◎GLAD ALL OVER
▼グラッド・オール・オーヴァー
☆The Wallflowers
★ウォールフラワーズ
released in 2012
CD-0319 2012/11/28
ウォールフラワーズの6枚目のアルバム。
1990年代にMTVを見ていた頃によくかかっていて、2枚目はかなり売れました。
しかし、7年前にアルバムが出たのを最後に、3年前にベスト盤、そしてジェイコブ・ディランもソロ作を2枚出し、バンドはもう終わりかと思っていたのですが、このたびめでたく復活しました。
このバンドを取り上げるのは初めてなので、概説的なことから入ります。
ジェイコブ・ディランの父親は、言わずと知れた、かのボブ・ディラン。
親の七光りと言われるかもしれないけれど、少なくとも僕が親も聴いて知っている人の中では、ジェイコブは最も成功した人であるのは間違いなく、ロック界全体を見渡してもそうだと思います。
本人は、親と比べられるのはどう思っているのかな、やっぱり嫌かな、そんなこと聞いてくる人には4文字言葉を浴びせたりするのかな・・・
でも、親がそこそこ売れたという人なら比べられたくないけれど、親がかの偉大なボブ・ディランであり、スーパースター以上の存在でもあり、少なくとも功績という点では超えることはほぼ不可能な存在だから、もし僕がジェイコブの立場なら、開き直るというか、さらっと聞き流せるようになると想像します。
というわけでやっぱり親子だからいろいろと比べてしまう(笑)。
声は、似ているといえば似ているかな。
音符にある旋律を微妙に外して歌うところは同じだけど、父ほど「ひどく」はない。
声質もちょっとハスキーという程度で、父のようにだみ声でもない。
ただ、じっくりと聴き込まないで、なんとなくかかっているのを耳にすると、かえって似ていると感じるかもしれない。
まあ、でも、声についてはジュリアン・レノンのほうがはるかに父に似ているかな。
曲は、声よりは似ているように感じます。
でも曲は後天的な部分が声よりは大きいでしょうからね。
父がどれくらい子育てに関わったかは分からないけれど、父の背中を見て育ったのであれば、やっぱり反骨心は育っていったかと思いますね。
父との最大の違いはリズム感でしょうね。
この場合は体の中に内包しているその人のリズム感という意味で、全体的に跳ねた感じで滑らかに移るリズムは、父には乗り越えられなかった部分です。
父も一時期、エスニックな新しいリズム感に走りかけたことがあったけれど、結局は元に戻って今はロカビリーが心地よいようですから。
リズムは時代とともに変化するものだから、父は体得できなかったものを息子は身に着けることができたのは当然といえば当然でしょう。
ウォールフラワーズは、正統派アメリカンロックの進化系といえるでしょう。
トム・ペティが正統派アメリカンロックの第一次進化だとすれば、ウォールフラワーズは第二次進化。
その間15年ほどを要しているのですが、正統派アメリカンロックは1980年代に進化が止まっていたので、そこからさらに進化できたことは僕には予想外の展開でした。
といってもう20年も前にそこにたどり着いていたわけで、決して新しいものではないし、そこから後は僕もよく分からないのですが、もしかして現時点で正統派アメリカンロックの進化の最終形なのかもしれない。
まあそれくらい、父ボブ・ディランとは違う響きの音楽ではあります。
◇
7年振りの新譜ですが、最初にタイトルを見た時、もしかしてまたカヴァー曲集、と少々不安になりました。
Glad All Overはビートルズと同世代のデイヴ・クラーク・ファイヴの代表的な曲ですからね。
いつも言いますが、カヴァー曲集が嫌だということはなくむしろそれはそれで好きですが、でも、カヴァー曲集はキャリアの長い人がやるものであって、ジェイコブはまだそこまで老けてはいないだろ、と。
実際は完全な新曲によるアルバムであって、僕の杞憂に終わったわけですが。
この新作は、最初にかけた時に、おおこれはきてる、とすぐに感じました。
かといって勢いだけで押し切るのではなく、深い味わいのようなものも感じさせます。
◇
1曲目Hospital For Sinners
いきなり驚いて飛び起きるようなリズムで始まり、まるで怒ったように歌い切ってしまう。
メッセージ性の濃い曲を歌うとはこういうことだと言わんばかり。
2曲目Misfits And Lovers
ショッキングなドキュメンタリーのテーマ曲のような、強く切り裂くギターのイントロ、それに続くリフが最高にいい。
