◎BAD
▼BAD
☆Michael Jackson
★マイケル・ジャクソン
released in 1987
CD-0289 2012/9/27
マイケル・ジャクソンのBADの25周年記念盤が出ました。
CD3枚とDVD1枚の4枚組。
内容は、Disc1がオリジナルアルバムの最新リマスター、Disc2がデモなど未発表ヴァージョン。
Disc3が1988年7月16日、ロンドン・ウェンブリーのライヴ。
DVDにはその映像が収められていますが、このDVDは単売されているものと同内容のようです。
他にツアーパンフレットをイメージした写真満載のブックレット、日本盤には日本語解説など、とにかく豪華なもの。
今回はこれを聴きましょう。
BADとは何だったのか。
あのTHRILLERを受けて発売が待たれていたこのアルバム。
僕がちょうど二十歳の頃にリリースされましたが、当時は「アルバム至上主義者」であった僕は、アルバムとしてはすごくいいとは思わなくて、正直、期待が大きかっただけに、拍子抜けしました。
まるで、「だるま落とし」で間が2つくらいなくなったかのように・・・
流れがないというか、ベスト盤を聴いているような感覚でした。
しかし1曲1曲の素晴らしさは言うまでもなく、そのうち、アルバムとしての流れは気にせず、というよりも、流れ以上の魅力を感じて普通に聴くようになりました。
コンセプトがどうのこうのは関係なく、楽しければそれでいい。
マイケル・ジャクソンはそこに全力を尽くすだけ。
だから「キング・オヴ・ポップ」なのでしょう。
ベスト盤のような感覚というのもそれで肯けます。
その姿勢はモータウンから受け継いでいるに違いない。
モータウン後に時代の流れでアルバム作りに力を入れましましたが、基本は圧倒的によい歌で魅了する音楽だったはず。
つまり、BADとは結局、モータウンだった、ということでしょう。
当時はスティーヴィー・ワンダーはまだ頑張っていたけれど、モータウンは全盛期の勢いをほぼ完全に失っていました。
マイケルは70年代にモータウンを出ていましたが、そんな「心の故郷」の状況を外から見てエールを贈りたかったのでしょう。
温故知新、前からあるものを尊重しつつ前に進む。
◇
1曲目BAD
イントロのインパクトの大きさはポピュラー音楽史最大級でしょうね。
もうとにかく最初からものすごい勢いで引き込まれてゆきます。
僕は当時聴いた時、妙に子どもっぽい曲だなと思いましたが、ちょうど二十歳の頃で大人に向かってい たのでそう感じたのかな。
まあ、男にはそういうところがあると言いたいのでしょう、きっと。
間奏のハモンドオルガンはジャズの名オルガにストであるジミー・スミスが演奏していますが、僕はそのことを、つい先日の「ベスト・ヒットUSA」のこの25周年記念盤の特集で知りました。
小林克也さんは、前に進みながらも昔からのいいものは取り入れて敬意は忘れない、その姿勢にいたく感動していました。
ビデオクリップも話題になりましたが、この曲については、そんな話をここでしてもしょうがないくらいに膾炙していますね。
なお、これは曲名としてもすべて大文字で書くのが正しいようで。
2曲目The Way You Make Me Feel
僕がマイケルをほんとうにすごい作曲家だと思ったのがこの曲。
なぜって、コード進行が目に見えるくらいに単純な3コードの曲で、暴言として受け止めてもらえば(笑)、誰でも書けそうな曲を、これだけ聴かせてしまうなんて。
しかもこの曲は明確なサビといえるものがなくて、曲名を歌う部分はあるけれどコーラスといえるものではない、そこもまたすごい。
初期ソウルのまだR&Bともいえる古臭いスタイルだけど、マイケルの感覚は新鮮で、まさに新しいモータウン。
ただ、僕は昔は、曲がシンプルな割にマイケルの歌い方が力が入りすぎてるな、と思ったけど、それは個性だから今は好き。
Bメロで短く入るラッパの音がセンスがよくてそれも口ずさむ。
この中でいちばんよく口ずさむのはこの曲です。
3曲目Speed Demon
このアルバムは数年前にリイシュー・リマスター盤が出た時に10何年振りに聴きましたが、その時は1、2回だけ聴きました。
今回は記事にするにあたり割とよく聴いていますが、この曲はサビしか覚えていませんでした・・・
この曲はビデオクリップが作られなかったはずですが、やはり、良くも悪くも、この頃の音楽はビデオクリップと一緒に覚えていたのでしょうね。
4曲目Liberian Girl
