◎MYSTIC PINBALL
▼ミスティック・ピンボール
☆John Hiatt
★ジョン・ハイアット
released in 2012
CD-0297 2012/10/14
ジョン・ハイアットの新譜が出ました。
今回は、ジョン・ハイアットを取り上げるのは初めてのため、どちらかというと概論的な内容になります。
丸谷才一さんの教えに従い、笑われてもなんでも、考えたことを書いてゆきます(笑)。
◇
先ずは、僕は、売れるからいい音楽だ、売れないからよくない、という考えはまったく持ち合わせていません。
ただ僕は、ビートルズから入ってビルボードのチャートを中心に10代を聴き育った人間であるため、三つ子の魂なんとやら、売れたものにより心をつかまれやすい、という傾向は確かにあります。
逆に、売れないものこそがいい、という考えも持ち合わせていません。
あくまでも、自分がいいと思う曲が好きになるだけです。
アーティストだって、レコードを出している以上は、「売れない方がいい」と思ってやっている人はほぼ皆無に違いないでしょう。
百歩譲って、「売れなくても構わない」、くらいならいるでしょうけど、でもそれもめったにはいないかな。
長くやってきたベテランであれば、これからは趣味でやるので売れなくてもいい、という考えに至る人もいるかもしれないけれど。
でも、若い人、無名の人が、売れなくてもいいんだと思いながらレコードを出し続けることは、世の中の仕組みとして不可能だと思うし、僕にはそのほうが不自然に映ります。
「売れる」という表現に棘があると感じるなら、「ひとりでも多くの人の心をつかむ」と書けばいいでしょうか。
時々書きますが、僕は、売れた曲有名な曲の中から自分だけの感じ方を見つけるのが好き、という聴き方をする人間です。
前置きが長くなりましたが、そのことを頭のどこかに置いて読み進めていただければと思います。
◇
ジョン・ハイアットは、ヒットチャート的に見るとそれほど売れたという人ではありません。
でも、ロックを聴く人なら名前はどこかで接しているのではないか、というくらいの知名度はあるでしょう。
通好み、玄人好みというのかな、どんな音楽は詳しくは知らないけれど一目置いている、という存在ではないかと思います。
というのは僕の体験から思ったことですが、でもこれは決して一般的ではないわけでもないとは思います。
ジョン・ハイアットの音楽は、フォークやカントリーとブルーズを基調としたいかにもアメリカ的な音ですが、ルーツ・ミュージックというほどには掘り下げておらず、これはロックだといわれれば疑いもなく首肯します。
ただ、カントリー調の曲でも決して泥臭くなく、もたっとしていなくてむしろシャープな響きで、どこか都会的な音、そんな感じです。
ちなみに、ジョン・ハイアットはWikipediaに日本語のページがない、そうか、日本ではあまり聴かれていない人なのかな、そうなんだろうなあ。
ヒット曲というのは一瞬にして聴く人の心に入り込む、心をわしづかみにする強さがある曲でしょう。
一方で、一般的には、ジョン・ハイアットのように通好み(と目される)アーティストの曲は、「かめばかむほど味わいが出る」「スルメ系」などと評されることが多いと思います。
一瞬にして心を持って行かれるインパクトはないけれど、聴き込むと魅力が分かってきてよくなる、というもの。
ところが、ジョン・ハイアットは違います。
最初から、おおこれはいい曲だ、と素直に思える曲が多いのです。
自分がヒットチャートを追わなくなって考え方や接し方が変わった、と言われれば、それは否定しません。
でも、ジョン・ハイアットの場合は、少し冷静に接してみても、やっぱり曲にぐっと心をつかむ力があると思います。
僕も何度か聞いてすぐに口ずさむようになる曲が多いです。
ただ、一発で、ではなく、何度か、なのは、僕が曲の覚えが人数倍悪いからです、念のため(笑)。
例外のない規則はない、という諺がありますが、ジョン・ハイアットはその例外でしょう。
だからある意味、困った人でもありますね(笑)。
こうなると、その曲がヒットするかどうかは、曲自体以外の要因も大きいと思わざるを得ないですね。
まあ考えられる大きな要因は、レコード会社が販促活動に力を入れなかったということでしょうか。
その場合は曲自体に問題があるのではない、外的要因ですね。
アルバムの中の埋もれた1曲を誰かがカヴァーして大ヒットするという例もありますが、それは曲自体の潜在能力はあったということで、広い意味で販促活動をすれば売れたかもしれない例でしょう。
アーティスト個人の魅力というのもヒットの要因にはあるでしょうね。