ミック・ジョーンズがゲスト参加、クラッシュの方のミックですが、これは曲ができてイメージに合うミックを呼んだというよりは、ミックのために作ったような、もっといえばクラッシュっぽい強い曲。
これはすごくいい。
3曲目First One In The Car
少し穏やか、といって彼らなりでやっぱりドスが効いた歌い方で攻めてくるけれど、ほのかにセンチメンタルで劇的なものを感じる曲。
4曲目Reboot The Mission
MTVで観た100Hard Rock Songsの流れが僕の中ではまだ続いています。
といって彼らや父が取り上げられたわけでないんだけど、その番組が終わったところで流れたのがこの曲のビデオクリップ、番組からの流れが素晴らしく、これもハードロックじゃないかと思ったくらい。
不思議なもので、昔から僕は、曲の覚えが悪いせいか、自分が買った後にシングルカットされた曲をビデオクリップで観て聴くと、えっこんないい曲だったんだ、と思うことが多かった。
この曲のビデオクリップを観た時もそう思ったけど、でも今回はまだ数回しか聴いていなかったところだったので許してください(笑)。
これも2曲目と同じショッキングなギターの音で始まり、重たい音使い、クラッシュのような曲、そう、この曲にもミック・ジョーンズが参加、こちらはサビの部分はメインで歌っていて声がよく目立ちます。
ちなみにクラッシュは件のハードロック100曲において、42位にShould I Stay Or Should I Goが入っていますが、それはまさにミック・ジョーンズが歌っていて、ここでつながってくる、MTVもやっぱり意図的にこの曲のビデオクリップをそこで流したのでしょう。
負け続けるギャンブラーが負け惜しみで心情を吐露するような悲壮感がたまらない。
新曲として僕が今年初めて聴いたすべての楽曲の中で、これはTop3というくらいに気に入っています。
5曲目It's A Dream
悲壮感路線は続いて、こちらはミックからも見放されてひとりで戦わざるを得ないといった心境で歌い続ける。
この2曲の流れが最高に素晴らしく、今年買った新譜ではいちばんというくらいのカッコよさ!
6曲目Love Is A Country
この曲はクランベリーズの明るい曲とつながる何かを感じます。
似ている、そうですね、それにクランベリーズはアメリカ人じゃないけれど、でもそれ以上に90年代の雰囲気を強く感じます。
もはや90年代が懐かしい、そんな年なんだなあ(笑)。
7曲目Have Mercy On Him Now
壊れたおもちゃみたいな明るく楽しいイントロ、ちょっと雰囲気が違う曲。
でもやっぱり強い響き。
8曲目The Devil's Waltz
ワルツと歌っているけれどワルツではない。
ずれている、という意味なのかな。
これは2、4、5曲目路線の、いわばウォールフラワーズらしい曲。
このアルバムの曲はバッキングギターの低音の使い方が良くて、旋律があってリフといっていい、迫ってくる感じがする、そこが好き。
9曲目It Won't Be Long (Till We're Not Wrong Anymore)
この曲はトム・ペティの明るいポップな曲路線、ひと世代遡ったということかな(笑)。
サビは歌いやすくていいし、最後に向けて段々と盛り上がっていくのも、なんだか80年代風。
10曲目Constellation Blues
明るい曲が続くけどこちらはリズム感が90年代以降のもの。
やっぱりクランベリーズにどこかしら似た雰囲気で、実はこの2つのバンドは近い位置にいたのかもしれないといまさらながらに思う。
歌い方が「普通じゃない」という共通点もあるし。
ギターのみならず低音の使い方が曲に深みを持たせていていいですね。
「星座のブルーズ」というのがまたいい。
11曲目One Set Of Wings
最後はまた悲壮感路線に戻る、でも彼らの場合はなぜかほっとする(笑)。
アルバムの作りとしては王道というか、ここまでをまとめて表現したような、最後らしい曲ですね。
なお、曲は、歌詞はすべてジェイコブが、曲はすべてバンドとして作っているとクレジットされています。
◇
簡単にいえば、オーソドックスなアメリカンロックを新しい感覚でやっている、でも決して道は外さない、といったところ。
そこが僕には安心して聴ける部分です。
もはやボブ・ディランの息子という枕詞は要らないジェイコブ・ディラン。
でも、僕は、ボブ・ディランも大好きだから、ジェイコブも余計に応援したくなる、というのは正直あって、自分でも困りますね(笑)。
なにはともあれ、ウォールフラワーズは、ロックの中で輝いています。