◎ELLA FITZGERALD WISHES YOU A SWINGING CHRISTMAS
▼エラ・フィッツジェラルド・ウィシズ・ユー・ア・スウィンギング・クリスマス
☆Ella Fitzgerald
★エラ・フィッツジェラルド
originally released in 1960
CD-0323 2012/12/5
エラ・フィッツジェラルドのクリスマスアルバムです。
1960年に出たLPに8曲のボーナストラックを足した現行のCD、ジャケットも当時のものとは違います。
買うきっかけは、ロッド・スチュワートの今年出たクリスマスアルバムで、ロッドがエラと「共演」していること。
これがとても素晴らしい!
この年にして漸く、エラ・フィッツジェラルドの素晴らしさが分かった気がしました。
エラは間違いなくポピュラー音楽でもっとも素晴らしい歌手!
◇
エラはなんといっても声が素晴らしい。
明るく張りがあって艶やかで、かつ微妙にハスキー。
程度にもよるけれど、このハスキーさの加減というのは、その歌手の声に引かれる大きな要因ではないかと思いました。
表現力とかそういう次元ではなく、もうただただ彼女が歌うだけで感じるものが大きい。
なんて書いていて、あまりにも陳腐な表現しかできない自分が情けなくなる・・・
颯爽と歌う姿はカッコよさすら感じ、天真爛漫に歌う姿には勇気づけられもします。
僭越だと分かりつつもう少し話させてもらうと、技術的にいえば、フェイクヴォーカルのうまさ、そのセンスは人類史上最高、比類なきものでしょう。
というよりも、フェイクヴォーカルの基本を作ったのがエラということでしょうか。
ノラ・ジョーンズも同じ旋律の部分を少しずつ変えて歌うのが上手いと書いたけど、そんなもんじゃない。
一音だけすっと音が上がったり、フレーズごと変えたり、そのままスキャットに発展したりと、自由気ままに奔放に歌う姿はまさに天使。
フェイクヴォーカルを聴くこと自体が目的にもなり得るくらい、とにかく楽しい。
音楽の楽しさを声と体を持って表現していること、こちらも全身で感じられます。
さらに今回気づいたのは、押しつけがましさがないこと。
クリスマスとはそもそも宗教的な意味合いがあるものですが、エラは楽しく聴けるポップスと割り切っていて、陰りのようなものを引きずっていないし、聴くものが不必要に構えてしまうことがない。
性格が割とあっけらかんとした人なのかもしれない、と思ったり。
◇
しかし、何がいちばん感動したかというと。
聴いていてこちらも無性に歌いたくなること!
上手い下手は関係ない、いい歌を聴いたら歌いたくなる、ほとんど本能に近い刺激を受ける。
エラが素晴らしいのは、エラがずっと最高の歌手と言われ続けているのは、そこじゃないかと思いました。
肩肘張ったり心構えをして聴き込むというのではなく、もちろんそれもいいけれど、歌うというおそらく人間の心の本質的な部分に、エラは優しく呼びかけたり、時には挑発したり、さまざまな刺激を与えてくれます。
聴く人にすごいと思わせる歌い方は、誰もがとはもちろん言わないけれど、鍛錬の結果できるようにはなるのでしょう。
しかし、歌いたいと思わせることは、誰にでもできるものではない。
しかも、エラのように歌いたい、この人のように歌いたいというよりは、とにかくただただ歌いたいと思う。
歌うこと自体の素晴らしさを伝えてくれる、それがエラの歌の持つ力ではないかな。
スティーヴィー・ワンダーがSir Dukeの中でエラの素敵な声について歌ってますが、そのくだりは、文章としは理解はできていたけれど、あくまでも言葉の上だけのことだった。
それが今回、エラを聴いて、スティーヴィー・ワンダーが感じた歌の力を、ほんとうに理解できた、漸く分かった、と感じました。
