◎UNCONDITIONAL
▼アンコンディショナル
☆Ana Popovic
★アナ・ポポヴィッチ
released in 2011
CD-0309 2012/11/10
アナ・ポポヴィッチは、セルビア出身の女性ブルーズギタリスト兼シンガー、ヨーロッパを中心に活躍しています。
このアルバムはそんな彼女の5作目になります。
と、初めて取り上げるアーティストでおそらくあまり知名度が高くない人だから、今回は前振りなしにいきなり紹介から入ってみました。
このCDはジャケット買いをしたのだろう、と言われるでしょうね。
半分当たり(笑)。
いつものようにAmazonの購入履歴からのおすすめで出てきて、この挑発的ともいえるセミヌードのジャケットが目に留まった瞬間、思わず商品ページをクリック。
そこで買ったのであればもう完全にジャケット買いでしょう。
でも、そこで僕は、この人はどんな音楽なのだろうと、そのページを見て考えました。
女流ブルーズギタリストであるという。
似た傾向がボニー・レイットであるという。
そこで買うことを決めました。
その間およそ1分。
あ、やっぱりジャケット買いかな(笑)。
ジャケット買いについてはいろいろと思うところがあるのですが、今回はそういうことにしておきましょう。
少なくともジャケットを見て興味を持ったのは間違いないのだから。
なんて、いつも以上に歯切れが悪い自分を感じながら記事を書いています。
ところで、「手ブラ」という言葉があるけれど、ギターで隠しているこれは「ギタブラ」とでもいうのかな。
あ、調子に乗りすぎたか、失礼しました・・・
ここは真面目に音楽の話をするBLOGですからね、一応。
音楽について、基本は確かにブルーズですね。
でも、黒人ではないのでブルーズとはいわないのかな、どうだろう。
僕は基本がロックの人間だから、そこは気にしていなくて、ブルーズという音楽が好きで気持ちよく聴かせてくれる人であれば積極的にいいと思います。
どちらかというとブルーアイドソウルのほうが抵抗があります。
いや、ブルーアイドソウルと呼ばれる中には大好きな人もたくさんいるし音楽自体は好きなのですが、ブルーアイドソウルは突き詰めて考えるとロックじゃないか、だからわざわざカテゴリで分けなくてもいい、ヘヴィメタルだって同じロックだ、というのが僕の基本的な考えです。
そう考えると、白人のブルーズもロックなのかな、と思わなくもないですね。
ただ、ロック畑の人がソウルをやる時は、ソウルという音楽を自分の側に引き込んで表現していることが多いのに対して(もちろんコピーというかカヴァーもあるけど)、ブルーズの場合はブルーズの中に入り込んで初めてブルーズと言えるのではないか、と。
アナ・ポポヴィッチは自分からブルーズに足を踏み入れていることは、ちょっと聴けばすぐにはっきりと感じとれます。
などと考えていくと紙幅が足りなくなるので今回はもうやめておきますが、僕の基本はどうやらブルーズロックにあるようで、アナ・ポポヴィッチのこのアルバムは最初にかけた瞬間から、おおこれはいい、と素直に思いました。
正直、アルバムは予想以上に良かったです。
ジャケットに騙されるのではないかと危惧していたのですが、ジャケットに騙されてよかったと(笑)。
買ったのは6月で少し前ですが、その頃は車で遠距離に行く仕事が多くて、車の中でよく聴いていて、車にはすごくよく合う音楽、いつもかけていました。
何がいいかって、オリジナルの曲がとてもよかった。
ブルーズのアルバムはカヴァーが多い、というのは僕のちょっと古い固定概念かもしれないけれど、このアルバムは7曲目までの前半はすべてオリジナル(共作あり)、後半にも1曲あり、12曲中8曲、実に2/3がオリジナル曲で占められています。
1曲目Fearless Bluesはイントロなしに歌とアコースティックギターで始まって、きたきた、ともう最初から心をつかまれる。
特に素晴らしいのが4曲目Reset Rewind、これはブルーズというよりはこういうブルーズ系のロックのバラードがあったな、という懐かしさというか、基本70年代愛の僕としてはもううれしくなるばかり。
正直、この部分に関してはあまり期待値が高くなかったのですが、それをはるかに上回るできで、曲にこだわる僕としては積極的に評価できるものです。
多分、ブルーズだから型にはまってさえいれば何でもそれなりにいいのだろう、以上に曲作りがうまいと思います。
なお、カヴァー曲については、後に詳述する1曲を除いては、僕が知らない曲でした。
ギタープレイもいいですね。
かなり攻撃的、鋭角に攻めてくる感じで、ジャケットでは暗い中でストラトキャスターを持っているけれど、まさにそのイメージの音。
僕は女性のブルーズギタリストはボニー・レイットとスーザン・テデスキしか聴いたことがない、だからこれが3人目ですが、後者は1枚しか聴いたことがないのでここでは外すとして、しかし、ボニー・レイットのような温かみがあるというよりは、どちらかというと冷たい響きに聞こえてきます。
