NOTHIN BUT LOVE ロバート・クレイ・バンド | 自然と音楽の森

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自然と音楽の森-Oct18RobertCrayBand


◎NOTHIN BUT LOVE

▼ナッシン・バット・ラヴ

☆Robert Cray Band

★ロバート・クレイ・バンド

released in 2012

CD-0298 2012/10/18


 今もっともよく聴いているCDがこれ、ロバート・クレイ・バンドの新作。


 ロバート・クレイを僕が初めて聴いたのは、まったくもって月並み、浪人生だった1986年に大ヒットしたあのSTRONG PERSUADERでした。

 結果としてそれは僕が初めて買ったブルーズのレコードでしたが、昨年からブルーズ系を普通に聴くようになり、そのアルバムは近いうちに記事にするつもりでいたところ、新譜が先に出てしまいました。

 というわけでそのアルバムはまた日を改めて。


 しかし僕はその後ずっと聴いていなくて、今回の新譜が26年振りに聴いたロバート・クレイです。


 当然のことながら間のことは聴かないと話せないし、僕の頭の中には26年前のポップで軽いブルーズというイメージしかなかったので、今回のアルバムは「普通の」ブルーズだと感じました。


 でも、1950年代から少しずつですが段階的にブルーズのアルバムを聴いてきて、これは明らかに60年代くらいまでのものとは違う、やっぱりモダンなブルーズということになるのでしょう。


 演奏がタイトでかちっとしていいて、曲がなんとなく流れるのではなく角があってカクカクっと折れながら進むようなある種の爽快感があります。 

 僕のブルーズの基本は、黒人ブルーズではないんだけど、ゲイリー・ムーアのSTILL GOT THE BLUESで、このアルバムの音はそこに近い感じがしました。

 なんとも短絡的ですが、といことは、ブルーズがロック寄りに進んできたという音なのでしょう。

 裏から見れば、ハードなロック。

 だから僕がこれだけ好きになるのは当たり前ですね。


 ギタープレイはさすが。

 ジャケットでも持っているのでストラトキャスターに違いない、あの腰があって艶やかな音が炸裂、鳴きのフレーズも満載で、ギター弾きの端くれの端っこの人間としてはもう無条件で反応してしまう。

 聴くだけではなく、弾けるようになりたい、と思えるだけ僕はまだ若いのかな(笑)。


 しかし今回は、ロバート・クレイという人について気づいた、かなり重要なことがあります。

 声がとてもいいですね。

 ブルーズの一般的なイメージのしゃがれ声系ではなく、張りがあってかすかにハスキーな声は、聴いていてとても元気が出る、励まされる声です。

 しみてくる、というよりは、こちらの気持ちが動く、そんな声であり歌唱ですが、そこも旧来のブルーズとは違うところかもしれません。


 全曲、なるべく2行以内で短く。


 1曲目Won't Be Coming Home

 ドラムスが入った後イントロからいきなりギター全開。

 ミドルテンポのシンプルな曲だけど、このアルバムの充実がダイジェストされています。 


 2曲目Worry

 これはソウルの味わい、タイトルを歌う部分がとにかく耳に残ります。

 ギターばかりに耳がいきがちですが、このバンドはピアノとベースの音のバランスがいいですね。


 3曲目I'll Always Remember You

 スロウテンポでビッグバンド風のこれは50年代風正統派的ブルーズ。


 4曲目Side Dish

 アップテンポの明るいロックンロール風。

 イントロで奏でられるギターフレーズが続いていく中、歌が始まって9小節目でコードが変わったところで全体のコードとそのフレーズが合っていないように感じる、不思議な響き。


 5曲目A Memo

 イントロのギターとエレピのフレーズがポップですぐに心をつかまれる。

 歌詞の中に"Nothing but love"と出てくるので、ずっと表題曲だと思っていたのが、実はタイトルが違うんだ、この記事を書くのに初めて曲名を見て知った(笑)。


 6曲目Blues Get Off My Shoulder

 来た来たっ!