この曲のビデオクリップは、マイケルが主演のはずの映画を撮影していてマイケルが行方不明になってみんなで探したところ、マイケルはカメラクルーで撮影していた、というオチでした。
エディ・マーフィーも出演していたっけ。
クリップが印象的だけど、でもこの曲は美しい旋律のバラードで大好き。
エキゾティックな要素もマイケルは昔から自然にできますね。
「ライベリアン」と発音するのは、英語としては当然でしょうけど、マイケルが言うと妙にカッコよかった(笑)。
5曲目Just Good Friends (with Stevie Wonder)
すいません、この曲もよく覚えていませんでした。
当時、よく聴いたようであまり聴いてなかったのかな。
やはり、ビデオクリップがなかった曲だし。
逆にいえば、あまり聴かなくてもインパクトが大きい曲は曲の覚えが悪い僕でも覚えられた、マイケルはすごい、ということになるのでしょうけど。
スティーヴィー・ワンダーとのデュエットといえば、ポール・マッカートニーを巡っていろいろあったようで、
そんあ2人が和解した、ということなのかと当時は思いました。
2人とも作曲には絡んでいないけれど、だからなのか、マイケルらしさ7割の中にスティーヴィーらしさが3割くらい織り込まれている、そんな感じの響き。
6曲目Another Part Of Me
この曲は歌の流れや全体に合わせるには不思議な響きのイントロのキーボードが印象的ですね。
BADの頃のマイケルの標準的な曲という感じ、もちろんいい意味で。
この曲はディズニーランドで限定公開された「キャプテン・イオ」の曲として当時とても話題になりましたね。
7曲目Man In The Mirror
そのベストヒットによれば、サイーダ・ギャレットがこの曲を持っていたのを聴いてマイケルが歌うことになり、さらには最初のシングル曲をデュエットする話に発展したそうです。
もうひとりの作曲者グレン・バラードは、後にアラニス・モリセットなどで大成功するプロデューサー・ミュージシャンですが、マイケルの周りには若い才能が溢れていたのですね。
コーラスにゴスペルの影響が色濃く感じられますが、当時は漸くポップスにゴスペル的要素が普通に取り入れられるようになり、かつ不自然ではなく聴かせるようになった頃でした。
ただ、当時の日本はまだまだゴスペルの知名度は低くて、今のように小学生でも分かるということはなかったですね。
この曲、夜中にひとりで聴くと、「俺って人間はこんなでいいのだろうか?」と悩んでどん底に落ちる、そんな感じを昔から受けています。
でも、マイケルは、それでいい、それだから人間だ、と励ましながら歌ってくれる、勇気も湧いてきます。
多くの人の心に寄り添う曲ですね。
8曲目I Just Can't Stop Loving You (duet with Siedah Garret)
そのサイーダ・ギャレットとのデュエット。
この曲はビデオクリップが作られず、一緒に歌っている人も当時は知らなかったので、あのTHRILLERの後に何年も待たされてこれというのは何か地味だな、と感じました。
でもそれは、あのTHRILLERの後だから、沈めたかったのかな。
ブーム的なもので終わらせず、じっくりと歌を聴いてほしい。
それは当時からなんとなく感じていました。
実際、歌は最初からとても気に入ったから。
これも古いモータウンを彷彿とさせますね、今ならそう思う。
一方で1980年代はデュエットものが流行っていたことがあって、これがいかにもその時代の曲という部分でもありますね。
ああそれで、この曲もサビの曲名を歌うところの音程が、僕には、ソラで口ずさむには微妙に取りにくいのです、なぜだろう。
9曲目Dirty Diana
マイケルとダイアナ・ロスの心の関係は複雑で、話を聞くだけでは周りの人にはなかなか理解できないものでしょうね。
まあ外野の人間がそれはおせっかいでしょうけど。
それはともかく、ダークでハードなロック的なこの曲は、スティーヴ・スティーヴンスがギターでゲスト参加。
スティーヴは当時、ビリー・アイドルのバンドのメンバーであり、No.1ヒットになったMony Monyなどで注目を浴びていました。
THRILLLERではエドワード・ヴァン・ヘイレンが参加していましたが、当時の旬なギタリストを呼ぶのもマイケルはお好きだったようで。
Bメロで微妙にろれつが回らなくなりそうな歌い方になるのが上手いというか表現力豊かな歌手だと思いました。
10曲目
マイケルのリズム感と歌メロ作りのうまさを堪能できる曲。
たたみかけるサビもすごいけれど、ヴァースもうまく旋律が流る。
