◎STILL GOT THE BLUES
▼スティル・ガット・ザ・ブルース
☆Gary Moore
★ゲイリー・ムーア
released in 1990
CD-0320 2012/11/30
ゲイリー・ムーアの、自身の名前を冠したものとしては9枚目となるアルバム。
僕は今まで、このBLOGで300枚以上のアルバムを記事にしてきましたが、その中で何度か、特にブルーズの話題でこのアルバムの名前を挙げていました。
しかし肝心のこのアルバム自体の記事がまだ、そろそろ年貢の納め時かなと、上げることにしました。
ゲイリー・ムーアは、僕の中高生時代は日本ではまさに人気絶頂で、高校の時はかぶれていたギター弾きのクラスメイトがいました。
でも僕は、中学時代にメタルに走った悪友の悪い影響で、高校を卒業するまではハードロック・ヘヴィメタル系はほとんど聴いていませんでした。
高校を卒業してからいろいろあってメタル系も聴くようになり、ゲイリー・ムーアはこのひとつ前のAFTER THE WAR が大学時代にリリースされて初めて買って聴き、同時にひとつ前のWILD FRONTIERも買いました。
その間に時代がLPからCDに変わっていて、CDを買うこと自体が楽しかった、というのもあったのですが、実は最初から大好きというわけでもなかった。
中学時代にラジオでエアチェックしたAlways Gonna Love Youは大好きだったけど、でも僕は「パリ散」の洗礼も受けていない、その曲を聴いたのは20代になってからでした。
でも、大学2年の時、メタルの悪友に誘われて、コンサートに行きました。
大学で東京に出てコンサートに行くのが楽しくなっていた頃だったこともあって。
中野サンプラザでしたが、隣にいた白人2人がコンサートの間ずっと"Gary Gary!!"と叫び続けていたのには幻滅し、曲はあまり覚えていません。
まあ、話すと長くなるのでまたいつかにして、そういえば当時、本田美奈子に曲を提供したことも話題になりましたね。
そんなゲイリー・ムーアがブルーズのアルバムを作るらしいという話題を耳にしても、最初は特に何も思わなかった。
当時はまだ本物のブルーズは聴いたことがなく、ロックサイドのカヴァー曲に接していただけでした。
でも、ちょうどブルーズも聴いてみたいと思い始めていた頃で、リリースが近づくにつれて少しずつ楽しみになってゆきました。
リリースされ店頭で初めて見た時に買って聴いたところ、あまりにもカッコよくて素晴らしい、度肝を抜かれたというか、1回聴いただけでひれ伏した、そんな衝撃を受けました。
端的に言ってこのアルバムは、1990年代以降におけるブルーズという音楽の教科書、ではないかな。
もちろん、いきなり本物のブルーズメンを聴いてもいいとは思いますが、でも、ロックというフィルター及び現代というフィルターを通して聴くほうがより接しやすいし、録音状態もよくて音としてもいいと思います。
ブルーズの魅力を今によみがえらせ、後世に伝えるという点でも大きな価値があるアルバム。
少し前に記事にしたジョー・ボナマッサ がゲイリー・ムーアのブルーズの曲を演奏していたことからも、それを感じます。
僕は最近、このアルバムが出てから20年が経って漸く本格的にブルーズも聴き始めたのですが、最近分かってきたのが、ブルーズはどうやら1990年代以降に復活を遂げたらしい、ということ。
当時現役のブルーズメンが次々とロックアーティストと共演したアルバムを出していたり、そしてやはり、CDの時代になって、過去の音源が魅力あふれる「新譜」として世の中に出回り聴く人が増えたことが大きな要因でしょうね。
これはブルーズのみならず音楽全体にあてはまることで、例えば僕が中高生の頃は、10年前に大ヒットしたアルバムを買うのは何だか恥ずかしいものでしたが、CDの時代になってからはそれは感じなくなりました。
でも、今はどうだろう、今の若者が生まれた時はもうCDの時代だったから、違うのかもしれない。
