THE ROAD FROM MEMPHIS ブッカー・T・ジョーンズ | 自然と音楽の森

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◎THE ROAD FROM MEMPHIS

▼ザ・ロード・フロム・メンフィス

☆Booker T. Jones

★ブッカー・T・ジョーンズ

released in 2011

CD-0338 2012/12/30


 ブッカー・T・ジョーンズの現時点における最新のソロアルバム。

 スタックス時代にメンフィスのスタジオのハウスバンドとして活躍し、生まれもメンフィスである彼の生き様を表した1枚。


 2012年の通常のアルバム紹介記事は今日が最後になります。

 明日は別の記事を上げるのでしめはまだですが、ひとまず、今年もお読みいただきありがとうございます。


 僕は、最初、最後、数字や節目には割とこだわる人間ですが、今年の最後は何にしようかと考えて、おそらく、今年最もかけた回数が多いCDにしました。


 それだけかけたのであれば既に記事にしていてよさそうなものが、自分でも意外なことに、まだ記事にしていなかったことに気づき、このままでは2012年は終れないので(笑)。



 ブッカーTのこのアルバムは、昨年5月にリリースされ、今年のグラミー賞において「ベスト・ポップ・インストゥルメンタル」部門を受賞しました。


 僕は元々、昨年の秋に聴いた前作、ニール・ヤングと共演したPOTATO HOLEをとても気に入っていたので、これは遅かれ早かれ買うつもりでウィッシュリストに入れていましたが、受賞が決まったと知ってとにかくすぐに聴きたくて焦り、Amazonに在庫有り、すぐに注文しました。


 焦ったのは、受賞を機に買われて暫く入荷しない可能性が考えられたからでした。

 でも、若い頃なら、受賞してから買うのは申し訳ないというか、恥ずかしいというか、ばつが悪い思いもしましたが、年を取って人間として鈍感になったようで、その辺は感じなくなりました(笑)。


 ウィッシュリストに入れて先延ばしにしていたのは、値段が高かったからで、Amazonは出た直後ではないアメリカのアーティストは高い傾向にありますね。

 しかし受賞が決まった時は、特に値下がりはしていなかったけど、高いとは思いませんでした。

 やっぱり、現金なもんだ、と自省の念・・・(笑)・・・


 それはともかく、と話を戻すようでまだ本筋には行かなくて(笑)、僕はここで、「聴いて」ではなく、「かけて」と書いていますが、それにはちょっとしたわけが。


 いつもいいますが、うちのCDプレイヤーは25枚連装型で、よく聴くものはある期間ずっとプレイヤーに入れっ放しにしておくのですが、これは、他に主に聴きたかったものが終わった後でかかっていることが多く、出かけたりその他用事がないのではない限りはそのままかけていたことが多かったのでした。

 今でもまだプレイヤーに入っていて、もうかれこれ9か月入りっぱなしですね。


 そのような場合、聴きたくない、その時の気分に合わないCDであればすぐに止めるのですが、これは止めることがほぼなかったような。

 

 つまり聴くタイミングを選ばない、聴きやすい、もちろん素晴らしいアルバムということ。

 歌があると、時として歌詞や人間の声そのものに引っかかって聴けない時があるけれど、これにはそんなところはなく、いつでもすっと心に入ってくる。

 気がつくと最後まで行って次のCDに変わっていた(そして止めた)ということがよくありました。

 

 アルバムは基本インストゥロメンタル、11曲中4曲にヴォーカルが入っていますが、その並びが素晴らしい。

 普通はどっちつかずという印象になりかねないところが、アルバムとしての流れをしっかりと考えてメリハリを利かせています。

 インスト曲が歌の前奏のようでもあり、歌がインストの前奏でもあるような、気分によってどちらにも聴くことができます。


 そう感じさせる要因のひとつは、ブッカーTの饒舌なオルガンの音色でしょう。


 そもそもオルガンの音色がギターよりは人間の声の音質に近いのかな、まろやかで温かみがあって、言葉では表し切れない部分を補ったり、場合によっては言葉よりも強く訴えかけてきます。

