HIGHWAY 61 REVISITED ボブ・ディラン | 自然と音楽の森

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自然と音楽の森-Dec13BobDylan61


◎HIGHWAY 61 REVISITED

▼追憶のハイウェイ61

☆Bob Dylan

★ボブ・ディラン

released in 1965

CD-0328 2012/12/13


 ボブ・ディランの流れでもう1枚。

 今日は6作目、歴史に残る名盤を。


 1962年にビートルズが出てきて、ローリング・ストーンズをはじめ主に英国ロック勢が一つの大きな流れとなって大衆音楽の世界を変えました。

 ボブ・ディランはプロテストソング、反戦歌を歌うフォーク歌手として1962年にデビューするも、ほぼ同時にロックが大きな流れとなり、だんだんとロックに近づいてゆきました。
 そしてこの前作BRINGING IT ALL BACK HOMEで、エレクトリックギターを前面に出したロックサウンドを聴かせて、大きく変わってゆくことを音により表明しました。

 

 続くこのアルバム、エレクトリック・サウンド第2弾のアルバムにして、ディランは早くも自らのロックを確立させました。


 僕は、ボブ・ディランは本質的にはロックの人だと思ってきました。
 ディランの名前は洋楽を聴く前から知っていましたが、もちろんというか、最初はフォーク歌手として覚えました。

 でも実際に自分でその音楽を聴き始めてみると、僕は、ボブ・ディランという人の音楽はロックだと思いました(気づきました)。

 ディランには歌にメッセージを込めて多くの人々に伝えたいという思いが先ずあって、ウディ・ガスリーなどが好きなこともあり、フォークソングというかたちを選んだのでしょう。
 ギターとハーモニカがあればひとりでできることもあるし。


 でも、周りで起こっている音楽の様子を見ていると、それだけでは物足りないというか、もっと大きく世の中を突き動かしたいという欲求が出てきた。

 それを満たすには、フォークという殻の中では限界を感じたのでしょう。
 実際問題として、セールス面やラジオのエアプレイを考えても、ロックのほうがより多くの人に聴かれる世の中になっていましたし。

 また、ロックの反骨精神、社会に物申すという姿勢自体が、そもそものディランの姿勢と共鳴したこともあるでしょう。


 もうひとつ、ロックの連中にブルーズをいいようにこねくり回されて、アメリカ人でブルーズを愛するディランは黙っていられなくなったという、多少穿った見方に違いないですが、そんなところもディランをロックに向かわせた要因かもしれない。


 しかし、僕は、ディランは「本質的にはロックの人」と書いたように、ロックの興隆を感じて、本能的にロックをやらざるを得ない強い衝動に駆られた、ただそれだけかもしれない、と思います。
 ただそれだけ、というのは実は人間にとって大きな力になりますから。


 ロックは当初はブルーズやR&Bの影響が濃かったけれど、フォークやカントリーの要素も少しずつ取り入れてゆきました(ロカビリーはまた別の流れとして)。
 ビートルズもカントリー系やロカビリーのカヴァーをしていましたが、そこに、「張本人」ともいえるボブ・ディランが、フォークの感覚を自らがロックに持ち込むことにより、ロックのひとつのスタイルが確立した。
 いわば、ここでロックが完成した、ともいえるでしょう。

 そして、アメリカ側からのロックの反撃が火蓋を切って落とされた。


 ボブ・ディランはロックとしてはむしろ後から出てきましたが、時代の寵児であり尊敬の念を集めていたボブ・ディランが本格的なロックに取り組み始めたことで、当時はまだ散在していたロックという音楽をひとつの流れにまとめた。
 つまり、ロックを聴く人、演奏する人の指針となる1枚が登場した。
 このアルバムがロック史においてここまで重きを置かれているのは、そのことに集約されるのではないかと考えています。


