◎HIGH ON THE HOG
▼ハイ・オン・ザ・ホッグ
☆The Band
★ザ・バンド
released in 1996
CD-0281 2012/9/9
ザ・バンドは、メンバーのソロは取り上げましたが、バンド本体の記事は初めて。
しかし、初めて取り上げるのがこれでいいのか、と、自分でも思わなくもないこのアルバムを。
◇
家のCDプレイヤーを新しくしました。
新しくといっても、まったく同じ型番のものを買い換えただけ。
ヤフオクで落として、届いたものを見ると、年式もまったく同じで、ほんとにひとつも新しくなっていない。
ただ、売った人はあまり使っていなかったのか、新品並とはいわないけれど(というか新品の頃がどうだったか既に覚えていない)、見た目は家のものよりずっときれいで、プラスティックにまだ輝きがありました。
パイオニアの25連装CDプレイヤーがそれ。
2005年に買ったものですが、今でも同じものが製造されています。
人気機種というより、その選択肢はそれしかないのでしょうね。
最初は新品で買うことを考えたのですが、今でも同じモデルであるなら逆に状態がよさそうな古いものでもいいかとなり、ヤフオクで出るのを待っていました。
なぜ買い換えたかといえば、最近、音飛びをするようになったから。
すべてのCDで飛ぶわけではなく、だいたいディスクのペイントが厚いものがよく音飛びを起こしていました。
症状もまちまちで、かけ始めで飛ぶけどそこを乗り切ると大丈夫だったり、逆に途中からなったり、ひどいものになるとはじめからディスクを認識せずに"no disc"と表示されて次のディスクに移ってしまったり。
音飛びを起こしたものも、ずっと飛んでいる状態でかけているといずれ"no disc"と表示されますが、そういうのはたいていそこにたどり着く前に止めますね(笑)。
ところどころ飛ぶけど一応最後までたどり着くものは、仕方なくかけていました。
なんでもないものはまったく何でもないのですが、盤面にペイントがされていないものはだいたい飛ばずに再生できました。
CDプレイヤーの音飛び、実は、ここ3か月ほど、日常生活のちょっとしたストレスになっていました。
まあでも、ストレスと言う割には、買い換えるまで時間がかかっていますが(笑)。
聴けないCDはどうしたかというと、別のミニコンポか車で聴いていました。
聴いて確認をしておかないと、ディスク不良品と区別がつかなくなるので。
PCで聴くという手もあるかと思いますが、その発想は思い浮かびませんでした(笑)。
◇
ザ・バンドのこのCDも、そのプレイヤーでは音飛びをして、というよりもほとんど再生不能でした。
ディスク盤面には豚さんのペイントが厚めに施されていて、いかにも飛びそう。
このCDはだから買ってから専ら車で聴いていて、記事にしたいとかねがね思っていました。
でも、車で聴く場合は、あまり長距離を乗らないので一度に最後まで聴き通せないことが多く、また車で考えたことを家で文章にまとめるのも主に時間のやりくりの問題で意外と難儀していました。
プレイヤーを新しくして、まあ当然のことながら普通に再生されて、ほっと。
いっそのこと、プレイヤーを新しくした記念で、今回はこれを記事にしました。
◇
しかし、このCDを買ったのは、直接的にはリヴォン・ヘルムが亡くなったことです。
リヴォンが亡くなったとの報に接して、なぜか欲しくなったのがこれでした。
でも、リヴォンが亡くなったのは今調べると4月19日、これは確か割とすぐに買っていて、最初から再生できなかったので、音飛びをしていたのは少なくとも4か月以上になるんだ。
年をとると時間の感覚も怪しくなりますね・・・
それはともかく、このCDは、1996年に新譜として出て割とすぐに、今はもうなくなった札幌の中古レコード店、「レコーズレコーズ琴似店」に中古が並んでいて、買おうかどうか迷っているうちに売れてなくなっていました。
迷ったのは、ロビー・ロバートソンが参加していないから。
でも、結果としてやはり欲しかったらしく、そのことが10年以上心の中のわだかまりになっていて、それが、リヴォンの死で表面化してきたのでしょう。
ただし、今回買ったのはリイシュー盤で、当時は収録されていなかった2曲がボーナストラックとして新たに追加されています。
結果としては、待ってよかったのですが。
◇
ザ・バンドは、なんというのかな、敷居が高い存在でした。
ロックを聴く人間が最初に接するザ・バンドは、あの『ラスト・ワルツ』、きっとそういう人が多いでしょう。
僕もそうでした。
というより、僕は、洋楽を聴く前から『ラスト・ワルツ』という映画とザ・バンドの存在を知っていました。
もちろん、内容や音楽は知らなかったのですが、そうであるから僕にはもう最初から伝説のバンドでした。
ザ・バンドはだから、小難しい高尚なことをやっている、とにかく偉い人たちだ、と構えてしまい、或いは通の人が聴くもので僕には関係ないと思ってしまい、僕が初めて聴いたのはもう30歳になってからでした。
聴いてみると、高尚という感じは確かに受けました。
求道的というのかな、ストイックに音楽を突き詰めてゆく人たちで、決して楽しみだけのために音楽をやってはいない。
でも一方で、30歳にもなると、以前ほど根詰めて聴かなくなっていて、そうなると、音としてはとってもいいので、聴くことは聴くようになりました、かけておく、に近いかもしれないけれど。
