SLIPPERY WHEN WET ボン・ジョヴィ | 自然と音楽の森

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洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。


自然と音楽の森-Dec24BonJovi3rd


◎SLIPPERY WHEN WET 

▼ワイルド・イン・ザ・ストリーツ

☆Bon Jovi 

★ボン・ジョヴィ

released in 1986
CD-0335 2012/12/24


 ボン・ジョヴィ3枚目のアルバム。

 彼らに大ブレイクをもたらし、トップスターへの道をつけたアルバムであり、以降の彼らは息の長い活動を続けているのはご存知の通り。


 このアルバムを取り上げる直接のきっかけは、2012年12月12日に行われたアメリカのハリケーン"Sandy"の被害へのチャリティコンサート、「121212コンサート」をケーブルテレビで観て(録画ですが)、そこにボン・ジョヴィも出ていたこと。

 

 ボン・ジョヴィは、日本で最も売れたアメリカンロック・バンドだと思います。

 売れた、というか、受け入れられた、でしょう。


 アメリカンロックは日本では人気がないとよく言われます。

 実際、僕も、実生活でもネットでもそれは感じます。

 ただ、今は、ネットで聴く機会も増えていることでしょうし、昔のように「毛嫌い」というよりは、聞いてみたけどそんなに好きなわけではない、という感じが強くなってはいるかな。

 

 なお、アメリカ人のロックという点でいえばビリー・ジョエルが日本では受け入れらましたが、ビリーは70年代は多国籍かつ無国籍の音楽を繰り広げていて売れたので、いわゆるアメリカンロックというイメージとは少し違うと思います、念のための補足ですが。

 

 ボン・ジョヴィは、僕が高校時代に出てきて、最初からそれなり以上に注目されていましたが、ハードロック・ヘヴィメタル系ということで最初は聴こうとは思わなかった。

 いつもいいますが、メタルマニアの悪友の影響で・・・
 

 しかし、1986年に発表された3枚目のこのアルバムで、僕にしては突然という印象で大ブレイクし、一気にメインストリームに駆け上りました。

 僕も最初は、どうしてそんなに受けたのかという部分が見えなくて距離を置いていましたが、やっぱり曲がいいのでLPを買いました。
 もう1987年に入っていました、浪人生の頃です。
 その頃うちで初めてCDプレイヤーを買ったのですが、最初のうちはまだCDが高く、このボン・ジョヴィのようにちょっと聴いてみたい、でも外すかもしれない、自信がない、というものは値段が安い輸入盤LPを買っていました。

 
 このアルバムについては、買うまでにMTV番組で観て聴いたシングルの2曲は好きでしたが、それ以外がどうなんだろうというのが、買う前に外すかもしれないと不安な部分でした。


 しかし、いざ買って聴いて思ったのが・・・「悔しいけど素晴らしい」

 当時はまだ、メタル好きの悪友の手前、素直に好きとは意地でも言いたくない人間でしたから(笑)。


 さらに、聴いてすぐにこう思いました。

 「なんだ、普通のアメリカンロックじゃん」

 基本アメリカンロック、演奏でハードな音をまとっただけ、という感じ。


 ボン・ジョヴィは後にカントリー系のアーティストと共演するほか、自身でもカントリー色を打ち出したアルバムを作るようになりましたが、それは、冷静な人ならこの時点で予見できたことかもしれません。

 僕は当時は流行に流されていたし、ボン・ジョヴィにはそれほど強い思い入れもなかったのでそうは思わなかったけれど、実際にそういう事態になってから、ああやっぱり、と頭の中でつながったのでした。


 ところで、ボン・ジョヴィってヘヴィメタルなの?