 僕がこのアルバムを初めて聴いたのは、もう大学生になり、CDの時代になり、さらにロック名盤のガイド本を読んだ後でしたが、最初に家でCDをかけて、最初から存在感が違うと感じました。
 もちろん事前に情報に接して期待が大きかったことはありますが、その大きな期待よりもさらに高いところにある1枚と。
 そういうアルバムはありそうでなかなかないものです。


 また、アルバムをただの歌の寄せ集め以上の「作品」のレベルに引き上げるという流れにも先鞭をつけたアルバムともいえますが、その点でもやはり古さを感じさせないものがあります。


 意外と歌メロがしっかりしていていい、というのが第一印象でした。
 当時はまだ語るように歌い音を外す人というイメージがありましたが、そうではなく旋律がしっかりとあるのが、驚いたというか。
 今は、歌メロもいい曲を書く人であるし、だからこそずっと第一線で活躍し続けてロックレジェンドになった人であるとは思っていますが、まだまだ僕も若くかったから(笑)。

 ただそれだけのこととは強いと書きましたが、このアルバムは、思想やら形態やら何やら以上に、単純に曲が素晴らしい。
 僕が今まで長々と書いてきたことはすべて、それがあるからこそのいわば付加価値的な面にすぎません、音楽としてみれば。

 ただ、ロック史上最も付加価値が大きな中の1枚ではあります。



 1曲目Like A Rolling Stone

 あまりにも有名なこの曲は、ローリング・ストーンズを通してのディランのロックへのアンサーソングであるのでしょう。
 でも僕は、不思議なことに、この曲を聴いても、ストーンズのことはもはやあまり思い浮かべることはなくなりました。

 「ローリング・ストーン」という言葉はこの曲のためにある、というところですが、それだけ印象的な、孤高の存在の曲といえるでしょう。

 シングルとしてもディラン最大級のヒットを記録し、ビルボード誌では2位までいきました、惜しかった。
 6分以上あるけど、もしシングルエディットを出していればもう少しラジオでかけられて1位になっていたかもしれない。
 ただ、売れるためにそんなことをする人ではないでしょうし、当時はまだそういう考え方はなかったでしょうけど。
 ディランは、ビルボードのシングルでNo.1を獲得したことがないアメリカの3大大物のひとり。
 あとの2人はC.C.R.とブルース・スプリングスティーン。
 ただ、ディランとボスはWe Are The Worldで歌っていて、参加したシングルとしてはそれがNo.1に輝いています、皮肉なことに、というか。

 これこそ歌メロがいいディランの曲の代表格。
 「鼻血ピュー」の空耳でも有名ですが(笑)、その部分、"How does it feel"と歌う部分、それまでずっときちんと歌として整えて歌ってきたのに、最後でもうこらえきれなくなったかのように早めに切りだしてしまう、そのいかにも型にはまっていないところがスリリングであり、ロックとしての魅力を感じるひとつですね。
 しかしそれにしてもディランは地声が大きそう(笑)。
 そしてこの曲、歌い方、真似しますよね(笑)。
 アル・クーパーのオルガンがいいバランスで鳴っています。
 1990年代にローリング・ストーンズがアンプラグド形式のSTRIPPEDでカヴァーしていたのはご愛嬌というか、当時は、ロックもそろそろ伝説の世界に入ってきたんだと感じたものです。
 ともあれ、ロックの歴史を10曲で語れと言われれば、これはきっと選ばれるであろう、まさに名曲中の超名曲。


 2曲目Tombstone Blues
 プロレス技に「ツームストーン・パイルドライバー」てありましたが、そのツームストーンってこれのことかって・・・まさか(笑)。
 ぴしゃっと打つようなドラムスにぐいぐいと引っ張られてゆくロックンロールともいえる曲で、ディランってこんな速い曲も出来るんだって最初は驚きました。
 エレクトリックギターはマイク・ブルームフィールドが担当していますが、曲が終わって入ってくるギターが颯爽としていて素晴らしい。
 曲自体はタイトルの通り単純なブルーズ形式で分かりやすい。


