◎GIRL ON FIRE
▼ガール・オン・ファイア
☆Alicia Keys
★アリシア・キーズ
released in 2012
CD-0331 2012/12/17
アリシア・キーズの新譜、スタジオアルバムとしては5枚目。
昨日の夜に記事を上げるつもりでいましたが、やはりというか、見ないつもりでいたのに、選挙速報のテレビが始まるとそれを見ていました・・・
アリシア・キーズの前作は、歌メロにこだわる僕としては最高に気に入っていて、ここ5年の間に出たアルバムでは今のところいちばん好きかもしれない、というくらいにまでなりました。
だからこのアルバムはもちろん期待が大きかった。
しかし、いざ買って聴くと、歌メロ派の僕としてはそれほどまでには響いてこなくて、正直言えば少しがっかりでした。
ひとことでいえば、歌よりも全体のサウンド作りに重きを置いていると感じます。
サウンドがまとまっていて、響きのきれいさ、クールさ、透明感をより求めている。
最初は少しがっかりでしたが、でも、4回目くらいからこれはこれでいいかも、と思えるようになり、そして5日目くらいかな、これはやっぱり素晴らしいと思えるようになりました。
さらに聴いてゆくと、クールさを求めていると書いたけど、心の中にある熱情を表したいという衝動も感じられるようになりました。
だからといって別に取り乱しているわけではないんだけど、熱い衝動とクールなサウンドを両立させたいという意図があるかのように。
デビュー10周年を迎え、気持ちも新たに、これから向かう先が見えてきたのかもしれません。
また彼女は、歌メロにこだわった歌で落ち着くには若すぎるし早すぎると感じたのかな。
慣れてくるとやっぱり、歌メロもとてもいいんですけどね(笑)。
1曲目De Novo Adagio (Intro)
「新しいアダージョ」、クラシックのピアノ曲風に静かに始まるイントロ。
ところで、1990年代以降に出てきたR&B系の人は、たいていこうしてイントロを入れますよね。
それが悪いとかそういう話じゃないんだけど、これって業界の決まりのようなものなのかな。
形式が重んじられているのであれば、新しい音楽といえども、古い考えを大切にする部分もあるんだなって思います。
2曲目Brand New Me
そういえば彼女、結婚してこれが初めてのアルバムだけど、こうした私的なことを想像させる曲があるというのは、彼女は1970年代の狭義のシンガーソングライター的な部分があるんだな。
続いて静かなピアノで始まるバラードは、出だしの音、歌メロの流れがなんとなく狭義のシンガーソングライターっぽい。
この曲は今となってはとてもいいバラードだけど、なぜ最初にここで反応しなかったか、自分でも不思議(笑)。
3曲目When It's Over
一方この曲はサウンド指向が強くて、歌メロも歌ではなくあくまでも全体の音の中のひとつという感じの響き。
まあもちろんそれでもやっぱり歌メロはいいし印象的なフックはあるんだけど。
そしてリズムが新しい、ジャズにもアフリカにもつながっていく鼓動。
4曲目Listen To Your Heart
これは1970年代ソウル風だな、なぜか懐かしい。
僕はその頃はまだ小学生で音楽は聴いていなかったけど、その頃のラジオで流れていた感じ。
特にBメロの「は~あ~あ~あ~」とふわっと音が上がるハミングの部分。
これはジェットストリームかな、浮遊感がたまらない。
5曲目New Day
ミクロネシア、ポリネシア、メラネシア、その辺りの舞踏のようなリズムとそれを煽るような、ギターの音かな、ぺらぺらぱりぱりした音が印象的。
さらに印象的なのは、「えっえっええっえっええっえっえっ」とハミングするところで、今まで「え」の音でハミングするのは聴いたことがない。
リズムは太平洋だけど、全体は都会の朝といった響き、これはいいなあ。
東京の弟の家に泊まりに行った時、朝5時頃に散歩に出る時、こんな感じかな(笑)。
6曲目Girl On Fire (Inferno Version) featuring Nicki Minaj
今が旬のニッキー・ミナージュの強烈なラップで始まる表題曲。
ニッキー・ミナージュを知っているのは「ベストヒットUSA」を見ているおかげ。
ラップを受けてアリシアが高らかと宣言するかのように堂々と歌い始める力強い曲。
そしてサビで大爆発、「ふぁいや~~」、だからインフェルノなのか。
ここまで熱い気持ちの人だったのか、つんとすましたクールな人だと思っていた。
