◎HOPE & GLORY
▼ホープ&グローリー
☆Ann Wilson
★アン・ウィルソン
released in 2007
CD-0352 2013/1/25
アン・ウィルソンが主にロック系のカヴァー曲を歌ったソロアルバム。
アン・ウィルソンはハートのヴォーカリスト。
などという説明も野暮なくらいの存在ですが、意外なことに、6年前に出たこのアルバムは、30年以上に及ぶキャリアで初めてのソロ作。
カバー曲集ですが、これがとってもとってもいい!
選曲のセンスの良さには舌を巻き、「調理方法」のうまさには、驚きと感動の連続。
彼女のヴォーカルのうまさ、すごさを堪能できるのはもちろん、それらカバーした曲の「曲としての良さ」を再認識できます。
そしてなにより、彼女がそれらの曲を、ロックをほんとうに愛していることがしっかりとこちらに伝わってくる。
あの歌唱力だから、それは電気のように・・・
また、妹であるナンシー・ウィルソンをはじめ多彩なゲストが彼女を支えているのも、聴きどころです。
ロック好きには、二重、三重、四重の意味でうれしいアルバムですね。
なお、オリジナルについても触れながら進めますが、その曲が収録されたアルバム名が記されていないものは、僕がCDを持っていないものということでご了解ください。
1曲目Goodbye Blue Sky featuring Nancy Wilson
→オリジナルはピンク・フロイド、 THE WALL(1979)収録
いきなりグッドバイとは。
しかもいきなりピンク・フロイド。
1曲目というのは意表をついていますが、このアルバムの物語がこれより前から続いていたところ、途中から入ってきたような感じで、いきなり心が鷲づかみにされます。
ナンシー・ウィルソンがサポートしていて、ナイーヴなこの曲の歌メロに彩が添えられています。
そうなんです、こういってはなんだけど、意外と歌メロがいいんです。
2曲目Where Is Now St.Peter? duet with Sir Elton John
→オリジナルはエルトン・ジョン TUMBLEWEED CONNECTION(1970)収録
作者であるエルトン・ジョン本人が参加しているけれど、自分のカバー曲にゲスト参加するのはいわばエルトン・ジョンの「得意技」ですからね(笑)。
アンも、ドラマティックな曲を歌うと映えますね。
3曲目Jackson duet with K.D.Lang
→オリジナルはルシンダ・ウィリアムス
カントリーらしさあふれる、僕が好きなタイプの朗々としたカントリー・バラード。
ハートが、アンがカントリーというのは、意外なのかな、僕はまったくそうは思わないけれど。
4曲目We Gotta Get Out Of This Place duet with Wynonna
→オリジナルはアニマルズ
アニマルズのVoのエリック・バードンは、「最もソウルフルな声を出す白人」といわれたそうですが、
果敢にもそんな人の曲に挑戦。
いや、そういう人の曲だから、アンのうまさも分かります。
もちろんアンは黒っぽいという意味でのソウルフルさはないんだけど、迫力、激情、そんなものを感じます。
ちなみに僕はこのオリジナルはベスト盤のみCDを持っています。
5曲目Immigrant Song
→オリジナルはレッド・ツェッペリン LED ZEPPELIN III(1970)収録
なんといってもこれはすごい!
かのレッド・ツェッペリン「移民の歌」を、バラードに仕立て上げている!
素晴らしい!!
いきなり原曲の途中の一度しか出てこない部分をアカペラで始めるという出だしからしてもう完全に虜!
元々ハートはZepが大好きで、Rock And Rollをライヴで演奏しレコードでも出ているくらいだから、この選曲自体は特に驚きもしない、むしろ当然ですが、こうまでやられると、ほんと、降参するしかないですね。
正直言うと、僕は実は、この原曲が大好きというほどでもなく、Zepの曲を好きな順に並べると舌から数 えたほうが早いくらい。
でも、これを聴いて、オリジナルも再評価しました。
というよりも、オリジナルよりもアンのカバーのほうが好きになりました。
こんなことってあるんだなぁ。
そういえば、このアルバムは当時はリリースされていたのを知らなくて、ミスター・ドーナツの店内でかかっていたこの曲を聴いて、声はアン・ウィルソンっぽいけど誰だろう、ハートのアルバムが出たという話は聞いてないし、とその時は思いました。
その日の夜にその話を弟にすると、実はアンのソロアルバムで昨日届いたといってCDを出して見せてくれました。
というわけで、結果としては、ラジオやMTVで聴いてビビっときた曲というのも久し振りで、それがまたうれしかった。
いや、ほんと、カッコよすぎ、これ1曲だけでも聴く価値大あり!!
