SLOWHAND エリック・クラプトン | 自然と音楽の森

自然と音楽の森

洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。

自然と音楽の森-Jan11EricClaptonSlowhand


◎SLOWHAND

▼スローハンド

☆Eric Clapton

★エリック・クラプトン

released in 1977

CD-0344 2013/1/11


 エリック・クラプトンのソロ名義としては5枚目のアルバムにして、彼のニックネームがそのままタイトルとしてつけられた代名詞的な1枚。


 昨秋、このアルバムの2枚組デラックス・エディションが発売となり、今回はそれを聴きながらの記事です。


 エリック・クラプトンは、ロックを聴く人であれば、聴かない人はいない、とまでは言わないけれど、興味も関心もないという人はおよそ考えにくいし、聴いた上で好きじゃないという人はいて当然だけど、誰もが一度は通る道だと思います。

 もっとも、今の若い人はどうか分からないけれど、少なくとも僕の年代、もう少し広いかな、僕から干支の一回り下の年代くらいまではそうじゃないかと思う。

 誤解を恐れずに言えば、ロックを聴く人でエリック・クラプトンの名前すら知らない人は、はっきり言ってロックを聴くべきではないとは思う(笑)。


 僕はビートルズバカだから、ビートルズの録音に参加していてジョージ・ハリスンの親友というだけで特別な存在の人ではあるんだけど、音楽を好きかといわれると、大好きだけど、思い入れがあるかといわれると、あるけれど、でも、エリックのすべてを受け入れている人間ではないし、だからもちろん僕にとっては神でもなんでもない人ではあります。

 エリックのモデルのストラトキャスターを欲しい、と思ったことはないし、なんというのかな、自分の中では複雑な人ですね。

 僕は多少の(かなりの?)へそ曲がりだから、エリック・クラプトンが大好きですと人前で大声では言えない何かがあります。 

 まあ、そうはいいながらもやっぱりよく聴くことは聴きますが。


 このアルバムは高校時代からエリックの代表作として知っていたけれど、初めて聴いたのは大学に入ってCDの時代になってからでした。

 最初に聴いた感想は、3曲目までは最強、4曲目まではとてもいいアルバム、5曲目以降は普通のアルバム、でした。

 今回聴いても、それはあまり変わりません。


 ただし、70年代のレイドバック時代のエリックは、このアルバムの4曲目以降が標準形という感じはします。

 要は、キャッチーないい曲が複数入るといいアルバム、そうじゃなければ雰囲気にゆったりとひたるアルバムという感じでしょうか。


 逆にいえば、この冒頭の3曲はとにかく素晴らしい。


 1曲目Cocaine、J.J.ケールの曲ですが、自虐的内容ともいえるこれを堂々と歌ってしまうあたり、エリックは肝が据わってきたのかな、余裕が出てきたのかな、と。

 エリックはこの曲をすっかり自分のものにしていて、札幌でのスティーヴ・ウィンウッドとのコンサートでもこの曲は盛り上がり、「コカイン」と会場全体(7割くらいかな?)で唱和していました。

 そうなんです「コケイン」ではなく「コカイン」に聞こえました、ここは日本だから・・・

 冷静に考えると、何千人で「コカイン」と叫ぶのは変ですが(笑)、この曲は僕が思っていたよりも人気があるんだと分かりました。

 ただ、僕は最近、やっとのことでJ.J.ケールのCDを初めて買って聴いたのですが(エリックとの共作は除いて)、聴いてみて謎が解けました。

 エリックは「自分のもの」にしていると書いたけど、J.J.ケールの曲は驚くほどエリック・クラプトンの人格にぴったりなのです。

 J.J.ケールはあまり目立った活動をしたくない人らしいけど、そんな奥手の彼が、エリック・クラプトンというまるで分身のような代弁者を見つけたことで、余計にその傾向が高まったのでしょうね。

 なんだかんだで僕も大好きです。

 ギターリフはクリームのSunshine Of Your Loveの応用で弾けるし。


 2曲目Wonderful Tonight

 この曲は驚くほどシンプル、そして言葉が出ないほど美しい。

 最初に聴いた時、今でも思い出す、聴きながら曲の展開が読めました。

 ロックのバラードというと誰もが思い浮かべるスタイルがそうさせたのでしょう。

 さらにいえば、誰でも作れそう、と。

 しかしそれができない。

 細かく見ると、やっぱり歌メロが尋常ではないほどに素晴らしくて、雰囲気はいくらでも作れても、ほんとうにしっかりした歌メロというのはなかなか作れるものではない。

 いつも言いますが、雰囲気がいいだけかほんとうにいい歌メロかは、自分で口ずさんでみれば一発で分かります。

 この曲は言わずと知れた、ジョージ・ハリスンの奥さんだったパティへの思いを結実させたものだけど、人間、素直な思いがあればこれだけの曲が作れるんだって、そこにも感動します。