話は逸れましたが、ブルーズという音楽自体が復活したことも、白人のヘヴィメタル系のアーティストであるゲイリー・ムーアがこのアルバムを出したことと無関係ではないはず。
そしてこのアルバム自体が、リリースから20年近くを経て、もうすっかり名盤と呼ぶにふさわしい存在になっているので、ひいては今では「ロックの基本の1枚」といっていいでしょう。
当時はもうほんとに毎日聴いていましたが、でも、ただひとつだけ、おやっと思ったことがありました。
ゲイリー・ムーアの声。
どちらかというときれいな声です、艶も伸びも張りもある声ですね、かなりいい声だと僕は思う。
でも、僕はその頃、ブルーズという音楽は、声がしゃがれたり、荒れたり、ダミ声だったり、酒で潰れたりと、まあ要するに「きれいじゃない声」で歌われるものという固定概念があったので、あまりにもきれいな声でブルーズを歌うというのが、最初は違和感がありました。
ただそれも、最近では、例えばフレディ・キングのようにかすれてはいるけどきれいな声の人もいることが分かって、要は、固定概念を持ってしまうのは良くないという典型例ですね(笑)。
もちろん今はゲイリーのヴォーカルだからいいと思っていますが。
そしてこれは、最良のギターアルバムですね。
レス・ポールの音が絶品で、ギターの音自体を聴きたいとすら思うくらい。
テクニックも、フレージングもいうまでもなく最高で、ゲイリー・ムーアが「人間国宝」と呼ばれていたのがよく分かりますね。
ただ、このアルバムが出て暫くの間は、「ハードロック(ヘヴィメタル)のゲイリー・ムーアががブルーズをやるのか」という違和感、もっというと「ゲイリー・ムーアはハードロック(ヘヴィメタル)を見捨てたのか」というようなことをずいぶんと言われていました。
今聴いているこのCDのライナーノーツは2002年に再発された時のものですが、そこに書いているプロの音楽ライターの人も、当時はそのような雰囲気だったと書いています。
僕も当時は若くて周りの情報に揺れやすかったのですが、でも、いざ買って聴いてみると、僕はまったく素直にこのアルバムを受け入れていました。
「ハードロックとブルーズってそんなに違うものか?」
とすら思いました。
でもやっぱり、聴く人が聴くと違うのかもしれないけれど・・・
だけど、アルバムのジャケットにジミ・ヘンドリックスのポスターが写っているのは、もちろんゲイリーのアイドルという意味もあるだろうけど、ブルーズとロックの間に壁なんてないんだ、というゲイリーのメッセージではないかと、僕は今でも思っています。
◇
1曲目Moving On
ブルーズそのものというよりも、ブルーズに強く影響を受けたブリティッシュハードロックのひとつの基本形。
初めて聴いた時、もっとブルーズらしいブルーズで来ると予想していたのであれっと思ったけど、すぐに、そうかやっぱりロックのルーツというか基本はブルーズなんだと思い直しました。
アップテンポで明るくシンプルなロックンロールは、いかにもオープニングにふさわしい曲。
ギターも冒頭からフルスロットルで、ぐいぐい引き込まれ、コード進行も目に見えるタイプの曲だから、聴いてすぐにギターを持って弾くようになっていました。
これはゲイリーの自作曲。
2曲目Oh Pretty Woman
このアルバムには実際にブルーズメンもゲスト参加してますが、この曲にはアルバート・キングがギターで参加。
そもそもがアルバート・キングの持ち曲。
鳴ってる鳴ってる、ギターが鳴ってる!
曲についていえば、ブルーズが青江美奈とつながっていることが分かる曲(笑)。
要は日本の歌謡曲っぽい、哀愁系の歌メロが身にしみる。
この曲はゲイリーの歌でももっともよく口ずさむ曲だし、ギター以上に僕にとっては歌として最高にいい曲。
3曲目Waking By Mysef
「ででででででぇ~ん (んちゃっちゃ~ んちゃっちゃ~)」
これこれ、このイントロ、ブルーズといえば多くの人が思い浮かべるフレーズでしょう。
曲自体はシャッフルに乗った明るく軽快なポップな曲。
そんな曲でもギターは攻めまくる!