 3曲目It Takes A Lot To Laugh, It Takes A Train To Cry

 僕がいちばん好きなディランの曲はこれかな。
 このアルバムを聴くまで、やっぱりプロテストソングを恐いくらいの勢いで強く歌う人というイメージが強かったのは否定しませんが、あまりにもロマンティックなこの曲を聴いて、ディランってほんとはこういう人なんだって思いました。

 声を大きく高く伸ばすところは、歌手としてもうまいとも思ったし。
 鉄道を用いた別れの曲というのも、日本人の心に響きますね。
 タイトルもひねりがありつつ余情も感じられる、長いけど(笑)。
 やはり単純なブルーズ形式のちょっと応用した曲ですが、ディランほどそれが上手い作曲家もいないと断言します。
 ああ、いいなあ、ほんとにいいなあ。
 奇しくもこれは冬が始まった頃の曲でもありますが、やっぱり僕がいちばん好きなディランの曲、決まりだな。


 4曲目From Buick 6

 というわけで基本はブルーズの骨格が見える曲が続く。
 ビュイックはアメリカのGMの車ですね。
 スーパーカーブームの頃にスーパーカーじゃないけど覚えました。
 車で疾走するでもなく、揺られるでもなく、なんとなく気が抜けたように走っているように感じる。

 歌っているベースラインが印象的。


 5曲目Ballad Of A Thin Man

 ビートルズのYer Bluesでジョン・レノンが歌っている"I'm feel so suicidal just like Dylan's Mr. Jones"というのはこの曲の主人公のことかと、最初にCDを聴いた時膝を打ち、よそ8年ほど抱いていた謎が解けてうれしかった(笑)。
 そのジョーンズさんは保安官か何かかな、今起こっていることを「ジョーンズさん、知ってるの?」と低い声で歌うのが印象的。
 バラードというのは物語を歌うフォークバラードのことですが、ゆったりとしていて別の意味のバラードっぽい。
 でも、しんどそうに歌う、やっぱりそのバラードじゃないな。


 6曲目Queen Jane Approximately

 LPでいえばここからB面。

 ビートルズでは出てこないあまりなじみのない"approximately"なんて単語が出てきて、おお、俺はディランを聴いているんだ、と妙にうれしかった記憶が(笑)。
 でも、大仰な綴りの割には「ざっと」という意味ですが・・・CDや映画の時間を示す時に(approx)と記されているのを後によく見るようになりました。
 それにしても曲の中に人名がよく出てくる人だ。
 曲は次作ブロンドにつながる路線の穏やかで柔らかな響きで、イントロから軽やかになり続けるピアノが特にそう感じさせます。
 ディランなりに激情的に歌うのも、癖があって印象的。


 7曲目Highway 61 Revisited

 おお、これはビートルズのOld Brown Shoeに似てるぞ!
 と最初に聴いて思いましたが逆で、ビートルズのほうが似ている。
 リズムはそのままいただいているし、「ひゅーっ」という笛の音は、ジョージ・ハリスンがスライドギター風のギターで似せようとしたり、ジョージなかなかやるじゃん、と思ったり(笑)。
 ただ歌メロはまったく違うので、盗作というレベルじゃないけれど。
 ハイウェイ61号線はディラン生誕の地を通っており、アメリカ音楽には重要な意味を持つ道路だそうですが、音楽を英国勢にいいようにされてはたまらんという思いがあったのかも。
 走れるだけ突っ走る、あまりにも強烈なブギー。


 8曲目Just Like Tom Thumb's Blues

 "Blues"とタイトルにつくのはこれで2曲目、それはディランの当時のこだわりだったのでしょう。
 これも1曲はさんで穏やかなミドルテンポの曲で、普通の意味のバラードっぽい響きではあるけれど、アルバムにはそういう曲も必要と感じていたのかもしれない。
 曲が立つというよりは、アルバムの中でしみじみいい曲かな。
 その通りアルバムの流れとしても最高にいいのですが。


