LOTUS クリスティーナ・アギレラ | 自然と音楽の森

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洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。


自然と音楽の森-Dec04ChristinaAguilera

◎LOTUS

▼ロータス

☆Christina Aguilera

★クリスティーナ・アギレラ

released in 2012

CD-0322 2012/12/4


 クリスティーナ・アギレラの新譜は、英語で歌った新作アルバムのうち、サントラとクリスマスアルバムを除いたものとしては5枚目にあたります。


 今回のテーマ、クリスティーナ・アギレラはアイドルなのか!?


 クリスティーナ・アギレラはデビューした頃から名前と存在だけ知っていて、どんな歌を歌っているかは知らなかったけれど、きっと、ブリトニー・スピアーズやアヴリル・ラヴィーンと同じようなアイドル系なのだろうから特に聴こうとは思いませんでした。

 断っておきますが、アイドルだからいい、よくない、という問題ではなく、ただ単に自分の興味の対象として話しています。


 ところが、ちょうど1年ほど前の事、いつも話題に出す「ローリング・ストーン誌が選ぶ100人の歌手」 で彼女はなんと58位に入っていて、ロッド・スチュワートより1つ上ということを知って僕は驚きました。


 アイドルじゃなかったのか?


 そもそもアイドル歌手とは、古い概念でいえば、プロの作詞家作曲家が曲を作り、演奏は自ら行わずに歌うだけ、そしてルックスがいい、ということになると思います。

 その点でいえばモータウンは黒人アイドル集団だったといえる部分はあるでしょうし、当時の盛り上がり方は単に音楽がいいだけ以上の存在だったことは想像に難くありません。

 ただ、アイドルは、歌はそれほど上手くなくてもいいというイメージもあるかと思うけれど、モータウンはそれは違いますね、声を大にして言いたい。

 もしかして、上手くなくてもいいというのは日本だけの概念かもしれないけれど。

 

 一方、アイドルではなくてもルックスで人気になる人だっていくらでもいます。

 ビートルズだって最初はアイドル的な要素が強かったですからね。

 彼らの映画「ヘルプ! 4人はアイドル」という邦題を知った時、中学生だった僕には意外で驚いたものでした。

 ルックスが好きかどうかだけでいえば、シェリル・クロウやサラ・マクラクランやノラ・ジョーンズは僕にとってはアイドル的な面がある人だし。

 そうそう、それで思ったけど、アイドルの概念にはもうひとつ、主に異性をターゲットにしているということもあるでしょう。

 そう考えるとやっぱりモータウンはアイドル集団ではない、純粋な音楽家集団ですね。


 クリスティーナ・アギレラは、1999年の1作目はすべて他の人が作った曲を歌う「アイドル歌手」でした。

 だから、最初の頃の僕の感じ方はそれでよかったのかもしれない。


 ただ、2作目から自分でも曲作りに関わるようになり、最新作では過半の曲のクレジットにその名前があります。

 どれくらい関わっているかは分からない、バンドのヴォーカリストによくある歌メロのフックを考えるだけだけど名前を出しているかもしれないし、逆に大枠を考えるけど作り上げるのはミュージシャン共同で行うのかもしれないし、もちろんやり方は一つじゃないでしょうけど。


 でも、じゃあアイドルじゃないのかといわれると、やっぱり違う気がする。

 曲も作れて歌も上手い新世代のアイドル、ということになるのでしょう。

 そういう人がそれまではいなかった、というところに彼女の存在価値があるのかもしれない。

 いわゆるすき間のひとつです。


 クリスティーナ・アギレラにつながってゆくひとりは、マライア・キャリーかな。

 彼女はルックスもデビュー当時から注目されていたけれど、アイドルとしてプロモーションされていたという記憶は少なくとも僕にはない。

 歌が上手くてきれいなお姉さん、という感じじゃなかったかな。

 マライアは最初から自分で曲を作っていたし、あくまでも歌があっての人でしょう。 


 逆に、クリスティーナ・アギレラの路線をさらに拡大したのがレディ・ガガということかな。

 ガガは作曲家として先にレコード会社と契約していたようですから。


 まあ、もっとさかのぼるとマドンナになるのでしょうけど。


 まとめると、クリスティーナ・アギレラは、「アイドル・シンガーソングライター」、自分でも曲を作るアイドル、ということにここで決めさせていただきました。


 100人のひとりに選ばれているのは、アイドルの割には上手いという意外性、積極的に曲作りに携わるアイドルはそれまでいなかったこと、そして期待の若手として評価する選者が多かったとみると納得できます。

 実は、自分でもどうしてか今まで真面目に考えたことはなかったのですが、こうして記事にして、自分でも漸く納得できたのでした(笑)。



 新作について短く。

 

 前作は、いかにも打ち込み系の作り物っぽい音で、彼女がサイボーグであるかのようなアートワークでしたが、まさにそんなイメージ、ちょっと落ち着きがない響きのアルバムでした。

 ただし、僕はそれはそれで気に入ったのですが。

 でもだからといって、他のそういう音楽を気に入るかどうかは、まるで自信はありません、念のため。

 