 当時は「ヘヴィメタル」の流れの中で出てきたバンドというイメージで売られていましたが、まあ、ハードロックであるのは間違いないと思います。
 それらしい服装にマリモパーマをしていましたし(笑)。

 でも、今の若い人がボン・ジョヴィを聴くと、少なくともヘヴィメタルとは思わないでしょうし、ヘヴィメタルといわれていたなんて話すと、老人のたわごとにしか思われないのではないかと。


 1987年頃はヘヴィメタルがブームになりましたが、ボン・ジョヴィの場合、言葉は悪いかもしれないけど、ブームに乗った部分はあったのではないかと思います。
 

 ただし、ぜんぜん違うのにブームに乗っかったわけではなく、彼らは元々ハードな音を出してシーンを盛り上げていて、だんだんとハードな面を前面に押し出していき、シーン全体が盛り上がったことが結びついたのでしょうね。


 或いは、はじめからハードなアメリカンロックの新しいかたちを目指していたのかもしれないし。


 ボン・ジョヴィは、流れに乗って出てきた以上のポテンシャルを見せつけ、四半世紀が経った今でもトップに君臨し続けています。

 音的にはちょっとハードなアメリカンロックの真ん中辺りで安定してきた感がありますが、ボン・ジョヴィがヘヴィメタルだったなんて、今となっては、いい意味での笑い話ですね。

 いずれにせよ、「アメリカンロック」の重要なバンドのひとつだと思います。


 
 1曲目Let It Rock

 今聴くとギターワークがあざといくらいにメタル的味付けですね。
 ただ、タイトルは「メタルも何も関係ねぇ、ロックはロックなんだ」と宣言しているみたいで、最初からうれしい1曲でした。
 ところでこれ、LPでリリースされた当時は、曲の本編に入る前の前奏の部分には、Pink Flamingo(複数形だったかも)という曲名がついていたと思いますが、今のCDではそれはなく、前奏から続けて1曲扱いになっています。


 2曲目You Give Love A Bad Name

 これは最初に好きになったボン・ジョヴィの曲。

 当時から思っていたのですが、ボン・ジョヴィの曲って、陰りがあり、情に訴えかけてくる、歌謡曲の香りがプンプン匂ってきますね。
 特にこの曲と次はそれが顕著ですし、そういえば、1stのRunawayも、日本では、日本語の歌詞を付け、ドラマのテーマ曲として歌われていたし。
 この曲と次は、バンド活動などもしてソロ作も出している作曲家デスモンド・チャイルドが共作していますが、彼は一時期、メタル系の有名どころのシングルヒット狙いの曲を多く手がけていました。
 彼の曲は、これでもかというくらいのあざとさとしつこさを持って劇的に流れてゆくのが特徴で、当時は、ロック評論家などに「ロックのことが分からない作曲家」と揶揄されていたような。

 でも、歌いやすい曲を作る才能に長けているのは間違いないことで、それはこれと次の曲が証明していると思います。
 この曲はほんとに最初から今までずっと大好きで、歌っていて気分がよくなる曲のひとつです。
 この曲はイントロやサビで出てくるギターの低音弦の旋律と、歌のバックのロックンロールのリフがとってもとってもいいですね。

 

 この曲は、先月何度か話題にした VH1's 100 Great Hard Rock Songs 「ハードロック100曲」において20位に入っていましたが、そこでも、当時は誰がこのバンドがこれだけ長続きすると予想したか、と言われていたのは、やはりみんな同じように感じていたんだなと思いました。


 3曲目Livin' On A Prayer

 もうこれは名曲中の超名曲、1980年代を代表する曲でしょうね。
 普通に音楽を聴くのが好きな30歳以上50歳以下の日本人であれば、知らない人はいないのではないか、或いはもう世の中に膾炙しているのでは、と思うくらいに。
 ファイターズの糸井選手の入場テーマ曲として使われていましたが、それに合わせて子どもが口ずさんでいたのには驚きました。
 この曲が世に出てから20年以上が経っていますが、当時はそこまでの名曲になろうとは思いもしませんでした。
 この曲はとにかくベースが目立つしかっこよくて素晴らしい。
 イントロからして印象的なリフを刻みますが、それ以上にサビの広がりがあるベースラインが、もう死ぬほどカッコいい!
 サビの突き抜けてもまだ止まらない扇情的な歌メロに対してまったく別の印象的な旋律で飛び出てくる、まさに歌うベースは、曲が2倍かそれ以上に膨らんだ感じを受けます。
 そのベースラインだけ口ずさむこともあるくらいで、これだけいいベースラインを持った曲は、歌メロとベースに強いこだわりを持つ僕としても、そうはないと断言できます。