 9曲目Desolation Row

 長いんですよね、10分以上あるんですよね。
 よく歌詞を覚えられたな、と、いまだに聴く度に思う。
 いつも言う、僕は曲の覚えが悪いので、もし自分が曲を作っても、それを覚えるまでかなりかかるでしょうね。
 その上こんな長い歌詞を覚えるなんて・・・
 まあでも、これは曲自体は基本的に同じ8小節の繰り返しだから、歌詞を覚えることに集中できるかもしれない。
 なんて長くなりましたが、語り部としてのディランがひとつの頂点に達したといっていい、素晴らしい曲。
 廃墟を歌っているのなんだかたまらないくらいに爽やかな響き。
 情景としては朝で、少し空気が冷たくなった秋の頃、廃墟に立つ主人公は周りを見つめながら思い出を語り始める。
 爽やかなのは、思い出の中ではまだ人々が元気に生活していて、彼らを愛おしく感じているから。
 アインシュタインとかカサノヴァとか、やっぱり人名が多い(笑)。
 特筆すべきは、生ギターの音がとにかく素晴らしいことで、これほどまでに瑞々しい音で録音できた、その音だけでも聴きどころ。
 ディランのリズムギターとはまるで別の世界にいるように自由にガイドメロディをつけるマイクのギターがまた最高にいい。
 この曲は、歌詞がどうこう以前に、とにかく感じるところが多くて、いつ聴いても心が吸い込まれてゆきます。
 7分くらいを過ぎると、いつ終わるんだろうと思い始めるんだけど、終わりになると、もう終わってしまうんだという寂しさに襲われ、時には涙することもあるくらい。
 ディランがサウンドクリエイターとしても素晴らしい才能を発揮し始めたことも分かります。


 ところで、もう10年くらい前のことかな、札幌の中古レコード店「レコーズレコーズ」に行ったところ、この曲をイタリア語で歌っているおそらくイタリア人のカヴァーが流れていました。
 歌詞は違うけどすぐに分かって、えっ、この曲をカヴァーする人が世の中に入るんだと驚き、中古CDを探すのを忘れて暫く聴き入ってしまいました。
 最初から聴いていたわけではないけれど、多分フルにあったと思う。
 それはいったい誰が歌っているんだろう。
 その時に店員さんに聞けばよかったと、今は後悔しています。
 もしかしてそのCDを買っていたかな、レコードだったかもしれないけれど。



 最後に、ジョン・レノンは、生前最後のインタビューにおいてディランについてどう思っていたかと聞かれ、こう答えていました。

 「特にファンでもなかった」
 「61とブロンド・オン・ブロンドの後、両耳で聴くのをやめた」
 ジョンのほうが年上だし、多少の意地とプライドもあるのでしょうけど、「両耳で聴くのをやめた」というのはいかにもジョンらしい表現、何を言わんかや、よく伝わってきますね。
 当時は、ディランが同じロックのフィールドに来たことで、ジョンもいろいろ思ったのでしょうね。
 同じことをするなら刺激や影響を受けるものでもない、というか。


 その代わりというか、ジョージがディランに近づいてゆき、ソロになってからはバングラデシュ・コンサートに出演したり、ずっと後にはトラヴェリング・ウィルベリーズで一緒に「バンド」活動をしていましたね。


 余談ですが、僕は、これとほぼ同じ頃に、ローリング・ストーンズのLET IT BLEEDを聴いたのですが、ストーンズのそれは、ディランのこのアルバムを発展させたものじゃないかな、と感じました。

 あくまでも僕は、ですが。
 もちろんそれも素晴らしいアルバム、言うまでもなく。

 このアルバムは、曲がとてもよく、流れが良く、意味が大きくて、名曲が入っている。
 いわゆる名盤という言葉のイメージには最もよくあてはまる1枚。

 というより、名盤という言葉を辞書で説明する際に取り上げるべきアルバムとすら言えるのではないかな。

 何より、時代は感じても、音楽自体からは古さを感じません。
 


 さて、次回はひとまずディランではない予定、つもり、そうしたい、です(笑)。