 新作は、ユーロビート系の音づかいはあるものの、今の普通のR&Bっぽい感じが強くなっていて、だいぶ落ち着いて普通に聴けるアルバムに仕上がっています。



 1曲目Lotus Intro、ゆったりと優しく語りかけてくる、今まで聴いたことがないソフトな歌い方。


 2曲目Army Of Me、強いビートで力強く歌う、意外と歌メロが印象に残る。


 3曲目Red Hot Kinda Love、いかにもラテン系といった明るく突き抜けた盛り上がりを見せる曲。

 

 4曲目Make The World Move、ゲストのシーロー・グリーンはロッド・スチュワートのクリスマスアルバムにも参加していたけれど、こういう偶然は僕は割とよくあって、これはいよいよシーロー・グリーンを聴いてみないといけないようで(笑)。 

 ただ、ここのシーローはロッドの時ほど声が目立たなくてちょっと不満。

 R&Bもここまで進化したかという、曲自体は意外とオーソドックスな曲。


 5曲目Your Body、 「お~お~お~お~おおお~お~お~」という雄叫びのような声が妙に印象に残る、あ、雄じゃないけれど。

 【追記】先ほど録画で「ベストヒットUSA」を観たところ、この曲がシングルとして20位にチャートインしていました。


 6曲目Let There Be Love、僕の世代ではこういうのを「ジュリアナ系」の音というのでしょうけど、もう死語ですよね・・・(笑)。

 僕はジュリアナは行ったことはないけれど。


 7曲目Sing For Me、いわゆるゴスペルっぽい曲で、こういうのをさらりと歌えるのは本物なのでしょうね。


 8曲目Blank Page、これは王道ともいうべき必殺ピアノバラード。

 

 9曲目Cease Fire、スロウな曲が続いて、これは大地の鼓動のようにじわっと盛り上がる。


 10曲目Around The World、歌詞の中に"Japan""Tokio"と出てくるんだけど、彼女は父が軍人だった関係で幼少時に日本に住んでいたことがあるのだという。

 そういえば、日本で日本語で著作活動をしているアーサー・ビナードの「日々の非常口」という本を読んだのだけど、アメリカに行くと、どの土地に行っても必ず近しい人もしくは本人が日本にいたことがあるという人に出会うのだという。

 まあなんにせよ、昔から洋楽で日本が出てくるとうれしいのですが(笑)。

 しかも"Tokio"の次が"Milan"であるのもまたうれしい、僕の弟はイタリア人だから(もちろん嘘です)。

 そういえばこのアルバムタイトルの"Lotus"はハスの葉、ジャケット写真も含め、仏教の言い伝えのイメージと関係がありそうですね。

 ただ、「髪ブラ」のこの写真はある意味問題かもしれないけれど・・・

 余談ですが、彼女は「髪ブラ」のジャケットはこれで2作目だけど、好きなのかな・・・

 なんて、これは激しい曲。


 11曲目Circles、ヒップホップの影響が大きいスロウな曲、サビのタイトルの言葉を歌う部分は声に強烈なエフェクトをかけて声がすっと上がるのが印象的。

 でも、最後、そんなこと言ってはいけないでしょう、下品だなあ・・・「マニュアル・フォーカス」・・・MFですね・・・


 12曲目Best Of Me、おとなしい音の中で熱唱するスロウな曲。

 

 13曲目Just A Fool、デュエットする男性ヴォーカルはブレイク・シェルトン。

 僕は知らない人でしたが、声や歌い方はカントリーの人だろうなと思って調べるとそうでした。

 曲調もカントリーっぽく、2にで朗々と歌うこの曲は、エアロスミスのバラードをなぜかすぐに思い浮かべました。

 歌メロも素晴らしく良く、曲としてはこれがいちばんでしょうね。


 なお、僕が買った限定盤には4曲のボーナストラックが入っていますが、これもなかなかいい。

 


 彼女のヴォーカルはやっぱり好きですね。

 

 彼女の声で不思議なのは、力唱熱唱系だけど聴いていて暑くて熱くてしょうがないという感じではなく、熱唱してもどこかクールな部分が残っていると感じること。

 これは、歌い方以上に持って生まれた声の質によるものなのでしょうね。


 アルバムは、なかなかいい、よりはかなりいいけど、でも僕は正直、この手の音楽は割と早くに飽きるんですよね・・・

 だけど、クリスティーナ・アギレラの場合は、暫くするとまた聴きたくなります。

 まあ、そういうところもアイドル的な面が強いのかなと思う部分ではあります。


 そうそう、書き忘れていたけど、クリスティーナ・アギレラが世の中ではアイドルかどうか以前に、僕にとってはアイドルである、これは認めざるを得ないでしょう(笑)。

 名前が「鷲巣」さんでもあることだし。

 

 いずれにせよ、今この瞬間は愛聴している1枚には違いありません、念のため。



 ところで、僕が100人の歌手の話題にこだわることについて。


 100人に入っているので聴いてみたいと思うことはあるけれど、逆に、入っていないからといってその人に対する評価が変わるものでもありません。


 ヒットチャートもそうですが、あくまでも指標であって、音楽の絶対的な価値(そんなものがあるとすれば)ではないですから。


 ただ、僕がこだわって話しているのは、100人に選ばれるにはきっとそれなりのわけがあるはずで、そこが興味深いこと、そして他の人がそのアーティストをどう思っているかを考えるのが楽しいからです。

 僕は音楽活動をしていないけれど、他の人がどう思っているかというのは、自分がどう思っているかと同じ視点のわけで、そこを探りたい、ということです。