ONE DOZEN BERRYS チャック・ベリー | 自然と音楽の森

自然と音楽の森

洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。


自然と音楽の森-Nov08ChuckBerry


◎ONE DOZEN BERRYS

▼ワン・ダズン・ベリーズ

☆Chuck Berry

★チャック・ベリー

released in 1958

CD-0308 2012/11/8


 チャック・ベリーのオリジナルアルバムは初めて聴きました。

 今まで聴いてきたのはベスト盤とボックスセットだけ。

 これは2枚目のオリジナルアルバム。


 ジョン・レノン・ミュージアムがなくなってもう2年。

 僕は、最後の年の3月と4月に2回行きました。

 閉館が決まってから行ったのですが、実際に行くと予想をはるかに超えて面白かった。

 なくなってしまったのは残念。

 

 ミュージアムでは、最初はジョンの人生をまとめた短編映画を見てから展示室に入りました。

 最初の展示室は、ビートルズがデビュー前から演奏していたキャヴァーン・クラブを模した、それこそ穴倉のような細長くて暗い空間でした。

 その奥の映像でキャヴァーン出演時のビートルズの映像が流れていたのは、ほんのちょっとでも当時の雰囲気を感じさせるいい演出でした。


 入り口にはガラスケースがあり、ジョンが好きだったと思われるLPレコードが並べられていました。

 その中に、チャック・ベリーのこの印象的ないちごのジャケットのLPがありました。

 後から思えば、Strawberry Felds Foreverとイメージをだぶらせてのものだったかもしれません。

 ジャケット写真は照明で焼けて、いちごが「いちごみるく」(飴のこと)みたいに色あせていました(笑)。


 爾来、このアルバムのLPが欲しいと思い続けていましたが、でも、LPは難しいだろうなあ、欲しいといってもたまたまどこかで、店でもネットでも見つければ、というくらいの気持ちでした。


 それが先月、何かのきっかけでAmazonでチャック・ベリーのCDを調べていたところ、印象的ないちごの写真の紙ジャケットCDが出ていたことを知りました。

 新品はすでに流通していなかったけれど、新品未開封品が1800円と送料を入れても安かったので、すぐに注文しました。

 

 僕は、中途半端なロマンティスト、中途半端なリアリストなんですよね(笑)。

 ほんとうに欲しければ何があってもLPを探すだろうけど、「模造品」である紙ジャケットCDで許してしまう。

 いいんです、気分を味わうのだから。

 ただ、紙ジャケットCDにこのような「効用」があることは初めて知り、体験しました。


 アルバムを聴くと、やっぱりチャック・ベリーですね。

 ただ、ベスト盤だけで聴くのとは別の顔も見えたのですが、それは後で書きます。

 なお、オリジナルアルバムはそれこそ「1ダース」12曲ですが、僕が買った紙ジャケットSHM-CD盤には、それより多い14曲のボーナストラックが入っています。


 ここには、やはりというか、ジョン・レノンが録音を残した2曲が収録されています。


 1曲目Sweet Little Sixteen

 ソロのROCK AND ROLLに入っていますが、しかしこの曲、今ではビーチ・ボーイズのSurfin' U.S.A.の「元曲」として知られていますね。

 僕は高校時代、ジョンのこの曲を聴いていてふと、似てるな、と思い、ビーチ・ボーイズの歌詞を(うろ覚えで適当だったけど)ジョンのこれにのせて歌ってみたところ、細部までぴたりとはまって驚きました。

 当時はネットもないし、家にある本で調べた限りはそういう話には行きあたらなくて(まあビートルズ関係以外はほとんどなかったので当然といえば当然だけど)、もしやこれは大発見!? と。

 しかし後に、ボーイズは「改作」したと認めたように、当時から知っている人は知っていたんですね。

 今ではボーイズのほうの作曲者クレジットにチャック・ベリーの名前も連なっていますが、僕が10代の頃はまだそれほどうるさくない、そういうのは問題じゃないかといわれ始めた頃でした。

 レッド・ツェッペリンのブルーズの「改作」にも今では「元曲」の作曲者の名前が連なって記されていますね。


 そこで思ったのは、ジョン・レノンはもしかして、ビーチ・ボーイズが「改作」をしたのにチャック・ベリーのクレジットがないことに警鐘を鳴らすために、敢えてこの曲を録音したのではないか、ということ。

 というのも、ジョン・レノン自身も、Come Togetherがチャック・ベリーのYou Can't Catch Meの盗作ではないかと訴えられた経験があり、そういう問題には敏感になったことが関係あるのではないか。

 ジョンは、Come Togetherの歌詞に、ベリーの曲にある"Here come a flat-top"という歌詞を残してしまった(ジョンは"a"を"old"に変えている)のがいけなかった、でも似ていないと話しています。

 結局はジョンが折れ、Come Togetherにチャック・ベリーのクレジットは出さないものの、ジョンのアルバムでベリーのその曲の版権を持っている人物が著作権を管理している他の曲を歌うことで落ち着きました。

 それが、WALLS AND BRIDGESに収められたYa-Yaで、ジュリアン・レノンがおもちゃのドラムを叩いてジョンは適当にピアノを弾きながら途中で終わっているあの曲です。

