◎MINUTE BY MINUTE
▼ミニット・バイ・ミニット
☆The Doobie Brothers
★ドゥービー・ブラザース
released in 1978
CD-0353 2013/1/27
ドゥービー・ブラザース8枚目、マイケル・マクドナルド加入後では3枚目のアルバム。
このアルバムを聴くきっかけは、ピーター・バラカン著「ぼくが愛するロック名盤240」で取り上げられていたことで、それからもうふた月近く、2日はあけずに聴いています。
ヴォーカリストが変わると音楽の響きが変わることはよくあります。
ロックで有名な例を挙げると
・ディープ・パープル : ロッド・エヴァンス → イアン・ギラン (以降略)
・ブラック・サバス : オジー・オズボーン → ロニー・ジェイムス・ディオ (以降略)
・ヴァン・ヘイレン : デヴィッド・リー・ロス → サミー・ヘイガー (以降略)
・アイアン・メイデン : ポール・ディアノ → ブルース・ディッキンソン (以降略)
みなハードロック・ヘヴィメタル系ですが、そうではないバンドでいちばん顕著な例はこのドゥービー・ブラザースでしょう。
・ドゥービー・ブラザース : トム・ジョンストン → マイケル・マクドナルド
ただしドゥービーの場合、一度に入れ替わったのではなく、この2つ前のアルバムにマイケルが加わった時はまだトム・ジョンストンも在籍していて、移行期があったことになります。
マイケル・マクドナルドが加入してからのドゥービーは「ヤワになった」と言われたそうで、それより前のほうがよかったという人が多かった、今でもそうかもしれない。
でもバラカンさんは逆で、ヤワになったほうが好きだと宣言し、根底にあるのはブラックミュージックが好きだからと説明しています。
僕はトム・ジョンストン時代のほうが好きですが、だからといってマイケル・マクドナルド時代が嫌いとか認めないということはありません。
純粋に音楽として聴くと、やはりいいものはいいから。
僕がドゥービーを聴くようになったのは、もう二十歳を過ぎていた1989年のCYCLESからで割と遅かった。
そのアルバムはトム・ジョンストンが復活し再結成したと当時は話題になりましたが、それがよかったので、ちょうどCDの時代に入り廉価盤が出るようになって、70年代のアルバム何枚かとベスト盤を買って聴くようになりました
マイケル・マクドナルドは僕が洋楽を聴き始めた頃にI Keep Forgettin'が大ヒットして知りましたが、正直いえば、声と表情が苦手でした、中学生だったこともあって。
それをずっと引きずっていて、マイケル時代のドゥービーを聴き始めたのは35歳を過ぎてからでしたが、話すと長くなるので今回は事実だけを話して、聴いてみると、思っていたほど自分には合わないということはない、つまり予想していたよりもいいと感じました。
マイケル時代に「ヤワになった」と書きましたが、いい表現を使うと、洗練された音楽になったということ。
ロックの場合、概していえば、ルーツ音楽の要素が薄まれば薄まるほど洗練された響きと感じられるようになります。
ビリー・ジョエルが分かりやすい例で、THE NYLON CURTAINまでは無国籍で都会的に洗練された音楽を展開していましたが、自らのルーツを表現したAN INNOCENT MAN以降はアメリカンロック的要素が濃くなり、手触りがずいぶんとざらざらした音楽になりました(他のアメリカンロックよりはうんと洗練されたままではあったけれど)。
ドゥービーも同じこと。
ただし、35歳を過ぎてマイケル時代のドゥービーを聴くようになって、初期の3枚も同じ頃に初めて聴いたのですが(だから僕のドゥービー歴はかなり浅い)、聴いてみてあることに気づきました。
トム・ジョンストン時代もマイケル・マクドナルド時代も、ソウル大好き人間の集まりであるのは変わりない。
逆の見方になるけれど、アルバムを聴き込むと、トム・ジョンストン時代も意外とソウルの影響が大きかったんだと気づきました。