ハーモニカもいい感じで漂ってます。
僕がバディ・ガイを大好きになり、本格的にブルーズを聴き始めてバディ以外で初めて買ったのが、この曲が収められたフレディ・キングのアルバムであり、さらにオリジナルのジミー・ロジャースも買って記事にしたように、僕にとってはブルーズの中でも重要な意味を持つ1曲になりました。
フレディ・キングもジミー・ロジャースももっと緩い雰囲気で、ゲイリーのこの攻撃的なアレンジもまたすごいと見直しました。
4曲目Still Got The Blues
表題曲はもちろんというかオリジナル。
やはり哀愁系のメロディがしみてくる、歌としても最高級の逸品。
ブルーズへの思いやメッセージは聴くだけですべて伝わってきます。
ブルーズメンではないけれど、キーボードに元レインボーのドン・エイリー、そしてピアノには名セッションピアニストのニッキー・ホプキンス、この2人は他数曲にも参加しています。
それにしても、このギターソロは、凄いなんてものではない。
あまりにも凄くて素晴らしくて、僕が多くを語るとイメージが壊れるだけだから、ひとことだけ言います。
これほどまでにギターソロを聴いて泣けてくるロックの楽曲を、僕は他には知りません。
5曲目Texas Strut
これもオリジナル。
バラードかと思わせる静かなイントロが、まるで爆発するかのようなギターで、曲調が一変。
強烈なシャッフルビートに自然と体が動いてしまう、はうはうはうと吠えてしまう(笑)。
そして最後はまたバラード調の静かなギターで曲が終わる。
6曲目TooTired
軽快な曲が続きます。
この曲のゲストはテレキャスター使いの名手アルバート・コリンズ。
実はアルバート・コリンズはこの後に出た新作を買ったのですが、当時はやっぱりまだ「本物の」ブルーズにはうまくなじめず、すぐに職場の仲間に売ってしまいました。
もちろん、後悔してますよ(笑)。
そのアルバムを探して買い直そうと思っています。
笑っているようなフレーズのイントロの2人のギターの絡みが最高で、ギターによる音の違いもはっきりと分かってギター弾きには楽しい。
でも、これをひとりで弾くと虚しいんだよなぁ(笑)。
7曲目King Of The Blues
オリジナル曲で、ブルーズへのオマージュ。
"King"という苗字のブルーズメンは多いですからね、直接関係はないかもしれないけれど、少なくとも思い浮かべはしますよね。
ブルーズがR&Bになってさらにソウルになったことがよく分かる、その過程を実地で検証しているかのような曲。
ここからスローパートの始まり。
8曲目As The Years Go Passing By
アルバート・キングの曲で、アルバムでもっとも静かな、まさに泣きのブルーズ。
正直言うと、この3曲のスローパートが、若い頃にはだるく感じることもあったけど、そこを我慢して聴いていてその先につながりました、今は大好き。
僕はちなみに、アルバムを聴く以上は、どんなつまらない、どんな嫌な曲があっても絶対に飛ばしません。
飛ばすのは失礼だと思うからです、あくまでも僕は、ですが。
まあそれに比べればこの3曲は、曲としては最初からよかったので大した問題ではなかったのですが(笑)。
9曲目Midnight Bues
このアルバム最後の自作によるオリジナル曲。
こうして見ると、オリジナルとカバーが上手い具合に並び、しかも違和感なく同居しているのが分かります。
ゲイリーのオリジナル5曲のうち3曲にbluesと入っているのも、ブルーズは「雰囲気」が大事であることを物語っているかのよう。
でもこれは、言われないとオールドブルーズだと思うのではないかな、あまりにも似合いすぎ。
10曲目That Kind Of Woman
誰がなんと言おうとこのアルバムの白眉!
そういう人は僕だけといわれても構わない!
だってこの曲、ジョージ・ハリスンが作曲し、スライドギターとコーラスで参加しているのだから!
