◎RUN WITH THE PACK
▼ラン・ウィズ・ザ・パック (バッド・カンパニーIII)
☆Bad Company
★バッド・カンパニー
released in 1976
CD-0291 2012/10/1
バッド・カンパニー3枚目のアルバム。
僕のいちばん好きなバッド・カンパニーのアルバムはこれ。
3枚目は、じっくり聴き込むとじわじわと魅力が伝わり無限に広がってゆく、そんな味わいがある曲が並んでいるのが特徴。
スーパーバンドとしてデビューいきなり大ブレイクした1枚目のようにインパクトが大きいわけではない。
ポップに走りすぎたけど内容は素晴らしい(一部批判もあるけど)2枚目、もちろんそこまでポップではない。
「じっくり聴き込むといい」というのは、良くも悪くも、曲が地味なアルバムに使われるほめ言葉ではありますね。
このアルバムも、カヴァー曲をシングルとしているように(後述)、曲はいまひとつパンチ力が不足気味で、評価という点では名盤とまで言われる1枚目に比べると「地味」なもの。
1stのCan't Get Enough、2ndのFeel Like Makinf Loveのようなオリジナルの大ヒット曲があれば、まごうことない名盤と言われていただろうなあ。
なんとも惜しいアルバム。
しかしそれは、2ndで商業路線に舵を切り過ぎた反省から、原点に戻ってこのアルバムが作られたと考えれば納得できます。
当時は多忙を極めていて、オリジナル曲をじっくりと作る余裕がなかったのではないかな。
それにしても、これだけ「じっくりと聴き込むといい曲」が揃っているのは、バンドとしても好調で、多少の困難を乗り越えてもひとつのバンドとして表現しようという意欲が何にも勝っていた時期だったのだと想像されます。
僕は、前にも話しましたが、1曲が99点であとは75点のアルバムよりも、全体が80点台に集まっているアルバムをより好む傾向が強いので、バドカンではこれがいちばん好きなのです。
まああとは、生来のへそ曲がりがそうさせる(笑)。
1曲目Live For The Music
このアルバムの特徴は、流れが少し捻ってあるところです。
ミドルテンポの重たく沈むビートのブルージーな曲で、アルバムの1曲目らしくない。
いきなり変化球でアルバムが始まりますが、1st、2ndがアップテンポで軽快に走る曲で始まっていただけ余計にそう感じます。
しかしそう感じたのであれば彼らの思うつぼ。
あれれどうしたんだろう、どうなっちゃうんだろうと、かえって心が引き込まれてゆくのを感じます。
最後まで聴いてゆくと、きっと、1曲目はこれでいいと後で振り返って大納得する。
スタイルは古くさいけど感覚が新しいブルーズといった趣きで、こうした曲はまさに彼らの存在意義を表していますね。
大人しい曲だけどギターは炸裂しベースは唸っていて、渋いけどカッコよさ満点の曲。
2曲目Simple Man
「単純な男」という割には、2番打者もまた変化球から入る。
ブルージーでしんみりとした力唱系の曲。
これは日本人好みの哀愁系の歌メロで、もわっと上ってきれいに流れてゆくサビの歌メロがたまらない。
この頃はまだ世の中に自由のかけらがかろうじて散らばっていた時代だったのかな、サビの"freedom"という言葉には微妙な時代のずれを感じます。
まあ、ロック的な自由とは関係ないただの人間の歌と捉えれば問題ないんだけど。
ギターの低音のダイナミックな展開がまたいい。
3曲目Honey Child
ようやくアップテンポのシンプルなロックンロールがきました。
タイトルを歌うサビもシンプルでポップスのお手本で、明るく楽しければそれでいいという曲、よい意味で。
4曲目Love Me Somebody
正調R&B風、もっといえばゴスペル風のワルツのバラード。
ポール・ロジャースも、黒っぽいとか真似ているといった次元を超越した、まさにソウルな歌い方、歌声、存在の人なのでしょうね。
感動的なこの曲はそんなロジャース節の真骨頂。
5曲目Run With The Pack
割れんばかりに叩きつけるようなピアノの音で始まるアルバムタイトル曲がA面の最後に登場。
"Pack"は犬などの群れや一群という意味で、猟犬もそうですが、この曲が面白いのは、歌詞の中では、"I'm running with the packと、"run"が現在進行形になっていること。
タイトルは現在の状態、歌詞は瞬間の動作を表しているのかな。
あ、そのどこが面白いのかと言われると説明が難しいのですが、いつも僕は割とどうでもいいことを考えてしまいます・・・
タイトル曲らしく全体をダイジェストした感じだけど、後半に不気味に迫るような響きのストリングスが入ってきて、曲ごとのアレンジのアイディアも冴えています。
さっきから曲順にこだわっていますが、表題曲であるこれはむしろ1曲目ではなく、LPでいうA面の最後に出てくるのはメリハリがあって効果的であるし、アルバムの流れを意識していることがわかってほっとします。
あ、ほっとします、というのはいかにもアルバム至上主義者ですね(笑)。
6曲目Silver, Blue & Gold
自然と音楽を愛する者である僕は、この曲を自分のテーマ曲にしたい。
もうそれは感動的な曲。
僕は、四季を通して、朝日でも夕日でも朝焼けでも夕景でも雪の輝きそして虹でも、光と空と大地が織り成す自然の美しさを目にした時、この曲が頭に浮かんできます。
しかし歌詞をよく読むと、どうもこれは失恋の歌のようです。
だけどそれは問題ない。
聴いた人が聴いたように感じるのがポップソングの面白さで、僕はこの曲は自然を愛でて自然に抱かれることの幸せを歌っていると感じます。
