◎AWAY FROM THE WORLD
▼アウェイ・フロム・ザ・ワールド
☆Dave Matthews Band
★デイヴ・マシューズ・バンド
released in 2012
CD-299 2012/10/21
デイヴ・マシューズ・バンドの新譜が出ました。
新譜が出ました、というくだり、最近の常套句になっていますが、ほんとうに秋は新譜ラッシュの上に、今年は記事にしたいくらい気に入ったものが多くて、記事がなかなか追いついていない現状。
おまけに昨日上げられなくて1日押してしまいました・・・
デイヴ・マシューズ・バンドは、1990年代にMTVを観ていた頃に曲がよく流れていて、アルバムを3枚買って聴いたことがあります。
しかし、3枚も買った割には特に気に入ったというわけでもなく、MTVを観なくなり、10年ほど前から追わなくなりました。
ただ、興味というか、いつかちゃんと聴きたいとは思い続けていたのが、昨年、ひとつ前の、当時は最新のアルバムのDVD付き限定盤がタワーレコードの半額ワゴンの中にあり、店内で12分ほど迷って買うことにしました。
それがよかった。
そこで新譜はすぐに買いました。
デイヴ・マシューズ・バンドの音はひとことでいえば「カントリー+ファンク」なのでしょう。
デイヴ・マシューズのアコースティックギターを基調としながらもファンク的に跳ねたリズム、そのギターとリズムの間に漂う独特の空間の広がりにより、ふわっとした音世界を持っています。
もっとも、彼くらいの世代になると、ルーツがひとつやふたつではなく、既にそれらがまじりあった音楽を自然に聴いて育っただろうから、そう言いきれるものではないのでしょうけど。
ブルーズ的な要素はもちろん感じるし、ジャズというかフュージョンにもつながっていく感覚も持ち合わせていて、まさに唯一無二、独特の音楽を奏でる人たちでしょう。
僕がDMBを聴かなくなってからのことはもちろん知らなかったのですが、一昨年かな、何かのきっかけでDMBについてネットで調べていたところ、「今アメリカで最も客が呼べるロックバンドのひとつ」という記述に行きあたり、正直、驚いた、意外に感じました。
1990年代に一度少し聴いた印象では、彼らの音楽はこじんまりとしていて、つかみが強いわけではなく、僕がそれまで接してきていたいわゆる売れ線の人たちとは明らかに違う響きを持っていると感じていました。
どちらかといえば、スタジアムよりもライヴハウス向きの音といえばいいのか。
大ヒット曲のあるバンドのようにぜんぜん知らない人たちが連帯も何もなく楽しんだ結果が大きな盛り上がりになるというのではなく、会場に来る人はみんな仲間のような雰囲気で盛り上がって楽しむものと感じていました。
だから、客が呼べる、スタジアムを満員にできる、というのが結びつかなかった。
もうひとついえば、当時は特に日本ではほとんど人気が出なかったこともあって、DMBは音楽通の人が聴くものという印象をも僕はもったことも関係しています。
大がかりではなく、はったりがあまり感じられない、音楽としてはいいけれど、売れる音楽という僕のイメージとは違った。
おまけに歌詞もメッセージ色が濃いという話で、そんな音楽を何万もの人が聴きに来るというのも、信じられないというか。
でも、今回の新譜を聴いて、それが氷解した気がしました。
ものすごく単純にいえば、やっぱり曲がとってもいいんです。
知らず知らずのうちに気分よくさせられてしまう曲は、ポップソング以外のなにものでもない。
曲の内容は深刻だったり重たかったりとあるんですが、表面上の音は聴いていて気持ちがいい響きであり、いろいろな音楽を感じられて楽しい。
おまけにこの独特のリズム感には体が自然と乗せられてしまう。
コンサートは、僕は昔は音楽を聴きに行くものだと思っていました。
もちろんその通りですが、でもそれ以上に、コンサートってやっぱり「体験」であると、近年コンサートにまたたくさん行くようになって気づきました。
40になって気づくのかい、というのはこの際なしにしていただければ・・・
これだけいい曲があって、これだけのりが良ければ、コンサートを「体験したい」という人が増えるのは当たり前のことでしょう。
なぜそこに気づいた、というかそう思うようになったかというと、実は、今回の新譜、ものすごく期待大で臨んだわけではなく、まだ1枚しか気にっていないので、まあ出たから買うか、に毛が生えたようなものだったのです。
だから、買ってCDをかけても最初は真剣に聴き込むのではなく、ただなんとなくかけてしかも他の事(洗濯だったかな)をしながらかけていました、白状すれば。