というわけで、歌詞がだいたい分かる曲はCDをかけながら一緒に歌っていたわけですが、一緒に歌うと、そこでフェイク入るか! とCDのエラに向かって言いっぱなし(笑)。
真似できるものではないし、真似してもただの真似に過ぎないから、僕は普通に歌ってますけどね。
しかも、クリスマスアルバムでエラに天真爛漫に歌われると、クリスマスソングの楽しさが何十倍にも増してきます。
ただ、僕も、今回買うまでは、ジャズの人だからと構えていた部分があったのは認めます。
エラのCDは1枚だけ持っていて、その時も意外と聴きやすいんだとは思ったんだけど、それ以上にはならなかった。
でも、今回はクリスマスアルバムということで、同じ曲を多くの人が歌っており、違いに気づきやすいのだと自己分析します。
違い、ではなく、だれが歌っても楽しい、同じことが分かった、というべきかもしれません。
◇
そしてもうひとつ。
このCDのボーナストラックには、I've Got My Love To Keep Me Warmが入っています。
この曲は昨年のキャロル・キングのアルバムで初めて聴いて気に入った曲ですが、エラは当然のことながらジャズ風にスウィングしてカッコよく歌っています。
しかし。
エラのように上手い歌手とは決して言われていないキャロルが歌うこの曲には、キャロルだからこその穏やかさ、まろやかさ、温かみを感じるのです。
曲名に"Warm"と入っている、その単語がキャロルの声にぴったりで、僕はこの曲についてどちらが好きかといわれると、やっぱりキャロルのほうが好きです。
キャロルももしかして自分の声の質を考えてこの曲を歌ったのかもしれない、それくらいぴったりであることに、エラを聴いてあらためて気づきました。
もちろんエラの歌も最高に素晴らしい。
でも、歌が上手いかどうか、主に技量的な部分の話、必ずしも人の心を動かすのはそれだけではないことも、エラを聴くことによってむしろよく分かりました。
これはもちろん、聴く人との相性、聴くタイミング、いろいろあるとは思う。
でも、要は、自分が好きな曲を自分が気に入った歌い方で歌ってくれる歌手とめぐりあえるのは素晴らしいことだし、それがまた音楽を聴く楽しさでもあるでしょう。
ともあれ、歌ということ、歌うという人間の行為について、エラ・フィッツジェラルドを抜きにして話すことはできないんだなと思いました。
まさにスティーヴィー・ワンダーの言う通り!
◇
このアルバムは買う前からかなり期待値が高かったのですが、それをはるかに超えた素晴らしさ。
まあでも、クリスマスソングはアメリカン・スタンダードの一種だから、エラにとってはまさに自分の持ち場であり、練習代わりは言い過ぎだけど、いい意味で軽い気持ちで楽しく歌ったのでしょうね。
タイトルがまた洒落ていていいですね。
スウィング感が心地よいけど、それも強烈というわけではなく、あくまでも誰もが楽しめる雰囲気づくりを優先させています。
最後に余談。
クロツグミという鳥がいます。
日本では夏鳥で、中部地方より北だけで繁殖する鳥で、札幌周辺では夏には普通に多くいる鳥です。
クロツグミが囀る声は、例えばウグイスの「ホーホケキョ」のような特定の音がなく、基本のようなものはあるけれど、それを崩しながら、時には他の鳥の声真似も入れながら自由気ままに囀ります。
エラのフェイクヴォーカルやスキャットを聴いて、僕はクロツグミを思い浮かべました。
来年からクロツグミを「山のエラ」と呼ぶことにしよう(笑)。
ちなみに、ビートルズの歌にあるBlackbird、標準和名クロウタドリは、同じツグミ科の近い仲間の鳥です。
エラはぜひこれから少しずつ聴いてゆきたい。
おそらく、エラくらいになると廃盤になってもまた復刻されたりするだろうから、焦らずゆっくりと買ってゆけそうで、それもよかったところ(笑)。