 この曲がもうひとつうまいというか味があるのが、サビでタイトルを歌う部分が「ド」の音で終わっていないこと。
 「ド」の音で終わらないと、すっきりと終わった感じがせず、まだ続きそうな感じを受けるので、この曲の場合は、「道半ば」という感じがよく伝わってくると思います。
 最後に転調するのも、尋常ではない盛り上がり。
 おまけに間奏のギターソロも、これしかないというくらいに素晴らしい。

 ほんとに名曲だと心の底の底から思います。
 1990年頃にテレビ東京系で放送されていた「タモリの音楽は世界だ!」という番組において、「ボン・ジョヴィは演歌である」というテーマのもとに、この曲の魅力が語られていて、やっぱりボン・ジョヴィは、日本人には響くのでしょうね。
 ところでこの曲、邦題はいまだに「リヴィン・オン・ア・「プレイヤー」なんですね・・・(「プレイヤー」だと歌いにくくないですか・・・)

 「121212コンサート」では会場と一体となって歌っていました。


 4曲目Social Disease
 これはタイトルがメタル的イディオム。
 ギターワークがあざといくらいにメタルっぽいし。
 でもブラス風のキーボードに、ソウルの片鱗のかけらも見え隠れ。
 まあ、そこがアメリカ人の感覚なのかもしれません。
 前2曲と次のどうしようもないくらいの名曲に挟まれて、ちょっとかわいそうな曲でもあります(笑)。


 5曲目Wanted Dead Or Alive
 この曲がヒットしていた頃は、メタル系でもこんなカントリーっぽい曲があるんだという驚きをもって迎えられいていました。

 それ実は本末転倒というか、ボン・ジョヴィは単にこういう音楽も好きだということなんでしょね。
 曲は、カウボーイは鉄の馬=車に乗っているというカントリータッチのアコースティック・バラード。
 この曲は一発で気に入り、当時、イントロなどで印象的な、音が下がっていくアルペジオをギターでコピーしたくらい。
 歌い出しのところのsus4のコードもつぼで、僕が好きなロックのスタイルの割と真ん中にある曲。
 割とシンプルだけどドラマティックな盛り上げ方は、ジョン・ボン・ジョヴィの個人芸の域に達しているとすら思います。
 歌詞も抒情的でなかなかいいし、そしてこの曲は、外部の作曲者ではなく、ジョン・ボン・ジョヴィとリッチー・サンボラが作っているのが僕にはポイントが高いです。
 外部の作曲者を起用することには決して否定的ではないんだけど、でも、元がビートルズの人間だから、やっぱり自作ということには評価が高くなります。

 そしてもひとつ、リッチーのコーラスの声がうまくてきれいで当時驚きました(笑)。


 6曲目Raise Your Hands
 ここからLPでいうB面、疾走系のR&Rが並んでいますが、この辺は「同郷」のブルース・スプリングスティーンと似た感じがします。

 「121212コンサート」では同郷の2人の豪華共演も見られました。

 7曲目Without Love

 ボン・ジョヴィが苦手な人って、ジョンのヴォーカルの歌い方が暑苦しいと感じるのではないかと・・・
 声を絞り出してひっくり返りさらに音が厚くなる部分が特に。
 彼の声はさしずめ、「暑くて熱くて厚い」ですね。
 いや実はですね、僕こそが、最初はそうでした(笑)。
 この曲は特に曲としては軽い感じがするので、どうしてもっとさらっと歌えないのかな、とか。
 まあしかし、その熱情的な歌い方がジョンの特徴だし、今はそれはそれでいいと思っています。

 
 8曲目I'd Die For You
 でもやっぱり、ジョンの歌い方は、いまだに時として「3あつ=暑熱厚」、かなぁ・・・
 この辺は久し振りに聴いて、やっぱりそう思いました。
 この曲はおまけに、イントロのピアノの響きから歌メロから、歌謡曲色がもう濃いだけ濃すぎる。