ドゥービー・ブラザースが、ヴォーカリストが変わって「ヤワ」になっても素晴らしいバンドであり続けたのは、ソウル大好きという思いが一貫していたからでしょう。
実は、僕も、ソウル系を本気で聴くようになってから、マイケル時代のドゥービーをいいと思うようになりました。
これは決して偶然や年齢のせいではない、音楽の趣向としてむしろ当然のことと思います。
ところで、ルーツ音楽の陰が薄まるほど洗練されてゆくと書いたけれど、じゃあドゥービーの場合、ソウル色が濃くなったのに洗練されたのはどうしてか。
ソウルという音楽自体が、ブラックミュージックという枠の中でブルーズやゴスペルといったルーツの要素を薄めて洗練されたものである、と考えると納得がいきます。
それがさらにロックに影響を与えているのは、回り道したけど結局同じ辺りにいたということなのでしょう。
ドゥービーの洗練された音楽はマイケルのセンスがもたらしたもの。
だから、メンバーが変わることにより音が変わるのは至極当然といえます。
マイケル時代は、特にこのアルバムになるともうほとんどAORといってよい、というより世の中ではAOR路線と言われているのかな、ほんとうに軽く滑らかに流れてゆく音楽になっています。
このアルバムはしかし、なんといっても名曲中の超名曲What A Fool Believesに尽きると言っていい。
マイケル・マクドナルドがケニー・ロギンスと共作したこの曲はビルボードNo.1を記録、アルバムもNo.1に。
さらにこの曲はグラミー賞において「年間最優秀レコード賞」「年間最優秀楽曲賞」、と日本語で書くとかえって分かりにくいか(笑)、Record Of The YearとSong Of The Yearを獲得しています。
イーグルスにはジャクソン・ブラウンやボブ・シーガーそれにJDサウザーも曲作りで参加していますが、ドゥービーにケニー・ロギンス、西海岸の面子は仲が交流が多くて聴く方も楽しいですね。
この曲は、それと意識して聴いたのは初めてCDでベスト盤を買った時のことですが、それまでにラジオかどこかで耳にしたことがありました。
いわゆる「あっこの曲知ってる!」だけど、僕の年代ではそういう人は多いのではないかと思います。
バラカンさんがこの曲を「完璧な曲」と評していますが、歌メロはもちろん、展開、コーラス、演奏すべて、確かに文句の付けどころがない。
サビのとんでもなく高い声は、マイケルだからできる芸当であって、個人の特徴を曲に生かすという点でも冴えている。
僕は、イーグルスのHotel Californiaと並んで、1970年代後半にアメリカンロックがたどり着いたひとつの到達点だと思っています。
70年代後半はそういう曲が多いですよね、ビリー・ジョエルのMy Life、ジャクソン・ブラウンのRunning On Emptyなどなど。
どうでもいい余談ですが、この曲を久しぶりに聴いて歌ってみたところ、若い頃は出ていたマイケルのとんでもなく高い声が出せなくなっていたことにいささかのショックを受けました・・・
1曲目Here To Love You、ファンキーかつ軽い爽快な曲で、このファンキーさはマイケル以前にはあまりなかったかな。
イントロで踊りながら高音で飛び出してくるピアノの音を聴くだけで、このアルバムが素晴らしいことをすくに感じとれます。
2曲目がWhat A Fool Believes、2曲目という位置がまたいい。
ところでこの曲、「ある愚か者の場合」などという邦題がついていたんですね。
僕が買った国内盤CDの帯には英語のままカタカナにしたタイトルを書いてあって、Wikipediaで調べて分かりました。
70年代はいい邦題も多いけれど、これはちょっとどうだろう・・・
レコード屋で、ある愚か者の「場合」をください、って、言いにくいと思うんだけど・・・(笑)・・・
3曲目Minute By Minute、フェイドインしてくるのが面白い。