6曲目Darkness,Darkness featuring Nancy Wilson
→オリジナルはザ・ヤングブラッズ ELEPHANT MOUNTAIN(1969)収録
妹のナンシーと共演2曲目。
きれいなんですよねぇ、ナンシーは・・・
それはともかく、オリジナルのザ・ヤングブラッズは僕がこのCDを聴いた頃は名前しか知らなかったんだけど、この後すぐに彼らのベスト盤を買って聴きました。
カントリーっぽい(けどポコほどじゃない)少しソフトなロック、ひとことでいえばそんなバンド。
7曲目Bad Moon Rising duet with Gretchen Wilson
→オリジナルはクリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル C.C.R. GREEN RIVER(1969)収録
わが愛すべきCCR、この選曲はうれしい限り!
これはここで取り上げてらえれた中ではいちばんヒットした曲(最高位2位)。
CCRは元々カントリーの要素が濃いバンドですが、ここではホンモノのカントリー歌手のグレッチェン・ウィルソンが参加し、フィドルを前面に出した正調カントリーで攻めていて、これが正攻法と思わせる上々の出来!
なのですが、オリジナルのキィで歌っているせいか、アンの声が押しつぶしたようにずっと低いままなのか、ちっとばかり残念かな。
オリジナルのジョン・フォガティは逆にずと高音で歌うのがシャープでいいだけに。
8曲目War Of Man featuring Alison Krauss
→オリジナルはニール・ヤング HARVEST MOON(1992)収録
ゲストはロバート・プラントと共演したRAISING SANDでグラミーを獲得したアリソン・クラウス。
僕はそのアルバムでアリソン姫がすっかり大好きになったところ、立て続けにここに参加していたのは当時はうれしかった。
曲について、ニール・ヤングの曲はなぜか女性の声にもよく合いますね。
ニールのあの独特の高い声のせいかな。
この曲は、この中で僕がCDを持っているものでは最も新しい曲で、1992年発表のアルバム収録。
でもしっかりなじんでいるのは、いかに彼が変わっていないかを証明していますね。
まあ、でもそれとてもう21年も前のアルバムなのですが。
なお、最初にこのアルバムを聴いた時、ニール・ヤングの曲だなぁ、とは思ったのですが、どのアルバムに入っているかはすぐには思い出せず、ライナーノーツを見てようやくこのCDにたどり着きました・・・
9曲目Get Together featuring Nancy Wilson, Wynonna and Deana Carter
→オリジナルはザ・ヤングブラッズ EARTH SONG(1967)収録
ザ・ヤングブラッズの曲を2曲取り上げているのは興味深いですね。
この曲は、1960年代後半から70年代前半にかけてのアメリカではヒッピーのアンセムとして人気を博した歌。
サビの部分は確かにユートピア思想的なものを感じますね。
また、ジャクソン・ブラウンが主催した反原発コンサートNO NUKESでも、メンバーだったジェシ・コリン・ヤングがこの曲を歌っていて、確かに、会場みんなで合唱していました。
アンはここではあくまでもソフトにフォークソングらしく歌っているけれど、やっぱり声の艶やかさがいい。
ナンシーは3曲目、ワイノナは2曲目、そしてディーナ・カーターはカントリー系のシンガーソングライター。
10曲目Isolation
→オリジナルはジョン・レノン JOHN LENNON / PLASTIC ONO BAND(1970)収録
なんと、数あるジョンの曲の中でまさかこれを歌うとは!!!
