカッコのつけかたは、ジョージらしくないといえばそうかもしれない。
 まあ、ポールもそんなことは言わないだろうけど(笑)。

 Aメロはジョージにしてはくせがないしかげりもあまりないけれど、Bメロはその分くせが大あり、Aメロに戻すところの多少の強引さはジョージらしいともいえます。

 この曲は中学時代にFMでエアチェックして聴いていて、ジョージの最も古くから知っている曲のひとつですが、当時はビートルズとのあまりの違いにどう評価してよいか分からずに戸惑った思い出があります。

 ジョージの中では最も明るい曲のひとつではあるでしょうね。


 

 2曲目Dear One
 祈りを捧げるようなミディアムスロウテンポの曲。
 アコースティックギターとキーボードの絡みが絶品。
 いかにもジョージらしいともいえる一方で、ジョージらしいかげりがあまり感じられないのが、新たなスタートに臨んだ心意気なのかもしれない。

 このアルバムではもはや直接的なインドの影響は希薄ですが、この崇高さは、神を求めたジョージの魂の遍歴といえるのかもしれない。

 でも、特にBメロが何だかほのぼのとした響きで、しっとりとしたという感じでもなく、決して重たい曲ではないのがいい。

 まさに普通の人の境地。



 3曲目Beautiful Girl
 変わってこちらはジョージらしいかげりが戻ったバラード。
 2曲並べると、その「かげり」がどんなものであるかがよく分かります。

 歌メロが大きく揺れ、ジョージのヴォーカルにも気持ちがこもったなかなかの佳曲。

 このアルバムはジョージのヴォーカルもいい味ですね。


 

 4曲目This Song
 ホンキートンク風の軽快な曲の陰には・・・
 ジョージ・ハリスンのごたごたのもうひとつが、「My Sweet Lord盗作問題」。
 My Sweet Lordはザ・シフォンズのHe's So Fineの盗作だと訴えられ、数年にわたる係争の結果、ジョージは盗作であると認め、後に賠償金を支払うことに。

 一説によれば、係争にも疲れ果て、お金で逃れられるなら盗作と認めよう、という姿勢だったとも言われており、ジョン・レノンもインタビューでそのようなことを話していました。

 ちなみにHe's So Fineは、ザ・フーのQUADROPHENIAをモチーフにした映画「四重人格」のサウンドトラックに収録されていて、僕もCDを持ってますが、確かに似てるわな・・・という感じはしますが、これについて詳しくは、いつか、その曲が入ったアルバムの時に。

 この曲は、自らの盗作問題を自らおちょくったもので、やたら明るい曲調ともあいまって、皮肉屋ジョージの面目躍如。
 ビデオクリップも、彼自身が裁判の被告人となり、「音楽裁判」で裁かれるというものだから、この皮肉屋具合は筋金入りですね(笑)。
 なおこのビデオクリップ、ロン・ウッドが女装して裁判の証人か傍聴人として参加していますが、言われないと分からないですね(笑)。
 ファンとしては、愛らしく思える曲でもありますね。


 

 5曲目See Yourself
 なんだか言い訳しているみたいな曲、歌い方、そしてなんとなく展開してゆく曲調もまたジョージらしいところ。
 でもやっぱり明るい雰囲気のバラード。
 この時点で、彼が彼自身を見て表現した曲かもしれませんね。



 6曲目It's What You Value
 ジョージのF1好きは有名で、F1の映画「ポール・ポジション」では、たまたまレースを観に来ていてインタビューを受けた彼の姿が映し出されていました。
 何人かのレーサーとも親交があり、この次のアルバムでは、亡くなったレーサーに捧げる曲を書いてもいます。
 ジョージの死後には元ワールドチャンピオンである英国のデイモン・ヒルも哀悼の言葉を捧げていました。
 F1のことを頭に置いてこの曲を聴くと、"Someone's driving a 6-wheeler"という歌詞にぴんと来る人は、僕と同世代かそれより上の人かな(笑)。

 当時F1で、Tyrrell、日本では「タイレル」と呼ばれていましたが、それが「6輪車」を走らせたことを指しているのでしょう。
 この「6輪車」とは、空力的な見地から、前輪の径を小さくし前を低くしてダウンフォースを稼ぐ一方で、小さくするとタイヤの接地面が狭くなりグリップが落ちるので、それを補うのに前輪を片側2つの4輪にしたという驚きのマシン。
 2年だけ走り、レギュレーションで認められなくなりました。
 あまり効果がない上に、扱いが難しかったらしく、1977年の富士スピードウェイのF1では、ロニー・ピーターソン操るタイレル6輪と新人だったジル・ヴィルヌーヴのフェラーリが事故を起こして観客が亡くなるという悲劇が起こりました。

 この6輪車、当時はかなり話題になり、模型などのグッズもたくさん出回りましたね、懐かしい。

 そしてジョージはそんな車が出てきて驚いたのでしょうね。
 なお、「Tyrrell」は、1980年代に日本でF1の放送が再開された時には、呼び方が「ティレル」になっていました。
 ああそうそう、曲だ曲(笑)、曲自体は特にF1のことを歌ったわけではありません。
 微妙にファンキーで、明るく楽しくポップな曲。