 しかもジョンは、ROCK AND ROLLで件のYou Can't Catch Meを歌います。

 芸が細かいことに、わざとCome Togetherに似せて。

 さらにはYa-Yaも、再度登場し、今度はちゃんと歌っています。

 ただこれ、本来はROCK AND ROLLが先に来るところが、フィル・スペクターがマスターテープを持ち逃げするなどで一度頓挫した結果、WALLS AND BRIDGESが先になったため、あのようなかたちでYa-Yaを歌って入れざるを得なかったのだと考えらえます。


 長くなりました、チャック・ベリーのアルバムなのにジョン・レノンの話で。

 ただ、僕の中では、ジョン・レノンが尊敬する人はチャック・ベリー、中学時代にそれを知ってから頭の中でジョンとベリーは不可分になっているので、そこはどうかお許しを。


 9曲目Rock & Roll Music

 ビートルズの4枚目で録音し、武道館公演の1曲目で歌われたあれですね。

 ビートルズのほうが直情的というかタテノリ系で、それに対してオリジナルは少しホップしたリズム感になっています。

 やはり4番の"tango"、"mambo"、"congo"、"piano"の韻を踏む歌詞は印象に残りますね。

 こちらは曲について特にもめ事もないかな(笑)、でもこれもビーチ・ボーイズも歌っています。

 ロックンロールの創始者自らが奏でるロックンロールへのオマージュ、チャック・ベリーは押しが強い人なのでしょうきっと。


 他の曲について。


 2曲目Blue Feeling

 その名の通り、一見するとブルーズを演奏したインストゥルメンタルなのですが、でも不思議とブルーズっぽくない、だからBlue Feelingなのかもしれない。

 ところでこのアルバム、ベースはかのウィリー・ディクスンが担当しています。

 Chessレーベルだからでしょうけど、彼がロック界に残したものの大きさもあらためて感じますね。


 3曲目La Jaunda

 スペイン語のタイトルの通りラテンっぽい曲で、こういうところにも先見の明があったのでしょう。


 4曲目Rock At The Philharmonic

 インストゥルメンタルが2曲目というのは意外な展開でした。

 まだジャズがポピュラー音楽だった頃を引きずっている感じかな。


 5曲目Oh Baby Dall

 これはまっすぐなチャック・ベリー節。


 6曲目Guitar Boogie

 あ、またインストゥルメンタルだ。

 ギターサウンドが少し波乗り系を感じさせるのも興味深い。

 「メリーさんの羊」の旋律も出てくるのが面白い。


 7曲目Reelin' And Rockin'

 これはベスト盤に入っていてよく知っています、まごうことなきベリー節。


 8曲目In-Go

 あれ、またもやインストゥルメンタル。

 これはまちのダンスホールでバンドが演奏する、「アメリカン・グラフィティ」や「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の過去のシーンの雰囲気の曲かな。

 

 9曲目Rock & Roll Music


 10曲目How You've Changed

 これはゆったりとした、アメリカン・スタンダードといっていい曲で、ロックンロールだけではないチャック・ベリーの奥深さを感じます。

 でも、当時は、明らかにスタンダードとは違う新しい感覚だったのでしょうね。


 11曲目Low Feeling

 これまたブルーズのようでブルーズではないインストゥルメンタル。

 ジョンもこうしたブルーズから離れていく過程が面白かったのかもしれない。

 中間の乱舞したようなピアノがまたすごく、そういうトリッキーなところも刺激的だったのでしょう。

 ピアノはジョニー・ジョンソンとラファイエット・リークの2人の名前があるけど、どちらの演奏だろう。

 

 12曲目It Don't Take But A Few Minutes

 最後は普通に歌があるベリー節でほっと。

 もちろん、インストゥルメンタルが嫌だというわけじゃないけれど。

 Maybelline系の曲だけど、よく聴くと、特に間奏でほのかに南部っぽさを感じるのが興味深いですね。

 

 

 ボーナストラックで注目は、13曲目Rock & Roll Musicのオルタネイト・テイク。

 ヴォーカルがダブルトラックになっていますが、それまで聴いてきていきなりダブルトラックはちょっと驚いた。

 ダブルトラックもジョンの得意技でしたからね。


 ベスト盤だけでは分からない部分が多々あって、とても興味深く楽しくまた充実したアルバムでした。


 

 やはり、ジョンはどんな思いでこのアルバムを聴いたんだろうと想像しながら聴いている自分がいました。

 ジョンが18歳の頃、もうポールやジョージと知り合ってバンド活動をしていた頃、さらなる刺激を受けたのかな。

 ちなみにジョンの母が亡くなったのがその年ですが、このアルバムは前述のように「いちご」でジョンの人生がいろいろとつながってくるのは奇遇というか。


 ただ一方で、ジョンはその頃はもうドーナツ盤でしか聴いていなかったかもしれない、あの展示はただ単に時代をしのばせるだけだったのかもしれない。

 自分の中の冷静な部分ではそう思わないこともないのですが、ここはひとつ、ジョンが聴いていたと信じたいですね。


 ところで、ミュージアムの展示には他のLPもあったのですが、20枚くらいあったかな、他のアルバムはまったく思い出せません。

 バディ・ホリーがあったことは覚えているんだけど、アルバムまでは分からない。

 いかに「1ダースのベリー」の印象が強烈だったか、ということでしょうね。

 しかしこうなると、そこにあった他のアルバムも知りたくなってしまう、聴きたくなる。

 でも、もうあのミュージアムに行くことはできない。

 困ったというか、寂しいですね。