LA FUTURA ZZトップ | 自然と音楽の森

自然と音楽の森

洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。


自然と音楽の森-Sept29ZZTop


◎LA FUTURA

▼ラ・フューチュラ

☆ZZ Top

★ZZトップ

released in 2012

CD-0290 2012/9/29


 「ゼットゼットトップ」の新譜です。
 「じじいトップ」と呼ぶ人もいます(笑)。

 冗談はともかく、9年振りのスタジオアルバムの新作ですが、通算にすると(と今ここでWikipediaで調べる)、15枚目、ということです。

 ちなみに、最高位6位だったことも調べて分かりましたが、へえ、結構上だな、うれしい。


 今回の新譜、まず驚いたのは、音が艶っぽいこと。
 粘りがあって、解けだしたキャンディみたいな音の響き。

 そのくせ張りもあるし意外と切れもある、若々しい音ですね。

 聴き始めの頃、例の連装CDプレイヤーに入れておいてこれがかかった時、まだ慣れていなくて、誰のCDか2分くらい分かりませんでした。


 そんな音を作り出しているのは、僕が現役でいちばん好きなプロデューサーのリック・ルービン。

 ビリー・ギボンズと共同であたっています。

 トム・ペティのアルバム(記事はこちら) でも触れましたが、リック・ルービンの音の特徴は、当たりは強いけどまろやかで柔らかい印象が残る音。

 今回はそれが艶っぽいと感じる部分でしょう。


 ただし、ZZトップは80年代に売れましたが、その頃のサウンドをZZトップらしいというのであれば、これは違います。
 その頃の音が本来のものではない、とまでは言わないけれど、80年代は売れるために時代の音を採り入れていて、ともすれば大掛かりになり過ぎていたんだと、今になって気づきました。
 しかし逆にいえば、割と地味なブルーズ系の音を80年代にあそこまで進化させたのはやっぱりZZトップのすごいところ、それも今書きながら再認識しました。

 実際、70年代後半のアルバムを聴くと、彼らはだんだんとそこに向かっていたことが聴いてとれます。

 

 そんな80年代の音は、ビーチパラソルのように上に開く華やかな音でしたが、今回の音はピラルクのように下でどっしりと構えた上にどこか怪しい輝きがある、という感じでしょう。

 

 90年代に入って妙にアーシーな音に立ち返っていて、好きであるなら悪くはないんだけど、一般受けというとやっぱり地味という音に帰っていたので、正直僕は、今回の新譜も実際に聴くまでは不安でした。

 

 不安だったから余計に、この音はすごい、大好きになりました。



 音楽の内容的な面で思ったこと。


 彼らは、そもそもがブルーズに基盤があるバンドであることは分かっているけれど、今回のアルバムは、自分たちにとってのブルーズを見直した結果、ブルーズらしさを強調しているように感じます。


 1990年代以降、ブルーズが見直され、復権したことは、僕の体験としても感じることだし、最近ブルーズをよく聴くようになってあらためてそういう流れがあったらしいことも見えてきました。

 

 その中で彼らは、自分たちよりはるかに下の世代もブルーズに影響を受けていることが分かり、俺たちもまだまだブルーズで前に進もうと思い直したのではないかな。


 そんな攻めの姿勢が、音が強いリック・ルービンによって強調されています。

 すごいんですよ、音圧が。


 このアルバムは、90年代以降のここ20年のブルーズの歴史をダイジェストしている、といえそうです。
 その流れで、70年代ブリティッシュ・ブルーズ・ハード・ロックとの接点のようなものも見え隠れしています。

 そんな中で7曲目Flyin' Highは、80年代に育った者としてはにやりとさせられる軽快なロックンロールでうれしくなります。

 他も曲はすべて素晴らしい、聴きどころがそこここにあります。


 ビリー・ギボンズのギタープレイは言うまでもない。

 そのギターの音も、ルービンさん、ここまで強調していいのかというくらいに突き刺さってきます。

 ベースのダスティ・ヒル、ドラムスのフランク・ベアードともども、ロック界最強の3ピースのひとつであることを証明してくれただけではなく、さらに前に進もうとしている姿勢には敬服せざるを得ません。


 ジャケットは3人のシルエットだけど、2人のあごひげを見ればもう分かる(笑)。

 唯一あごひげがないメンバーの名前が「あごひげ」という意味のBeardであるのは面白い。


 アルバムタイトル"La Futura"はやはりというか「未来」という意味のスペイン語に元を発していることはスペイン語辞典を引いてみて分かりました。

 元の単語が"futuro"で男性形、"futura"だと女性形ですが、"La Futura"となると「許婚(いいなずけ)」という意味になる模様です。

 最初にCDを見た時、何の未来について語っているのだろうと思ったのですが、少し違ったようで。

 もしかして、ブルーズが彼らの「いいなずけ」なのかもしれない。


 それにしても、音圧、と書いたけど、実際にこのCDは音が大きくて、連装CDプレイヤーで聴くと音量調節が大変です(笑)。

 だけど、敢えて大きな音で聴く、そこがまた魅力的に響いてくる部分ですね。


 基本ブルージーなロックが大好きな僕だから、これは一発で気に入りました。


 9年振りの新作、それだけのことはあります。

 この秋の注目作の1枚、聴き応えたっぷりです。