これがいちばんの驚き、その反動で喜びが大きかった選曲で、魅力を再発見。
アルバム「ジョンの魂」の短い曲ですが、短い中に劇的な展開が待っている曲。
「孤独」なだけに、ゲストを呼ばずにひとりで歌っているのも効果的。
この曲がいちばん、オリジナルに近い形だと思います(オリジナルを知らない曲はもちろん分からないですが)。
そして、ともすればジョン個人の思いがこもりすぎていたこの曲から、アンは心を解き放ち、誰もが感じる「孤独」を普遍性を持って見事に表しています。
"We're afraid of everyone, afraid of the sun”という歌詞の繊細さもよく伝わってきます。
そう、この曲は、うちにこもっていて久しぶりに太陽を浴びたところ、夏の暑い日でもない英国の弱弱しい太陽なのに、その光すら痛くて恐かった、という感覚の曲。
ジョンはとにかく思いをさらけ出していたけれど、アンはそれを一流のポップソングに仕上げたといったというか、本来はいい歌メロのはずが、ジョンがあまりにも感情を出すが故にかき消されそうになったところをアンが救い出した、という感じ。
でもやはり、声がつぶれそうなほどに叫ぶ部分もあるのですが、歌から伝わるリアルさを消すのは違うと、アンも感じたのでしょう。
移民と孤独だけでも、このアルバムの価値は高い!
11曲目A Hard Rain's A-Gonna Fall featuring Shawn Colvin & Rufus Wainwright
→オリジナルはボブ・ディラン THE FREEWHEELIN' BOB DYLAN(1963)収録
続いてボブ・ディランの名曲。
これもジョンと同じく、メッセージ性を押さえて「歌としての良さ」を引き出していて、これもやはり、ディランのあの歌い方では歌メロがつかみにくいのが、ほんとにいい歌だなと思えるでき。
このアルバムは、そもそも全体的にゆったりとした感じですが、その中でもこの曲は、メッセージ性という「アク」を抜いた分、とりわけリラックスした和やかな雰囲気を味わえます。
ショーン・コルヴィンはフォーク系シンガーソングライター、ルーファス・ウェインライトはカナダのシンガーソングライター。
12曲目Little Problems, Little Lies
本編最後は唯一のオリジナル曲。
普通であれば、どうしてすべてカバーにしなかったのか、となるかもしれないですが、このアルバムに関していえば、むしろそれら偉大なる先達の曲に対するアンの思いをまとめるためにオリジナルは不可欠と感じます。
力強いけど優しい、アコースティック調のバラード。
13曲目American Tune
→オリジナルはポール・サイモン THERE GOES RHYMIN' SIMON(1973)収録
この曲は国内盤のみのボーナストラック。
今回このアルバムを記事にしたのは、この曲が入ったポール・サイモンのアルバムを聴いて記事にしてその流れで聴いたから。
ポール・サイモンのぶつぶつとつぶやくような歌い方もそれはそれで説得力があって個性的だけど、やはりアンがこうして歌うと、あらためて曲の良さを感じます。
オルゴール系の旋律がしみてきます。
でも、なんでこれ、ボーナストラックなんだろう。
ひとりだからかな。
アルバムの流れに合わないということを、僕は特に感じないんだけど。
というよりもこれが入ってない輸入盤を聴くと、かなり物足りないだろうなあ。
ロックといいつつもカントリー系やフォーク系が意外と多くて、僕は最初は意外でした。
でも、聴いてゆくうちに、ハートの音楽はそれだけ広く聴いて愛してきたからこそできたものなのだろうなと納得できました。
なにより、アメリカやカナダで生活していると、そうした音楽は身の周りにたくさんあるものでしょうから、嫌いにならない限りはむしろ自然とそうなるのかもしれない。
ロックのヴォーカルアルバムとしては最高の部類の1枚だと思います。
というよりも、女性の本格的ロックヴォーカルアルバムというものが、これより前にはなかったのではないか、個性的な1枚といえるでしょう。
願わくば、もう6年も前に出たことだし、続編を作っていただけるとうれしいなあ(笑)。