LOVE AT FIRST STING スコーピオンズ | 自然と音楽の森

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自然と音楽の森-Nov21Scorpions


◎LOVE AT FIRST STING

▼禁断の刺青(タトゥー)

☆Scorpions

★スコーピオンズ

released in 1984

CD-0316 2012/11/22


 スコーピオンズ9枚目のアルバム。


 MTVで観たVH1's 100 Great Hard Rock Songs の流れがまだ続いています。

 

 スコーピオンズは、Rock You Like A Hurricaneが18位に入っていました。

 当然というか、かなり上ですね。

 チャートでいえば中ヒットといったところで、実際この曲はビルボードで25位まで上がっているので、それより上、ということですね(笑)。


 僕がスコーピオンズを初めてそれと認識したのはまさにこの曲。

 その日のことはなぜか今でも鮮明に覚えています。

 といいつつ、何年何月何日のことかはまるで覚えていないのですが、このアルバムは1984年3月にリリースされており、ということはもう高校2年になっていたかな、という頃。

 

 今は栃木にいるビートルズが好きな友だちと、札幌市内にあるレコード店のキクヤに行った時のこと。

 キクヤは市内でも老舗のレコード楽器店で、今はレコードは縮小して楽器が中心ですが、当時は洋楽担当の店員さんと仲良くなり、買わなくても行くことが多くなっていました。

 友だちはマイケル・シェンカーが好きで、僕は当時は聴いていなかったけれど、その時は友だちの用事で店に行きました。

 

 すると、店頭の小さなテレビに、さる曲のビデオクリップが流れていたのを見つけ、僕と友だちは立ち止まって見ていました。

 バンドのメンバーらしき人がおりの中に入って演奏し、おりは、まるで暴徒化した群衆のように周りを囲む人々に揺らされて今にも壊れそう。

 不安と恐怖と混乱の中でバンドは歌い続けていました。


 それがこの曲Rock You Like A Hurricaneでした。

 よほど印象が強かったのか、曲の覚えがとても悪い僕ですら、サビはそこで一発で覚えました。


 いい曲だな、と思いました。

 くやしいけれどいい曲、というのが正しくて、当時はヘヴィメタルに走り始めた友だち(その友だちではない)と意地の張り合いをしていたので、口が裂けても「いい曲だな」とは言いたくない気分でした。


 しかし、それ以上に気になったこと。

 その店ではスコーピオンズのちょっとした特集をしていたらしく、テレビの横に、この曲が入った新譜ではない、例のあのアルバム、あれですあれ、VIRGIN KILLER、邦題を書くと「狂熱の蠍団」の衝撃的なジャケットのLPが飾られていました。

 見てはいけないものを見たような、高校生の僕と友だちはショックを受け、スコーピオンズはいけない人たちだというイメージを持ってしまいました。


 彼らはその後アメリカで大ヒットしましたが、このアルバムを聴いたのはさらに後になって30歳近くのことでした。

 直接のきっかけは、僕にはよくある、リマスター盤が出ている有名なアーティストだから聴いてみよう、ただそれだけのことでした。

 まあでも、30歳にもなると音楽とそれ以外は別物という考えを受け入れるようになっていて、元々ハードロックは大好きだから、音楽自体は素直にいいなと思いました。


 というより、最初に聴いて、まさに息をのむような美しさ、それでいてハードロックの一線は決して崩していない、なんて素晴らしいアルバムだろうと、あまりにも陳腐なことしか思い浮かばないくらいに1発で気に入りました。


 ヘヴィメタルの様式美とヨーロッパの耽美的な意識が見事に融合した音楽。

 英国もヨーロッパといえばヨーロッパだけど、そうではない、大陸的なものを強く感じます。

 クラシックにつながる、そうだけど、でもスコーピオンズ自体にクラシック的な要素があるかどうかというよりは、ヨーロッパの伝統的な美意識が自然と身についているのを感じます。

 

 ところで、「耽美的」と書いて、自分でもよく分かっていないのではないかと不安になったので、「新明解国語辞典」を引いてみました。


【耽美】=美を最高のものと考え、それだけを追求すること。

 

 似たような言葉として(!?)、「審美的」がありますが、こちらも新明解で引いてみました。


【審美】=美・醜を識別すること

 