 繰り返し、だからといって誰にでもそういう曲を書けるわけではない、それはもちろんだけど、でも一方で、人間は鑑賞する能力と創作する能力はまったく別物だから鑑賞して思ったことは言うべきだという丸谷才一さんの考えに僕も従っているだけです。

 この曲はいわば「レイラ」の続編といったところでしょうけど、レイラであれだけ激しい横恋慕を表し、ついに願いがかない、そばにはパティがいる、そのエリックの息づかい、パティにかける言葉の一つ一つが、旋律やギターの音色となって表されている。

 これだけ感動する曲は、やっぱり、そんなにたくさんはないと思う。

 エリック・クラプトンが作曲家としても優れていることを示す曲であるのは言うまでもない。

 余談が2つ。

 ひとつ、この曲は一昨年のエリックとスティーヴの来日公演では、札幌以外では演奏されたそうです。

 ということは僕はこの曲を聴かなかった、それは残念、でも、その代わりに演奏したのがLaylaだったので、まあいいのかな。

 もうひとつ、パティの自伝が出ていて、「ワンダフル・トゥデイ」という書名だけど、僕がいつも行く郊外型書店にずっと在庫があって、いつか買おうと思っていました。

 ところが、半月前に行くと、それがとうとうなくなっていました。

 その1週間ほど前にはまだ在庫があって、次は買おう、と思っていたので、そのタイミングで売れてしまったのは悔しかった。

 この狭い札幌で、同じ本を欲しがる人が他にもいたんだな、というのもなんだか不思議ではありました(笑)。


 3曲目Lay Down Sally

 この曲は中学時代にNHK-FMでエアチェックして聴いて知っていました。

 いいですよね。

 レイドバック時代としてはかなり(でもないか)テンポが速い、軽快にスウィングするロックンロール。

 イヴォンヌ・エリマンとマーシー・レヴィの女性コーラスが、重すぎず軽すぎず、いいタイミングでいい旋律を歌っていて効果的ですね。

 ちなみに、イヴォンヌ・エリマンは後にSATURDAY NIGHT FEVERのサントラでビー・ジーズのIf I Can't Have Youを歌って全米No.1に押し上げた人。

 一方マーシー・レヴィは1990年代にマルセラ・デトロイトと名乗ってアルバムを出し、MTVでよくかかっていて、後に僕もCDを買いました。

 この曲は、かかっていると自然に体が動くし自然と口ずさんでしまう、音楽の力には抗えないという1曲でしょう。

 ここまでの3曲は、よくぞこれだけ集めたなというくらいに最強の曲が並んでいます。

 アルバムは名曲が1曲あれば合格といえるけれど、3曲もあるのだからこれは名盤。

 と、思うんだけど、でも、このアルバムについてはやっぱり、5曲目以降が、少なくとも20代の若造が手放しで喜ぶというには落ち着きすぎていると思います。


 その前に、4曲目Next Time You See Her、この曲はいい。

 前の3曲がせめて2曲だったら、この曲はもっと目立ったのではないかな。

 僕はこのアルバムを初めて聴いた時は既に3曲目まではよく知っていたんだけど、だから逆にそれ以降はどうなんだろう(いい曲であれば他に聴く機会があっただろうから)、と思っていたところが、この4曲目で、それ以外もいいんだと一瞬だけ思いました。


 5曲目We're All The Wayは呟くような落ち着いたミドルテンポの曲で、ちょっと弱気すぎるのが、今はなかなかいいけれど、若い時はまるで反応できなかった。


 6曲目The Core、これは体が突き動かされるリズム、女性陣とエリックのヴォーカルもいいし、演奏も飽きないしなかなか以上にいい。


 7曲目May You Never、エリックの軽やかなタイプの典型的な曲で、まあ気持ちは多少引きずってはいるけれど、聴いているとなかなかいい、でも口ずさむほど深く印象には残りにくいかな。


 8曲目Mean Old Frisco、デルタブルーズに分類されるアーサー・クルーダップの曲。

 つまりほんとのブルーズなんだけど、レイドバック時代のエリックからはしゃきっとしたブルーズらしさをあまり感じない。

 今から振り返ると、エリックがブルーズに魂を侵食されるくらい好きなことが分かった上で聴いているわけだけど、いったいエリックはこの頃はブルーズで何をしたかったんだろうって思わなくもない。


 9曲目Peaches And Diesel、アルバムの最後はインストゥロメンタル曲で、これはなかなかいいですね。

 弱気なのかメロウなのか判然としないけれど、とにかく緩い雰囲気は、厳冬期に聴くと季節感が合わない(笑)、小春日和という感じがします。

 