 「じゃっじゃっじゃぁ~ん」と短いイントロの後、あまりにも哀愁を帯びた歌が始まる。

 こうした哀愁はロックにはなかなかないもので、ブルーズ聴いてるなあ、と感慨に浸る。

 タイトルからは逆説的にブルーズを愛してやまない「素直な」気持ちが伝わってきます。

 歌メロもいいしギターソロも感動的。

 正直、今年新たに出会った新曲の中では、ボブ・ディランのDuquesne Whistleと並んで最も好きな曲になりました。

 まあ、まだ今年はもう少しありますが(笑)。


 7曲目Fix This

 ゆったりしてどこかのどかな響き、ほのかにカントリー風の明るい曲。

 前の曲であまりにもブルーズに魂を詰め込み過ぎたのを自ら解放している、そんな感じで、この抑揚のつけかたがいい流れです。


 8曲目I'm Done Cryin'

 9分近くある長尺ものには、ブルーズの歴史を感じます。

 ゲイリー・ムーアがやっていたAs the Years Go Passing Byと頭の中でつながりました。

 最初に書き忘れましたが、ロバート・クレイは1953年生まれでブルーズの中ではまだ若いほうだと思うけれど、ブルーズという音楽が肉体が変わっても受け継がれていること、そしてこの先もつながっていくことを予感させられます。

 

 9曲目Great Big Old House

 6曲目から緊張感がある曲と穏やかな曲が交互に並ぶこの辺りはの流れは、聴いていて気持ちがいい部分です。

 やっぱりどこかカントリー風。

 4'30"辺りから始まるロバートのアドリブのヴォーカルが気持ちがとっても素直に伝わってきて、ここを聴いて、彼の声に元気づけられると気づきました。

 

 10曲目Sadder Days

 最後はイントロのストラトの音色に気持ちを優しくなでられるような響き。

 「悲しい日々が始まった」という本来なら寂しい曲だけど、なぜかどこか爽やかで、気分がよい。

 "Blues"というだけあって、そういう気持ちを否定的に捉えないということなのでしょうか。

 もしくは、束縛されるものがなくなり気持ちが軽くなったのはよかった、ということかな。

 でも思い出は大切にしたい、だからこういう優しい響き。

 7曲めからはロバート・クレイのペンになる曲ですが、ソングライターとしても優れていますね。


 ああ、長くなりました・・・


 なお、僕が買ったLIMITED EDITION DELUXE VERSIONには、11曲目You Belong To Meのライヴヴァージョンが追加収録されていますが、これは1952年の曲とのことです。

 

 

 ところで、このアルバムは、CDとしてひとつ前に上げたジョン・ハイアットと同じケヴィン・シャーリーがプロデュースをしてます。

 この2枚はたまたま同じ日に別のところから届いたもので、ジョン・ハイアットは事前にケヴィン・シャーリーであることは知っていたのですが、こちらを見てまたまた現れたその偶然に驚きました。

 ブックレットには彼の写真もあります。


 ケヴィン・シャーリーは、アイアン・メイデンをはじめ(すいません僕にはこれが「はじめ」なのです)、エアロスミスやジャーニーなどハードなものを得意としていましたが、このアルバムの当たりが強くて艶やかでしゃりっとした響きの音は、なるほど、納得です。

 ケヴィン・シャーリーはHPがあって、プロデュースやミックスなど今までに携わったすべてのCDやDVDのリストがあるのですが、ブルーズ系は今まで限られた人しか手掛けていませんでした。

 でも、ロバート・クレイ・バンドのこれをきっかけに、これからはブルーズ系にも仕事が増えるのかな、そう思うと楽しみでなりません。


 そこでふと思った。

 

 ケヴィン・シャーリーつながりで、ロバート・クレイを聴いた人が、アイアン・メイデンを聴いてみよう、という人はどれくらい出てくるかな・・・


 逆は割とあると思う、メイデンを好きな人が、ケヴィン・シャーリーだからロバート・クレイを聴いてみようというのは。

 なんといっても、僕自身、ジョン・ハイアットを聴いたのはケヴィン・シャーリーだったからですが、その辺の不可逆性がちょっと面白いなと思いました。

 


 もうひとつ気になったのは、タイトルの"NOTHIN"にアポストロフィーがないこと。

 今のアメリカ英語ではそれが普通になってきているのかな。

 それとも単にここだけの表記の問題かな。

 なんて、いつも割とどうでもいいことがかなり気になる僕なのでした(笑)。



 2012年のブルーズがまだまだ生きていることが、頭ではなく体で感じ取れるこれは、快作といっていいでしょう。



 ほんとうに聴きやすくて充実している素晴らしいアルバムですよ。