 スコーピオンズは、「耽美的」だけど、「審美的」ではないかな。

 このアルバムの根底にあるのは、「美」と「醜」は表裏一体であり、すれすれのところでどちらに出てもおかしくない、という感覚だと思います。

 退廃的、とでもいうか。

 例えば、先月、僕は、市内の川に遡上するサケを見に行きましたが、川には既に力尽きた鮭が横たわっていて、朝の斜光に照らされたその鮭を「美しい」と感じました。

 自分でも驚いたけど、それはきわめて自然な感覚でした。


 「美」と「醜」が表裏一体であることを表すのに、ハードロック/ヘヴィメタルという音楽はこの上なく合っています。

 美しさを求めて己の身を切り刻むように突っ走っていく、しかしこんなことは決して長くは続かない。

 その刹那の美しさ、抒情性をはるかに超えた美しさに支配されたハードロック。

 このアルバムを聴くと、そんなことを思います。


 なんて、不似合いな熟語を多投して書きましたが、要するに、「格調高きヘヴィメタル」がここに完成をみたのです。



 1曲目Bad Boys Running Wild 

 メタル的イディオムで引っ張る


 2曲目Rock You Like A Hurricane

 ザ・フーのI Can't Explain、ローリング・ストーンズのJumpin' Jack Flash、そしてこの曲などなど、僕は、ギターがコードを切っていくイントロの曲は大好きで、すぐにギターを手に取って弾きたくなります。

 歌メロもいい、演奏もいい、ギターソロもいい、ルドルフ・シェンカーのギターのカッティングはもちろんいい、おまけにエンディングのまるで明日が見えないような盛り上がり、すべてが最高の曲。


 3曲目I'm Leaving You

 最近思ったのは、この曲にはブルー・オイスター・カルトに似た雰囲気がありますね。
 そういえばBOCも退廃的な美しさを感じますが、ヨーロッパ的かどうかが大きな違い。

 この曲も口ずさむにはいいし、ギターリフといっていいギターの低音弦の動く音もいい。


 4曲目Coming Home

 抒情的なバラードかと思わせて突然爆発するように激しい曲に変わる、でもそのどちらも美しい。

 

 5曲目The Same Thrill

 前の曲の後半の激しさをさらにテンポをあげて強調したような曲で、アルバム全体の流れとしてはつなぎ的な曲かな。

 LPではA面の最後だったようですが、いずれにせよ次への期待を持たせる曲。


 6曲目Bid City Nights

 これはアメリカを意識したのかな、ロックで"Big city"というとまずニューヨークを思い出す。

 もしかしてベルリンなのかもしれないけれど、でもいくら親日家でも東京ではないだろうなあ。

 ただ、このアルバムが出た当時の東京に比べると、今の東京はずっとこの曲の雰囲気に合った街になっているとは思います。

 この曲は最初にこのアルバムを聴いた時に一番印象に残った曲で、アルバムの中の曲でもこれだけいいというのは、アルバムのできのよさを証明してもいます。

 

 7曲目As Soon As The Good Times Roll

 ハードロックだヘヴィメタルだといっても、結局は古いロックンロールやブルーズが好きなものなんですよね(今の若い人はどうか分からないけれど)。

 ただ、スコーピンズの哀愁は、ブルーズのものとはまた違う、やっぱり欧州の感覚なのでしょう。

  

 8曲目Crossfire 

 この曲はとにかくマーチングドラムの乾いた音色に気持ちが奪われる。

 アルバムの流れの中では最後の名曲への序章的な位置づけだと思うけれど、このアルバムはとにかく流れが素晴らしく、アルバム至上主義者の僕はそこも大好きなところ。


 9曲目Still Loving You 

 最後の最後にバラードの名曲が。

 この曲の歌い出しはこうですが、

 "Time, it needs time to win back your love again"

 この"love"のところで音が高くなり、"again"にかけてのところで急激に音が下がるこの歌メロは、いつ聴いてもはっとさせられる。

 この部分は、上手い下手というよりも、クラウス・マイネのあの声だからしてはじめてできるものなのでしょう。

 声と旋律があまりにもきれいにはまりすぎいる。

 彼らがライヴで「荒城の月」を好んで演奏するのがよく分かる、そんな曲調ですね。

 アルバムの最後に、あまりにも哀愁を帯びたこの曲があるのは、いつまでも尾を引きますね。

 

 

 ヘルムート・ニュートンが撮影したジャケット写真、確かにエロティシズムは感じるんだけど、もうこれは芸術の域に達している。

 写真として素晴らしいだけではなく、アルバムの内容も伝えている、ロックアルバムでも屈指の芸術的なアートワークといえるでしょう。

 
 スコーピオンズはもちろん他にもいいアルバムはあるけれど、このアルバムはまさに孤高な存在感を放ち続けています。