 この頃のジョージの曲はサビで歌メロが大きく揺れるものが多い、これもそんな1曲。

 

  
 7曲目True Love

 コール・ポーター作曲のスタンダードのカヴァー。
 まるジョージの個性そのままのかげりや憂いがり、彼の全カバー曲の中でも秀逸といえる出来映え。

 スライドギターが、メロウ一辺倒になりそうな曲を引き締め、曲を絶妙にコントロールしているあたりはさすが!
 ダイナミックな歌メロもとってもいい、Bメロで急に暗くなるのがたまらないし、"Love forever"と歌う部分の歌メロが最高にいい。

 ジョージもこぶしを回し気持ちを込めまくって歌っています。

 実は、このアルバムで僕がいちばん好きな曲であり、僕の密かな愛唱歌(笑)。

 


 8曲目Pure Smokey
 スモーキー・ロビンソンに捧げた曲で、歌詞の中にもスモーキーの曲のくだりが織り込まれています。
 ビートルズ時代にも、スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズのYou've Really Got A Hold On Meをジョンと一緒に歌っていたように、スモーキーは彼のアイドルでもありました。
 そういえば1980年代にABCがWhen Smokey Singsという曲もヒットさせていたように、スモーキーの存在は英国では特に大きいのかもおしれないですね。

 曲は、いかにも70年代都会風ソウルの、とろぉっとした、まさにスモーキーな曲。
 でもこれ、ダブルミーニングとして、ジョージが愛煙家だった、ということもあるかもしれません・・・
 それでジョージは自らの命を縮めたのかもしれないと思うと、やっぱり今となっては微妙に引っかかる曲・・・

 なんてことは言わず、ここはジョージのスモーキーへの思いを純粋に感じ取りたいですね。

 僕もスモーキーは大好き、やっぱりTracks Of My Tearsがいちばん好きだなあ。

 ところで、先週の「ベストヒットUSA」の放送日が2月19日(火)、その日はちょうどスモーキー・ロビンソンの誕生日と番組でも紹介していました。

 今年で73歳、ジョン・レノンと同い年、スモーキーおめでとう!



 9曲目Crackerbox Palace

 子ども時代を「おもちゃ箱」になぞらえて懐かしむ、明るいけどしみじみとかつほのぼのとしたノスタルジー溢れる、心温まる曲。
 これは高校時代に「ビートルズ復活祭」でプロモーションフィルムを見て初めて聴いていたのですが、当時は若かったせいか、この曲のよさが響いてきませんでした。

 でも、大人になり、子ども時代を懐かしく思えるようになったところで、漸くその良さが分かりました。
 いろいろな意味で感傷的にさせられる曲で、ジョージ自身のごたごなんかまるで想像できない曲。 

 しかし一方で、そうしたごたごたがあったからこそ、安らぎを求めて出来た曲ではないでしょうか。

 この曲には「人生の夜明け」という邦題がついていますが、当時ワーナーに移ってきたジョージの担当者の意気込みが感じられる意訳ですね。

 そしてこれは、ジョージの優しさを如実に物語っている曲でしょう。


 
 10曲目Learning How To Love You
 最後は、もがき苦しんだ日々の暮らしの先に、ようやく明るい兆しをつかめたという、穏やかな、ゆるやかな、たおやかなバラード。

 「レイラ」ことパティさんとは別れたけれど、オリヴィアさんという、結果として生涯の伴侶となる女性と出会えて、「愛するということを学んでいる」という境地に達することができたのでしょう。

 僕が情報として知る限り、ジョージとオリヴィアは、ロック界でもいい夫婦の筆頭格だったのではないかなあ、と。

 尋常ではないくらいにほっとする曲でアルバム本編は終ります。



 リマスター盤には、11曲目Tears Of The World、が収録されています。

 これは曲自体としてはいいんだけど、いつものジョージらしい陰りと癖がありすぎる曲で、このアルバムにはそぐわないと判断されたことが想像されます。

 いずれにせよ、この頃のジョージは、ソングライターとしての安定期に入っていたことが分かります。



 このアルバムは、ロック史的な観点からいえば「名曲」といえるほどの曲は入っておらず、それが最大の難点かもしれない。

 実際、ダークホース時代のベスト盤にはCrackerbox Palaceのみが収録され、しかもそのベスト盤ではあまり目立たない存在だし、僕のことをいえば、この中でいちばん好きな曲はカヴァーだし。

 

 でも、アルバムを通して聴くと、自分の心の中に小さな幸せが訪れたことを感じます。

 普通に楽しく明るく暮らすことのうれしさ、ありがたさ、大切さということを切に感じさせるアルバム。

 ゆえに、若い頃にはあまり心には響かなかったのでしょう。

 僕も実は、リマスター盤が出るまでは、サウンドはいいけどなあ、くらいだったのですが、今では大好きなアルバムになりました。



 ところで、今回の写真、ハウがのっかっているのは、NFLセントルイス・ラムズのマスコットの羊のぬいぐるみ。

 いつもここにあるのですが、そういえばジョージは日本風にいえば「未年」、これまたいい偶然と、そのまま写しました。

 ジョージは僕の24歳年上。

 つまり僕も同じ「羊男」なのです(笑)。