当時のジョージはCLOUD NINEでシーンに大復活し、僕がリアルタイムで聴いた「バンド」では最も好きなトラヴェリング・ウィルベリーズでも成功し、ミュージシャンとして、或いは最も幸福な時期だったと今にして思います。
曲はいかにもジョージっぽいちょこまかと動く歌メロ、ブリッジ部分のうねうねした煮え切らない展開(笑)、そして逆にジョージにしては珍しいかげりがない明るい、かなり癖がある曲。
曲の最後の方でタイトルの言葉を、音を上げながら3回繰り返すところのスライドギターの盛り上げ方が印象的で、ジョージのスライドギターは職人芸だったんだなって今にして思います。
皮肉っぽい視点もやっぱりジョージ。
当初ジョージは、親友のエリック・クラプトンに提供したものの、エリックにはキィが合わなくてお蔵入りになっていた曲だとか。
エリックが歌って演奏するデモバージョンも、後に、ルーマニア地震救済チャリティアルバムに収録されていて聴くことができます。
しかし、少し引いて考えると、この曲は確かに、このアルバムでは浮いていますね。
実は僕も当時そう思っていたし、知り合いでこれを聴いた何人かもみなそう言っていました。
今聴いても、それは変わりません。
ましてや、この前3曲がスローなムードがある曲だっただけに、アルバムの流れを或いは傷つけてしまっているのではないかと。
でもそんなことは構わない。
ジョージのファンとしては、当時はミュージシャンとして充実していたことを記録として残してくれたゲイリーには感謝ですね。
コンサートでもジョージが飛び入りで演奏したこともあったようで。
ところでジョージはかつて、クリームにもBadgeを提供して異質な要素を持ち込んでいたし、そもそもビートルズの中でも異質な要素と言われていますからね(笑)。
そういう意味ではジョージの面目躍如の1曲かもしれない。
11曲目All Your Love
オーティス・ラッシュの超名曲で、有名なカバーも数多あり、ロックサイドの人間にはもっとも有名なブルーズの楽曲のひとつでしょう。
イントロの最初の音「きゅっ」とというところで音をばちっと切るのが、自分で演奏するとなかなかうまくできません。
ジョージの曲でアルバムとして浮いてしまった後に(笑)、定番2曲で締めるのもまたいい流れ。
12曲目Stop Messin' Around
ピーター・グリーン作の、フリートウッド・マックがまだ英国ブルーズバンドだった時代の曲。
黒人のオールドブルーズではない、「次世代ブルーズ」の名曲でしょうね、といってこれも1960年代だけど。
異質な10曲目を除いては、この曲だけ何かちょっと涼しげな響きに感じます。
ここまで熱くさせるだけさせておいて、最後の最後でクールに押さえているのがまさにクール。
◇
現行の国内盤には5曲のボーナストラックが収録されています。
うち2曲はゲイリー・ムーアのオリジナル曲。
13曲目The Stumbleはフレディ・キングのインストゥルメンタル曲で、つい最近、ATLANTIC1000円シリーズで買ったアルバムに入っていました。
15曲目Further On Up The Road、17曲目The Sky Is Cryingはロックサイドでも有名な曲。
◇
ゲイリー・ムーアのこれは、本物のブルーズが好きな人から見ればブルーズをあまり感じないのかもしれない。
でも、本人は楽しそうに、かつ真剣に、ブルーズへの思いを込めて演奏していて、演奏はうまいし、音楽としてみれば最上の1枚には違いありません。
それに、僕のようなヒットチャート人間にブルーズへ目を向けさせてくれたこともあるし、昔の曲を新しくして若い世代に伝えることは、ミュージシャンの重要な役割のひとつだと思います。
その点でもこれは、価値も意味も非常に大きな1枚でしょう。
ただ、僕がそこで本物のブルーズをすぐに聴き始めなかったのは、やっぱり「敷居が高い」と感じたから。
多少の言い訳になるけれど、ノラ・ジョーンズの記事でも触れたけど、音楽の趣味が多様化したのが1990年代に入ってからのことで、多くの人々がジャズもブルーズもワールドもあまりこだわりなく聴けるようになるのはもう少し後の事、当時はやっぱり「敷居が高い」と思わざるを得ない部分はありました。
でも、僕が普通にブルーズを聴くようになると、「敷居が高い」というのは自分以外の誰かの入れ知恵というか、純粋に音楽を音楽として聴いているわけではなかったんだ、といった反省の念も抱きました。
後悔しても始まらないんだけど、ほんと、少なくとも有名なブルーズメンについていえば、本物のブルーズも楽しいし曲もいいし、悪い意味で特別なものは何もない、と、漸く気づきました。
そしてブルーズを聴くようになって、僕がまだ20代前半でぎりぎり頭が柔らかかった頃に出たゲイリー・ムーアのこのアルバムは、僕にとって基本であることを、今はあらためて強く思っています。
長くなりましたが、すごいけれどきわめて普通に聴ける、だから余計にすごいアルバムです。
◇
昨日、11月29日はジョージ・ハリスンの命日でしたね。
その関係で何か記事を上げることは考えていなかったのですが、でも、昨日の夜にこの記事を上げることが頭に浮かんだのは、やっぱり何かの思いがつながっているのかな、と。
そのゲイリー・ムーアも、昨年、突然、鬼籍入りしてしまいました。
僕がStill Got The Bluesのギターソロで涙してしまうのは、まるでゲイリーの葬送曲のように聴こえてしまう、悲しいかな、そういう意味が加わってしまったからです。