 とまあ、5曲目以降は、今聴くとこれはこれでかけておいていいなと思います、それは決して嘘ではありません。

 ただ、やっぱり人間、大なり小なり年齢により音楽の好みが変わるものなのでしょうね。

 5曲目からがLPのB面ですが、もし僕が高校時代にこのLPを買っていれば、いつものようにカセットテープに録音しても、B面は覚えなかっただろうなあ。


 しかし、エリック・クラプトンは、ロックに興味を持ってしまった以上は、若いうちから意識をするし、若いうちから聴く人が多い。 

 でも、エリック自身は若者に向けてのみ音楽を作っていたわけではないだろうし、若い人が緩い音楽を聴かないとまで言い切るつもりはないけれど、このアルバム、70年代の緩さは、やっぱり若いうちはなかなか魅力が伝わってこないのではないかと。

 

 エリック・クラプトンの不思議な存在感は、そこから来ているのかもしれない。

 誰もが偉大な人と認めるけれど、音楽については、ポップで誰にでも分かりやすい曲とそうではない曲が割とはっきり分かれる、つまり、アルバム単位では割と話されることが少ないのではないかな。

 僕はどちらかといえばアルバム単位で話す人間だから、というよりこんなBLOGやっているんだからアルバム人間です、はい、認めます(笑)、僕にとってのエリックの存在感の不思議が、書いていてなんとなく分かってきました。


 正直言えば、エリックのアルバムはすべてをそらで知っているわけではなく、70年代は他2枚しか分からないけれど、でも、いつも、他のアルバムを聴き込んで覚えたいと思っている人ではあります。


 結局、中年向きの音楽なのかな。

 ただ、エリックがこれを作った年齢を僕はもう既にはるかに超えてしまっているけれど、ということはこちらの精神年齢が未熟、ということなのかもしれない(笑)。

 


 なお、デラックス・エディションのDisc1は、9曲の本編の後に以下の4曲のボーナストラックが入っています。


 10曲目Looking At The Rain

 11曲目Alberta

 12曲目Greyhound Bus

 13曲目Stars, Strays And Ashtrays

 

 うち、11曲目以外は未発表曲にて本邦初公開。

 10曲目はゴードン・ライトフットの曲、13曲目は自作ですが、だいたいこの頃のエリックの雰囲気。


 そしてDisc2が、1977年4月27日、ハマースミス・オデオンでのライヴで、以下の9曲が入っています。


 1曲目Tell The Truth

 2曲目Knocking On Heaven's Door

 3曲目Steady Rolling Man

 4曲目Can't Find My Way Home

 5曲目Further On Up The Road

 6曲目Stormy Monday

 7曲目Badge

 8曲目I Shot The Sheriff

 9曲目Layla


 うち3、4、7、8、9曲目は未発表にて本邦初公開音源ですが、その曲がまたいいんですね。

 既発のものはボックスセットに入っているのかな、

 特に4曲目は、一昨年のコンサートでも演奏して大好きになり、それからはきわめてよく口ずさむ曲になっただけにうれしい。

 オリジナルではスティーヴが歌うところをここではイヴォンヌ・エリマンが歌っていて(エリックが曲の前に紹介する)、また違ったソウル的な味わいがあります。

 

 7曲目Badge、ジョージ・ハリスンとの共作、やっぱり演奏していたのか、うれしい。


 そして最後9曲目がLayla。

 僕が大学生の頃まではこの曲のライヴは聴いたことがなくて、ライヴで演奏していないものだと思い込んでいたんだけど、CDの時代になって次々と正規のライヴテイクが発表されて、ちゃんと演奏していたんですね。

 なんだかんだでやっぱりこの曲はとっても大好きで、入っているのはうれしいですね。

 曲が持っているパワーが違います。



 ここ2回はブルーズを続けてきたせいで、この頃のエリックは、売れて一人前になったせいか、ロックの時代だったせいか、意識的にブルーズから離れようとしていたことがあらためて見えてきました。

 好きなことをやればいいじゃないか、と思う節はあるけれど、一方で、時代の先頭に立たされてしまった以上、そうも言っていられなかったのかもしれない。

 その辺の葛藤、俺はブルーズをやりたいんだ、というのが、結局のところは1990年代に入るまでのエリックのキャラクターとしてのイメージとして定着していたように思います。

 

 それにしてもこのアルバム、疲れているのか、ヴォーカルが締まりがなくて声も荒れています。

 でも、当時は、それすらパワーに変えるだけのエネルギーがあったのでしょうね。

 

 アルバムとしてのできは満点とはいえないけれど、エリック・クラプトンという偉大なる音楽家の足跡としては極めて重要な1枚には違いありません。


 なんといっても、3曲も名曲が入っていますからね。


 あとは、細かいことをぶつぶつ言わないで、CDをかけて音楽に浸るだけ、それに限ります(笑)。