それはもしかして、自然はこちらが語りかけてもそっぽを向いてばかり、まるで失恋と同じ、だからかもしれない・・・
こういう曲にはよくありがちな、テンポが遅くてしんみりとした曲調ではなく、アップテンポであるところに彼らの奥深さを感じます。
Silver, Blue & Goldという単語の並び方も、歌メロや語呂に合うように考えられていてよい響き。
ラルフスが奏でる高音でカラカラと鳴るギターが全編を通じて流れ、まさに空を感じさせるすがすがしい、だけど少し寂しい響き。
さらっとしかし味わいが後から甦る、そんな曲ですね。
僕がいちばん好きなバッド・カンパニーの曲。
こういう曲が世の中にあるのは幸せです。
7曲目Young Blood
打って変わってユーモラスな響き。
心が入った真面目な曲の後にこうした曲を入れるのは、「ロックの照れ隠し」、ロックのアルバムには常套手段ですね。
ザ・コースターズのカバーですが、脂が乗り切っていた彼らはカバーのセンスもまたよろしい。
彼らはカバー曲が少ないのですが、でも、このアルバムではカバー曲があることにも必然性を感じてしまいます。
楽しいのは、サビに入る前のブレイク前の部分で、ミックとボズもひとことずつ交代で歌っているところで、バンドとしての一体感、充実度を感じますね。
まあ、元々2人ともヴォーカリストでもありますが、多分ボズじゃないかな、訛りがすごい(笑)。。
ギターの低音が刺さるようにシャープに響いてきて、簡単な曲でアレンジだけど手堅くしっかりと聴かせてくれて、ギター弾きとしても憧れの曲ですね。
この曲はシングルカットされて20位を記録しましたが、カバーがシングルというのは、忙しくてシングル向きの曲が作れなかったのかなと思う部分ですが、でもこの曲のシンプルな素晴らしさをみれば納得。
なおこの曲は、暫くずっとこのバドカンのしか知らなかったのですが、ここ2年で立て続けにレオン・ラッセル、カール・ウィルソン、そしてザ・バンドと3つの別のカヴァーに接していました。
8曲目Do Right By Your Woman
焚火を囲んでアコースティック・ギターで歌いながら仲間で語り合う雰囲気、まさにフォークソングといった趣き。
(エレクトリックのギターとベースが入ってはいますが)。
犬や空そして焚火、このアルバムはアウトドア系ですね(笑)。
ワルツにゆったりと乗ったロジャースのヴォーカル。
この曲がここにあるのは流れとして落ち着きます、ほっとします。
ということは、捻っているようで割とまともな流れを考えているのかな。
バッド・カンパニーのもうひとつの魅力は、こうしたアコースティック系のしっとりとした曲でであり、それがさらりとできるのは本物である証拠。
隠れた名曲といっていい曲。
9曲目Sweet Lil' Sister
最後の前に疾走系のシンプルでカッコいいロックンロールが。
これはとことん変化球主体に組み立てたアルバムですね。
もし僕が当事者で、この10曲でアルバムを作れと言われれば、この曲を1曲目に置くことを考えるでしょう。
2ndの1曲目とよく似ているので(短絡的に)そう考えるのですが、でも、彼らは、似ているから敢えて変えたのかもしれない。
そのセンスが、凡人である僕と偉大なバンドの違いですね(笑)。
10曲目Fade Away
そうなんです、最後の最後に、聴く者を不安にさせる思いっきり重たく暗く迫ってくる曲が控えているんです。
聴き終ると、放り出されたような気分になります。
Fade Awayといいつつフェイドアウトしておらずにすぱっと終わってしまうのは、路頭に迷うような気持ちにもさせられる。
でも、ここまで聴いてくると、これが変化球アルバムであることがはっきりと掴めるので、ああ、それは流れを考えていないのではなく意図したものなんだなと解釈できます。
しかも、この曲は2曲目と似たスタイルであることが、アルバムに統一感を生み出します。
ブルージーなロック、彼らの本質的魅力が詰まった佳曲に、アルバムを聴き終った充実感が残ります。
しかし、充実感があるだけに、聴き終ってすぐに、10曲じゃ足りないという不満が頭をもたげてきます(笑)。
そうです、このアルバム、あまりにもあっさりとしすぎ!
だけど、だから、このアルバムは一度聴き終ると、またすぐに聴きたくなり、いつしかエンドレスになりますが、シンプルなだけ余計にそうなるのかもしれません。
このアルバムのジャケットは、国内盤では銀色に輝くジャケットですが、海外盤は明るい灰色の輝かないジャケットです。
写真のCDは国内盤が紙ジャケット、海外盤が通常盤ですが、それが再現されていますが、昔は、1970年代くらいまでは、大きくて目立つLPを見せながら歩くのがカッコいいと日本では言われていたそうで、銀色にしたのはそのせいかもしれません。
なお、当時は「バッド・カンパニーIII」という邦題がつけられていましたが、今は邦題も「ラン・ウィズ・ザ・パック」になっているようです。
そのアートワークは、狼か犬が仔犬に母乳を飲ませているのですが、仔犬の1頭だけが人間の子どもという示唆に富んだもの。
彼らのアートワークはヒプノシスが担当していたのですが、この3枚目だけKosh / Agiという別の人が手がけています。
今日のCDと犬写真は、"Pack"にかけてうちの犬たち総動員で、といって2頭ですが、撮影するつもりでしたが、ポーラのほうが撮影した部屋に来てくれなくて断念。
その代わり、ハウを、ジャケットの母犬と同じ体勢に座らせました(笑)。
地味だけど聴き込むと味わいが出てくるアルバムの、典型にして代表作。
あ、もちろん、最大限、ほめてますからね(笑)。
なんといっても、大好きなバンドの中でもいちばん大好きなアルバムだから。