シャッフルしている明るいソウルバラードで、なんとなくレニー・クラヴィッツを思い出す(声以外は)。
4曲目Dependin' On Youはよぉ~く噛み砕くとオールドスタイルのR&B、低音で動くリフが特にそう感じさせる。
歌っているのはパトリック・シモンズ、マイケルも共作しているけれど、旧来のドゥービーらしさがある曲。
5曲目Don't Stop To Watch The Wheels、トム・ジョンストンが1曲だけ歌っていて、この辺りは古くからのファンへのサーヴィスか。
この曲はバンドにドラムスが2人いることを体感できるリズムの切れがいい。
6曲目Open Your Eyes、一転していかにもマイケル路線、都会派AOR的要素を凝縮した曲。
7曲目Sweet Feelin'、パトリック・シモンズとデュエットする女性ヴォーカルはニコレット・ラーソン。
彼女はニール・ヤングのバックコーラスをはじめ主にWarner系のアーティストで数多くのコーラスを務め、このアルバムが出た年にソロデビューを果たしてヒットした人。
カントリータッチの穏やかな曲で、ユートピア思想的なものを感じます。
8曲目Steamer Lane Breakdown、パトリック・シモンズが作曲したカントリータッチのインストゥロメンタルで、ルーツ音楽をそのままやっているのはこの曲くらいですね。
このアルバムの流れにこれは違和感がありそうだけど、インストゥロメンタルにすることで気分転換としてうまく機能していてます。
9曲目You Never Change、ほの暗くて緊張感があり胸に迫ってきて重苦しくなる曲。
これはいかにもマイケル・マクドナルド、と思ったところさにあらず、作曲者はパトリック・シモンズ。
マイケルの歌手としての個性が曲の個性を上回っているということなのかな。
もしくは、やはりというか、音楽が変わったようでいて、あくまでも表面上だけのことで本質は変わっていなかったというこれは証拠かもしれない。
昭和50年代の歌謡曲っぽい響きもある曲ですね。
10曲目How Do The Fools Survive?、再び"Fool"が出てきてアルバムとしての流れを考えていることが分かります。
最後はバンドが一体となってサウンドで聴かせる曲で、演奏部分が長く、1970年代がフュージョンの時代であったことを思い出させてくれます。
ところで、このアルバムの1曲目から3曲目にはマイケル・ジャクソンがコーラスとして参加しているとのこと。
クレジットはないけれど、Wikipediaでは日米どちらでもそのことが明記されています。
つまり、あのWhat A Fool Believesにもマイケルがいるということなんですね。
もしかしてあのとんでもなく高い声を「Wマイケル」で歌っているのかな。
コーラスの声って、分かりやすい人もいるけれど、往々にして分かりにくいですよね。
ヘッドフォンでじっくり聴いてみようかな、と思ったけど、うちには今はいいヘッドフォンがないんだ・・・
このアルバムをほぼ2ヵ月に渡って2日置かずに聴き続けているのは、ひとえに聴いていて気持ちがいいからです。
連装CDプレイヤーにずっと入っていて、その前に入れるCDはよく入れ替えているけれど、このアルバムが来ると別に止めることもなくそのままかけることが多い。
ただ、気持ちがいいというのは、裏を返せばインパクトが薄いともいえるわけで、気に入っているのに記事にするまで時間がかかったのは、曲として覚えにくい部分が僕にはあるからです。
僕は、基本的にはハードめのロックのほうが好きというかデフォルトなので、聴いていて気持ちがいいという音楽をしっかりと受け止めるのが苦手でもあるので。
ともあれそれは僕個人の問題だから、聴いていて気持ちがいい充実したアルバムであるのは待合ありません。
繰り返しになりますが、イーグルスのHOTEL CALIFORNIAと並んで、アメリカンロック最高峰の1枚といえるでしょう。