PSYCHEDELIC PILL ニール・ヤング&クレイジー・ホース | 自然と音楽の森

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自然と音楽の森-Nov23NeilYoungPP


◎PSYCHEDELIC PILL

▼サイケデリック・ピル

☆Neil Young & Crazy Horse
★ニール・ヤング&クレイジー・ホース

released in 2012

CD-0317 2012/11/23


 ニール・ヤングの新譜が出ました!


 えっ、ニール・ヤングは今年新譜を出したじゃないかって・・・!?
 そうなんです、アメリカのフォークソングを自己流に解釈したAMERICANA(記事はこちら)が6月に出ています。


 だけど、出たんです。
  

 1枚はカヴァー曲集とはいえ、1年で2枚の新譜を出した人は、最近ではちょっと思い当たらないですね。
 ビートルズの時代までさかのぼらないと(笑)。
 ただ、グリーン・デイがこの秋3か月で3枚続けてアルバムを出していますが、それはまた別の短期的な事情があるようで。
 

 しかしそれ以前に、デビュー時からもう40年以上に及んで、ライヴやCSN&Yも含めほぼ毎年何かを出し続けている人なんてニール・ヤングしかいないでしょう。
 70年代までは1年1枚は割と普通でしたが、それ以降ではプリンスが1980年代に毎年何かを出していたくらいのものか、あああと、フィル・コリンズも80年代はバンドとソロでほぼ毎年何かを出していたっけ。


 僕も最初、8月の暑い頃にニール・ヤングの新譜が出ると聞き、近年出ている過去音源発掘CDか、レコード会社が違う半海賊盤、もしくは単なる間違いかと、暑さのせいで頭が混乱したくらい。
 だけど、リリース情報を見ると確かにレコード会社はRepriseで、これは「正規の」アルバムであることまでは見えてきました。


 もちろんすぐに予約しリリース数日内に手に入れて聴きました。


 今回のアルバムは、わざわざクレイジー・ホースとの共演を表に出しているだけあって、「轟音系」ロック路線のアルバム。
 ニール・ヤングのホームがロックかカントリーかは分からないですが、本人はあまりそこは深く考えずにやりたいことをやっているのでしょう。
 だからそれを決めるのは聴き手次第。
 僕にはこれ、ホームに戻ってきたと感じました。


 何より、このアルバムを聴いて、ニール・ヤングはとにかく
 人に伝えたいことがたくさん人だとあらためて分かりました。
 人に伝えないと生きてゆけない。
 人に伝えることは呼吸と同じことかもしれない。
 人間、呼吸を止めると死にますからね。


 その上今年は、カヴァーアルバムを出してしまったが故に、自分の思いを自分の言葉で伝えられなかったもどかしさがかえって募ってしまい、こんな短期間で次のアルバムを出すということにもなったのでしょう。

 

 その結果がなんと2枚組!
 しかも2枚組で10曲、つまり長い曲がある。
 10分以上の曲が3曲、うち1曲は20分をも超えています。
 これは新たな挑戦といえ、創作意欲はまだまだ衰えていません。
 ただ、2枚組ともなると「大作」という言葉が思い浮かびがちですが、このアルバムはそこまで構えた感じはありません。
 ニール・ヤングらしいことをやっていて時間が長いだけ。
 まあ、長いだけ、という表現もおかしいかもしれないですが(笑)、そこは構えずに聴ける部分です。


 と言ってはみたものの、やっぱり27分の曲があるとなると、構えてしまうかな・・・
 そこはニール・ヤングをどう思うかで大きく違うでしょう。
 僕は大好きだからまったく普通にかけて聴いて入り込めました。
 ただもうひとつ、僕のCDプレイヤーは連装式のため、2枚入れておけば自動的に続けて聴けるのですが、そうではない人であれば、やっぱり2枚組はちょっとした障壁にはなるかもしれません。


 「サイケデリックの薬」というタイトルは、このアルバムを聴くとサイケデリックだった1960年代後半の疑似体験ができるという意味を込められたものでしょう。
 ただ、音楽そのものは一般的なイメージでのサイケというほどサイケではなくて、あくまでもニール・ヤングがそれをどう感じて解釈したたかというもの。
 正直僕はサイケがやや苦手で、アルバムのタイトルを知った時、いったいどんなことをやらかしてくれるんだろうと不安でしたが、実際に聴くとまあいつも通りでほっとしました。
 ただ、エレクトリックギターの装飾音は、それを意識している、かな。
 曲が長いのも、当時のインプロビゼーションを思い起こしたのか。