しかもこの"Fire"のところはこぶしが回っていて、この曲、日本で結構受けるんじゃないかな。
まあラップが入っているのは微妙な部分もあるけど、少なくとも覚えやすい曲ではある。
アリシアをずっと聴いてきた人じゃなくても何か印象に残る曲だと思う。
最後はおとなしくヴォーカルだけで終わるのもいい。
7曲目Fire We Make duet with Maxwell
彼女にとっての"Fire"は、結婚して新しい局面に進むことで得られたものなのかな。
これは80年代のまだブラコンの名残があるバラード。
と思って聴いていると、これはプリンスだな、そう思うとまた懐かしい。
マックスウェルのファルセットがたたみかけるように懐かしさを助長する。
狂い咲きのようなギターソロも。
アリシアはほんとにプリンスが大好きなんだなあ。
8曲目Tears Always Win
涙がいつも勝つ、男には或る意味恐いかもしれない・・・
それはともかく、アリシアがいいのは、サウンドは今のものだけど、歌としては1980年代を強く感じさせるところかな。
1980年代は音楽的に行き詰っていて、そこより先に進めなかった、その先を見せてくれているよう。
これはソウルっぽさが薄いポップソングで、バラードといっていい曲。
サビの歌メロの持っていきかたがどうしようもないくらいに80年代風、ああ、いいなあ。
9曲目Not Even The King
ピアノ弾き語りのメッセージ色が濃いバラード。
Aメロは情感込めて歌い、Bメロというかブリッジで高揚して歌メロが大きく揺れ動く。
これを聴くと、ただ歌メロがいい歌以上にメッセージとして伝えたいという思いが強いことを感じ、そうなると前作はそこが突き詰められなくて不満だったのかもしれない、とも思う。
これは将来の名曲候補。
10曲目That's When I Knew
こちらはアコースティックソウル路線ともいうべき、ギターをバックにやはり気持ちを入れて歌うバラード。
アリシアの必殺のバラードはもはや定評がありますが、ここに来て全開。
どうして最初からこの辺りに気づかなかったのか、やっぱり歌の覚えが悪いのか・・・
割とおとなしい歌だと思わせておいて、最後の方で気持ちを抑えきれなくなるように取り乱すように歌うのが、やはり今回は気持ちに"fire"が入っているんだなって。
11曲目Limitedless
打って変わって音遊びのようなレゲェ風の明るい曲に。
"Mercy mercy mercy"というのはレゲェやR&B系のひとつの定型句なのかな。
歌い方、発音というか、それもレゲェを意識しているかな、でもやっぱり本格的に本物らしくやらないところに都会的なクールさを感じる。
バラードが続いたガス抜きのような、サウンド指向が強い曲。
12曲目One Thing
そしてやはりおとなしいソウルの時代風のバラードに戻る。
ただこれは歌全体がいいというよりはサビのフックが印象に残る、やはり全体の響き重視のky区。
13曲目101
アウトロの意味合いも持つ最後の曲は沈鬱なバラード。
懺悔するように重々しく引きずるように歌う。
この曲はクラシックの素養がないと作れない、厳かで規律正さを感じます。
これ自体はとてもいい曲だけど、これでアルバムが終わるのはちょっときついぞ、と思っていると・・・
曲がいったん終わりかけて、また始まる。
アリシアが、まるで出口を探し救いを求めるかのように"Hallelujah"とただ叫び続けながら曲が終わる。
なるほど、前半の重たい雰囲気がここで生きてきました。
最初は少しがっかりだったことを、今はもう忘れています(笑)。
おそらく何年か後になるとやっぱり前作のほうが好きと言うと思う。
でも今は、彼女は前に進むつもりでいるのだから、それを応援し支持する。
実際、この新作も、音楽としては素晴らしいから。
逆にいえば、前作がそれほどまでに気に入ったのでなければ、僕も最初からもっと気持ちが入って行ったかもしれない。
ファンとは身勝手なものですね(笑)。
アリシア・キーズは、若いのに包容力がある人で、聴いていて包まれる感覚がいい。
ソウル系の歌手にしては歌がうますぎないのがいいのかもしれない。
これはほめ言葉ですよ、もちろん(笑)。
そしてアリシアは、先日行われた「12-12-12 ハリケーン・サンディー救済コンサート」でポール・マッカートニーとも共演したようですね。
アリシアのFBでもそれに感動したという書き込みがありましたが、うれしい話題でした。
アリシア・キーズの新譜、暫くは毎日聴きたいアルバムです。