演奏の熱い冷たいの冷たいではなく、その点は熱くて火花が散りそうなプレイも聴かせてくれるのですが、音楽の根底にある人間的な部分がひんやりとした感じがします。
これはあくまでもイメージで、ほんとうの彼女がどうかは分からないで話していますが、でもボニー・レイットは見るからに温かそうな人という感じは受けていて、そんなボニーとは違う。
彼女のギタープレイは、冷徹に攻め込んでくることで刺激性が高まり、気持ちが揺さぶられる部分が大きいと感じます。
やはり、挑発的なジャケット写真のイメージでもあるのでしょうね。
近寄ろうとするとビンタを食らわされた、みたいな。
あ、やっぱりそこから離れられない・・・(笑)・・・
まあだから、音楽にやすらぎや癒しを求めるなら、この音楽は合わないかもしれない。
だから車には合うのでしょう、眠くなりにくい。
実際にこのCDは音量が大きくて、他のから変えると音が大きすぎることばかりでした。
アルバムは気に入ったのですが、ただ、その上で2つほど気になったことがあります。
ひとつ、プロデュース、とりわけ音のミックス。
攻撃的なギターが前面に出ているのはいいんだけど、音が強すぎる。
基本はギターの音に置いているのは分かるんだけど、その上でヴォーカルも強くしようとしていて、あちらを立てればこちらが立たずみたいな音の競り合いは、聴いていると疲れてくる。
リック・ルービンのように音の当たりは強くてもまろやかに響いてくるというところまでは求めないけれど、もう少しバランスを考えられなかったものかと。
ただ、それは刺激性を強めるために意図的にそうしていると考えれば納得がいくんだけど、でも、他に聴くCDとの比較という話になれば、やっぱり慣れなくて落ち着かないですね。
もうひとつは彼女の歌い方。
いかにもブルーズらしく作っていると感じさせる歌い方であり歌声で、自然に響く声とは正反対。
もちろんある程度はそういうものがあってもいいとは思うんだけど、でも、作り方がまだまだこなれていないというか。
典型的なのが8曲目Work Song、ジャズを知らなくても誰でも知っているナット・アダレィのあまりにも有名なあの曲の歌詞つきヴァージョン。
鼻につくというか、こりゃちょっとばかりやり過ぎじゃないか、と最初は思いました。
歌い出し2小節目の「チンゲン」に聴こえるところは、ほんとに「チンゲン」と日本人が英語の歌を覚えるように歌っているのではないか、と思ったくらい。
ちなみに「チンゲン」に聴こえるところは"chain gang"と歌っているんですけどね。
他の曲も、カッコつけすぎというか。
声質そのものはかなりいいと思うんだけど(特に喋る声はよさそう)、でもおとなしい声で普通のポップスを歌うというイメージはもはや湧いてこないですね。
でも、声については、慣れてくると温かい目と耳で見て聴くようになり、やっぱりこれでいいんだと思うようになるのだから不思議なもの。
まあ、ほんとに嫌だったらすぐに聴かなくなるだろうから、聴くということは、嫌よ嫌よも好きのうち、ということなのでしょう。
結局は挑戦的な態度を貫いていて、挑発的というか、良くも悪くも気になってしかたがないことをやることで聴き手の気持ちを揺さぶり、高ぶらせる、それが狙いなのでしょう。
僕はその狙いにうまくはめられたくちです、はい(笑)。
などとうるさくいろいろと書いてきましたが、今年買った現役の今まで聴いたことがないアーティストのCDでは今のところいちばん気に入っているのは確かです。
1枚聴いて気に入ったので、少しずつ他のも買ってみるつもりでしたが、先週、札幌ではいちばん大きい中古レコード店「レコーズ・レコーズ」に、2作目が700円であったので買いました。
そちらもやはりブルーズロックといえるもので気に入ったのですが、しかし、気になったのが700円という価格。
同じ日にもう2枚を買っていて、1枚はアラン・トゥーサンのBRIGHT MISSISSIPPI、2009年の現時点で最新作が1200円、これは新しいから値段はこんなものでしょうね。
もう1枚がジョニ・ミッチェルのTURBULENT INDIGO、1994年のCDで800円、少し古くてかつCDがよく売れた時代のものにしては高めかな、いやいいところか。
アナ・ポポヴィッチの2作目は2003年で700円。
ううん、やはり、人気というか知名度が低いんだな。
まあ、だから安く買えて僕にはよかったのですが(笑)、でも、気に入った人だからもっと応援したくもなりました。
ブルーズロック大好き人間の僕としては、アナ・ポポヴィッチが今後どのような展開を見せてくれるか、楽しみに追ってゆきたいです。
でも、ジャケットはもうこれ以上挑発的にはならないでしょうね。
あ、期待しているわけではないですからね、もちろん(笑)。