 このタイトルから感じられるのは、もうひとつ、ニール・ヤングはサイケデリックの頃からずっと気持ちが変わっていないという自負。
 ニールの心は常にサイケデリックであり続けた、ということです。
 つまり、ひとつところにとどまらないで前に進む気持ち。
 ニール・ヤングの音楽は一聴すると同じように聴こえても、作品ごとに気持ちや気迫、意欲などが違うのを確かに感じます。
 細かい音楽の話をすれば、これだけの曲を作ってきてもまだ分かりやすくて覚えやすいメロディが次々と出てくるのも、同じことをやっていればいいという安穏とした姿勢では無理なことでしょう。

 ニール・ヤング自身には「サイケデリック薬」の投薬は不必要。
 多くの人にこの薬を飲んで、前向きな姿勢になってほしい。
 もちろん音楽のみならず、音楽ではなく、人生に対して。
 それが、今回のメッセージかもしれません。


 Disc1

 1曲目Driftin' Back
 1曲目から27分ある「大作」。
 そうか、27分は昔であればLP片面でも難しいだろうから、CDの時代になってやりたいことができて喜んでいるのかな。
 歌詞の中にマントラやマハリシが出てくるからにはやはりサイケの時代を心が漂っているということなのでしょう。
 突飛な音づかいと音色のギターソロはサイケにつながるのかな、と思う反面、それこそがニール・ヤングらしさでもあるからやっぱり自らは変わっていないことを延々と述べているのでしょう。
 長い曲は飽きる、ということはなくて、どんな音が次に出てくるか楽しみながら聴き通せます、あくまでも僕は、ですが。
 ただ、やっぱり、一度終わると思わせてまた歌い始めるのは、「おいおいまだかい」と突っ込みたくもなります(笑)。
 それにしてもニール・ヤングのコーラスのふわふわとした空気に包まれる感覚は独特でいいですね。


 2曲目Psychedelic Pill
 ジェットサウンドのようなうねるギターの音がサイケかな。
 でも曲はまったくもっていつもの元気なニール・ヤング節で、アコースティックギター1本で歌う姿も容易に想像できます。
 前の曲の反動か割と短く4分弱でさらっと曲が終わります。


 3曲目Ramada Inn
 これは「ハリケーン」系かな。
 インストゥルメンタル曲かと思わせる長い演奏部分の中、そこで歌に入るのかというタイミングが人を食っていて面白い。
 でもやっぱり後半はまた演奏が長くなり、結局17分近く続く。
 歌はセンチメンタル、コーラスはやっぱり印象に残る。


 4曲Born In Ontario
 最初にアメリカの地名を次々と歌っていくけれど、でも、僕はカナダのオンタリオで生まれたと陽気に歌う。
 これも演奏がサイケではなければカントリーといえる曲。
 実際ニール・ヤングはオンタリオ州生まれ、トロント出身ですね。
 この曲はまた短くて3分強で終わります。

 Disc1は4曲、52分ほど。


 Disc2
 1曲目Twisted Road
 この曲はボブ・ディランのLike A Rolling Stoneを初めて聴いたところから話が始まっています。
 ”Let the good times roll"と連呼して3分強で終わる、ロックンロールへのオマージュ的な内容で、全体にホップしたやはりカントリーっぽい明るい曲。


 2曲目She's Always Dancing
 虚を突くようにアカペラで始まってまた「ハリケーン」系の曲が起こる。
 彼女はどうして狂おしいまでに踊り続けなければならないのか。
 多くを語らないだけに、彼女の生い立ちからニールとの関係までいろいろなことを想像してしまう。
 この曲は8分くらい、この中にあっては長いとは感じない(笑)。
 そんなに長く彼女に躍らせるのはかわいそうだからかな・・・


 3曲目For The Love Of Man
 教会音楽を思い起こさせるバラードを弱弱しく歌う。
 男の哀愁と優しさがしみだしてくる、慈愛に満ちた曲。
 この曲は4分半くらい、2枚目で「普通」になってきたかな。


