SOMEDAY WE'LL ALL BE FREE ダニー・ハサウェイ | 自然と音楽の森

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◎SOMEDAY WE'LL ALL BE FREE

▼いつか自由に~ダニー・ハサウェイ・アンソロジー

☆Donny Hathaway

★ダニー・ハサウェイ

(released in 2010)

CD-0272 2012/8/19

 ダニー・ハサウェイのフランスで編集された4枚組ボックスセット。

 公式に出されたすべての音源が4枚のCDに収録されたもの。

 ソウルミュージックは感情のありのたけをぶつけて表現する音楽、と考えがちです。

 確かにそういう部分はあるとは思う。


 でも、待って。


 ソウル="soul"は「魂」であって、「感情」="emotion"ではない。

 その音楽に「ソウル」を感じることと、「感情」が露わになっていることは、似て非なるものではないか。

 ダニー・ハサウェイを聴いてそう思いました。


 どこが違うか。

 「ソウル」は他の人には真似できないけれど、「感情」は表現手法としては真似できるものである、僕はそう思います。

 つまり、心の中で浅いか深いかの違い。

 まあ例に挙げたこの2者は極端だし、ある同じ音楽も聴く人によっては「ソウル」を感じたり、感じなかったり、あると思います。


 ダニー・ハサウェイを聴いて"soul"と"emotion"の違いを感じたのは、ダニー・ハサウェイはソウルとして聴くと、歌に感情をぶつけている部分をあまり感じないから。

 冷静なんですよ、聴いていて、自己陶酔したり統制がとれなくなるほど歌い上げたりはしない。

 彼の場合、「感情」は抑えているのに、「ソウル」は、むしろ抑えているからこそ、より濃くより深く伝わってくるのです。

 不思議。


 でも、すごく伝わってきます。

 この部分は、ソウルミュージックをほんとうに歌える人と歌えない人の違いなのかもしれません。

 分からないんです、でも、「ソウル」がある人にはあるし、ない人にはない。

 自分で歌っていく中で自分なりにつかんでゆくしかないものなのでしょうね。

 おそらく、ソウルミュージックを歌っていて多くの人に「ソウル」と認められている主に黒人のアーティストだって、自らの「ソウル」はうまく言葉では説明できないのではないかと思います。


 もちろんそれは僕の語彙力が足りなくて表現できない、それはその通り。

 でも、書いていて、その足りない語彙力を用いて僕が「ソウル」を言葉で説明したとして、そこには真実味がない、単なる嘘と同じである、としか思えない、だから敢えてそのように書かせていただきました。


 「ソウル」とは、音楽を聴けば誰もが分かると思います。



 ダニー・ハサウェイを聴いていてもうひとつ、高尚な音楽を聴いているというある種の充足感を得られることも感じました。

 ダニー・ハサウェイは音楽理論も勉強した人だから、いい意味で整っていて上品で、それでいて音自体はソウルの気持ちよい響きがあって押しつけがましさがない。

 分からない、難しい、というのではないけれど、でも、芸術鑑賞という言葉が似合う音楽、そんな感じがします。


 それだけのことができるのは、音楽に対して冷静に臨める人だからではないかと。


 だから余計に「ソウル」と「感情」の違いを感じます。 

 

 けんかでも何でも、片方が感情的になって激高しながら話し、もう一方が冷静に理論的に話を進める場面を想像すると、激高するからといって話の核が相手により伝わるわけでもないし説得力があるわけでもない。

 むしろ、冷静でいるほうが話の筋が通っている。


 ダニー・ハサウェイはそこにある自らの「ソウル」を冷静に見つめて、音楽として表現する。

 だから伝わるものが大きい。

 もちろんこれは人それぞれ、個性があっての話ですが、ダニー・ハサウェイという人には感情的なものは似合わないのでしょう。



 などといつものように考えたことをつらつらと書いてきましたが、そもそもの話、ダニー・ハサウェイの場合、ソウルとしてひとくくりで話すことに無理があるのかもしれません。


 でも、ダニー・ハサウェイは時代を追うごとに評価が高まっているように感じられるのは、そのような個性がソウルミュージックの時代である1970年に埋もれることなく生き続けているからでしょう。



 このボックスセットはすべての音源を収録したものである以上、曲について触れるともう今後はアルバムの記事を書くことができなくなるので、今回は総論的なものだけを話させていただきました。



 このボックスセットを買うに至る経緯だけ、少し長いけど最後に話します。


 ダニー・ハサウェイは2008年にソウルを真面目に聴き始めてから、国内盤でCDを集めてゆくことにしましたが、その時点で2枚目が廃盤で中古も高くて、他に2枚買っていたけれど、2枚目が再発されるまで待つつもりでいました


 そうしたところ、2010年春先に、Warner系の(チープな)紙ジャケ5枚組ボックスセットでダニー・ハサウェイのものも出ることになり、後に編集されたライヴ盤1枚以外のCDが収められているため、そのボックスセットが欲しいこともあって、その5枚組を買いました。

 同時に、持っていたCDを友だちに安価で売りました。


 ところが、国内盤のみに入っていたボーナストラックがその5枚組にはいかなる形でも収録されていないことが分かり、さて困った、どうしようと思うだけ思ったけど、まあいいかそのうちと問題を棚上げしました。


 その年にこのコンプリート・ボックスが出たので、これは買わなければとすぐにウィッシュリストに入れました。


 しかし5000円近くするあまり安くないものだから、すぐに買わなくてもいいやとまたもや問題先送り。


 それが昨年11月、キャロル・キングクリスマスアルバムの中でダニー・ハサウェイのThis Christmasを歌っていて、キャロルは歌の中で"Shake your hands for Donny"とも呼びかけていたりして、とっても気に入りました。

 その曲も国内盤のボーナストラックとベスト盤には入っているけどうちにはなくて聴くことができず、いよいよ買うか。


 と思いつつ早くも9か月、漸く買いました(笑)。


 僕は、気持ちが低レベルでもずっと続くタイプの人間らしく、年を取るごとにそれが顕著になってきた感があります。

 

 ところでこれ、フランスで編集されたものだからブックレットなどもすべてフランス語で書かれているの で、読むことができません。

 ブックレットの解説が読める人によれば、とってもいいことが書いてあるというので、余計に残念。


 

 まあいい、音楽自体が素晴らしいから。


 これを聴いていて、ダニー・ハサウェイがあまりにも若くして命を失ったのは、人類にとっての大きな喪失だ、と、心から思いました。