◎BORN UNDER A BAD SIGN
▼ボーン・アンダー・ア・バッド・サイン
☆Albert King
★アルバート・キング
released in 1967
CD-0342 2012/1/7
「ブルーズの3大キング」のひとり、アルバート・キングが初めてスタックスで録音したアルバム。
今回、これを取り上げたのは、2つ前のホワイトスネイクの記事にいただいた書き込みでこの曲が話題となり、久しぶりに聴いてみたくなってかけたからでした。
Fool For Your Lovingの歌い出しは、"I was born under a bad sign"、デヴィッド・カヴァデイルがブルーズの影響を強く受けていることをうかがわせるものです。
先日、音楽関係の本を1冊読了しました。
ピーター・バラカン著 「ぼくが愛するロック名盤240」 講談社+α文庫
内容については、あくまでもバラカンさんが「ぼくの」と書いて取り上げているアルバムであって、ロックのガイド本としてはあまり一般的とはいえないかな。
僕は、読みながらなるほどと思う部分がある反面、どうしてという思う部分もあったことは否定しません。
ただし、音楽について、いろいろな人の考え方や思いに触れるのは楽しいことだし、読んでよかった本であることは間違いありません。
その中で、なるほどと思い興味深かったのが、アルバート・キングを取り上げていたことでした。
取り上げていたアルバムは、KING OF THE BLUES GUITAR、LPは1969年に出たもので、これは例のWarnerR&B1000円シリーズで出ていて、僕も買いました。
ところが、買った後でバラカンさんの本を読むと、実はこれ、僕が既に持っていたアルバム、1967年に出たBORN UNDER A BAD SIGNを基にして再編集されたアルバムであることが分かりました。
どうりで知っている曲ばかりのはずだ(笑)。
そうと知っていれば買わなかった、ということもないかな、1000円のほうが曲は多いし。
バラカンさんの本で興味深かったのは、このアルバムが出た1967年はブルーズロックが生まれる気配があったとうことで、このアルバムも「ロック」として取り上げていたことでした。
僕は、ブルーズを聴いてゆく中で、元がロック人間だからか、ロックが起こった1960年代以降のものがやっぱりとっつきやすいと思うようになってきました。
自分で聴いたり本を読んでゆく中で、それは偶然ではなく、やはりブルーズの世界でもロックを意識した動きがあったのだから、考えてみれば僕が気に入るのは当たり前なんだろうな。
ところが、このアルバムは、ピーター・バラカンさんの本「魂(ソウル)のゆくえ」において、ソウルを感じるアルバムとしても取り上げられているのです。
「魂(ソウル)のゆくえ」は、僕が大学時代に新潮文庫で出たものが絶版となり、後に僕がソウルを真剣に聴き始めた2008年にうまいタイミングでアルテス・パブリッシングから大幅に加筆修正されて出直したもので、僕のソウルのガイド本ともいえる1冊。
アルバート・キングのこのアルバムを買ったもの、他でもない、その本で紹介されていたから。
このアルバムがソウルとして取り上げられいてるのは、メンフィスのスタックスのスタジオで録音されていることが大きいでしょうね。
バックを務めるのは、ギターがスティーヴ・クロッパー、ピアノがブッカー・T・ジョーンズ、ベースがドナルド・ダック・ダン、ドラムスがアル・ジャクソン・ジュニア、そう、かの、ブッカー・T・アンド・ジ・MGズ。
そこにもちろんメンフィス・ホーンズも加わり、サウンド的には当時勢いがあったスタックスのソウル路線を狙っています。
そして、アイザック・ヘイズも一部ピアノを担当しています。
そのような内容だから、音の作りはソウルの中のソウルといえるものでしょう。
ただし、アルバート・キングのヴォーカルは、ソウルというには素朴で艶やかさに欠ける面があります。
でもそれは、いわゆるソウルミュージックという音楽の表現方法としてのソウルという意味で、もっと深い、ほんとうの「魂」を感じるものではあります。
元々ソウルはいわばブルーズの孫だけど、1960年代はロックとともにソウルも大きな流れとなっていった時代だから、ブルーズからはソウルへも寄っていく動きがあったということなのでしょう。
でも、待てよ、ロックとソウルは、どこがどうなと細かいことはひとまず置いて、多くの人は、少し、だいぶ、かなり、違うものと感じますよね。
だけど、アルバート・キングのこのアルバムを聴くと、ロックといえばロックだし、ソウルといえばソウル、確かにそう感じるのです。
ロックもソウルもブルーズの孫だから、ブルーズのほうからすれば、ソウルやロックへのアプローチは意外と簡単なのかもしれない。
ただ、やり方は簡単そうに見えても、中途半端にならず、どちらの色も出しながらしっかりとした音楽を作るのは、ロックやソウルの大元であるブルーズの本質を体現している、いわば本物のブルーズマンだからでしょうね。
またこのアルバムは、ロックサイドで聴いたことがある曲が目白押しで、ロック人間にはとっつきやすいのがいい。
1曲目Born Under A Bad Signはクリームのカヴァーで僕は最初に聴きました。
そしてホワイトスネイクが歌詞に引用している。
2曲目Crosscut Sawもエリック・クラプトンがMONEY AND CIGARETTESで演奏していて、僕はオリジナルより先に聴いていました。
3曲目Kansas City、いわずとしれたビートルズのレパートリー。
ただし、ポール・マッカートニーはHey Hey Hey Heyをつなげてメドレーにしていますが、こちらはほんとにカンザスシティだけ。
6曲目The Hunterは僕はポール・ロジャースのブルーズアルバムで最初に聴きましたが、ロックサイドでカヴァーが多いですね。
そして4曲目Oh, Pretty Womanと10曲目As The Years Go Passing Byはどちらも、ゲイリー・ムーアがSTILL GOT THE BLUESで取り上げていて、20代の頃からずっと聴き込んできている曲。
そのアルバムにはアルバート・キング自身も参加していますね。
11曲入りだから、半分以上がロックでよく知られた曲ということになります。
そして7曲目I Almost Lost My Mindは穏やかでまろやかなソウルっぽい響きの曲で、知らなかった曲ではこれがいちばん気に入りました。
ブルーズとしてはポップで聴きやすいことこの上ないアルバムです。
おまけに、アートワークがいいですよね。
不吉なものを集めてイラストにしたもので、黒猫、13日の金曜日、スペードのエース、さいころの1が2つ、どくろ十字。
その中にSTAXのロゴが入っているのは悪いジョーク(笑)、ロック的ユーモアを感じますね。
余談、黒猫といえば、ジェフ・ベックも演奏していたウィリー・ディクスンのI Ain't Superstitiousの歌詞にも出てきます。
このアートワークに戻って、不吉な印のはずなのに、どこかほのぼのとしたタッチの絵が、なんだか逆に心温まるものを感じていいですね。
音楽の魅力にアートワークの楽しさが相まって、愛着が湧きやすいアルバムです。