 4曲目Walk Like A Giant
 普通の感覚だとまだ最後ではないけれど、これが最後の曲。

 重々しく戸を開けたような沈んだギターのイントロに続いて入るちょっと悪魔的な不気味な響きの口笛が強烈に印象に残る。
 歌メロも、なんだろう、サビのもの悲しさ、悲哀を感じ、こちらまでめろめろになりそうでとにかく印象に残る。
 それらを荒々しいギターの音が引っ張って進む。
 ニール・ヤングはこう見えても、てどう見えるのでしょうか(笑)、音に対するセンスの繊細さはさすがのものですね。
 技量はある程度後から身につけられても、センスは天性のものですからね。
 ニール・ヤングを聴く楽しみはそこにあるのでしょう。
 途中でも巨人がもどかしげに何かを壊すような音も入っていて、彼の破壊指向のようなものが塊となって襲ってきます。
 このギターサウンドは恐ろしいくらいに強く響いてきます。
 12分過ぎから入る、「じゃん、じゃん」というバンド全体の音はまさに巨人が大地を踏みしめて歩く音を表したもの。
 巨人の足音は2分ほど続いて終わったかと思わせてまた戻ってくるのは、行くあてもなくうろうろしているのかな。
 15分過ぎから足音が遅くなり、ついに息絶える。
 結局、16分以上に渡って巨人の様子を表した曲。
 巨人はニール・ヤング自身を表した、或いは理想像というか。
 いや、歌詞では"I used"と書いているので、昔は自分も傍若無人に振る舞っていたということか。
 なにか虚しい、でも不思議と勇気が湧いてくる。
 この曲はすごい、ニール・ヤングにしかできない曲。


 5曲目(no title)
 巨人が息絶えたところで終わりかと思わせて、ジャケットには表記されていない曲が始まります。
 しかし実際はDisc1Tr2の表題曲Psychedelic Pillで、リプライズの意味があるのかな。
 テイクは同じに聴こえるのですが、ジェットサウンドは消えて、録音状態が悪いかのように少し音が粗くなっています。
 つまりミックスを変えているのでしょう。


 Disc2は37分ほど、合計88分のアルバムが終わりました。
 そうか、2枚組だけど意外と短いんだ。

 ジャケットの絵は、クレイジー・ホースが描かれた黄色い薬。
 これは月を連想させますが、月もニールには重要だから、なかなかしゃれたアートワークですね。



 まとめとして少し冷静に振り返ってみます。

 僕は無条件でニール・ヤングが大好きな人間だから、この新作はニール・ヤングらしくて、もうそれだけで十分満足です。
 ただ、そうではない人にとっては、20分以上ある曲は冗長だし、基本的にどのアルバムでも音楽が変わらない人だから、わざわざこの新譜を聴くまでもないのかもしれません。


 でも、何か伝えたいという「生き様」と、前向きな姿勢を感じることがニール・ヤングを聴く楽しさのひとつだから、その点でいえば今のアルバムでも過去の名盤でもあまり変わりません。
 何を伝えたいかは分からなくても、そこは感じられるはずだし、今でもその気持ちが、こんなに長い間変わらないというのは、称賛を通り越して畏敬の念すら抱きます。


 なんて、やっぱりニール・ヤングだから冷静にはなれない(笑)。

 このような人がこの地球に存在していて幸せだ、と心から感じさせる人のひとりですね。


 などと堅苦しいことはいわず、ここはひとつ、心地よく爽やかな轟音にくるまれてください。

 


 ところで

  
自然と音楽の森-Nov23NeilYoungBook

 ニール・ヤング自伝 I 白夜書房


 ニール・ヤングの自伝の翻訳本が出たので買いました。
 ネットで知って予約して買ったのですが、届いてみて初めて「I」とついていることに気づきました。
 続編は来年になってから出るけど時期未定。
 買ってすぐに読み始めたかったけれど、読んで面白くて途中で放り出されるのも嫌なので現在保留してます(笑)。

 記事を書くのにこの本を手に取ってみて気づいた。

 この写真でニールが被っている帽子には「Hippie Dream」と書かれた紙が挟まっていて、やはり彼の気持ちは今でもサイケの頃にあるのだと分かります。