◇
このアルバムを買って聴いて分かりました。
高尚で求道的、それはロビー・ロバートソンがもたらしたものだったんだ。
このアルバムはほとんどがカヴァー曲ですが、バカがつくくらい音楽が大好きで音楽に溺れた連中が自分たちの楽しみのために演奏していることがすごく伝わってきて、聴く方も、ザ・バンドってこんなに楽しかったんだ、と思いました。
もちろん、ロビー以外の当時存命だったメンバーが揃っているので、演奏技術についてはいうまでもない、安心して身を心を任せることができる音。
ロビーは『ラスト・ワルツ』以降はザ・バンドには関わっていないけれど、この頃はリチャード・マニュエルも亡くなっていたので、ロビーとしてはまったく参加する意味も価値もないと判断したのでしょうかね。
ただし僕は、ロビーがいるからよくない、いないからいい、或いはその逆、などと言うつもりは毛頭ありません。
そもそもロビーも好きで、昨年のアルバムを記事にしているくらいだし。
ロビーがいる求道的なザ・バンドの音楽にもとっても魅力を感じるし、自分はもっと聴いてせめて精神的にもそこに近づければいいなと思う。
一方で、ロビーがいないこのような肩肘張らないザ・バンドだってとってもいいと思う。
僕は、音楽については、あまりこうと決めつけないで聴くことにしています。
このアルバムは、楽しく聴けて充実感が高いアルバム、すっかりお気に入りになりました。
そうなんです、ザ・バンドは高尚で求道的で小難しいとうイメージがあるからこそ、逆に、そんな凄い人たちが、たとえ2人がいないとはいえ、こんなにまでも楽しい音楽を作ってくれる、そのことのありがたみが大きいんですね。
とにかく楽しくて、リック・ダンコとリヴォン・ヘルム、2人とも脱力系のヴォーカルで、あれれっ、と思ってしまうくらい、でもそこがまたいい。
◇
曲について幾つか触れます、先ずは知っている曲から。
なんといっても驚いたのは、4曲目Free Your Mindですね。
1990年代前半のR&Bディーヴァ、アン・ヴォーグのカヴァーだけど、アン・ヴォーグはMTVをよく観ていた時代にアルバムを買って聴いて、実は大のお気に入りのグループでした。
僕は1990年代の音楽が大好きですが、ザ・バンドのような人たちが、自分のリアルタイムの90年代の、しかもどちらかというとミーハー系の曲を取り上げるなんて、うれしくなりますね。
ミーハーかどうかは関係なく、彼らが愛する黒人音楽が1990年代にたどり着いた形として、純粋に曲に魅力を感じたのでしょうね。
いいです、これ。
5曲目Forever Youngは言わずと知れたボブ・ディランの名曲。
この前に亡くなったジェリー・ガルシアに捧げられていますが、それだけにますますしんみりとした響き。
本編では知っているのはこれだけでしたが、ボーナストラックは2曲とも知っている、それもおなじみの曲。
11曲目Young Blood、バッド・カンパニーやレオン・ラッセルそれにカール・ウィルソンなどのカヴァーで僕もよく聴く曲。
バッド・カンパニーのはカッコいいけれど、こちらはじわっとうまみが広がるようなヴァージョン。
もちろんサビの部分は口ずさむ。
最後12曲目がChain Gang、言わずと知れたサム・クックの名曲で、奇しくも(ほんとに偶然)、前回のビリー・ジョエルの記事でも名前が出てきたばかり。
これがね、いいんですよ。
そもそもがワークソング、高速道路の工事現場で働く囚人の歌で、つらいけれど元気を出さなきゃという歌ですが、ザ・バンドのこれは、家に帰りたいという思いだけを拡大抽出した、むしろ甘くてちょっとノスタルジックな響き。
キーボードの音が走馬灯のようにゆらゆらと流れていて、この雰囲気にやられます。
カヴァー曲が上手いこともザ・バンドの魅力のひとつでしょうけど、ここまで変えられるのは、年季、センス、なんだろう、もう彼らにしかできない芸当。
知らなかった曲では、3曲目Where I Should Always Be、ブロンディ・チャンプリンの曲で、ゴスペル風の厳かな響きも自然と聴かされます。
8曲目I Must Love You Too Muchはボブ・ディラン(と他1人)の曲となっているんだけど、どこかで聴いたような、そうじゃないような。
もこもこしたリズムにのってなんだか焦ったように歌う。
9曲目She Knows、これが実はハイライトじゃないかな。
リチャード・マニュエルがヴォーカルをとる、もちろんピアノも、1986年1月19日に録音されたライヴテイク。
彼はその年の3月4日に亡くなっているので、ほんとに最後の頃の音源でしょうね。
これを入れたかった他の3人の気持ちも分かります。
10曲目Ramble Jungleはその通りジャングルビートに乗せた、アフリカにつながっていく音。
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音楽ってほんとうにいいですね、などと言いたくなるアルバム(笑)。
でも、このCD、ディスクトレイの下の紙が、豚を肖像画にしたお札の絵になっているのは、商業主義ととられかねないところを自らおちょくっているようであり、もしかしてそれはロビーへのあてつけかもしれず、ちょっとだけ寂しい部分はありますね。
でも、ほんとうに楽しいアルバム。
今までは車でしか聴いていなかったけど、これではれて家でも聴ける(笑)。