マイケルの軸がソウルであることもまたよく分かる1曲。
「パン、茶、宿直」の空耳で有名ですが、さらには歌い出しが「朝からちょっと運動、表参道、赤信号」、空耳が2つあり、しかもどちらもとんでもなく面白いのが、別の意味ですごい(笑)。
ところでこれ、邦題は「スムー「ズ」・クリミナル」なのかい・・・
11曲目Leave Me Alone
マイケルの家族だったチンパンジーのBubbles君が出てくるアニメのビデオクリップが印象的だった曲。
当時のゴシップ渦に嫌気をさして書いた曲でこの曲名だけど、最後の最後に「放っておいてくれ」と言って終わってしまうのはアルバムの流れとして、不満、というか、物足りない部分でした。
ただそれも、アルバムは流れを考えて聴くものという頭があるからかえって突き放すほうが効果的、ということかもしれないですね。
僕には強く印象に残ったから。
曲はいいですね、こんな力強いバラードを歌える人はマイケルだけ。
でも僕はこの曲、CDを買って半年くらいはずっと、サビで"Baby you know"と歌っていると思い込んでそう口ずさんでいて、少しして曲名までそう覚えてしまったのですが、ビデオクリップを初めて見た時、間違いに気づきました・・・
ともあれ、とにかくいい歌ばかりが並んだアルバムはこれにて幕。
◇
Disc2は6曲の完全未発表曲、以前のリイシューで出たデモなど。
穏やかな曲が多くて、逆にいえば、BADというアルバムはまさに力を入れて作ったことが感じ取れます。
さすがはマイケル、未発表でもデモでもちゃんと歌になっている。
I Just Can't Stop Loving Youのスペイン語とフランス語のヴァージョンが収められていますが、やはり僕はいつも思う、英語のために書かれた曲を、他の言語に「訳して」歌うのは、響きに違和感がありますね。
この2つについてどれだけ真剣に作詞したのか分からないけれど、他の言語で歌うのであれば、大胆に1から作詞してしまうくらいの気構えが必要だと思います。
でも、合わないところが微笑ましくもありますが。
日本盤ボーナストラックとして収められているのが、BADの1987年9月の横浜公演のライヴ音源です。
◇
しかし、今回の25周年記念盤でうれしいのは、ライヴ音源。
マイケル・ジャクソンの全盛期のライヴが見られるのもうれしいのですが、僕にとってもうひとつうれしいのは、デビュー前のシェリル・クロウがバックシンガーとしてこのツアーに参加していて、彼女の歌声を聴けることです。
I Just Can't Stop Loving Youをサイーダ・ギャレットの代わりにデュエットしていて、DVDでは姿もはっきりと写っています。
シェリル・クロウがマイケルのツアーにバックシンガーとして参加していたことはもはや有名な話で、シェリルも一昨年のアルバム200 MILES FROM MEMPHISにおいて、ボーナストラックとしてI Want You Backを歌い、マイケルへの思いを表しています。
でも、実際に歌を聴くと、声と言うか歌唱法が今とはぜんぜん違い、正直、僕は、最初に聴いた時はシェリルだとは思えなくて、ブックレットで確かめて、ああ、そうなんだ、と思ったくらい。
映像も、化粧が濃くて髪が80年代バブル風で、ジュリアナ風、それはもう死語なのかな(笑)、とにかくまるで別人。
でも、マイケルと向き合い寄り添って歌う姿には感動しますね。
マイケルはほんとに若い才能を大切にしていたこともよく分かります。
◇
最近は25周年をはじめとして何周年記念盤がよく出ますが、それらはだいたい、実際には26年目に入っていたり、リリースが遅れがちのものが多かった。
編集が間に合わない、もっと詰めたい、ということかな。
でもこれは、1987年8月31日にリリースされていたので、ほぼ予定通りに出たのは珍しい、と、思ってしまった(笑)。
箱を開けるとつんと鼻につく昔の輸入盤の匂いがして懐かしかった。
実はそれ、殺虫剤の匂いなんですけどね(笑)。
日本盤解説のブックレットには、日本のアーティストなどが寄せた言葉が載っていますが、その中に、小林克也さんが先述のベストヒットで言った言葉もあります。
マイケルはTHRILLERの大成功を受けても攻撃的で前を向いて作ったのがこのアルバムだ、という趣旨です。
テレビで小林克也さんのその言葉を聴いた時、ああそうか、やっぱりBADがアルバムとしての流れを半ば無視したのは、そういう意図だったのか、と、理解できました。
1987年の永遠が刻み込まれたアルバム、ですね。