一般的な言い方をすれば、こんなしょうもない曲が大ヒットするなんて、というのはアーティストの魅力が大きく勝った例でしょう。
ジョン・ハイアットの曲は、考えれば考えるほど、なぜヒットしないのかが分からなくなります。
それほどまでに、すっと心に入ってくる、印象に残りやすい曲を書く人です。
ただ、ジョン・ハイアットはなんとなく、ひねくれ者とまでは言わないけれど、人間的にはかなり癖があるように感じられ、スター然としたところはないかな、良くも悪くも。
もうひとつ、ジョン・ハイアットは、声は味わいがある系の声、ちょっとだけしゃがれかかっている個性的な声だけど、高音は絞り出すような声であまり美声とはいえない、そこが、ヒットという点では引っかかるかもしれない。
僕は好きです、悪いことはなにもないけれど、でも。
なぜヒットしないかは分からないけれど、なぜいい曲かはなんとなく見えてきました。
基本的に、よい意味でかたにはまった曲が多くて、展開も読めるし、曲の構成が凝っているということはない。
型どおりだけど、この人の場合はそこがかえって魅力と映るのです。
自分の曲を魅力的に聴かせるために、あえて型どおりの曲で勝負しているようにすら感じます。
そこが落ち着くのです。
また、人間、カッコいいと思う要素は大なり小なり多くの人に共通するものだと思うけれど、ジョン・ハイアットの曲はそのツボを押さえまくっていて外さない。
だから分かりやすいし、すかっとするし、カッコいい。
5曲目My Businessは、つらつらと文句を重ねていく力強くて説得力も大きい曲。
10曲目No Wicked Grinは穏やかなワルツのカントリー風バラード。
11曲目Give It Upはショーのエンディングに流れるようなエンターティメント性が高い曲。
といった具合に、どこかで聴いたことがある雰囲気、だけど個性が光る曲が並んでいます。
ジョン・ハイアットは、ヒットしないのは曲のせいだ、とは言い切れないことを証明するような存在のロッカーです。
◇
さて、僕は実はジョン・ハイアットはまだこれが3枚目です。
20年ほど前に最初の1枚を買い、長い間を置いて次に買った1枚は、一昨年のアルバムでした。
いつものAmazonのお勧めに引っかかったのですが(笑)、でもとても興味深いことがひとつあって、すぐに欲しくなりました。
そのアルバムは、ケヴィン・シャーリーがプロデュースをしているのです。
ケヴィン・シャーリーは、アイアン・メイデンの2000年以降のアルバムを手掛けていて、僕はきわめてよく聴いてきた大好きなプロデューサー。
他、ジャーニーやエアロスミスとの仕事でも有名な、いわばハードロック寄りの人だと思っていたのが、ジョン・ハイアットと組んだ。
どんな反応が起こっているのだろう、もう欲しくてたまらなくなりました。
そのアルバムについては、申し訳ない、いつものようにまたいつかの話とさせてください。
9月に出たこの新作も引き続きケヴィン・シャーリーがプロデュースをしています。
やはりというか、ギターの音が強くてシャープでいい響き。
全体の音が、駄洒落じゃないけれど(笑)、しゃりっとした響き。
先ほど書いたように、ロックです、ハードロックじゃないけれど、ハードな手応え抜群の強いロックです。
ただ、前作よりもギターの音が少し粗くなっていると感じました。
この粗いというのは雑という意味ではなく、物理的な音の響きが粗いというだけで、それは狙いでしょう。
曲で面白いのは、最後12曲目、Blues Can't Even Find Me、「ブルーズはいまだに僕を見つけていない」。
逆じゃないかな(笑)。
でもそこが僕が勝手にイメージした一筋縄ではゆかない人の面目躍如なのでしょうね、表現として面白い。
スライドギターがいい味を醸し出す、抒情的なカントリーブルーズ、ちょっと最後にしてはしんみりしすぎだけど、いい雰囲気でアルバムは終わります。
正直、僕は、昔は通好みの人が聴くものだと決めつけていたけれど、ケヴィン・シャーリーのおかげで曲の素晴らしさに気づいて、今は、だんだんと、僕の基本の人に近づきつつあります。
今のところ過去の1枚を注文していて、アルバムは少しずつ揃えて聴き込んでゆくつもり。
ただ、この秋は好きなアーティストの新譜が、ラッシュを通り越して嵐状態なので、少し落ち着いてからにします。
ここまで好きになったのだから、もうやめる、ということにはならないから。
そうそう、書き忘れていたけれど、70年代のアメリカのロックのいい部分を細々と今まで引き継いできた、という感じ、だから僕が好きなんだな、うん。
だから、「ロック界の生きた化石」みたいなものかな。
そういえばムカシトカゲにどことなく似て・・・ないか(笑)。
ジョン・ハイアット、とてもいいですよ!