◎UNORTHODOX JUKEBOX
▼アンオーソドックス・ジュークボックス
☆Bruno Mars
★ブルーノ・マーズ
released in 2012
CD-0334 2012/12/22
ブルーノ・マーズの新作が出ました。
ブルーノ・マーズは、「キング・オヴ・メロディ」との称号が与えられています。
歌メロのいい曲を歌わせたら今の若手の第一人者、ということなのでしょう。
まだ2枚目、つまり前作はデビュー作だったのに、そんな称号が与えられたというのはよほどのことかと思うけど、実際に大ヒット曲を連発しました。
僕がブルーノを知ったのは、東日本大震災のチャリティアルバムにTalking To The Moonを提供していたことで、その曲はその中でそれまでに聴いたことがない人の曲ではいちばん気に入りました。
キングの称号はつい最近知ったのですが、その曲が一発で気に入った僕は、歌メロへのこだわりが強い人間としてまだまだセンスが衰えていないことが分かって、密かにうれしかった(笑)。
この新作、1980年代の香りがします。
ひとつに、80年代は例えばワム!のように主に英国勢がソウルの焼き直しを一生懸命やっていた。
もうひとつ、80年代はソウルが絶滅の危機に瀕し、ソウルという言葉は主に1960年代70年代の黒人のポップスに対する言葉という限定されたイメージになりかけていて、当時はブラック系と呼ばれていた黒人のポップス音楽は黒っぽさが薄くなっていたものだった。
つまり、ロック側からソウルの方へ寄って行った辺りと、ソウル側からロックに寄って行った辺りに立ってみると同じ辺りだったという1980年代の雰囲気を、このアルバムから感じます。
ただし、よく聴くと、80年代には薄められていたソウルの感覚もしっかりと感じられ、別にブルーノ・マーズがロックを目指して作っていたわけではないのは想像できます。
ブルーノ・マーズは1985年生まれ。
物心がついた頃には1980年代音楽は終わりかけていたけれど、自分の意志で音楽を聴くのではなくても、80年代の雰囲気を感じていたことは想像できます。
一方で、ブルーノが成長するにつれてブラック系は黒っぽさを取り戻し、死語になりかけたR&Bという言葉が復活、主に黒人のポップスを表す総称として定着しました。
ブルーノ・マーズの音楽は、その辺の感覚が自然と現れているのでしょう。
前々回は1980年代を象徴するアルバムの1枚であるフィル・コリンズを取り上げましたが、80年代音楽を聴き育った僕としては、80年代っぽい雰囲気というのが懐かしい。
また同時に、アリシア・キーズも含め、1980年代音楽が敬意をもって振り返る対象になったというのはうれしいことです。
若い世代にのみならず、80年代を「無視」していた上の世代にもそうであるといいのですが。
1曲目Young Girls
大仰な大甘のストリングスで砂糖の壁を崩して入ってくるようにアルバムが始まる。
ブルーノが歌い始めて数秒で、彼が「キング・オヴ・メロディ」と呼ばれている所以がすぐに感じとれます。
90年代には臭すぎてできなかったような雰囲気を堂々とやってしまうところ、見直した、ブルーノ!
2曲目Locked Out Of Heaven
この曲はギターのカッティングの音と全体のリズム感がポリスっぽいのがちょっと驚いた。
特にギターの音は、よほどの偶然ではない限りポリスを意識したとしか思えない響き。
曲としては普通に1980年代ブラックの雰囲気なんだけど、この曲を聴いて、ポリスは、特に1、2枚目は意外とソウルに近かったのかなと思ったり。
「ベストヒットUSA」ではこの曲がチャートインし、ビデオクリップが流れています。
3曲目Gorilla
ブルーノはゴリラという愛称で呼ばれているのかな、似ているということかな。
そういえばジャケットにもゴリラのかぶりものがいるし。
僕のイメージはナイーヴな人だったから、これはちょっと意外でした。
曲は独白調のバラードで、なんだかすっきりとしない雰囲気。
Bメロでロックっぽいギターサウンドになるけれど、なんだか迷っているような曲。
そしてMFを連発・・・
4曲目Treasure
これはブラコン、軽快なギターのカッティングは海辺の爽やかな風の雰囲気。
久保田利信のアップテンポの曲のイメージかな。
僕は久保田利信はラジオや店でかかっているのを耳にしたことがあるくらいですが、そう思いました。
5曲目Moonshine
おお、これは強烈に80年代の香り。
夜中のMTV番組を半分眠りながらなんとか見ていた経験が甦ってくる。
ちょっとここまでやってしまっていいのだろうか、というくらいに80年代で、僕のうれしさ極大(笑)。
歌メロもさすがはキング、これはいい。
そういえば僕が最初に聴いたブルーノの曲も月がモチーフだったけど、彼は月が好きなのかな。
6曲目When I Was Your Man
ピアノ弾き語り風のバラード。
曲は落ち着いて始まり、だんだんと熱を帯びてゆくさまがリアルに伝わってきます。
7曲目Natalie
前の曲を受けて重たく沈んだ雰囲気で始まる流れがいい。
気持ちが折れて切れてしまい激白するかのように歌うブルーノは、英雄的でもあります。
リズムが中心の曲だけど、やっぱりサビというかBメロはメロディに制圧される。
8曲目Show Me
リズムのみならず全体が本格的なレゲェ。
80年代を語る上でレゲェは外せないですからね。
あ、そうか、ポリスはレゲェを通じてソウルとつながっているのか。
曲はまあ、お遊びというか、ギターのカッティング、ベースの音、同じ単語をくりかえす歌など、いかにもレゲェというそのままの響き。
9曲目Money Make Her Smile
これも彼女への不満が募った曲かな。
不安、葛藤、どうしようもな気持ちのはけ口は歌しかないといったところ。
"Money, money, money"と3回繰り返す辺りは、ABBAでまさにそんな曲があってそれは70年代だけど、音楽のつながりを意識させるものであってまたうれしい部分。
10曲目If I Knew
最後は12/8のリズムの骨太R&B。
曲を分かりやすくいえばビートルズのOh! DarlingやイーグルスがカヴァーしたPlease Come Home For Christmasのイメージだけど、やっぱり直接1950年代後半に行くのではなく(ビートルズも焼き直し感覚だから)、1980年代を経由しているというか、そこで止まっているというか。
結局最後まで、今のヒップホップやネオソウルとは一線を画す、古臭い、僕には懐かしい響きで終わりました。
「オーソドックスではないジュークボックス」という脚韻を踏んでいるタイトル。
ジュークボックスに入っている曲といえば1960年代くらいまでというイメージが強いけれど、このCDはちょっと新しいよ、というメッセージでしょうか。
しかしそれでももう四半世紀前。
古くないようで古い、というイメージ、若いのにやるなあと感心します。
そういえば、今でもジュークボックスって普通にあるのかな。
ハイトーンヴォイスで歌い通すブルーノはパワフルだけど優しい。
そんなところも今受けている理由かもしれない。
これは正直、予想していたよりもいい1枚です。
少なくとも、彼が「キング・オヴ・メロディ」と呼ばれる所以は分かります、感じられます。
ところで、小林克也さんもブルーノ・マーズのことが好きなようです。
番組の中で「ブルーノ君」と呼んでいるのだけど、こんなこともまた1980年代とつながってきますね。