しかし、そうして少し離れたところから聴いたからこそ、曲のよさ、乗りのよさが、理性ではなく感覚的に素直に感じることができたわけです。
もちろん今は真剣に聴き込んでいますが、でも、だから、歌詞のメッセージを読み解こうというところまでにはまだ至っていません。
そこまでできて記事にするのがほんとうはよいのでしょうけど、でも、それ以前にアルバムの素晴らしさを伝える方が先かなと思いました。
聴き込むようになって、もうひとつ気づきました。
デイヴ・マシューズの歌声には尋常ではない寂しさや虚しさを感じます。
声には個性がある人だなと以前から思っていましたが、ちょっとハスキーで微妙に甘くなりかけているハイトーン、という声。
人間の声は幾つもの周波数が重なった結果個性的な声と認識されると、ジョージ・マーティンの本にも書いてあったのですが、この人の声は、周波数の真ん中辺が何かすぽんと抜けているような感じがして、力強いというよりは切ない、そんな声かな。
声量があまり大きくなさそうなのも切なさを感じる部分ですが、真剣に聴き込むようになって、この声の寂しさ、虚しさがすごく気になるというか、胸に響いてくるようになりました。
下手すれば、この人大丈夫かな、というくらいに、憐れみを乞うというか、自己憐憫というか、とにかく切なく寂しい声なのです。
特に5曲目Sweetは消え入りそうな歌い方、8曲目If Onlyも元気が出るというよりはしみてくる。
しかし一方で9曲目Roof Topのように、「あぃ うぉんちゅうぅ~」と狂おしく歌ういかにもロック的な曲ももちろんあります、まあ、狂おしくといっても彼なりに穏やかにですが。
最後11曲目Drunken Soldier、曲名からしてこの世界の虚しさを表していますが、序曲風に壮大に曲が始まり、音で、言葉で、無情を綴ってゆく。
声の寂しさは、前作の時には気づいていないというか意識していなかった部分ですが、今回は「世界から離れて」というアルバムタイトルのごとく、虚しさを強調しているのかもしれません。
でも、それ以上のことはデイヴ・マシューズは言わない。
ひとりひとり、世界の事を考えてほしいというメッセージなのでしょう。
もうひとつ思った、まさに隣のお兄さん的な人なんだろうな。
今のビッグなバンドは、スター然としているのではなく、どこにでもいるお兄さんお姉さん的な人が逆に多くの人に受け入れられるのかな。
そう考えると、コンサートに多くの人が来るのも納得できました。
僕が持っていた売れる音楽の固定概念が邪魔をしていた、ということなのでしょうね。
音楽だって時代とともに、人とともに変化するものだから、今の音楽は、こちらが身構えてしまうようなスターよりも、身近に感じられる人のものをより多くの人が聴きたい、というものなのかもしれません。
ところで、デイヴ・マシューズの声はピーター・ガブリエルに似ている、と今回強く思いました。
元気に歌ったピーターではなく、例えばアルバムSOのIn Your Eyesのようにおとなしく歌った曲の感じに特によく似ています。
もちろん味わいがある、人間味を感じる声。
しかも似ている相手がメッセージ色が濃いアーティストなだけ、余計にメッセージ性が引き立って聴こえてきます。
僕は、自分が知っている限りの大物同志では最も声が似ていると思いました。
ただ、これは批判的な意味はほぼまったくなく、それで余計に気持ちが入っていったんですが、でも、誰かに似ているというのは本人もあまりよく思わないかな、ごめんなさい。
僕は、音楽が時代により変化する、進歩、進化という表現もあるでしょうけど、ということを忘れていました。
エゴが強くなく人間味を感じるデイヴ・マシューズ。
人の心をわしづかみにするのではなく、そっと寄り添ってくれる曲。
そんな音楽が広まっているのでしょうね。
もうひとつ、CDさらにはネットの普及で、通好みの音楽を自然と聴ける人が増えたのかもしれない。
なんてことも考えました。
デイヴ・マシューズにもすっかり魅了されました。
やっぱり自分は声が好きなんだろうなあ。
さらにいえば、音楽も人が好きになる。
こうなるといつもの(悪い)癖、まだ持っていないアルバムを揃えないと(笑)。
なお、僕が買った限定盤には、3曲のライヴ音源がボーナストラックで収録されており、ジャケットのアートワークも色違いになっています。
今月はきちんと1日おきに記事を上げるつもりでした。
その上で増えてローテーションが変わるのはいいとして。
しかし今回は中2日空いてしまった・・・
ファイターズの日本シリーズ進出が決定して、浮かれていました(笑)。