IRISH HEARTBEAT ヴァン・モリソン&ザ・チーフタンズ | 自然と音楽の森

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◎IRISH HEARTBEAT

▼アイリッシュ・ハートビート

☆Van Morrison & The Chieftains

★ヴァン・モリソン&ザ・チーフタンズ

released in 1988

CD-0275 2012/8/26


 「ヴァン・モリソン日本普及委員会」副委員長としての記事が続きます(笑)。


 ヴァン・モリソンの音楽をひとことでいえば「アイリッシュ+ブルーズ+ジャズもしくは時々カントリー少々」でしょうか。

 ブルーアイドソウルの人と目されていますが、VMの場合、いわゆるソウルミュージックのソウルとは少し違う、むしろブルーズの人が演奏したソウルっぽい音楽との近さを感じます。

 ただ、僕はもはやVMをブルーアイドソウルとは思っていません。

 ヴァン・モリソンはヴァン・モリソンなのですから。


 そんなヴァン・モリソンが、アイリッシュのバンド、ザ・チーフタンズと組んで本格的に自らのルーツでもあるアイルランド音楽に取り組んだのがこのアルバム。


 チーフタンズについては僕も名前をかすかに聞いたことがあっただけなので、Wikipediaから触りの文章だけC&Pします。


 ザ・チーフタンズ (The Chieftains)はアイルランドのバンド。1962年に結成される。結成当時は見向きもされなかった伝統音楽を、現代的なアレンジを施し徐々に知名度を広げ人気を獲得していった。

 

 まさに必要最小限ですが、実は、僕が記事を書く上で、Wikipediaのこの必要最小限が意外と重宝しています。

 ともあれ、そんな人々と組んだアルバムです。



 アルバムのタイトルは核心をズバリついていたり、意味深だったり、基本的に内容とは関係ないものまで、アーティストがいろいろな思いを込めてつけられるのが普通だと思います。

 そうではない例も僕は幾つか知っているのですが、ここではそれは無視します。

 

 「アイルランドの鼓動」と題されたこのアルバム。

 CDをかけると、100%その通りの内容、高い期待にさらに高いレベルで応えてくれるものでした。

 少しでも音楽を知っている人であれば、アイルランドの音楽と言われてイメージする、その通りの音楽であり、これほどまでに内容がその通りのアルバムも珍しいというくらい。

 

 だから、内容について今回は敢えてくどくど言いません。

 お前、書くのが面倒で逃げているだけだろと後ろ指刺される可能性大ですが、今回はたとえ刺されて死んでも(笑)、その通りのものはその通りだから。


 ただやはり要点だけ少し話します。

 全10曲中2曲、2曲目の表題曲Irish Heartbeatと8曲目Celtic Rayのみヴァン・モリソン自作、他はアイルランドのトラッドで占められています。

 VMの2曲はどちらもバラード風のゆったりとした曲で、言われなければ分からないほど溶け込んでいます。

 余談ですがVMは"Celtic"を「ケルティック」と発音しています。


 でもそういわれればこの2曲は、アイリッシュらしさよりはヴァン・モリソンらしさが出ているように聴こえ、特に前者はクレジットを見る前からそうじゃないかなと思ったくらい。

 つまりヴァン・モリソンは、アイリッシュは基本ではあっても、あくまでも要素の中のひとつであることが逆にこれでよく分かります。

 個性の問題、音楽における個性って面白いですよね。

 他の人がカバーしてもそうだと分かってしまう曲もあるし、しかもそれがある程度共通感覚として存在しているというのが。

 長くなるのでこの問題もまた追々。


 オリジナル以外では9曲目My Lagan Loveの情感込めたヴァン・モリソンの歌い方が感動的。

 でもやっぱり、本物のアイリッシュといよりはヴァン・モリソンの歌かな。 

 でも、このアルバムは、両者の接点というかうまい着地点を見つけているのもいい仕事していると感じます。

 チーフタンズのメンバーが歌う曲もありますが、これがまさに素朴な味わい。


 もうひとつ、本筋とは関係ないことですが、このアルバムは1988年、前回紹介したアルバムは2002年、14年経っていますが、声がほとんど変わっていないことにちょっと驚き、感激しました。

 ヴァン・モリソンの場合は、もちろん歌手として鍛錬しているでしょうけど、それ以上に喉の強さ、声の良さは持って生まれた天賦のものを感じます。

 そうですね、ヴァン・モリソンはこう書いてふと思ったけど、天賦の才能の塊のような人に感じます。


◇ 


 チーフタンズは1962年結成とありますが、ヴァン・モリソンがゼムでデビューしたのは1965年だから、チーフタンズのほうが先輩に当たるわけですね。

 VMは当初からずっと彼らのことを意識していたと考えるのは自然なことでしょう。 

 

 1988年にこのアルバムが作られたのは、VMもデビュー20年を越え、過去を振り返りつつ、ずっと敬意を表してきたチーフタンズとやれるくらいに自分もなれたかな、という思いがあったのかもしれません。

 

 このアルバムについてはもうひとつ、1988年という年に意味があると考えます。


 以前、ピーター・ガブリエルのSOの記事 で、「ワールドミュージックという言葉は1987年に決められた」というピーター・バラカンさんの本からの引用を紹介しました。

 ともに1986年に出たアルバム、ピーター・ガブリエルのSOとポール・サイモンのGRACELAND はアフリカの音楽の要素を大胆に取り入れつつ大ヒットして多くの人にアフリカ音楽を知らしめることになった、とも書きました。

 当時のことを思い出せば、欧米のというより英米のポピュラー音楽以外のワールドミュージックへの関心が日本も含め世界的に高まっていた時期でした。

 僕のようなヒットチャート上がりの人間が、世界のそうした素晴らしい音楽に触れる機会を与えてくれるのも、ポピュラー音楽の作り手の役目だと思い、だから僕は、ピーターとポールのその2枚は今でも宝物のように大切に思っています。

 

 ヴァン・モリソンもそんな空気を微妙に感じ取っていて、今がその時宜と感じたのではないかと。

 世界的発信力があるヴァン・モリソンが取り上げることでアイルランドの音楽もより注目されるだろうし、アイルランドだけに押しとどめておくのはもったいないとも。

 

 そして偶然かどうか、当時はU2が大ブレイク、ゲイリー・ムーアもアイルランド回帰のアルバムを作りました。

  

 ただ、僕は、1988年にこのアルバムが出ていたことはまったく知りませんでした。

 ヴァン・モリソン自体は知っていましたが、もう過去の人だと当時はまだ思っていたらしく、ディスコグラフィーを見てもこの前後のものはまるで当時の記憶がありません。


 まあ、すべてを知っていたわけではないし、音楽との出会いなんてそんなものでしょうね。



 最後にひとついいたい、この素晴らしいアルバムが今は廃盤である悲しさ。

 2000年頃にデジタルリマスター盤が一度出直したようで、僕もAmazonの中古でそれを買いましたが、それすら廃盤です。 

 おかげでこのアルバムは、オリジナルもリマスターもAmazonの中古出品価格がいつも3000円以上していたので買うのをためらっていたのですが、ひと月ほど前に英国の業者が1299円で出していたのでついに買いました。

 

 紹介しておきながら簡単には買えないのは申し訳ないと思いつつ・・・


 このアルバムはほんとうに素晴らしい!