 西城秀樹が歌っても分からないと思います(笑)。
 あ、もちろん、それは個性だし、僕だって、その歌い方がいいなと思う時も多くなってきました。
 それとジョンは"die"という単語を歌う時の気持ちの込め方が凄いなといつも思います。


 9曲目Never Say Goodbye

 メタル系とはいっても、こういうしっとりと聴かせるバラードもあるんだなって。
 そういえばこの少し後に「メタルバラード」が一種の流行りになりましたね。

 これは割とよくある感じとスタイルの曲で、曲自体が極上というわけではないけれど、印象に残りやすいし、雰囲気は最高にいい曲だと思います。
 アルバムの最後の前にあるのも絶妙な配置。


 10曲目Wild In The Streets
 最後は素軽い疾走系のロックンロール、やっぱり好き。
 このアルバムは、レインボーの「ストリート・オヴ・ドリームス」と同じく、収録曲からとられた英語の邦題がつけられていて、英語の原題の表題曲が存在しないという点でも同じ例ですね。
 でも僕は、これはこれでいい邦題だと思います。
 「濡れていると滑りやすい」よりはこのほうが真っ直ぐに魅力が伝わってくるし、そもそも僕は、この原題と、後述するアートワークは、メタル的イメージを「ねつ造」し過ぎと思っていました。
 このアルバムを最後まで聴き通すと、キーボードの軽くてピラピラ鳴る音に時代を感じますね。
 そしてもちろん、ヘヴィメタルのオブラートを被せた音作りにも。

 間奏の、ギターが高音のちょこちょこ動く音とピアノの高音の連弾が渾然一体となって響くサウンドが面白い。
 最後に元気で明るい曲を持ってくるのはアルバムとして引き締まって終わるのはよいと思います。



 今回聴いて、ボン・ジョヴィは、日本でいちばん受け入れられた、人気があるアメリカンロックのバンドであるという思いを再確認しました。

 最後に余談を2つ。


 ひとつめ。

 ジョン・ボン・ジョヴィは、本名をJon Francis Bongioviといい、イタリア系移民の子。
 彼らがデビューするにあたり、バンド名を決めることになり、ジョンは本名の苗字をバンド名にしたいということでレコード会社側と話し合った。

 レコード会社側には、Bongioviでは字面がカッコよくなくて野暮ったいのでBon Joviというスマート(に見える)名前にしろと言われ、最初はあまり乗り気ではないものの認めてデビューしたのだとか。
 確かに言われてみれば、うん、そうですね。
 世の中、商才に長けた人っているんだな、って思います。

 ただ、イタリア人である(もちろん嘘)僕の父が、その話を聞いて激怒していたことを思い出しました。


 もひとつ、このアルバムのジャケット、アートワーク。

 アーティスト側が望んだアートワークは、水に濡れたTシャツ姿の女性の上半身を大写しにしたいわばセクシー系ものでしたが、アメリカでは若者には刺激が強すぎるということで、ここの写真にある壁の落書きのようなものに差し替えられました。

 刺激的・・・まあそうかもしれないですが、しかし日本では最初から前者でリリースされたのは、国情が垣間見えて興味深いですね。

 

 女性の上半身のジャケットは、メタルの流れに乗ったものと僕は当時解釈しました、そういう時代だったから。

 でも僕は、音楽を聴いて、この音楽とそのジャケットのイメージがどうしても結びつきませんでした。

 この音楽からは艶っぽさを感じなかったというか、どちらかというと不器用な男性というイメージを持ったというか。


 でも、かといって、じゃあ壁の落書きのジャケットがいいかというと、正直つまらないですよね。 

 差し替えで時間がなかったのかもしれないけれど、そこが少し残念なところです。


 ただし、もう四半世紀が経ったので、このジャケットを見ると音が自然と頭に浮かんでくるようにはなりましたが。

 人間、慣れって恐い、あ、大切なんですね(笑)。



 ああ、ところで、「121212コンサート」を観て感じたことも書くつもりだったのですが、長くなったのでまたの機会にします。

 失敗だった・・・
 またというか、この際だから次回にしますか。