 曲名だけ言葉で与えられたところでオルガンが主旋律を奏でると、普段は使わない脳の部分が活性化されるようで、ある意味歌よりも刺激的ですらあります。


 ただ、どんなインストゥロメンタルものを聴いてもそうは感じないのは、やはりブッカーTの成せる業なのでしょう。



 アレンジも楽器のバランスがよくて、ギターは時々刺さって来たり薄く広く包み込んだり、ドラムスはリズム感がいいのはもちろん切れが尋常ではないくらい。


 その上、歌ものもすべて歌としてもいい。


 3曲目Progressは、My Morning Jacketというバンド(元のようですが)のYim Yamesという人が歌っています。

 不思議な名前ですが、Jim Jamesが本来の名前のようで、しかしこれだと日本語で表記するにはどうしたらいいのでしょうかね、「イム・イェイムズ」でしょうか。

 "J"は言語によっては「ヤコブ」のように日本語でいう「ヤ行」の音で読みますが、彼はその逆にしてみたということなのかな、だとすれば「ジム・ジェイムズ」でいいのか(笑)。

 それはともかく、微妙に揺らいだ声の持ち主で、どこか寂しく自信がない様子の歌い方は、歌声で聴かせるというよりはサウンドの中で生きるタイプ、ここではよく合っている。

 その声を連れてきたブッカーTの勝ち。


 5曲目Down In MemphisはブッカーT自身が歌っています。

 低くて粘りのある声ですが、20年振りのソロアルバムという前作はすべてインスト曲だったので、声を披露するのはかなり久しぶりでしょう。

 メンフィスでの生い立ちを自分で歌うのは説得力があります。


 8曲目Representing Memphisは、Matt Berninger & Sharon Jonesがデュエットでヴォーカル。

 マット・バーニンジャーはシンシナティ出身のThe Nationalというバンドのフロントマン、白人。

 シャロン・ジョーンズは1950年代生まれのソウル歌手ですが、ジョーンズとはいってもブッカーTとは血縁その他関係ないようです。

 僕はまったく知らない人でしたが、この人の温かみがある艶やかでのびやかな声がとてもいいですね。

 マットが押しつぶしたような歌い方をするその対比が面白く、曲に豊かな表情を与えています。

 シャロン・ジョーンズはなかなか芽が出ずにアルバイトなどをしながら歌い続け、40代になってから注目されるようになったという人だそうですが、この声はなかなかに得難いですよ。

 彼女のアルバムも聴いてみようかな。

 「メンフィスを代表して」というこの曲は、しかし、ブッカーT自身が歌うことは考えなかったのかな。

 考えていようといまいと、この曲はこの2人、特にシャロン、これしかないという出来栄え。


 最後11曲目The Bronxはルー・リードがゲスト。

 ルー・リードといえば最近ではメタリカとの共作アルバムで相変わらずの「異彩」を放っていましたが、ううん、やっぱりここでもルーはルーだ。

 タイトな演奏の中に自由なルーの声が入ると、曲に膨らみが出るというか、ポケットができるというか、それまでとは違う空間のようなものを感じます。

 アルバムの最後ですが、連作短編小説的に流れてまとまりかけていたのが、いい意味で調和を乱して再び混とんの中に納まって終る、そんなところかな。

 不思議な力を持った人です。

 また、この曲が最後であるため、まだ続くような、また始まるような印象を受け、このアルバムが短いと感じたのも、かけておいて結局最後まで聴いていたということにつながるのでしょう。



 ブッカー・T・ジョーンズの音楽は、Wikipediaでは「R&B、ソウル、ファンク、エレクトリック・ブルース」と記されています。

 そのどれも、歌ものとインストゥルメンタルものが含まれるわけですが、R&B系ののインストものというのは僕はブッカー・T&ジ・MGズで初めて接した音楽ですが、他にこれだけインストにこだわるアーティストには今のところまだ出会っておらず、そこも僕には新鮮でした。


 そこでまた余計なことを思うのが僕の悪い癖。


 R&B系のインストゥロメンタルに、何かいい名前を付けられないでしょうかね。


 今のところ「ブッカーTのような音楽」と言うしかないのかな(笑)。


 まあ、それだけ偉大な人というわけでしょう。


 ああ、今日も朝と今記事を書きながら2回聴いてしまった・・・(笑)・・・


 というのが、今年僕がいちばん多く「かけた」、もとい、「聴いた」CDでした。