◎WEST SIDE SOUL
▼ウェスト・サイド・ソウル
☆Magic Sam
★マジック・サム
released in 1967
CD-0346 2013/1/14
マジック・サムの1967年のアルバム。
今回は先ず、僕が聴いているP-VINEレーベルの国内盤CDの帯に書いてあるタタキ文句を一字一句同じく書き出してみます。
これを聴かずして絶対にブルースは語れない! シカゴ・ブルース新時代を切り開いた伝説の男、マジック・サムの歴史的大名盤!
まあ、レコード会社が書くとだいたいが歴史的大名盤になるんでしょうけど(笑)、これはほんと、聴きやすいポップなブルーズとしては名盤だと思います。
マジック・サムを知ったのは、昨年のロバート・クレイ・バンドの新譜のボーナストラックが彼のYou Belong To Meのカヴァーで、曲の最後にロバートがマジック・サムと紹介していたからでした。
その曲はこちらではないほうのアルバムに入っているのですが、先に買って聴いたCDであるこちらから記事にしました。
シカゴブルーズでは3つ前の記事でオーティス・ラッシュを取り上げ、ロックっぽい雰囲気であることを強調しました。
その前のアルバート・キングはブルーズの下にロックとソウルが並んでいる図式のようなアルバムというようなことを書きました。
今回のマジック・サムは、タイトルを見て一目瞭然、ソウルを意識しています。
ウェスト・サイドというのは、シカゴの中のウェストサイド地区でブルーズが盛んに演奏されていて、いわばブルーズの代名詞ともいえる言葉。
そこにソウルとわざわざつけているところに、モダンであること、旧来のブルーズから抜け出したものであることを宣言していると解釈できます。
少し話が逸れますが、AtlanticR&B1000円シリーズで出ているCDには、「ソウル」とタイトルにつくアルバムがかなり見受けられます。
これは違うシリーズですが、「ソウル」という言葉が当時は流行っていたしカッコいいものだったということがうかがい知れます。
このアルバムはその通り、ソウルにうんと近づいたブルーズとして聴くことができます。
どことなく、ローリング・ストーンズのごく初期やビートルズの2枚目に通じるものも感じられ、ブルーズとロックとソウルの真ん中辺りという音でしょうか。
ソウルっぽさを感じる要素のひとつが、このアルバムはほとんどがラヴソングで占められていることです。
曲名をすべて書き出してみます(このCDは12曲入りですが12曲目は5曲目の別テイクにて省略)。
That's All I Need
I Need You So Bad
I Feel So Good (I Wanna Boogie)
All Of Your Love
I Don't Want No Woman
Sweet Home Chicago
I Found A New Love
Every Night And Every Day
Lookin' Good、My Love Will Never Die
Mama, Mama, - Talk To Your Daughter
11曲中3曲に"Love"という単語が入っており、他も、失恋も含めてほとんどが恋愛を歌ったものであることが想像できるタイトルがつけられています。
ブルーズというとメッセージソング的なものが強いというイメージがあるけれど、いったいどうしちゃったのというくらいにお気楽なラヴソングで占められているのがこのアルバムであり、そこが新しかったのではないかと推測します。
もうひとつ、ソウルっぽい部分はマジック・サムの歌声。
かなり独特の声です。
声を伸ばした時に声にヴィブラートがかかっているんだけど、こぶしを回しているとかそういう作為的なものではなく、きっと自然と歌った声がこれなんだろうなと思わせる、ナチュラル・ヴィブラート・ヴォイスですね。
さらには、10曲目My Love Will Never Dieでは奇声ともいえるとんでもない高い声を出して歌ったり、歌声でも新しい試みをしています(それにしてもこの奇声は変だぞ)。
そんな声でありきたりのラヴソングを歌うのだから、ブルーズという感覚が薄くなります。
実際、例の1000円シリーズで聴いた「ソウル」歌手の中でも、ハワード・テイトやジョニー・テイラーなどはソウルの中でもR&B色を色濃く残していて、マジック・サムのこのアルバムもそこがいちばん近いと感じる音です。
ギタープレイも特徴的。
ギターソロは、なんというのかな、音が外れそうで外れない、ずれそうでずれない、たどたどしいというくらいのスリルがあります。
そんなギタープレイはオーティス・ラッシュとは正反対で、力でぐいぐい押すのではなく、引っ掻き回すという感じ。
基本的に高音弦の音がずっと響いているのがそう感じさせるところです。
ギターの音ではまた、1曲目の冒頭から聴かれる「カッカッ」という弾いてすぐにミュートする音が特徴的で、高音の響きと相まって音楽全体にカクカクっとしたリズム感を与えています。
曲ではなんといっても6曲目Sweet Home Chicago、ほぼ唯一の通常概念でいうラヴソングではない曲ですが、この曲はロックサイドでのカヴァーが多くてよく知られたところ。
それもそのはず、CDの帯によれば、これはもっと古い曲だけれど、マジック・サムのこの演奏で広く世に知られたとのことです。
曲自体も、型にはまったコード進行がミエミエのブルーズから脱却していて、そこも新しいと感じるところ。
それにしても軽快なブルーズで、シカゴブルーズ新時代というのはまったくその通りだと思います。
僕は、ロックぽい、ソウルっぽいなどと書いていますが、それは音楽の傾向を考えるのが好きだからそうしているだけで、実際に聴くとなると、なんであれいいものはいいと思います。
このアルバムは、そのことをよく示しているといえるでしょう。
しかも、飽きがなかなかこない、連装CDプレイヤーに入れてあるのでついつい聴いてしまう1枚ですね。
正直、「マジック・サム」などという名前だから、それこそ魔術をかけたように不思議な重たい響きのブルーズを想像していたのですが、いざ聴くと正反対で、むしろかなりポップ。
このマジックとは、ブルーズをポップにすることに成功したという意味かもしれない。
ジャケットの文字もサイケデリック調で時代を感じさせるし、当時の流行を見ていたことがよく分かりますね。
サイケデリックもそうだけど、僕は「ウルトラセブン」のテーマ曲の背景の影絵も思い出しました(笑)。
ところで、マジック・サムは、これが事実上のデビュー作であり、件の曲が入った2作目を作った後、32歳の若さにして心臓発作で急死してしまいました。
つまり、生前にはたった2枚のアルバムしか世に出すことはできなかった、まさに伝説のブルーズマン。
もし彼がその後も暫く生きていれば、ブルーズがどうなっていただろうと、ブルーズ好きの人の間ではよく言われるそうです。
さて、ホワイトスネイクからはじまり、ビートルズを除いてここ数枚は「ブルーズ小旅行」をしてきましたが、そろそろこの小旅行は終わりに。
まあ、またいつか小旅行に出るのでしょうけど(笑)、次回はブルーズではないものについて話すつもりです。